なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……ええと、ファンサービスだった、ってことでオッケー?」
「オッケーオッケー。……いや、滅茶苦茶喧嘩売ってくるからなにかと思ったんだけど、よくよく聞くとサインをねだるノリだったからさー」
「それでお望み通りにこてんぱんにしたと。……いいのかなー、これ」
「……まぁうん、事後承諾になるけど、モモンガさんには後で聞いとくよ……」
とても幸せそうな顔をしているハジメ君を、医務室のベッドに放り込んで暫し。
幸せそうな顔のまま寝息を立て始めた彼に一つ嘆息したのち、医務室から出た私たちはと言うと、五条さんに「わかってて受けたのか」と言うことを尋ねていたのだった。
……結果は黒、完全な確信犯である。まぁ、それが相手の望んだこととあれば、単純に責め立てるのもどうなのか?ということになるわけなのだが。
ともかく。
これで五条さんがここに居る、ということはこちらの人々に伝わったはず。
できれば、これ以上面倒ごとに巻き込まれたくはないのだが……。
「……無理だよねぇ」
「げ、元気だしてキーアちゃん……」
……うん、こっちの人々の特徴って、血気盛んなことなんだよね……。
流石に私がこっちに潜入していた時よりかは、丸くなったんじゃないかなーと思うし。
今はトップであるモモンガさんも常駐してるから、変に逸る人は居ない、と思うんだけども……。
なにが問題って、五条さんもわりと血気盛んなこと、なんだよね……(白目)
男の子同士が出会ったらどうなる?……そりゃ勿論喧嘩だよなぁ!?
……的な感情が働くことにより、事件発生確率はいつもの倍。起きない方が珍しいタイプということになるだろう。
と、なると。私がすべきことはただ一つ。
「久方ぶりの多重影分身!」
「私と私でオーバーレイ!」
「……いや、それだと戻ってない?」*1
すなわち、彼には常にお目付け役を付けておく、ということ!
そんなわけで、久しぶりに分身して
あと五条さん、突っ込んでるけど君のせいなんだからねこれ?
「おおっと怖い怖い。こっちまで来たら相手してくれないかなー、なんて思ってたってことは言わない方が良さそうだ」
「……ええ……そんなこと思ってたの貴方……」
「身近に
そんな思いと共に彼に視線を向ければ、返ってくるのは唖然とするような言葉。……どうやら、今の自身の実力を確かめたい、的なことを思っていたらしい。私で。
……いや、私は区分的には最弱の方、って言っとるやんけ。
って感じなのだが、彼からすれば挑み甲斐のある相手、ということになってしまうようで。
いやまぁ、確かにこっちの人にも、時々試合を申し込まれたりしていたけども。それとはラインが違うと言いますかね?
「……うん、抑えるのは無理と見た!そういうわけで
「あっちょっ、逃げやがったあの
「わぁややこしー。いつもこうなんですか五条さん?」
「いやー、これに関しては結構珍しいよー?キーアさんが増えること自体、そんなに多いわけでもないからねー」
ともあれ、このままうだうだしているといつまでもうだうだしている羽目になる、というのは確定的。
多少無理矢理にでも二手に別れなければ、と決心した私はというと、キリアの方に五条さんを押し付けて、さっさとモモンガさんのところへと走り出したのであった。
……すまんな、なんとかして彼を満足させてやってくれ!
君が戦闘要員じゃないのは知ってるだろうから、適当に他の挑戦者とかを用立てればどうにかなるさ多分!!
