なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
統一言語、というものがある。
遥か昔、遥けし塔がまだその姿を保っていた頃、世界で使われていたというただ一つの言語。*1
それだけだと『単に古い言語なんだな』ということしかわからないが……これがこと、古いものこそ凄い力を持つとされる型月世界とかだと、ちょっと話が変わってくる。*2
「…………っ」
聞きたいことがある、と如実に表情で語るライネスだが、その口から言葉は出てこない。
見れば周囲の全て──私以外のなにもかもが、音すら出さず静寂の中に沈んでしまっている。
それもそのはず、私が今使ったのは『統一言語』。
かの世界において、『
……無論、いつも通りあくまでも
統一言語とは、その名の通り統一された言語であり、遥か昔に言語が神によって分けられる前に使われていた、とされるものである。
向こうの世界観的に言えば根源級の神秘であり、これを聞いたものはその言葉に逆らうことはできないとされる。
これは、この言語が『誰にでも通じる』ものであるがゆえ。
音節ではなく意味として伝わるこの言葉は、すなわち勘違いやすれ違いを絶対に生まない言葉、という風に解釈することもできる。
ゆえに、どこかの歌のように『この言葉も翻訳されれば、その意味を正確に伝えることは叶わない』なんてことには、絶対に陥らないのだ。*3
……が、この言葉の真骨頂とはそれではない。
この言語は、
これがなにを意味するのかと言うと、すなわちこの言葉に今の人々は
言葉とは、本来コミュニケーションのための手段の一つ。
相手に投げれば投げ返されるのが普通であり、例えばそれが
その結果『わからない』の投げ合いになったとしても、それはそれでコミュニケーションとして成立しているとも言えるわけだ。
だが、この言葉──統一言語の場合は違う。
この言葉には『わからない』がない。
その言葉の意味は決して過たず、一言一句染み込むように理解することが叶う。
──そう、相手の発した意思・意図・想いの全てを、勘違いすることなく理解することができるのである。
しかし、それに対して人々は
それは失われてしまったもの、今の人には扱えないもの。
自身のなにもかもを、相手に間違いを与えることなく伝えることなど、今の時代の人間には絶対にできないことだ。
また、周囲の物体達も、遥か昔は『言葉ならぬ言葉』を発していたかもしれない*4が、世界の構造が変わってしまった今、その言葉もまた忘れ去られてしまっている。
……いやまぁ、こっちに関しても『言語が変わった』だけで、今もなお人には聞こえない声を発し続けている、という可能性はあるわけだが。
ともあれ、人や物が、神代のその言葉に返答する術を持たない、というのは間違いなく。
ゆえに、その結果として起こるのが、その言葉への隷属である。
相手の言葉は届いているのに、それに対して返答する術を持たないからこその、余りに原始的な言語──
貴方の声は聞こえています、けれどその言葉を私達は忘れてしまいました。なので、代わりにその言葉に従順することで、貴方の言葉が間違いなく届いていることを証明しましょう──。
そんなことを想っているのかは定かではないが、万物がその言葉に従ってしまうのは確かな話。
ゆえに、この言葉は実質的な魔法の言葉として、周囲を思うままにする力を持っているのである。*5
さて、先程私は『話【を】聞いて?』と、統一言語を用いて述べたわけだが。
これがどういう効果をもたらすのかというのは、ご覧の通り。
小説『空の境界』の作中においてこの言語を用いた男は、同じ位階ゆえに直接的に効果を与え辛い相手に対し、
──つまり、この言語は世界そのものを左右する力を持つ、ということになるわけで。
「……っ」
(わぁ、みんなの視線が痛い)
先程の言葉は、すなわち
結果、空気すら完全に凪いで、無駄な音を立てないように静かになってしまった、というわけなのである。
……ぶっちゃけてしまうと完全に無差別全方位隷属命令みたいなものなので、みんなから凄い目で睨まれてしまうのも仕方のない話なのであった。*7
とはいえ、これには一応理由がある。
それは目の前のゆぐゆぐが、さっきの統一言語の説明に近しいコミュニケーション手段を使う、というところにある。
作中における彼女は、基本的に言語という形式で他者とコミュニケーションを取る、ということを行わない。
仮に音を発したとしても、『フィーン』という独特な音が発せられるだけで、そもそもそれ事態も別になにかを話している、というわけではないという始末。
が、それでも一部の人には、自身の思いというものを伝える手段を持つのだという。
これが意味することは、彼女にもなにか言語のようなものはあるということ、それからそれを理解できる人は限られている、ということ。
……さっきの統一言語の説明に、どことなく似ていると思わないだろうか?
