なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
……クラウド君が宮本武蔵モチーフなの、初めて知ったんだけど?!*1
あ、でも確かに相手方のセフィロスさんは、見ればそれってわかるレベルの長い刀持ちだから、こっちが小次郎モチーフなのはなるほど、ってなるね!
みたいな事を考えつつ、隣に金の髪の彼を引き連れ、私達は森の中の道を進む。
……『宮本剣豪七番勝負』。
突然この辺りに噂されるようになったというそれは、言葉を聞く限りは『宮本武蔵』達が武を競うもの、に思えるのだが。
……初手からモチーフキャラが現れている辺り、素直に『宮本武蔵』が出てくるわけではなさそうである。
いや、というかそもそもね?
普通の人らを思いっきり巻き込んでない?これ。だって普通に周辺地域の人達に噂されてるじゃん。
……と思ったのだけれど、どうにも周辺の一般人にはあくまでも噂だけが回っており、誰がしかの姿を見たものは一人も居ないのだという。……というようなことを、道の駅のおばちゃんが話してくれた。
……うーん、噂の名前的にfgo案件*2?それとも、それの元ネタの柳生十兵衛の方?*3
よくわからないけど、警戒だけはしっかりとしておこう……。
特に、バキの方の武蔵*4とか出てきたらちょっと対応考えなきゃいけないし、悪ノリしたわらび*5が居たりしたら『悪・即・斬』*6しなきゃいけないし。
「もし仮にいきなり斬りかかって来る奴が居たら、私が代わりに受けるから下がってるように」
「お願いしまーす……あ、私についてもだけど、はるかさんに関しても気にしてて貰える?」
「請け負った」
先導する天子ちゃんが、顔だけこちらに振り返りながら声をあげる。
微妙に周辺の空気がぴりぴりしてるからか、天子ちゃんもブロント語がなりを潜めているようだ。
……こういうところは謙虚というか頼りになるというか。すごいなー、憧れちゃうなー。
「うるさい、気が散る。一瞬の油断が命取り……あ」
「あ、あはは……うん、あんまり気を詰めない程度にお願いします……」
「はい……」
なんて、私の方が思わずブロント語を使ってしまったせいで、天子ちゃんの方もつられて、うっかり語録が飛び出してしまっていたのだけど。
……うん、ごめんねなんか緊張しきれなくて……。
なお、そうして私達が呑気に会話している間も、クラウド君は普通に周囲を警戒していた。
大本の純朴な彼と言うよりは、他作品に出張している時の寡黙な彼……ということなのだろうか?
「……俺を知っているのか?」
「え?え、ええ……知らない人の方が珍しいと思うんだけど……」
「……そうか。ゾハルについては?」*7
「は?いやなんでゼノギアス……はっ!?」*8
「ふっ、冗談だ……」
……突然おっそろしいこと言い始めるの、お願いだからやめて欲しいんだけど。
一瞬で冷や汗まみれになった私と、そんな私とクラウド君に視線を交互させながら、なんのことやらと首を傾げるはるかさん。
唯一、天子ちゃんだけが彼の台詞の意味を認識できていたのか、マジかよ……みたいな表情でクラウド君を見詰めていたのだが。
……うん、本編終了後が基本っぽいねこのクラウド君……。
天然気味かつ冗談まで飛ばしてくる彼を見て、なんとも言えない気分で歩く私なのでした。
「……スマブラじゃん!?」*9
「いや、突然どうした」
突然叫んだのは確かに私だが、そんな顔でこっちを見られるのは納得いかんぞちくしょう……。
ぐぬぬ顔をする私とみんなが現在居る場所、それは……恐らくゆかりんの住居ではない、普通の意味の方の迷い家、なのだろう。……いや普通の迷い家ってなんだ?
