なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「うーむ、結局戦闘もせずにボス部屋に来てしまった……」
「小さい虫が鬱陶しいくらいだったな、実際」*1
「んー、キーアちゃんの言葉にびびったのかと思ってたけど……もしかして、私たち全員に対してちょっと引いてたりするのかなー?」
「そんな馬鹿な」
目の前には荘厳な扉、周囲には遠巻きにこちらを見つめる少女達。
……結局、ただの一度も戦闘が起こらないまま、ボス部屋までたどり着いてしまった私たち。
これでいいのか、みたいな気持ちが胸一杯に広がってくるが、でもわざわざ殴りに行くのは蛮族すぎるので自重する私たちである。……え?さっき燃やそうとしてたって?知らんなぁ()
ともあれ、なにも起こらなかったのだから仕方ない。そう気持ちを切り換えて、ボス部屋の扉に手を掛けた私は。
「……開かねぇ」
「え?」
「うんともすんとも言わねぇ!一切動かないんだけどこれ!?」
「えー!!?」
その扉が、前にも後ろにも左右にも一切動かないことを察し、思わず大声をあげることとなるのだった。*2
「あれから、上に持ち上げようとしたり下に降ろそうとしたり、色々試してみたけれど……」
「文字通りにうんともすんとも言わないねぇ」*3
はぁ、と息を吐きながら、近くの岩に腰掛ける私。
目の前の扉は、あらゆる方法を試して見たものの、一向に開く気配がない。
普通の押し引きから、実はどこかに鍵穴でもあるんじゃないのか、みたいな考えからあちこち探してみたり、いっそぶち破るかとゴブスレさんのウォーターカッター解禁など、本当に色々試してみたのだけれど……ご覧の通り、扉には傷一つないしピクリとも動かない。
少なくとも、この扉そのものになにかをしても無駄、ということがわかったが……じゃあどうしろと?と問われると、少し困ってしまう状態である。
……いやまぁ、一応もう一つ、試していないことはあるのだが……。
「っていうと、周りの子達?」
「彼女達になにかをすると開く、みたいな謎解き方式じゃないかなー、というか。……もし違ったら、最悪もうわからんってことで縮退砲撃つけど」
「たかだか扉一つを開くために、銀河一つを丸ごと道連れにしようとするのはやめるのだ!」
「んもー、キーアお姉さんってば、めんどくさくなるとすーぐ大雑把になるんだから~」
「え、えっと……ごめんなさい?」
……なんで私は責められてるんだろう?
いやだって、開かない扉の方が悪いよね、この場合。
で、それを開こうとすること自体は、別に間違いじゃないはず。……おかしくない?
「おかしいのは君の頭、だっ」
「あいたっ!?」
そんな私のぼやきに、返ってくるのはライネスからの強いツッコミ。……いや、なにもチョップする必要なくない?多分壊れた電化製品扱いだったんだろうけども。
痛む頭を擦りながら、はてどうしたものかと頬杖を付く私。
とりあえず、現状試していないことというと、周囲の女の子達へのアプローチ、である。
それが彼女達を倒すことなのか、はたまた彼女達に友好的にすることなのか、今のところはわからないが……真っ先に『倒す』方を試してしまうと、彼女達がリポップしない限り詰みになってしまうので、やるんなら友好的にする方から、ということになる。
……のだが、明らかに疑似餌──人の姿をしているけど人じゃない、みたいな相手に対して友好的に……と言われても、どうすればいいのか全くわからないというか。
自然物が人の姿を取った、という扱いにもできるため、その方面から考えると彼女達は妖精みたいなもの、ということになるのだが……。
「妖精……国……六章……うっ、頭がっ!」
「なんでキーア姉ちゃんは、いきなり頭を抱えちまったんだってばよ?」
「あー、君のとこにビワが居るだろう?」
「ん?……あー、あの真っ白な?モジャモジャの?」
「そうそう。……アレってね、今でこそたぬきとしてわちゃわちゃしてるけど……」
「ふんふん」
「あれ、本当は呪いの塊なんだよ。それも、触れたら確実に呪殺されるレベルの」
「え゛」
妖精、という言葉に思わず呻き声をあげることとなる私。
それもそのはず、既にケルヌンノスという存在を観測したことのあるこのなりきり郷において、妖精というものがどう定義されるのか?……というところには、まさしく『無辜の怪物』的風評被害の空気が滲んでいるわけで。
いやまぁ、当のケルヌンノスからわかたれた存在・ビワが妖精は妖精でも人退の方の妖精さんをイメージさせるように動いているため、そういう被害は少ないわけなのだが……。
よく考えてみて欲しい。ここはダンジョン、即ち出てくる相手は基本的に敵対的な存在である。
で、そんな敵対的な妖精に対し、周囲の人々がイメージを重ねてしまうもの──【継ぎ接ぎ】を引き起こしそうなものがなんなのか。
……そう、悪辣にして蒙昧、純真にして外道。
そんな、かの妖精國に広く蔓延する妖精達を、思わず、思い浮かべてしまったとして、誰がそれを責められようか。
要するに、敵対的な妖精というもののイメージが、このなりきり郷では妖精國の彼らに近似してしまう可能性が高いのである。
で、周囲の彼女達は蟲惑魔系の存在。……植物や
「……下手すると周りの子みんなオーロラ、なんて可能性も……」
「うわぁ!!おぞましいことを言うんじゃないよ!?」
「あっはっはっ。ごめんごめん」
そうなってくるとほら、背後の羽根は蝶のそれだった、例の噂のあの人が彼女達の元になっている……なんて可能性もなくはないわけでね?
