なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……そういえば、ブルーノちゃんとはるかさんは一体どこへ?」
「え?……確かに、近くには居ないな」
動きを止めたマスターボールを懐にしまいつつ、周囲を見渡す私達。
……ここに来てから時間は結構経過しているはずだけど、あの二人が近くにいる感じは全く無い。
うーん?逸れたにしても、そんなに遠くには行っていないはずなのだけど……?
そんな事を思いながら首を傾げていると、突然路地裏に眩い光が!!
「遊星を送り出した僕に、やるべきことは最早なにもない……」
「ぶ、ブルーノ?」
「違う!僕はアンチノミーだ!」
謎の緑色のリングから飛び出してきたのは、紫色のやけに長いバイクと、その運転席に座る二人の人影。
あすなろ抱き*1……通じるのかあすなろ抱き?
えっと、手前・はるかさんで、後ろ・ブルーノちゃん……いやさ謎のD・ホイーラーという感じで、狭い運転席に二人が収まっていた。
……状況がよく掴めないんだけども、一体何してたの二人共?
「ふ、ふふ……まさか途中で遊星さんを見付けたブルーノさんが、突然デュエルを始めるとは思いませんでしたよ……。いやでも、あの名シーンの再現を見れたのでお腹いっぱいでしたけどね!」
「すまない、キーア。僕は負けてしまった……だが、彼に希望を見出したんだ、未来を救う希望を……」
(時間稼ぎはこんなもので十分だったかな?)
「ぶ、ブルーノ、貴方……っ」
燃え尽きた、みたいな感じで笑みを浮かべるはるかさんと、悔しそうな、それでいて晴れやかな笑みを浮かべる謎のD・ホイーラー(と、念話でこちらに確認を取って来るブルーノちゃん)。
……もしかして、ブルーノちゃんってば結構事情に詳しい系のこっちの協力者なのか……?
(詳しいことは侑子さんにでも聞いてね)
(……了解、あとでまたお土産持っていくことにする……)
と思っていたら、ブルーノちゃんからの追加の念話。
……侑子に対しての感謝の念が留まることを知らないんだけど、これ何を買って帰ればいいかな?とりあえず地酒?
真剣に悩み始めた私と、一人だけ置いてけぼりなキリトちゃん。
数分後、とりあえずここから移動するべきだ、と言うことで、みんなで路地から外に出る。
「そういえば、目的の方には会えたんですか?こっちはブルーノさんが早々に遊星さんを見付けて走り出してしまったので、その辺りよくわかってないのですが……」
「え?……あー、うん。出会えたんだけど、ちょっと問題ありな人だったから、先に郷にスキマ送りにさせて貰っちゃった。詳しいことはまたゆかりんから書類が提出されると思うから、そっちを見て貰える?」
「……そんなに問題ありな人だったんですか?」
「うん、人格面に大きな問題があるというか……」
当然のごとくはるかさんから追求が飛んできたので、適度にごまかしながら言葉を返す。
……懐に入れたボールから、抗議の念が送られてきている気がするけど無視。お前さんが問題児なのは間違い無いじゃろがいっ。
対するはるかさんは暫く訝しむようにこっちを見たあと、追求相手をキリトちゃんに切り替えていた。
……ぬぅ、なかなかやりおるマン*2……。……ウーマンの方がいいのか?*3
「ねぇ、キリトちゃん。相手の人、そんなに酷い人だったの?」
「え、ええ。酷いやつですよ。『TSした感想、TSした感想を聞かせておくれ!脳が歓喜に打ち震えるほどにッ!』から始まる多種多様なアレコレをうんざりするくらい尋ねられるんですから……」
「そ、それはなんとも……」
キリトちゃんの返答に、若干引き気味のはるかさん。
……これ、あの精神操作中に聞こえてたやつなのだろうか?だとすればヤベー奴以外の何物でもない。
なんでって?浸父の性質上、既に記憶として読めているものを、敢えて本人の口から言わせようとしていたわけだからだ。……尊厳破壊めいたものまで嗜むとか、どうあがいてもダメなやつじゃねーか。
懐のボールの揺れが激しくなった辺り、本人的には『違う!TS娘の楽しみ方の一つを実践していただけだよ!仮に変態だとしても、淑女という名の変態だよ!』*4みたいな事を主張しているのだろうが……。
「どっちにしろ変態じゃん……」
「……ああ、確かに。変態さんですね、その人」
思わず呟いた言葉に、はるかさんが深く頷く。
……実態がどうあれ、今の
一先ず今日の宿にたどり着いた私達は、各々の部屋に戻って就寝の準備をしていた。
何気に全員個室なのは、まっとうな女性がはるかさんしか居ないからだったりするが……まぁそこは置いといて。
部屋の施錠をしっかりとして、ゆかりんから預かっていた防音の符を使って結界を貼って、部屋の中に盗聴器が無いかBBちゃんお手製の探知機で確認して。
……そこまでやってようやく一息吐いた私は、ずっと懐にしまい込んでいたボールから、件のキャタピーを外に出してやるのであった。
「きゅっぷい。……おや、ようやくお話タイムかい?」
「そうね、周囲には誰も居ないし、話をする準備はできたわ」
ボールの中から飛び出したキャタピーは、こちらに視線を向けるなり皮肉げに声を上げた。
……まぁ、仕方ない。緊急だったとはいえ、やってることは普通に拉致監禁である。……彼女が私を責める理由は、十分にある。
「ごめんなさい。貴方の自由を奪う結果になってしまって」
