なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
今年もこの季節がやって来ました
「今年もクリスマスの季節がやって来ましたー」
「わぁ早い。一年が経つのが早すぎる」
「今年も色んなことがありましたね、せんぱい」
季節は冬を迎え、かつ一年も残すところ一月程度。
そうなってくると、街がクリスマスムードになるのも当たり前で、今年もサンタ達の活躍が期待されることとなるわけなのでございまして。
「毎年あった問題も、今年は去年のあれこれで解決してるから問題なし!」
「あー、ハクさんの大本になってたしっと団って、それこそ結構前から居たんだっけ?」
去年のあれこれにより、本来やってくるはずの問題ごとは既に解決済み。
ゆえに今年は、大きな騒動もなくクリスマスを終えられそう、なんて予想が立っていたのだけれど……。
「む?我がこうなったからと言って、奴らの全てが終わったわけではないぞ?」
「なんでー!!?」
たまたま一緒にゆかりんルームに来ていたハクさんにより、その平和な予測は脆くも崩れさってしまうこととなるのだった。
ああ、ゆかりんが
「……で?一体全体どういうことなんです?」
今年は楽勝!今夜は焼き肉っしょー!*1
……みたいなテンションだったゆかりんが、見事に撃沈したのを見届けたのち。
改めて、ハクさんから事情聴取をすることとなった私たち。……とは言っても、大体その理由については把握できているわけで……。
「え、そうなのですか?」
「そうなのです。多分だけど、
「お主が明言せぬのはどういうことか、とツッコミたい部分もなくはないが……まぁ、良かろう。そもそもの話、我ら【顕象】が、
「え、ええ、はい。ハクさん達のような【顕象】は、周囲から特定の意識や現象などを束ね、そこに相応しい意思を宿したモノ、ということはなんとなく……」
元々、『逆憑依』や【顕象】というのは、なにもいきなりこちらの世界に出現するモノではなく、先に【兆し】──なにかが現れるであろう前触れ、とでも呼ぶべきものを発生させ、そこに生まれた歪みに当てはまる形で顕現するものである。
現れた【兆し】は、それ単体では属性を持たないが……周囲の気や意識を蒐集し、それによって得られた属性により、それを満たしうる
核となる
時折、集められた気や意識が核となって生まれる【顕象】も居るが──そのためには余程強固・ないし強靭な意志が集うことが前提条件とされるため、まず起きることではない。
……まぁそのわりに?アルトリアとかハクさんとかは、そっちの方の【顕象】に当たるため、感覚的には多いように思えてしまうわけだが……それはまぁ置いといて。
ともかく、普通に成立した【顕象】というのは、中身のない虚ろであるため、核となるモノを欲して暴走する……というのは、まず間違いないだろう。
「で、ここで質問となるわけだが……マシュよ、嫉妬や羨望といった感情が、この世から消えてなくなる……なんてことがあると思うか?」
「……難しいと思います。数多の宗教は、最終的に世俗からの開放を望むものですが……宗教にそれを望む以上、人は本質的にそれらの感情が
「うむ。百点満点の答えよな」
「き、恐縮でしゅ……」
ところで。
二人の言う通り、人の感情というものは、基本切っても切り離せないものである。
どこぞのお父様みたいに、自身の感情を大罪と結び付けて切り出す、なんてことをする者もいるが*2……それでは人が持つ力、とでもいうべきモノを手放すのと同じであり、本末転倒である。
嫉妬は他者を妬む心だが、それは裏を返せば自身の未熟に気付くがゆえの行為であるし。
傲慢は他者を見下すが、同時に己のみにできることがある、と他者に謳うことは、そこから得られる利を思えばそう大したことではない。
強欲は多くを求めるが、同時にそれは多くを取り零さないように己を奮わせるものでもあるし。
色欲は時に人の目を曇らせるが、それは時に人を強くするものでもある。
暴食は多くを消費する代わりに、それに伴う富を生み出すものでもあるし、憤怒は不義理に憤ることにも使われるし、怠惰は己の命を守るため、時に必要となるものでもある。
無駄な見栄である
適度な憂鬱は、より良い明日を求めるには必須の技能である。
つまり、感情そのものに善悪はない。ただ、それをどう使うかだけに意味があるのであって。*3
ゆえに、特定の感情を『悪』と断じて切り捨てようとする行為は、実際には新しい『悪』を生み出す『悪』である、としか言えないわけなのだが……話が長くなるので割愛。*4
ともあれ、世の宗教が欲を捨てて神の元へ行こう、みたいなことを述べるのは。
偏に人の欲とは人の生きる力と同義であり、それを捨てることができるのは人を止めた時だけ、ということを知っているから。
逆に言えば、人である限り人は欲との戦いからは逃れられない、ということでもある。*5
──さて、ここまで語れば、勘の良い人は既に気付いているはず。
「切っても切り離せぬのが、人の欲。そして嫉妬とは、まさしく人の欲より生まれしもの。──さてマシュよ。一度我の姿を取ったとて、それで全ての人の欲が解消されたと思うか?我が
「……な、なるほど!つまりはこういうことですね?!──
「──パーフェクトだ、ウォルター」*6
「パーフェクトだ、じゃないんだわこの駄狐」
「あいたっ!?」
仕方がないとはいえ、うちのマシュになに言わせとんじゃい。
……的な戒めを込めて振り下ろされた拳骨を受けたハクさんは、恨めしそうにこちらを見ていたわけなのだが……そんな顔されても私は謝らんぞ。
そもそも、途中から君が調子に乗ってたのはバレバレなんだし。
「ぬぅ、お主が口にしたがらぬから、代わりにマシュに言わせただけだと言うのに……」
「なんでハクさんが言わないんだ、ってことですよ。少なくとも、私が口にするよりはマシでしょう?」
「……?ええと、なんの話でしょうか?」
口は災いの元、って話。
ともかく。
一度はハクさん──『白面の者』という形を取ることで、その怨念染みた思いを解消するに至ったわけだが。
そもそもの話、人の欲とは汲めども汲めども尽きぬ井戸のようなもの。一度全てを平らげたとて、それが再び満たぬとは確証できないものである。
……というか、件の『しっと団』自体が、ハクさんの手から離れて暴走したものであった以上、明確に体を得てしまった彼女が再び御輿になったとして、それで止まるわけもなく。
つまり、この場所が数多の異端を受け入れた結果、数多の異端が転がり込む傾斜を得てしまっている以上、昨年のような『
それによって、去年ほどではないにしろ、またなにか面倒ごとが起きることは間違いないだろう……という予測が立つわけなのであった。
「ビワもすっかり普通のたぬきになっちゃったからねぇ」
「普通のたぬきとは……?」
ビワの大本・ビッグビワハヤヒデも、いつの間にかビワに還元されたらしく、その姿は消えていた。
……すなわち、欲望の自動浄化機能も今は働いていない、ということになるわけで。
そうなれば、以前と同じようにまた新たなしっと団・ひいてはそこから繋がるケルヌンノス相当のなにか、みたいなものが生まれる可能性も、決してゼロではないのだ。
「まぁ、流石に我ほどの規模にはならぬと思うがな」
「そうなのですか?」
「我はそもそも一年では効かぬ量の欲を溜め込んだモノ。今年は一年分しかないのだから、素直に考えれば規模が小さくなる、というのは道理であろう?」
「た、確かに……」
なお、ハクさんはこんなことを言っているが……なんかフラグのような気がしてならない私は、なんとも言えない表情で二人の会話を眺める羽目になったのだった。
……いや、実際どうなるかねぇ、今年のクリスマス。