なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「それでは、今日も張り切って参りましょー!」
「おー……」
「……キーアさんはどうしたんです?元気がなくなってしおしおしてますけれど」
「ああ、ちょっと色々あったみたいでして……」
「ふーむ、上司から無茶振りでもされたとか?……上司っていつもそうですね…!部下のことなんだと思ってるんですか!?」*1
「ふわっ!!?ななななになに!?涙目で怯える表情!?何に怯えさせる気なの貴方っ!?」
「落ち着けキーア、色々漏れてるぞ」
「え、あ、ああ……なんだ夢か……夢だけど!」
「夢じゃなかった!!」*2
「ああああああああああああああああああああああ」
「ばっ、何やってるんだブルーノお前っ!?」
朝からみんな元気だね、みたいな感じの早朝。
キリトちゃん周りのなりきり組の回収は、あれから滞りなく終わり。……ついでに、夜のキャタピーからの資料請求も変わらず続き。
何というかこう、精神がゴリゴリ削られている感じがする私です……。
こんな事になるのなら、迂闊にTS組だって明かしたりするんじゃなかったぜ……。
(どこからかマシュちゃんが聞きつけてきたのには、ボクもびっくりしたけどね。あれどうなってるの?)
(二次でのマシュと、大本の
まぁ、ある日突然速達で『デンジャラス・ビースト』*3送られてきた時のがもっとびっくりしたけど。……なんであんのあのヤベー物体?というかなんで写真撮影してること知ってたの
いやよそう、やぶ蛇どころかやぶからファフニール*4とか出てきそうで恐ろしすぎる……。
まぁ、そんな感じで。
昼間はなりきり組探し、夜は写真撮影会と、なんとも忙しい毎日を送っている私なのであった。
で、今日は北海道を離れ、一度郷に戻ってキリトちゃんとブルーノちゃんを預けたのち、引き続きはるかさんと一緒に他の情報があった場所を回る予定である。
……キャタピー?やっこさん『マスターはキミなんだから、付いて回るに決まってるじゃないか』ってうきうきな声で言い出しやがったのでこのまま同行ですよ……。
いつの間にかマシュからのお墨付きまで貰ってるんですけど、マシュよ君はどこに向かっているんだい……?
(撮った写真を焼き増しすることを条件に許して貰ったよ。正直生きた心地がしなかったよ)
(マシュゥゥゥウウゥゥゥウウゥゥウッ!!!?)
キャタピーからの返答に、もはや手遅れなのでは?……みたいな言葉が頭に浮かんでは消えていく今日この頃。
……正直気が重いです、はい。
「はぁい、元気に……はしてなさそうね」
「とてもじゃないけど、空元気すらもでねぇっす……」
なりきり郷の正面ロビーにて、久々に生ゆかりんと面会する私。
……とは言うものの、こっちの疲労が色濃くて、呑気にお喋りともいかないのが辛いところ。
この激務を、五条さんはずっと熟してたんです……?
「そうねぇ、彼は向こうとの折衝役も務めてくれてたから、今の貴方より仕事は多いんじゃないかしら?」
「……私、戻る前に五条さんの好きなもの、何か買ってくることにするよ……」
「……私の分もお願いしていい?」
「任された」
今の私より多い仕事が割り振られてたとか、今までよく五条さんにキレられたりしなかったねゆかりん……。
そんな感じでちょっと話をした後、予定通りにキリトちゃんとブルーノちゃんをなりきり郷にシュゥゥゥーッ!!超!エキサイティン!!*5
……いや、別に襟首掴んで投げ入れたとかそういうことではなく、単にゆかりんに引き継ぎを任せただけの話なんだけども……。
会話もそこそこに二人がスキマにボッシュート*6されていたのを見たので、なんとなくさっきのフレーズが思い浮かんだと言うか……。
血も涙もない……とはまた違うけども、もう少しこう……穏便に、というかね?
みたいな主張は、にこやかな笑みに流されました。……誉れは浜で死んだんだなって……。*7
「で、これからすぐ次に行くのかしら?」
「う、うん……この調子じゃ、サクサク進めないといつまでも終わりそうにないし……」
「なるほど、じゃあちょうどいいわね」
「……なに?なんか嫌な予感がするんだけど?」
「ふふふ……」
うわでた、久々のゆかりんの胡散臭い黒幕笑みだ!?
……一体何を提案するつもりなんですかねこの人は……?
なんて感じに戦々恐々としていると、ゆかりんが華麗に指を鳴らしてスキマを開いた。……悪役っぽい人が指鳴らして何か出す、って演出は微妙に古くない?