「……やけに、素直に謝るんだね?」
「いや、そりゃ謝るでしょう?……貴方を放置したらまずいと思ったのは、その能力によるものが大きいとは言え、それが拘束していい理由にはならないわけだし」
実際には他にも理由があるけれど、一番大きい理由はやはり『放置するのは危険』という事。
……それにしたってもう少し時間があれば、ちゃんと説明をして、納得の上でこちらに来て貰う……ということも可能だったはずだ。
言ってしまえば、あのタイミングで彼女から視線を外してしまった私の落ち度でもあるのだ、この状況になったのは。
例え彼女が問題児だったとしても、そこにある私のマイナスは埋まりはしない。
「だから、ごめんなさい。もっとちゃんと会話すべきだった。その上で、貴方は外に居るべきではないと納得して貰うべきだった」
「……損な性格をしているんだね、君」
「?いいえ、まだまだ全然。
「ふーん……まぁいいや。で、他の理由って?」
とりあえず捕獲云々については流すことにしたのか、他の理由について聞いてくる彼女。
……これに関しては、半ば勘になるのだけど……。
「貴方、今ちょっと正気じゃないでしょ?」
「ボクが?」
「キュゥべえとしても浸父としても微妙にずれてる行動原理的に、行動の主体は元の貴方なんでしょうけど……それもそれでおかしいのよ、憑依されてるってのがこの現象の基本原理のハズ。元となった演者の自意識は、あくまで憑依者の思考にエッセンスとして加えられるだけのモノ。それが主体になっているように見える、という状況自体が、貴方が正気ではない事を示してしまっている」
「……ふむ、
「そうそう」
彼女の返答に、一つ頷きを返す。
どちらのキャラクターにしても、もし原作そのままの性格でやって来ていたのなら、今の彼女とは別ベクトルで危険人物だったはずだ。
……いやまぁ、その場合はそもそも他者に能力を付与するのに、必要な再現度がどれくらいになるのか……という問題がでてくるけども。
それでも、今のような会話ができたか、と言われると疑問を抱かざるをえないというのは確かだろう。
故に、今ここに居る彼女は二人の性質・性格からは外れていると明言できるわけだ。
……まさかキャタピーがこんな性格だった、なんてウルトラC*5に繋がるわけもなく。
だから、今の彼女は正気だとは思えない。
どういう状態になっているのかわからないが、三つキャラを混ぜる【
その辺りの検査とかを受けて貰う事を前提にして、彼女を引き止める必要もあったというわけだ。……そこを口にする前に、逃げられそうになったわけでもあるけど。
「あと単純に人体実験……いやこの場合はポケモン実験?的なものの対象になっちゃいそうだから、そこの回避も目的の一つではあるかな?」
「人体実験?穏やかじゃないですね*6……というか、始めにそこを主張すれば良かったんじゃないのかい?」
「……普通に精神操作が選択肢にあるような相手に、咄嗟にそこまで気が回らなかったのよ……」
「む、それはボクが悪いか……」
明らかにヤバイやつ、という意識が強かったせいで、理由を説明すれば聞いてくれたんじゃないかという部分に思い至らなかった……、というのはまぁ、さっきから私の落ち度としてずっと言い続けてるわけで。
冷静になりきれないのは悪い癖よね、と密かに反省していると、対面のキャタピーが声を上げる。
「ふむ、じゃあまぁ、こっちのお願いを聞いて貰うことでチャラ、ってことでいいかい?」
「……まぁ、貴方がそれでいいんならいいけど。でもお願いって?……あ、あとその前にハリセンで叩いてもいい?」
「いやなんでいきなり叩こうとしてるのキミ?」
「あ、いや、攻撃しようとしてるわけじゃなくて。正気に戻すのに多分使えるから、というか」
「……ふむ?いや、さっきも思ってたんだけど、キミどういうアレなんだい?やっぱりなりきりなんだろうけど、キミみたいな子はトンと見たことが無いんだけど……」
「あ、私オリジナルなので……」
「………………はぁ?」
まぁ、その後私の身の上を話したり、実際にちゃんとキャタピーにハリセンを命中させたら思考やらがクリアになったようだったりと、そんな感じであれこれと雑事を片付けて……。
「で、なんでそんなに疲れてるんだキーアは?」
「ず、ずっと魔法少女コスをさせられてて……ポーズとか、台詞とか、指定されてて……」
「あー……今度の同人誌に使う資料が欲しいとか言ってたっけか……」
「待って!?あれ資料にするつもりなのあの子っ!?」
「お、おう……なに撮られたのかは知らないけど、ご愁傷さま……」
次の日、部屋の外にげっそりとした気分で出た私を見て、キリトちゃんがどうしたのかと聞いてきたのだが……。
あの人嘘付きやんけ、ぐへへな感じの写真滅茶苦茶撮られまくったんだけど私……。
しかも資料に使う予定!?……私が悪いとはいえ、ここまでされる謂れがあるのか……?
(これでもキミには感謝しているんだよ?キミがボクをこうして捕まえてくれたお陰で、ボクは必要なものを手に入れられたわけなんだからね)
「……ぐぬぬぬ」
「あー……仲良くなったようなら何より、かな」
「……いつか必ずお前も巻き込んでやるからなキリトちゃん……!」
「勘弁してくれ……」
まぁ、そんなわけで。
とりあえずキャタピーの機嫌というか、許しと言うかは私の痴態と引き換えに得られたのでしたとさ。
……本当にこれでいいのか……?