なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
キャタピー。
ポケットモンスター世界における、虫ポケモンの一匹。
見た目はほぼアゲハチョウの幼虫そのものであり、生態も大体それに準じる生き物。
……ポケモン世界によくある、何故かやけに手厳しい説明文*1などから読み取れることは、そんなに多くはない。
とはいえ、彼等が『人の言葉を喋る』かと言われれば、まずもって
ましてや、その声がキュゥべえと同じ……なんて事は、ほぼほぼあり得ないことのはずだ。
「『ありえない』なんてことはありえない*2……というのは、君達人間の大好きな言葉なんじゃないのかい?」
「ええいやめろやめろ、その見た目で小首らしきところを傾げつつ、キュゥべえムーブするのやめろ貴様っ」
目の前のキャタピー(無駄に色違い)が、可愛らしく体を傾けてこちらを見詰めている。
……のだが、その口から語られる言葉が
というかだ、機能の回復したスマホで現在地を確認した限り、先の連絡者が指定していたのは、まさにここなのである。
……確信犯(間違った意味の方)*3じゃねーかコイツ!!
「え?ど、どういう事だ?」
「貴方が探してた知り合いってのがコイツよコイツ!……初手で喧嘩売ってきたコイツが、ねぇーッ!!」
「止めてくれないかな?今のボクの基礎は
「その口を閉じやがれテメーッ」
「え、ええ……?」
あんまりにもイラッと来たので、とりあえず相手をネック・ハンギング・ツリー。*5
困惑するキリトちゃんに、そのままさっきの状況を詳しく解説。
やっぱり錯乱していたらしい彼女は、私の言葉を聞く内にだんだんと表情を強張らせていった。
「おまっ、お前なぁっ!!?」
「苦しい苦しい、流石に息ができないのは困るから、止めてくれないかなキリト」
「ふざ、ふざけんなよお前っ!?今さっき明らかに思考誘導して*6魔法少女にしようとしてただろっ!?」
「ははは何を言うのかお嬢さん。ボクはキャタピーだから、勧めるのは
「言葉の裏が滲み出てるぞテメェ!!」
数分後、憤怒の形相でキャタピーを捕まえて、前後に激しく揺らすキリトちゃん……という、ちょっと謎の状況が生まれてしまった。
……いやまぁ?知り合いが唐突に自分を魔法少女にしようとしてたとか聞かされて、素面で居られる方がおかしいわけだから、これは彼女の正当な抗議なんだ、としか言えないわけなんだけども。
「わけがわからないよ、可愛くなったんだから、魔法少女になるのは当然の義務だろう?別にそこからぐへへ展開になれと言ってるわけでもないのに」
「お前の趣味を知ってるから嫌なんだよ!ブレイブルーならマイ=ナツメ!*7まほいくならラ・ピュセル!!*8好きなジャンルはメス堕ち*9!!!………お前のどこに安心できる要素があるんだよ!!?」
「失礼な、キリトちゃんにょた*10ものも好きだよ」
「うわぁそうだったっ、男の娘キリトの見た目超タイプとか言ってたこの女っ!!?」
……なんて?(思わず素で聞き返しつつ)
えっと、ちょっと脳が理解を拒むのだけど。
そのキャタピー、中の人女性なんです?で、女体化ものが好きなんです??メス堕ちも???
……なんでそんな人の誘いにホイホイ乗っちゃったのキリトちゃん????あれか?????実は迂闊とかうっかりとかが擬人化した存在だったりするの君??????
「ちーがーうー!!断じて絶対これっぽっちも全然俺は迂闊じゃなーいー!!!」
「うーん、キリトちゃんになっても変わらない残念さ、流石ボクの見込んだ男だね」
「うわぁ………」
語るに落ちるレベルの残念さに、思わず言葉を失う。
……よくこれまで一人で生きてこれたなこの人?
なんて思ってしまうのも無理もない有り様に、私は思わず天を仰いでしまうのでしたとさ。
暫くして、ようやく落ち着いたらしいキリトちゃんが息を整えるのをBGMに、これからどうしたものかと顎に手を付けつつ考える。
……思考誘導して強制的に
その上、簡単には見付からないだろうと思われていた【
このままはるかさんに引き合わせるのは、どう考えてもない。
まさか国の上層部に特環*11を作るわけにも行くまい……いやこれだとマギウスの翼?*12ポケモンだからロケット団*13とか?
何にせよ、悪用利きまくりな能力持ちの、このキャタピーとかいう淫獣*14を野放しにするわけにも、わけにも……?
「……あのキャタピーどこ行ったっ!?」
「え!?あ、ホントだ居ない!!?」
ちょっと目を離した隙に居なくなってしまったキャタピーを探して視線を左右に向けるが、その姿はどこにもない。
……しまった!そういや浸父には、自分の姿を隠す能力があるみたいな事言われてなかったっけ!?
