なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
岡山県、という場所がどういうところかご存知だろうか?……開口一番県北うんぬん言い出したやつは後で郷の裏でシメる。
まぁ、それは置いといて。
中国地方の県の一つ・吉備津彦命が桃太郎のモデルとして有名・きび団子とマスカット、桃とかが美味しい・日本三名園の一つ、後楽園がある・美観地区にままかり・晴れの国にジーンズの名産地などなど……。
まぁ、これ以外にも細々とあるかも知れないけれど、いいイメージは大体そんな感じ。
悪いイメージに関しては……まぁ、あんまり語るとアレなので、運転の荒さと言葉遣いの粗さ、位に留めておいて。
まぁ、基本的にはわりと片田舎、という感じだろうか。
……いやまぁ、いいところもいっぱいあるんだけどね。でも基本的には……良くも悪くもなんにも無い、という感じがなくもないと思う。
台風の直撃も地震の被害も津波の影響もほとんど受けない辺り、過ごしやすさは結構なものだとも思うけど。
え、なんで今回はやけに岡山に付いて語るのかって?
今回は基本的に岡山での話だからだよ、うん。
新幹線に揺られること暫し、そこから電車に乗り換えて更に暫し。
やって来たのは岡山の南部。もうちょっと西に進むと広島に着くことから、地元民的には広島民的な意識もなくはない……なんて場所にやって来た私達。
……最近だととある漫才コンビの出身として有名だったりするんだっけ?
まぁ、今回はその辺りは関係ないんだけども。
今回用事があるのは、その地域の一画にあるとある博物館……の近く。
佐賀県と岡山県の一部にあるという、とある絶滅危惧種の生息地。
……佐賀県の方は岡山より遅れて国の天然記念物に指定された為、古さという面では岡山のそれの方が古いものではある。
また、岡山にあるその生き物の為の博物館は、現状世界で唯一の『その生き物をテーマにした』博物館だったりする。……世界に唯一、なんてものがあるのになんで田舎くげふんげふん。
……さて、勿体ぶってきたけど、今回私達が岡山くんだりまでやって来たのは他でもない。
そう、私達がここにやって来たのは──、
「まさかのカブトガニの為、というね……」*1
「私が言うのもなんだが、地獄かここは」
視界の中に散りばめられた、『カブト』に関するキャラ達の集団。
……いや、ポケモンのカブト*2はわかるんだよ、まんまカブトガニモチーフだからね!?
でもそこの薬師カブト*3とか、仮面ライダーカブト*4とか!挙句の果てに阿修羅カブト*5にメタビー*6だぁ?貴様らカブトはカブトでもカブトムシの方じゃねーか!!
っていうかほとんど視界に入ってくるのカブトムシ系っ!!岡山の南西部である必要性皆無!!
いやまぁ、私もカブトガニモチーフのキャラなんて、ポケモンのカブトくらいしか知らないけどさ!!
「ふふふ、意外かい?意外だろう?でも今回のボクは蛇博士じゃなくてカブトガニ博士……ふふふふふ……」
「なんだそのコラ混じってそうな台詞は?あまり調子に乗ってるとマジでかなぐり捨てンぞ?」
「おお、怖い怖い」
「……………」
「抑えて天子ちゃん、マジ抑えて」
薬師の方のカブトがこっちを煽ってくるものだから堪ったものではない。
……今まで明確に悪役なキャラをなりきりしている人はほとんど見かけなかったけど、やっぱり元が敵役だと問題児率が上がるのだろうか……。
逃げないようにと抱き抱えたポケモンのカブトの方は、不思議そうにこちらを見上げている。……みんなこんな感じに大人しいといいんだけどなぁ……。
そんな風に遠い目をする私の前では、何故かメタビーからメダロッチアプリを転送されて、仮面ライダーカブトと共に阿修羅カブトに立ち向かうはるかさん……なんて不思議なものが繰り広げられている。
「不思議そうにされてなくていいですからぁっ!!なんとかして下さいぃーっ!!?」
「泣き言を言うんじゃねぇはるか!次の指示を出しやがれぇいっ!!」
「おばあちゃんは言っていた、女性の涙は美しい……だが、女性を泣かせる行為は美しくない、と」
「ああん!?なんだ喧嘩売ってんのかお前っ!!」
「余所見してんじゃねぇぇぇえっ!!」
「……こっちのカブトさんはいいから、向こうの手伝いお願いしていい?」
「了解した、カカッっと行ってくる」
「きた!メイン盾きた!!」
「ついげきのグランドヴァイパ*7でさらにダメージは加速した!!」
「ぬおおぉおっ!!?」
「い、今です『いっせいしゃげき』!」*8
「よっしゃあ!!これでも喰らえっ!!」
「……クロックアップ」*9
『Clock Up!』
「……ああもうなんじゃこれ……」
目の前で繰り広げられるパーティみたいな大騒ぎに半ば呆然としつつ、隣の薬師の方のカブトさんに目を向ければ、彼は楽しげにその大騒ぎを見詰めていた。
……逃げたりはしないんだな、と思っていたら、こちらの思考を察したかのように彼が口を開く。
「正直な話、別に現実でなにかしよう……みたいな野心はボクにはないからね。進んで問題を起こす気も無いんだから、そりゃ大人しくしてるさ」
「……じゃあアレを止める手伝いとか」
「ボク仙人モードも使えない普通の忍なんで」
(……はぐらかしてるんじゃなかろうなこいつ……)
本当の事を言っていないように思えてしまうのは、彼がそういうキャラクターだという先入観からなのか、はたまた本当に今ここに居る彼が胡散臭いからなのか。
……いまいちその部分が掴めないまま、二人で目の前の大騒ぎを見続けること数分。
仮面ライダーの方のカブトのベルトから発せられた『Clock Over!』の機械音声と共に、阿修羅カブトは地に倒れ伏していた。
……その顔が満足そうに見えるのは、本当の意味での全力には程遠いとは言え、思い切り暴れられたからだろうか?
