なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「むぅ、そうなると単に振り回す、ってことになるのかなー」
「……いや待て、そもそもこのカッターナイフどうやって振り回すんだ?」
「え?……ええと、丸太みたいに……?」
「それだと彼岸島だろうが……っ!!」*1
気を取り直して、ロー君にはとりあえず巨大カッターを振り回して貰おう、ということになったのだけれど……彼から返ってきたのは、こんなもの振り回せねえよという言葉。
……あー、確かに。
立体機動装置の超硬質ブレードと、実寸比で同じくらいになるように巨大化させた
必然的に脇に抱えるような構え方になるため、これだと剣というよりは騎士槍みたいな感じになっている、というか。
空いている片手に大盾でも持たせれば、立派なランサーになるかもしれない。
「……おい、当初の予定を忘れてるんじゃないのか?」
「失礼、ボケました」
「ぜっったい素だろそれ!?」
巨大カッターナイフと合いそうなものというと……やっぱりカッター台?
なんてことを思いながら、彼にいそいそと格子模様の
「……キーア屋は、元々男なんだよな?」
「うむ?なにを突然に。そりゃまあそうだけど」
そんな感じでロー君にあれこれ持たせながら、あーでもないこーでもないと唸っていた私。
その最中、憮然とした表情と口調で彼から問われたのは、自身の元々の性別について。
……そこに関しては普通に公言しているので、彼も知っているはずなのだが……なにが引っ掛かったのだろうか?
「……キリエライト屋やみたいなタイプなら、今の性別に引っ張られるってのはわかる。……が、お前の場合は憑依前後で人格の差がさほどないんだろう?なんだって、そんな風に女っぽく振る舞うのが普通になっている?」
「……言外に気持ち悪い、って言われてたりする?」
「違う。純粋に気になっただけだ」
どうやら話を聞くに、さっきみたいにてへぺろ、みたいなことを普通にやってるのを見て、性自認が変になっているのでは?……みたいなことを思った、ということになるらしい。
「んー、確かにたまーに気にされることもなくはない、かなー」
「だろうな。で、どうなんだ?」
「どうもこうも──」
特に隠すことでもないので、
……ああでも、その理由に繋がる原因の部分は、深掘りすると宜しくないことになるので、ぼかして伝えることになったわけだけど。
「──正気か?」
「人間なんて大体狂ってる……って言ったら怒る?」
「……はぐらかしてる、ってわけじゃないみたいだな」
それを聞いたロー君の反応は、なにか信じられないモノを見たようなもの。「さっきのはそういうことか」なんて独り言まで呟いているけど、どっちみちこっちの正気を疑っている、ということに違いはない。
……いやまぁ、正直自分が正気なのかどうか、なんて誰にも保証なんてできないような気がするわけだけど。
それを踏まえるなら──まぁ多分、既に狂っているのだろうな、とは思う。寧ろ狂うだけで済むのなら儲けもの、みたいな?
まぁ、そもそもなりきりなんてやり続けてる時点で、大なり小なり変だと言われると否定もできないのだけれど。
自分ではない誰かを演じ続けるのなんて、それこそちょっとずれてないとできないことだろうし。
「……それを言われると弱いな」
「そういう意味では、そこのマッドサイエンティストな琥珀さんが一番まとも、ってことになるのかもねー」
「なんで私を話に引きずり込もうとするんですかー!?今回の私、あくまで裏方に徹したいんですけどー!!?」
なりきりとはシグルイ、みたいなことを以前述べたような気がするし、そこを思えばなりきりはしてなかった琥珀さんが一番まとも、となるのも宜なるかな。
……そんな感じで声を掛けた琥珀さんは、今回は静かにしているつもりだったようで、話に巻き込まれたことにちょっと憤慨していたのだった。
「……んー。なんというかこう、ほんっとになんにも起こんないね。琥珀さん、数値的にはー?」
「そうですねー……なにかしら影響が出そうな数値が出ている、というのは確かですよ」
「マジですか」
「マジですねー」
「……おい、俺はいつまでこれを持っていればいい?」
はてさて、そんな会話からさらに数十分後。
さらに色々彼に物を持たせたり、特徴的な台詞を言わせてみたり、とにかく【継ぎ接ぎ】が起こりそうなことをひたすら試してきたわけだが。
その悉くがなんの兆候ももたらさないままに終わった、となればやっぱりなにかある、と言わざるを得ないわけで。
これは本格的に検査とか必要なのでは?……みたいなことを琥珀さんと話し合いつつ、最後までは終わってないので次の物を持ってくる私である。
「次はなんだ……」
「お次はちょっと趣向を変えてねー。声ネタからは一端離れようと思います」