まぁ、要するに昔の日本家屋っぽい建物があって、私達は招かれるままにその中に入ったわけである。
で、今じゃ田舎の祖父母の家に里帰りする時くらいにしか見ることもなさそうな、立派な和室に通された私達は。
そこでこちらを待つ人物──、覇王丸*10に出会ったのである。
……いや、微妙にわかって貰えなさそうな
一応ちょっと前に新作が出てたはずだけどさ。
まぁ、こっちの驚愕というか脱力感とかは置いといて。
目の前に居る相手は、切った張ったを生きぬいてきた侍である。
……一応なりきりという大前提はあれ、一種殺伐とした世界観の相手が何をしてくるのやら?……みたいに警戒していたのだけれど。
「それでは、ここからは私が勝負の審判を勤めさせて頂きます」
「え、黒子だとっ!?」
畳の下から現れた黒装束の人物を見て、一瞬でヤバい!……と思うはめになる私なのだった。
……いや黒子て。*11
このタイミングで出てきたってことは、サムスピの黒子でしょうこれ?
ということは、まさかの絶命奥義あり?*12ひえー。……いやひえーでは済まんがな。
なんて風に顔を青くしていたわけである。
……まぁ、よくよく考えてみたら、医療系の技能は軒並み下方修正食らってる……というのが共通設定のはず。
ならばここに居る彼にしても、原作みたいな蘇生を行うことは不可能だろう。*13
故に、この場での命の危険とかは多分ない……かな?と悟ったわけである。
いやでも冷静になって考えてみると、なんで単なる審判のはずの黒子が蘇生技術なんてモノを持ってるんですかね?
それもそんじょそこらの医療系キャラが、束になっても叶わないような高度なモノを。……絶命奥義ほか世界観のせい?だよねー……。
そんな感じで、勝手に一喜一憂しながら暫く警戒し続ける私と、私の警戒の理由がよくわかってない周囲。
……なんて微妙な状態が続くことになるのだけど、その停滞を振り払ったのもまた、当事者たる黒子さんだったわけで。
「今回の『宮本剣豪七番勝負』、初めの一戦はこちらとなります」
「……はい?」
ささっ、と背後で動く他の黒子達……いやなんだ今の?と、彼等が去った後にそこに置かれたもの。
……審判役の黒子さんがせっせっと準備をして、整えられたそれの前に、クラウドさんと覇王丸さんが仲良く正座して並ぶ。その手には──コントローラー。
……いや、なんでブラウン管テレビ、なんでゲーム機、なんでスマブラ!?
おかしいおかしい、全体的にツッコミどころしかない!!
和室の真ん中にドンとテレビを置いて、その手前に金髪のイケメンと、見るからに侍な日本人が仲良く肩を並べて、和やか……あ、言うほど和やかじゃねぇや。
……えっと、とにかくわちゃわちゃしながらスマブラしてるんだけど!ちょっとよくわかんなくて付いてけねぇや!
「ちなみに残機制、三回落とせば勝ちです。あまりガチにするとアレなので、終点化は無し」*14
「それを聞いた私は、どういう反応を返せばいいんですかねぇ……?」
審判役の黒子さんから告げられた台詞に、思わず渋い顔になる私。
……クラウドさんがゲーム内でクラウドを使って戦ってる、とかいう不思議状況を、私は一体どういう気持ちで見るのが正解なんです?
何故かは知らないけれど、相手の覇王丸さんはセフィロス使ってるし。……あえて言うなら刀使い繋がり、か?
半ば唖然とする私達の前で、ゲーム内では操作キャラの方のクラウドが、『超究武神覇斬ver.5』でセフィロスを叩き落として……あ、勝った。
勝ちました、勝訴!勝訴です!