……なんてことを口走ったら、その辺りに詳しい方の一人であるライネスから、後頭部に強い衝撃を与えられることとなるのだった。はっはっはっ。ジョークだってジョーク。
「──うん、ざっと見た限り、周りの女の子全てがオーロラ、みたいな可能性はないね」
「よ、良かった……
「え?」
「……え?」
ビビるライネスにせがまれて、周囲の女の子達を解析したところ。見事、彼女達はオーロラとは似ても似つかない存在だ、ということが判明したわけだけど。
私からの言葉を聞いて、露骨に安堵したライネスに対し、私はちょっとばかり残念な気持ちを抱いていたのだった。
「……つかぬことを聞くけど、もしかして君はアレを歓迎するつもりがある、ってことかい?」
「メリュジーヌには悪いけど、わりと私あのキャラ好きなんだよね」
「嘘だろっ!?」
「……ライネスはさっきから、なにをわちゃわちゃ言ってるんだってばよ?」
「んーとねー、オラの映画の悪いお姉さん?みたいな人の話をしてるんだゾ」
「あー、例え綺麗だとしても、場合によってはしんちゃん自体もノー、って言うタイプの?」
「そうそう、それそれ~」
……外野も気になっているようなので、一応説明すると。
オーロラというのは、FGOに登場した妖精の一人で、風の氏族を束ねる氏族長でもある存在だ。
詳しい所業はまぁ、各々調べるなり妖精國に行ってみるなりして貰うとして……大まかに彼女のことを語るのならば、悪女というのが一番簡潔な評価、ということになるだろう。
とはいえ、作中描写からも解る通り──彼女は
間桐桜から同情される余地の全てを剥ぎ取った感じというか、加害者以外の選択肢を持たない存在というか。
言うなれば起源が開いた存在みたいなもので、彼女は美しくあらねば生きられない、という業を背負っていたのだった。
「彼女の考えとかは、色々解釈次第で変わるから、単に事実だけ述べると。──自分が一番輝いていたであろう瞬間を、そのまま写し取った存在がずっと横で『貴女は美しい』と言ってくる状態、みたいな?」*4
「……そこだけ聞くと、同情の余地があるように思えるな」
「まぁ、他の所業で全部ひっくり返しちゃうんだけどねー」
「ええ……」
彼女を掬いあげたことを、朧気ながらに『いいことをした』と感じていた彼女。
つまりその時、彼女は唯一他人のために輝いた、ということであり。──その美しさを、そのまま写し取った竜の亡骸は、その美しさをいつまでも湛え続ける鏡のようであり──。
……まぁ、どこぞの妖精の言葉を借りるなら、『どうしようもなく終わっている』関係、とでもいうか。*5
なんというか、そういう関係の上に成り立つあの二人が、わりと好きなのかもなーというか。
で、その関係上、オーロラのこともわりと好きというか。
「いやまぁ、『美術品』みたいな見方だ、って言われたら否定し辛いところもあるんだけどね?」*6
「……趣味悪ぅ」
「ええそりゃもう、魔王ですから」
「でた!キーアちゃんの魔王ですからスルー!」
「それは言い訳としては下の下では……?」
なお、この発言に対する周囲からの評価は最悪の部類。
まぁ、自分でも趣味悪って思うこともあるので、その評価自体には特に反論する気持ちはないわけだけど。
……ただまぁ、一つ訂正させて貰うとすると、『終わっている』ものがそこで終わってしまうのもそれはそれだけど、そこから奮起することを密かに祈っている……みたいなところもまぁ、なくはないかなーって思っててね?
「……ああうん、魔王的な思考だね、ホント」
「よせやい、褒めてもなにも出ないぜ?」
「褒めてないよ!!」
……まぁ、そんな感じで会話は終わり。
一先ず、逃げる女の子達を捕まえよう、という話に移行していくのでした。