「……あ?」
今まで試して来たのは、彼の声ネタに繋がるような、同声キャラクター達の持ち物。
だが次に持ってきたのは、それとは関係のない別のもの。それは、彼の職業関連のモノであった。
「……フード付きの黒いジャケット……?」
「ドクター、お仕事お疲れ様です」
「うわぁっ!!?……ってキーア屋?」
「そこまで驚いてくれるということは、どうやら結構彼女に似せられているみたいですね。嬉しいです」
「いや止めろよ心臓に悪い……」
それは、黒いジャケット。……フード付きのそれは、雑に言ってしまえばロドス製のそれである。
……うん、ドクターってのは、アークナイツの主人公・指揮官のこと。
そして現在私がやっているのは、その作品のマシュに相当するパートナーキャラクター、アーミヤのコスプレである。*2
まぁ、あくまでウサ耳付けて服装を真似した、というだけで髪の色とかは弄ってないのだが。なんでかって?彼女も
そう、ここで目指すのは、声繋がりではなく役職、ないし呼ばれ方からの【継ぎ接ぎ】。
死の外科医の異名を持つロー君は、大別すれば
そしてドクターも、その呼ばれ方通りに
この事から、姿形を近付ければなにかしらの影響が出るのではないか?と予測した結果、こうして彼にジャケットを羽織らせることとなった、というわけ。
なおドクターを選んだのは、彼が主人公──もっと言えば、
本格的な【継ぎ接ぎ】は起こらず、単なる影響のみが起こりうるものだ、と判断したためである。
「あー……そういえば、多数の人間がプレイする、って仕様上、キャラの個性は薄くなりやすいんだったか……」
「ドクターに関しては、原作の時点で結構個性豊かですけどね。ほら、口の中でインスタント麺を調理したりするみたいですし」
「絶対無個性キャラじゃねぇ……」
いやまぁ、それを言えば最近のソシャゲ主人公、わりと個性マシマシになってる感もあるのだが。
ぐだーずだってロボ好きみたいな嗜好は最初から見せてたし、ウマ娘のトレーナーなんてどいつもこいつとアクの強い人しか居ないし。
まぁともかく。
今回に関しては、二人してコスプレしているようなもの。あまり深く考えず、なんとなーくでいいので行動して欲しい感じである。
運が良ければ、なにかしらのデータが取れるかもしれないし。
「そういうわけですから──ドクター、終わってない仕事がたくさんありますから、まだ休んじゃダメですよ」
「ひぃっ!!すまないアーミヤ俺はパルデアに行く用事がっ!」*5
「……私が言うのもなんですが、ドクターってみんなそうですよね」
そんなんだから『何を以て貴様の不義理に報いようか』、とか言われるんですよドクター?*6
そんな感じで、暫しのアーミヤごっこでドクターもといロー君を弄っていたわけだけど。
「……暫く試してみましたが、特になにも起きませんでしたね」
「俺の心臓はずっとバクバク言ってるんだが……」
「日頃からドクターがちゃんと仕事をしていれば、私もこんな風に声を挙げる必要もないんですよ?」*7
「ひぃっ!!わかった、わかったから!ちゃんと日課は終わらせるからその声止めてくれぇ!!」
「……日課が義務になったら終わりなんですよ、ロー君」
「よ、ようやく終わった……」
うん、ご覧の通りロー君が疲労困憊になる、くらいしか起きなかったので、完全にくたびれ儲けですね。
ここまでやっといて成果なし、というのはちょっとどうかと思うのだが、これ以上やっても結果は変わらなさそう、ということも間違いなく。
なので、私もつけ耳を取って、通常状態の私に戻ることになるのだった。
……こっちでは基本キーアだから、こうして別キャラになりきるのは新鮮で楽しいね、って感じで私は大満足なんですけどね!
「お陰でこっちは胃に穴が空きそうだっての……って、ん?」
「あれ、どうかしたロー君?」
「いや、なんかジャケットが重いような……?」
「重い?」
つやつやな私とは対称的に、しょぼしょぼになってしまったロー君はというと、深く被っていたフードとマスクを取り、近くのかごに放り投げたのち、ジャケットを脱ごうとした体勢で一度固まっていた。
どうやら、ジャケットが重いらしい。……重いってなんのこっちゃ?
そんなことを思いながら、彼の元に近付く私と、なにが原因なのかとジャケットをひっくり返す彼。
「……ゴト?」
そうした結果、彼のジャケットからはなにか重いものが転がり落ちてきて。
一体なにが、と視線を向けた私たちは、次の瞬間声にならない悲鳴をあげることとなるのだった。
──ごとりと硬質的な音を立て、地面に転がり落ちて来たそれ。
ほんのり黄色み掛かったそれは、先ほど私たちが真似をしていたキャラクター達の住まう世界で、『純正源石』と呼ばれるものに、非常に酷似していたのだった──。*8