なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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ようこそなりきり郷へ

「……うむ、これで終わりだな」

「やったのだ……アライさんはついに打ち勝ったのだ……」

「おめでとうアライさん。ジャパリまんいる?」*1

「いる……さっき無いって言ってなかったのだ?」

「どこからか現れたんだ。不思議だねぇ」*2

 

 

 トキさんの言葉を聞いて、僅かに強ばっていた体を弛緩させ、ふぅと息を吐き出すアライさん。

 

 結局、彼女はこちらの存在に困惑したまま、各種検査を受けきることとなった。

 ……まぁ、困惑してたお陰で注射も痛くなかったようなので、当初の目的は果たせたわけだが……代わりにずっと宇宙アライさん状態だったことについては、ちょっとばかり反省しなくもなかったり。

 そこしか反省しないんかい、みたいなツッコミについてはお受けしかねます()。

 

 ともあれ、やることが終わったのなら、次にすることは決まっている。

 

 

「む、なにか用事でも?」

「アライさんはここに来たばかり、なのでしょう?だったらほら、やらなきゃいけないことと言えば……」

「ああなるほど、案内か」

その通りでございます(Exactly)

 

 

 アライさんは例の祭の前後に、ここにやって来たのだという。

 ……つまりは明確な新人さん、ということなるわけで。

 それはこのなりきり郷という魔境について、まだまだ知らないことが沢山ある……ということでもある。

 

 無論、トキさんから逃げる時に、ある程度地理については理解しているだろうが……それにしたって一階層程度。

 地下千階まであるうえに、今なおそれらの拡張が続けられていると言えば、たかだか一階層程度を踏破したところでなんだ、と言いたくなる気持ちもわかって貰えるはずだ。

 ──いや、そもそも一階層踏破、っていうのも誇張表現にしかならないだろうし。

 

 

「……どういうことなのだ?」

「ここから見えるあの百貨店。……そうそうあれあれ、あの白い建物。見てて不思議に思わない?」

「……そういえば。地面の下って聞いたのに、何故か三階建てなのだ」

「まぁ、そこに関しては一つの階層について、その天井が高い……って風に説明できなくもないわね」

 

 

 首を傾げるアライさんに対し、私が指差すのは窓の外に見える一つの大きな建物。

 それはさっきまで、私たちがクリスマスの飾り付けとかを買っていた場所、ということになるのだが……ここは地下だというにも関わらず、かの建物は屋上まで完備した巨大施設として、そこに鎮座している。

 

 地下なのに複数階、というのはおかしな話だろう。

 無論クリスの言う通り、例え地下であろうとも天井が相応に高いのであれば、内部の建物が何階建てになろうとも問題ない、という風にも言えてしまうわけだが……。

 

 

「実はあのお店、地下三階まであるんだ」

「なにを言ってるのだ?」

「ついでに言うなら、ここは全体の階層としては比較的浅い方なんだ。下にもまだまだいっぱいあるよ」

「なにをいってるのだ???」

 

 

 問題となるのは、表層に見えているモノではなく。ここからでは見えないもの──そう、地面の下の方である。

 

 ここはなりきり郷全体で考えると、大体地下八十階くらいになるわけだが……その一画にあるあの百貨店の地下三階は、決してなりきり郷全体としての地下八十三階のことを指しているわけではないのである。

 

 つまり、空間が広いのはなにも上方向にだけではなく、下方向や横方向にも同じように、ということ。

 予めきちんと申請さえしておけば、地下三階にある建物内部に地下千階を作る、みたいなことも(空間拡張によって)可能だというわけだ。

 

 で、ここからが本題なのだけれど……。

 

 

「みんな秘密基地とか大好きだからね。あの百貨店も、公表しているのは地下三階までだけど、それが地下十階・地下百階……みたいに、実は無茶苦茶下まで続いているという可能性は否定できないんだよ。知らされていない部分があるからには、ね」

「?????」

「ついでに言うと、建物の外見はあくまでも外見でしかないから、実はあの地上三階の更に上に、見た目には出てこない地上四階とか八階とかがあってもおかしくない……ってことにもなるんだよね」

「………あらいさんには、もはやなにもわからないのだ」

 

 

 その内部で変なことをしていなければ、という前提はあるが。

 建物の内部の改装については、わりと好き勝手にやってもいい、というルールになっている。

 無論、使えるリソースは無限ではないため、実際に一つの建物内部を地上千階・地下千階とかに改装したら、破綻して崩壊すること間違いなしだろうが。

 逆を言えば、リソースさえ足りていればわりと無理が利く……ということでもあるわけで。

 

 結果、ああいう大きな店なんかは、内部に迷宮クラスの階層を持ち合わせていることがある……などという、意味不明な状況になってしまっているのだった。

 なお、この辺りの悪ノリを楽しんでいるのは、大体不思議のダンジョン系の作品に慣れ親しんだ人達だ……ということを予めここに記しておきます。

 

 ……うん、要するに企業ダンジョン挑戦者募集中、みたいなアレだよね。

 ルールは不思議のダンジョン仕様で、地下やら地上やらを進むごとに、そのお店の商品とかがダンジョンドロップとして手に入る、みたいな。

 店の売り物のほとんどが、値段の付いていないものであるからこその遊び、というか。*3

 

 

「苦労している姿を見せて貰うことで、ある種の対価にしている……みたいな?」

「悪趣味、って笑うべきなのかしらね、これ」

 