『ははは、じゃあボクはこの辺で。縁があったらまた会おうねー』
「ちょ、まっ!!ぐ、テレポートとか持ってないはずだから、まだ近くに居るはずだけど……っ」
周囲を見渡せど、見付かるのは普通の路地裏の景観のみ。
……不自然な歪みとか、移動する小さな生き物とか、そういう物は一切見付からない。
これはまずい、非常にまずい。
あんな危険人物……虫?を野放しにしていたら、一体どうなってしまうやら全く想像が付かない!
趣味というか好みに合わせた動きをしているっぽい以上、狙われるのはなりきり組くらいではあるだろうけど、それにしたって対応が後手に回るのが全く宜しくない!!
というか、ここで確保できていないと急進派に見付かる可能性も倍率ドン、さらに倍だ!!(?)*15
焦るな、KOOLになれ*16キーア……。焦れば奴らの思うツボだ……。
我々は財団*17の職員のようなもの、確保・収容・保護の為に、その身を粉骨砕身の覚悟で投げ出すのだ……!
「……ん?投げ出す?……Dクラス職員……?」*18
……そうか、そういうことか……。
思わぬところから手繰り寄せた光明に、小さく自嘲気味な笑みを浮かべる私。
その笑みにキリトちゃんが何事かとこちらに視線を向けていたが……大丈夫だよキリト、私もこれから頑張っていくから……。*19
そんな感じに無駄に悲壮感を演出しつつ、私は起死回生の一手を講じるのだった──。
(さぁて、次はどこに行こうか?キリトは暫くチャンスがなさそうだし、いっそ道外に出てみようかな?……うーん、体が軽い。こんな幸せな気持ちで外に出ようと思うのは初めてだ……もう何も恐くない、って感じだね)*20
金のキャタピーは、人目に付かない位置を悠々と進んでいる。
戦闘能力に関しては然程でもないが、自身の隠蔽と、夢と願いを重ねる事による相手の
……無論、それは彼女本来の思考ではない。
三つの要素を一つの器に無理やり押し込めたことによる、認知や思考の方向性の歪み。
発生例の少ない者であるからこそ、今はまだ誰も気付いていない欠陥。
それを抱えた彼女は、本来の彼女でも、ましてや憑依した彼等としても違和感を覚えざるを得ない、異様な行動方針を気にも留めずにこなしている。
それはある意味、動物的な反射のようでもあり……、
「言い忘れてたけどぉーっ!!私も女体化組だぞーっ!!」
「なんだって!?それは本当かいっ!?」*21
だからこそ、それを抑えることなどできやしない。
故に、彼女が最期にその視界に収めたのは。
自身に向かって飛来してくる、奇妙な紋様の一つの球体の姿だった。
「………終わった、のか?」
傍らのキリトちゃんが生唾を呑み込む音を聞きつつ、私は大きく息を吐いた。
……Dクラス職員とは、いわば使い捨ての鉄砲玉みたいな人員である。
確保・収容・保護という理念を果たすためなら、その生命や人権さえも時に投げ捨てさせられる、替えの利く人員。
そこから思いついた、普段あんまり意識したくないと意識から外している、私が性転換組であるという
だが、それだけでは足りない。
相手の注意を惹く事はできても、相手を引き止める事はできない。……こちらに意識が向いたとしても、そのままでは詰めが甘い。
そこを解消するのが、以前侑子から貰った贈り物と、BBちゃんの作った『
ゆかりんとの共同研究の結果、生み出された物質化プログラムの第一弾。
試作品も試作品のため、現段階では無機物以外の実体化はできないそれを、BBちゃんからサンプルデータ確保の為に貰っていたのだ。
そして、侑子からの贈り物と言うのが、現在道路の上で、みょんみょん言いながら動いている球体である。……いや、よもやよもやだ。*22
「世界広しと言えど、キャタピーに
「いや、意外と探せば居ると思うぞ……」
「それ絶対縛りプレイとかネタプレイとかだよねっ!?」
彼女から渡されていたのは、まさかまさかのマスターボールだった。
なまじキャタピーなんてポケモンになってしまった相手側の敗因……とは言うものの、この展開を彼女が読んでいたのだとすれば……なんと言うか、流石侑子と言わざるを得ないだろう。
もしここで渡されていたのが普通のモンスターボールだった場合、運が悪ければ普通に逃げられる上に、最悪彼女が二度と私の前に姿を現さない……なんて展開もあり得たので、確率の問題を排除できるモノをくれた侑子には感謝しかない。
……いやまぁ、一応普通の人……人?の自由を拘束する事になるんで、ちょっと躊躇ったりもしたんだけど。
あのキャタピーを放置する方が、周囲への被害も甚大だと考えた結果、こうして捕獲に踏み切ることになったわけである。
……まぁ、なにはともあれ、だ。
「キャタピー、ゲットだぜ!」*24
「おおー」
無事に相手を確保・収容・保護できたので、とりあえずは良しとしよう。……と胸を撫で下ろす私なのであった。