無論、彼女が統一言語を話しているとは思わない。が、同時に彼女が、
そういう特殊性というのは、この世界においては色々と余分なものを付け足される隙である、というのは皆さんご存じの通り。
ゆえに、勝手に彼女の使う言語が、統一言語やそれに類するものに差し替えられている可能性、というのは決して否定できないものとなっていたのである。
なので、私が使ったのは統一言語だった。
間違って相手に通じない別の言語を使ってしまったり、相手に意味を伝え間違えたりしないように。……まぁお陰さまで、周囲の人達の不満ゲージもガリガリ上がってしまったわけなのだけれど。でもまぁ、地面を這っていた炎達も今は鎮火しているので、それで多めに見て欲しいというか。
さて、そこまでして話をしようとしたゆぐゆぐだけれども。
彼女は私の言葉にキョトン、という顔を見せたあと、華が開くような満面の笑みを浮かべて。
『──コトバ、ワカル!アナタ、ハナシ、スル!』
などと、独特な声のようなものを響かせ、こちらに話しかけてくるのであった。……うん、統一言語じゃないのは確かだけど、似たようなものの空気がするぞー(白目)
戦闘行動を一旦中断した私たちは、部屋の中に用意されたテーブルに、椅子に腰掛けて集まっていた。
無論、これを用意したのは目の前のゆぐゆぐ、なのだが。……なんでだろう、これって本当にゆぐゆぐかな、って疑問が浮かんでくるのは。
「ふんふんふふーん♪……あっ、ちょっと待っててねー、今お茶淹れるからっ」
「……なぁキーア、すっごい嫌な予想が沸いてきたんだが、言ってもいいかい?」
「いやです……」
「いいから聞きたまえ。……彼女、最初五人に分裂していただろう?それから合体してあの姿になったわけだが。……多分、複数の存在が【継ぎ接ぎ】されていると思うんだ」
いやだっつってるのに考察を述べてくるんだが?
……とはいえ、ライネスも困惑しているので口に出して整理したい、ということなのだろうが。
なお、現在のゆぐゆぐの格好は、大きさは普通の成人女性くらいのサイズにまで縮み、服も先程の草木で作られたような自然物っぽいモノではなく、ごくごく普通の白いハイネックとミニスカート、という少女らしいものに変わっている。
髪型とか髪色とかはゆぐゆぐのままなのだが、いつの間にか喋ることのできるようになった日本語といい、どこか快活さを迸らせているというか。……正直これを「ゆぐゆぐです」ってお出しされたら、まずそいつにちゃぶ台返しするくらいに別物だと思う。
……思うんだけど。同時に、これが何故そうなったのか、ということにも思い至ってしまうため、ちょっと震えが出てくる私である。
ライネスも言う通り、元々このゆぐゆぐは五人の小さなゆぐゆぐとして、私たちの目の前に現れた。
その時は、多分蟲惑魔の仲間かなにかなのだろうな、と思っていたのだが……ここに来て『蟲』という言葉の意味が、重くのし掛かってくる。
そう、『蟲』とは本来
そして彼女は、
──数多のモノを意味する名を冠する存在が、五体を合わせ一つの完全なるモノを形作り。
そしてそれは、大地──星を司る、という風に見立ててもおかしくない存在。
要するに、ゆぐゆぐそのものになにかを見出だしたのではなく。
「はい、お紅茶どうぞ♪」
「アッハイ、ドウモアリガトウゴザイマス……」
天真爛漫に微笑む、星の嬰児。
……その見立てをしたってんなら、このゆぐゆぐがなにを【継ぎ接ぎ】されたのか分かるってもんだよなぁ!?
……多分恐らくきっと、どこぞの
アカン色んな意味で死ぬぅ!!?