 

 むぅ、と唸るクリスに苦笑する私。

 ……商いをしても金銭が発生しない以上、貰ってもあげても嬉しくないのがここでのお金。

 そうなれば、商人達が新しい価値を創造しようとするのは別にそこまでおかしな話でもない、ということになるのだろうなぁ、という苦笑なのであった。*4

 

 

 

 

 

 

 さて、ここでの企業達は、お金のために働いているわけではないため、その辺りのモチベーションを保つのに別種の仕事が混ざっている……みたいな話をしたわけだが。

 それがアライさんとなんの関係があるのか、と問われれば、それはここに来てから彼女が見たものは、このなりきり郷のごく一部でしかない、ということになるのだろう。

 

 トキさん(正確には彼のする注射)から逃げた彼女は、せいぜいこの八十階の表層を歩き回った程度のはず。

 それゆえ、彼女が知り得ない場所というのは、まだまだ沢山あるということになる。さっきの百貨店であれば──地下の部分とか、ということになるか。

 

 

「無論、知らなくても生活はできる。生活に必要なものは、そのほとんどが無料だからね、ここ」

「それって堕落しないのだ?」

「してる人もいるよー。あそこで昼間っからパフェ食い続けてる銀ちゃんとか」

「ぬぉっ!?端っこで気配消してたのに、わざわざ声掛けて来てんじゃねーよ!」

「その横に並ぶパフェの空容器の山を放置して、どうやって気配を消してるつもりだったんです?」

 

 

 昼間からなにもせずぷらぷらしている人、というのは確かに存在している。

 ……が、なりきり郷において、それが罪だとは限らない。世間一般にはニートだのなんだの言われそうな話だが、ここにいる人々はそも『そこにあるだけ』で意味のある人々。

 

 特に、下手に動くと問題を引き寄せるような一部の人々は、そうして平穏無事だ日常を過ごすことこそ、一番の仕事だということになるのかもしれない。

 ……いやまぁ、なんにも起きないタイプの人達も、場合によっては平穏無事なことが仕事、ってこともあるわけなんだけどね?

 

 

「それはうちなん。いわゆるきららけい?ってやつなんな~」

「日常系ってやつだねー」

 

 

 まぁ、元のそれとはちょっと違って、誰かに注目されるってことはないみたいだけど。……視聴者相当の人がいないのだからさもありなん。

 

 ともあれ、街を案内するとなった時、説明しなければならない場所が想定よりも多い、ということは間違いない話。

 そしてそれがアライさんのこれからについて、ふかーく関わってくることになるわけなのでありました。

 

 

「どういうことなのだ?」

「アライさん自体が、わりと突然現れたんでしょう?」

「んー……よく覚えていないけど、確かそうなのだ」

 

 

 それが、彼女の出自。

 この場合は原作のことではなく、どこに現れたのか?……ということの方。

 

 トキさんが初めて会った時のアライさんが、周囲を怪我させてしまうほどに狂暴だった……みたいなことを言っていたのを覚えているだろうか?

 今の彼女にその気配はないが、以前彼女が暴走していたのは確かな話。

 

 そして、そんな状態の彼女が最初に発見されたのは、それらの企業ダンジョンの一画だったのだという。

 

 

「そ、そうだったのだ?!」

「うむ、調書を取った結果判明してな。……ダンジョンの奥地でなにかに出会い、恐怖から暴走した……というのが、現在の私たちの予想だ」

 

 

 彼女が発見されたのはつい最近。そして、企業ダンジョンは出入りに関して確りと記録を取っている場所。

 ……要するに、彼女はダンジョンの中に突然現れた、ということになるわけで。

 

 それがなにを意味するのかというと、つまり彼女と同じフレンズ達が、他の企業ダンジョンに居るかもしれない……という可能性を生んでいる、ということ。

 つまり、彼女は仲間達のために、ダンジョンに挑まなければならないかもしれない、ということである。

 

 

「……ゆ、勇者アライさんの誕生なのだ?!」

「そうだねぇ、アライさんがまたやってしまうねぇ」

 

 

 これから彼女を待ち受ける運命。

 その始まりを告げるかのような話に、アライさんは困惑したような興奮したような、なんとも言えない様子で声をあげていたのだった。

 

 

*1
『ジャパまん』『ジャパリおまんじゅう』とも。全てのフレンズ達が食べることのできるものであり、色によって味が違うとか。完全栄養食的な性質があるらしい(これを食べてれば健康が保たれる、的な。元が肉食だろうが草食だろうが関係なし)。なお、一般的なジャパリまんはアンコ味なのだとか。……つまり餡まん?他にもミソ味・バナナ味などがある模様

*2
『ジャパリまん』はその原材料などは明らかになっているが、どこで作られているのかとかは謎に包まれている

*3
誰々が持っていった、という帳票を付けるためにレジを通すが、支払いは発生しない。商品補充も大量の商品をどんぶり勘定で行うような感じになっている。これは、商品が陳列棚にいる間は時間経過が止まっている為。食品ロスがほぼ発生しないので、なくなったら補充する、くらいのいい加減さで普通に回ってしまうのである

*4
お金やそれに類するものは共通言語のようなもの、という話。お金が価値を失うというのは、ある意味では言葉が通じなくなるということにも等しいモノであるので、そこを埋める新たな基準が生まれてもおかしくない、ということ

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