「……トレーニングルームではなく、戦闘訓練場の使用許可が出ていたのはそのせいか……」
「あっはははー。……事後承諾で申し訳ない」
「いや、構わんさ。地下に籠りきりでは、些か不満も出ようと言うもの。その辺りの鬱憤を晴らしてくれるというのであれば、寧ろこちらから願い出ていたところだろう」
「流石モモンガ様、懐が深い……!」
「……いや、様は止めてくれ様は。気が重くなる……」
「アッハイ」
はてさて、ところ変わってモモンガさんの執務室。
彼以外には今のところ人の居ない部屋で、私と彼は応接用のソファーに向き合って座り、和やかに会話を続けていたのだった。
昨日は居たはずのシャナちゃんに関しては、今は食堂でおやつでも見繕っているだろうとのこと。
……モモンガさんは一緒には食べられないが、「食べられなくても、空気感くらいは楽しめるでしょ?」とかなんとかで、彼の分も持ってきてくれるらしい。
まぁ、最終的にはシャナちゃんのお腹の中に行ってしまうらしいが。
「食い意地が張っている、ってわけじゃないんだろうけど……」
「まぁ、私を気に掛けてくれている……というのが正解だろうな。彼女自身はそこまででもないが、人から外れたモノ同士の共感、というやつかも知れんな」
(……声繋がり、って方が大きいかもしれないけどねー)*2
ふむ、と息を吐きながら彼を見る。
……声、という意味では、彼はシャナちゃんにとって馴染み深い相手、ということになるし。
その道行きが酷く危ういモノであるというのも、また彼女の視線を誘う……というのも間違いではあるまい。
さっきのハジメ君や、ちょっと前のリムル君なんかもそうだが──『逆憑依』となっておきながら、『いつかの自分』への忌避を抱く人、というのはそこまで多い存在ではない。
そりゃそうだ、なりきりとは本来憧れから行うもの。憧れているのだから、その反対の感情である忌避を抱くのは、本来おかしなことなのである。
……要するに、見るのとなるのは違う、ということになるわけだが。*3
傍若無人・自分勝手に生きる人というのは、物語の中に見る分には爽快感すら与えるモノだろう。
だが、それを現実にされた時──それを受け入れられるかは、また別問題なのである。
他二人に比べれば、まだ良心的な
ゆえにこそ危うく写り、ゆえにこそシャナちゃんが気にする、と。……なんともまぁ、不思議な縁である。
「……ご飯とか、食べられるようにしてみる?」
「む?できるのか?」
「まぁ、色々やり方は考えられるかな。単純なのは負のエネルギーへの変換、かな?それを食べると言うのなら、だけど」
「むぅ、つまりお菓子の霊を食べる……みたいな?」
「そうそう、そんな感じ」
なので、その縁が途切れないように、ちょっとお節介をするのも悪くはないかな、なんてことを思ってしまう私なのでした。
「……いや、別に好きにすればいいと思うけど。……なにか用事が合ってきたんじゃないの、アンタ」
「!」
「いやなにそのうっかりした、みたいな顔……」
そうして会話を続けているうちに、プリンやらゼリーやらメロンパン(!)やらをトレーに乗せたシャナちゃんが、執務室に戻ってきたわけなのだけれど。
呆れたような彼女の言葉に、そういえば用事があってここに来たんだ、ということを改めて思い出すこととなった私なのであった。……完全に思考からすっぽ抜けてました、はい。
てへへ、と頭を掻きつつ、傍らの鞄からしまっていた小包を取り出す私。
それを見たモモンガさんは、「おお」と一つ声をあげるのだった。
「もうできたのか、早いな」
「中身がなんなのか、私は教えて貰ってないんですけど。……なにを作って貰ってたんです?」
「うむ。
「……んん?改善?」
特になにも思わないままに小包を渡し、それを開封するモモンガさんの動きを眺めていた私だが……途中、彼が漏らした言葉に思わず首を傾げてしまう。
……ついで、嫌な予感がしてきたので冷や汗を流し始めたわけだが……そんなこちらの様子に気付かず、彼は小包の包装を丁寧に解いて行く。
何故か懇切丁寧に贈り物用の包装紙に包まれていたので、それを止めているテープを慎重に剥がしながら取り外し。
出てきたダンボールの箱から、更に小さな小箱を取り出す。……更にその小箱の中には、別の小箱が緩衝材代わりに詰め込まれていて……って、ア◯ゾンかよ。
思わずツッコミそうになる過剰包装に更に困惑しつつ、中身の入っていない小箱を取り除いていくモモンガさんを見つめる私。
そうして、最後に残った一つ──拳大のそれを彼は大切そうに取り出し、その中から青い小箱──指輪箱を机の上に置く。
「完成品、欠陥無し。──正真正銘の『流れ星の指輪』。……とは言っても、発動補助をしてくれるだけであって、中には魔力の一欠片も入っていないのだがな」
「……なして?!」
「なに、失敗はしたがそこで立ち止まっていては勿体ない、だろう?」
「勿体ない精神で、面倒ごとをもっかい抱え込もうとしないで欲しいなぁ!?」
出てきたのは予想通り、『流れ星の指輪』。
……散々痛い目にあったのに、なんで完成品なんか作らせてるんですかやだー!!
というこちらの抗議混じりの悲鳴もなんのその、モモンガさんは楽しそうに指輪を掲げては、「ほう、こういう……」「なるほどなるほど……」などと呟いている。
……そういえばこの人わりとコレクター気質だったわ!!
思わず額を押さえる私だが、一応先の失敗作からは改良が加えられており、暴走する心配は一切ないと聞かされれば、話を聞く態度くらいには変化する。
彼の言うところによれば、先日のあれこれは指輪そのものに魔力源があったこと、および制御AIに問題があったことが問題であって、機能を絞るなどのリミッター自体には問題はなかった、とのことで。
そこら辺を鑑みた結果、いっそのこと使用者の魔力に完全依存した、『ちょっと良いこと起こる指輪』として作り直そう、ということになったらしく。
残骸から得られたデータなどを反映し、琥珀さん達にも協力を得て作られたのが、
「この指輪、というわけだ。……無論、私が単にコレクションするために作り直させた、というわけではないぞ」
「え?じゃあなんのために?」
この指輪であり、そしてこれを作ったことには意味があると聞かされ、私は思わず首を傾げることになるのだった。