「うるさいわよ……こほん。なんだか戦闘めいた事もあったって聞くじゃない?向こうからの同行者と一緒じゃ貴方もやり難いでしょう。──だから、こうして盾役を用意しましたーぱちぱちー」
「いや盾役?っていうか口でぱちぱち言うのもアレだけど……ええい、マシュが無理なのに他に盾役って誰を……」
微妙に反応に困る言葉とフリに困惑する私。
そんな私の目の前で開いたスキマから現れたのは、桃の葉と実の付いた丸い帽子と、長く青い髪に真紅の瞳。勝ち気な表情を浮かべるこの少女。……これは──。
「なんと、てんこちゃんじゃないか」*8
「おいィ?いきなり名前を間違えるとか失礼すぐるんだが?お前らは一級なりきりストのわたしの足元にも及ばない貧弱なりきりスト、そのなりきりストどもが一級なりきりストのわたしに対してナメタ言葉を使うことでわたしの怒りが有頂天になった、この怒りはしばらくおさまる事を知らない」
「……違ったこれブロン子さんだ」*9
現れた意外な人物に、思わず名前を間違えたら、静かな口調で怒られてしまった。
……うん。その反応からするに、どっちにしろ二次設定もりもりな人でしたね……みたいな感じで言葉を返せば、少女はハッとした表情を浮かべ、しどろもどろな感じに弁明を始めた。
「あ、いや、違くて。私は確かに普通の
「なにこのかよわいいきもの」
「本人が言ってた通り、比那名居天子よ?一瞬【複合憑依】なんじゃって疑うかも知れないけれど、正真正銘普通の……普通の?比那名居天子よ」
「なんか普通って言葉がゲシュタルト崩壊*11してきたんじゃが」
私とゆかりんが話している間も、当の少女は己の存在を憂慮するように唸っている。
……その時点で本人っぽくない、と言うと泣きそうなのでとりあえず沈黙。そうして落ち着くのを待つこと暫し。
「あ、あー。比那名居天子だ、これからそちらの護衛に付く。せいぜい這い蹲って大いに有難がるといい」
「わーい」
「いや素直っ!?……あ、いや、その……う、うむ。良きに計らえ!」
「ゆかりんホントに大丈夫なんこの子?」
「腕はしっかりしてるから大丈夫よ。……ってなに、その顔?」
「いや、曲がりなりにも八雲紫が比那名居天子を頼りになる……って紹介してるの、なんかバグっぽいなって思って……」*12
「おいィ?小さい声で喋ってとも確り聞こえてるんダからな?」
「……えっと?」
「唯一ぬにの盾役としての自負が、後光の如く時々漏れ出してしまうのよ。……一級なりきりストであることの、いわばツケね」*13
「………あっ。だ、だから違くてっ」
ふーむ、つまり
それはまぁ、なんと言うか難儀なキャラをしておられる……。
涙目で違う違うと訂正する彼女を引き連れ、ゆかりんへの挨拶もそこそこにロビーの外に出れば、何処かへと連絡をしていたらしいはるかさんとばったり出くわした。
彼女はこちらの姿を確認するやいなや、電話先の人間に謝罪を入れたのち、その通話をさっくりと切った。
そしてそのまま、こちらににこやかな笑みを浮かべながら近寄って来る。
「キーアさん、そちらの方は準備などは終わりましたか?」
「特に滞りもなく。そういうはるかさんの方は?」
「あと三日ほどで戻るように、と上司から連絡がありまして。私がこうしてお付き合いできるのは、残りそれくらいの期間になりそうです」
「ほう判断が生きたなあとでジュースを奢ってやろう」
「………はい?」
「き、九杯飲むか……?」
「え?えっと、1杯でお願いします……?」
「…………うわぁああぁぁぁぁぁぁああぁぁいっそ殺せぇぇぇぇぇぇっ!!」
「ええっ!?」
そうしてはるかさんと話を始めたのだが……、うん、天子ちゃんが想像以上にてんこちゃんである。
……こんなんでこの先大丈夫なんだろうか?
そんな思いを抱きつつ、次の場所に向かうためにタクシーに乗り込む私達なのであった。
道中どうなることかと思っていた天子ちゃんだが、普通にしてる分には普通に天子ちゃんだった。
いや寧ろ傍若無人な面がなりを潜めているから、原作より頼りがいがあるかも?
……いやまぁ、横暴さの欠片もない天子ちゃんが、果たして天子ちゃんと呼べるのか、という問題は付いて回るわけなのだけど。……やっぱりブロン子って呼んだほうがいいのでは?
「ちーがーうー!!私は比那名居天子なのー!!」
「うーむ強情。いやまぁ、見た目はまんま天子ちゃんだから、なんにも間違っちゃいないわけだけども」
「だろう!?」
狭いタクシーの中で荒ぶる
「おいやめろ馬鹿、この話題は早くも終了ですね」
「雲の上と宇宙だから、地上からしてみれば対して変わらないような気も……」
「ちょとsYレならんしょそれは……?このままでは私の寿命がストレスでマッハなんだが……」
「そこまで嫌がるの?……あー、はいこの話はおしまい。私も悪かったから、天子ちゃんも落ち着いて」
宇宙人扱いは嫌なのか、口調が変わっていることにも気づかずに抗議してくる天子ちゃんを落ち着かせつつ、さっきから無反応なはるかさんの方をふと見れば。
……なんか、宇宙猫みたいな顔になっていた。むぅ、ブロント語はわからん、ということだろうか?
まぁ、彼女がわからずとも私は一応わかる人なので、それでいいか。なんて風に考えつつ、ふと車外に目を向ける。
この間が北海道で、次に向かうのは中国地方。
……なんだかいきなり飛んだな、という気分になりつつ、はて中国地方で何があるのか、と資料に目を通せば。
なんか『宮本剣豪七番勝負』なるものの噂が耳に入ったとか、カブトガニならぬカブトが一部に集まってるとか、はたまた出雲の方に神系のキャラが大挙して来たとか、なんとも言えないものばかりが目に入ってくる。
……心が折れそうなんだけど、帰っていいかな?なんて事をぼやきながら、流れる景色を眺める私なのでした。