「はっ、遊んだ遊んだ。機会があれば、また遊ぼうぜ」
「黄金の鉄の塊で出来ているナイトが、皮装備のジョブに遅れをとるはずは無い。……まあ、気が向いたら相手してやる」
「いやホント堅いなお前!ミサイルで怪我の一つもないとかヤベーよ!」
「そもそも誤射しないでって言ったじゃないですかぁっ!?」
「え?えっとなんだっけ……射線上に入るなって、オレ言わなかったか……的な?」*10
「おばあちゃんが言っていた、射線とは開けるものではない、自ずから開くものなのだと」
「お前はお前で言ってる意味全くわかんねーんだけどっ!?」
みたいな感じにごちゃごちゃと話す彼等を遠巻きにしつつ、元気だなーと思うと同時に、よく周辺住民にバレなかったな、と疑問に思っていると。
「……人よけの護符?」
「あ、はい。研究成果の一つ、と言いますか、失敗作の一つと言いますか……」
はるかさんが見せてくれたのは、破れてしまった一枚の護符。
なんでも、色んななりきりキャラ達の技術の内、隠密に関わるものを動員して作られたものなのだそうで。
一定時間、護符が壊れるまでの間周囲に人の目や意識が向かないようにできるのだという。
それだけならわりと有用そうなのだが、わかりやすく人の意識の空白が生まれるため、違和感が残り続けるのだという。ついでに機械類も騙せない為、緊急時に使うくらいにしか用途がないのだとか。
「あと、使った場合は使用した時の状況やらなにやらのレポート提出が義務付けられてまして……正当な理由と認められなかった場合、暫くの減俸や最悪クビなんてことも……」
「うわぁ、使いたくなーい」
効果の割にデメリット大きすぎー。
……BBちゃんのこの間の海でのあれ、こうして考えてみるとすっごい仕事してたんだなぁ。
またお土産を買う相手が増えたな……なんて思いつつ、ゆかりんに連絡を入れるためにスマホを取り出す私なのでした。
さて、滞りなくカブト軍団をスキマ送りにして、次の場所に向かおうとしていたのだけれど。
……ずっと抱いてたせいなのか、ポケモンのカブトの方が私の傍を離れようとしないのである。
とはいえ、流石にポケモンを引き連れて歩くのもなぁ、といった所。
……よもやキャタピーの時の過ちを繰り返すわけにもいかず、はてどうしたものかと迷っていると。
「連れて行ってあげなよ、ポケモンなんだから小さくなるのはお手の物だろう?」
「ずいぶん勉強したな……まるでポケモン博士だ」
「……いや、それボクに対しての台詞じゃないし、そもそもポケモン博士が他に居たら、色々言われるやつだよね?」
なんて薬師の方のカブトさんとの会話により、小さい瓶に水を入れ、そこに入っていて貰うことになった。……これもゲット扱いなのだろうか?
(順調にポケモンマスターへの道を進んでいるね)
(……なーんか誘導されてる感がすごいんだけど)
なんて会話を脳内でキャタピーと行いつつ、カブト軍団と別れて次に向かうのは岡山の北東部の方。
この辺りで有名なのは……国際サーキットだろうか?それと──剣豪、宮本武蔵の生誕地候補の一つとしても有名かな。
宮本武蔵、本名『
恐らく日本で一番有名な剣豪であり、二天一流という兵法の開祖でもある。
出身地に関しては播磨国──現在の兵庫県であるとされる説が有力らしいが、美作国──今で言う岡山出身である、とする説も根強く残っている。
性格は基本的に豪快、しかして兵法家としての面から切れ者でもある大人物。
日本人であるならば彼が最強の剣豪であると思う者も多く、様々な作品で彼をモチーフにしたキャラクターが生まれている。
……というか、日本人が作る二刀流系キャラは大体彼の影響が色濃く、二刀流キャラで無関係なキャラを探すほうが楽な可能性もなくはない。
そんな感じの大人気な剣豪、それが宮本武蔵である。
……で、そんな武蔵の名前を関した謎の催し物、『宮本剣豪七番勝負』なる謎の名前が風のうわさに流れてきたので調べてこい、と言うのがここに来た理由。……なんだけど。
なんというか、モチーフ云々の話をしたせいなのか、はたまたそんなこととは全然関係なくこうなったのか。
……いまいち判断に困る人物が、私達の目の前に居るわけでして。
「……よろしく頼む」
「え、えっと、はい……」
ぶっきらぼうに声を上げる金髪の彼と、そんな彼を狂ったようにぱしゃぱしゃ写真を撮っているはるかさんと、どうしろというのか、という気分で天を仰ぐ私。
……凄まじく変則的な共演が叶ってしまった感がある天子ちゃんは、ちょっと離れた位置でこちらを見守っている。
……勿体ぶっても仕方ないので言うけど。
宮本武蔵生誕の地と呼ばれるそこで、私達を待っていたのは。
恐らく日本のRPGで高い知名度を誇るキャラの一人、クラウド・ストライフその人だったのでした。*11