「そこまで!一番勝負、そるじゃあ流くらうど・すとらいふの勝ち!」
「ふ、興味ないね」
「ちっくしょおぉぉ!」
黒子さんの勝利宣言と共に、二人のプレイヤーは対照的な態度を取る。……あ、そこはなんというか、試合終了ポーズ的な事するのね二人とも。
いやでも、いきなり立ち上がって剣をくるくる回すのはびっくりするのでやめ……剣をくるくるする繋がりかこの二人?*15
……いや、さっきから思考が大分寄り道している感がある。
正直頭痛くなってきたから、ちょっと気を飛ばしてもいいかな?ダメ?マシュ居ないから?そんなぁ。
「確かにスマブラじゃん、ってツッコミ入れたの私だけどさぁ!?だからって本気でぶつかり合うのどうかと思うよっ!?」
「きゃああああっ!?」
初手の覇王丸から始まり、バガボンドだったりGUN道だったりBASARAだったりYAIBAだったり百花繚乱してたりした宮本武蔵達。
その悉くが、剣の戦いではなく何かしらのゲーム──将棋に囲碁みたいなボードゲームや、さっきのスマブラみたいなビデオゲームなどの、血反吐を吐くことの……いや、人によっては吐くか。月夜ばかりと思うなよとばかりに恨むか。……いや、そりゃ一部だよ一部。
と、とにかく。
無為に殴りあいやら切りあいやらになることのない、平和的な競争手段ばかりだったのだけれど。
……最後の最後でやってくれやがりましたよ、ええ。
「モチーフキャラ!かつ遊び!確かに間違っちゃいねぇ!間違っちゃいねぇがな……!まさかのニサシ殿*16からとは思わねぇでしょうがー!!」
「な、なによボクが悪いって言うのっ!?……いやその、『剣豪』云々なのにボクが最後なのは、ちょっとなんというか気後れとかしなくもないけど!」
「はっはっはっ。決闘者の方々は楽々戦闘できて羨ましいですねぇ」
「黒子さーんっ!?そんな気楽な話かなこれー!?」
最終戦、まさかのツァン・ディレ。*17……何故にデュエル?
いや、さっきまでのゲーム繋がりで言うんなら、カードゲームだから間違いでもなんでもないんだけどさ。
……なんか変な気でも貯まってたのか、シエン*18が突然BASARAなノッブ*19と化し、
咄嗟にクラウドさんが銃弾を弾いてくれなきゃ、最悪眉間に穴空いてましたよね今の?!
「仏の顔を三度までという名セリフをしらぬぃ相手に、私は深い悲しみに包まれた……」
「天子ちゃーんっ!?頑張って?!負けないでもう少し!」
「最後まで?」
「走り抜け……ちゃダメ!そこで踏ん張って!!」
「人使いが荒すぎる、ちょとsYレならんしょこれは……」
全てのノッブの集合体、とでも言わんばかりに無茶苦茶やってくるBASARAなノッブ。
こちらとしては黄金の鉄の塊である天子ちゃんの後ろから、相手をこっそり窺うことくらいしかできぬ……。
必然、攻撃はクラウドさん、防御は天子ちゃんに任せる形になる。
足手まといな私とはるかさんとディレちゃんは、その背後で邪魔にならないように縮こまるばかり。……黒子さん?あの人わりとチートなので……。
というか、あのノッブなりきりでもなんでもない、単なるカードのはずなのに、なんでこんな無茶苦茶な事に……あ。
「あっ、ってなにぃ?!はやくせつめいしテ!!」
「いやこれ、
「なるほど、夢現であれば無理も道理となると。それはなんとも不味いですねぇ」
「ど、どーいうことですかぁー!?」
はるかさんの叫びに、なんとなく理由を察した私は説明を始める。
……カードと言う域に留めておいたシエン……もといノッブが、本来の姿を取り戻していく。
人々のフリー素材であるという祈りを束ねて、人を超えた魔王に近い存在へと変わっていく。
天と地と万物を紡ぎ、相補性の巨大なうねりの中で、自らをエネルギーの疑縮体に変身させているんだわ。
──純粋に人の願いを叶える ただそれだけのために……!*21
「つまりどういうことよぉっ!?」
「デュエルモンスターズなんていう厄物と、迷い家という異様な場、そしてそこに漂っていた人々の想念。それらを束ねて──ノッブはノッブを越えようとしているんだよっ!!」
「キーアさんが何を言っているのか、1ミリも理解できないのですがー!?」
気にするな、ぐだぐだしている時の方が大概ヤバいんだ!
突然のレイド戦の様相を呈して来た『宮本剣豪七番勝負』。
迫るノッブ、迫る世界崩壊のタイムリミット。
私達は、果たして世界を救えるのか──っ!?
「話が大きくなりすぎよぉっ!?」
「こんなこと報告書にどう纏めろって言うんですかーっ!?」
「はっはっはっ。まだまだ余裕がありそうですねぇ」
……ダメかも知んない!