なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
はてさて、長い闘争の末に、ようやく自分達がすべきことを思い出した私たちなわけですが。
……そういえば、ここにあさひさんが居るというのは、よくよく考えたらおかしいのでは?……ということを、改めて意識することになってしまったのでした。
「?そりゃまた、なんでっすか?」
「前提が覆りそうだからですよ……一つ聞きますけど、あさひさんはうちの玄関を跨ぎましたか?」
「んー?いや、私はこの雪山に遊びに来ただけっすね」
「わぁい一部屋のキャパ越えてるぅー!!?」
そう、それはあさひさんの侵入経路。
……この人、一体どこからやって来たんだ?
そう問い掛ければ、彼女はしれっとこの空間内を越えてきた、とかいうとんでもないことを言い始めるのだった。……わぁいこの部屋だけの話で済んでねー!!
「……あー、なるほど。外から入ってきたわけではない以上、その侵入経路というものは限られてくる。この場合でいうと、二つ以上の別々の世界を跨いでいる、という可能性が生まれてくるから……」
「拡張空間が一つの部屋に紐付けられたもので終わっていない、という風にも解釈できてしまうというわけだよ!」
そう、さっきは一つの部屋の範囲を逸脱していない、なので問題はない……という風に結論付けていたけれど。
こうして改めて考えてみると、どう見ても二つの拡張空間が一つに結び付いてしまっている、という風にしか思えなくなるというか。
……一度大丈夫って言ったのにも関わらず、全然大丈夫じゃなかったと言い直す羽目になってしまうといいますか。
「あっ、そこは大丈夫っす。私は自前で空間跳躍持ってるっすから」
「はぁ、なるほど?なら良かっ……
そんな風に現状の問題点を憂慮し始めた矢先、あさひさんから飛んできたのはなんだか意味の分からない言葉。……ええと、自前で空間跳躍能力を持っていらっしゃる?
「詳しく……説明して下さい。今、私は冷静さを欠こうとしています」
「おお、ちゃんとした用法」
「茶化さないでくれるかなぁ!?」
そんな話、どこからも聞いた覚えがないんだけどなぁ!?確かミラボレアスって、単純にステータスがバカ高いタイプ──いわゆるORTとかと同型の化け物、みたいなもんだと思ってたんだけどなぁ!?*1
なんて風に騒ぎ立てる私に、彼女が渡してきたのは関連書籍や証拠映像。
「……これ演出とかじゃなくて本気でやってたの!?」
「その可能性が高い、みたいな感じになってるっすねー」
まるで日食から現れたかのような、その演出。*2
……よもやそれが実際にできることである、みたいなことを言われた私は、思わず宇宙猫状態に陥ってしまうのでありました。
はてさて、なんかミラボレアス種が思ったよりもワケわかんない奴っぽいことが判明したわけですが、それでも私たちのすることが変わるということはなく。
「……そういうわけで、次元を越えてやって来たわれらのミラトラマンです」
「じゅわっす」*3
「は、はぁ……?」
二つの部屋の掃除を終えたんだから、一回休憩してもええやろ!……とばかりに、台所に撤退してきた私たちなのでありました。
いやまぁ、時間帯的にそろそろお昼だなー、と思ったってところもあるんだけどね?帰ってきたのは。
ともあれ、突然の闖入者にマシュ達は暫し目をパチパチと瞬かせていたが、まぁいつものことか、と勝手に納得してあさひさんの分のお昼ご飯も用意し始めたのだった。
……うーん、スルースキルが磨かれている……。
「まぁ、とりあえず座ってくださいな。この後の予定も話さなきゃいけないだろうし」
「このあと?まだ掃除が残ってるんじゃないのか?」
「君らはともかく、他の面々は普通に掃除くらいできてるはずだからね、ちょっと確認したらそれで終わると思うよ」
途中、ハクさんが首を傾げていたが……こちらの手伝いに入っていたイッスン君などがいい例で、一部の片付け音痴を除けば、私たちがあれこれやってるうちに掃除は終わっていておかしくないのである。
なので、掃除に関してはほぼ終わった、と認識してもおかしくはない、という話になるのです。
……というようなことを説明したところ、彼女はそういうものなのか?とばかりに再度首を傾げていたのだった。いや、自分を基準にするのは止めようね?
ともかく、恐らく掃除に関してはこれで終わりなので、あとするべきことは年を越すためにある程度の心構えをする、くらいでいいはず。
なので、その辺りの対処のために、幾らか時間を取ろうという話になるのでありました。
「年越しのための心構え、とは?」
「んー、色々あるけどー……一つは暴徒達への対策かな」
「暴徒とは……穏やかではないな」
「あー、酒飲み達の暴走、って言い換えてもいいよ?」
「なるほど、それは穏やかではないな!」
わぁ、同じ言葉なのに言い方が全然違うや。
思わず苦笑するが、それも仕方のない話。だって一瞬発生したシリアスムードが、次の瞬間完全に凪いだからね。
でもまぁ、それも仕方のないこと。
だって年末である。酒飲み達がはっちゃけるのは必須である……いや違った必至である。
おめでたい時、嬉しい時。様々な場面で彼らは杯を交わし、飲んだくれて前後不覚になる。
それは彼らが酔っぱらいたいがために呑むからであり、呑みたいから呑むためであり……まぁ要するに酒を禁止にでもしない限り奴らはやってくる、ということである。
……え、私?私はまぁ、酒は呑むけど呑まれないタイプなので……。
「見事な棚上げだと感心するわ」
「ややや喧しい!いいでしょ別に、呑みたいから呑むのよ私たちは!」
「まぁその辺りはどうでもよいが……とりあえず、年末はめでたいからと酒を呑むものが多くなり、必然酔っぱらう者も多い……ということでよいのか?」
「まぁ、そうなるね。……いやまぁ、酷くなってくるのは年を越してからなんだけど、年の明ける前に騒ぐ奴がいない、ってわけでもなくてね?」
そんな私の自己弁護に、周囲からは次々とヤジが飛んでくるが……うるさいやい、呑まなきゃやってらんないことだってあるんだい!……と、徹底抗議の構えの私であった。
ともあれ、年末年始に掛けて酒を飲み過ぎて無茶をする人が多い、というのは事実。
郷の中で起きた話ではないので恐縮だが、世の中には酒を呑んで酔っぱらい、次の日目が覚めたら足がなくなっていた……みたいな話もあるのである。
それを命がなくなってないだけマシと見るか、はたまた酒を呑んだがために失くしたモノがあったと見るかはその人次第だが、ともかく酒が重大な失敗を引き起こす可能性があるもの、ということは紛れもない事実。
ゆえに、他の面々の掃除の進捗を確認したあとは、暫し郷内のパトロールに向かおう、という話になるのであった。
「……などと殊勝なことを言っておったが、結局主も呑みたいだけではないかこのドランカー!!」
「なにを言うのですハクさん。郷に入っては郷に従え、酒飲みと会話を交わすのなら、ちゃーんとその流儀に沿わないと。……あ、そのゲソもーらい」
モブ顔なおっちゃん達に混じりながら、カップに入った安酒をかっ食らうこの快感!
これぞ年末年始だよね、と上機嫌な私に、付いてきたうちの一人であるハクさんが、微妙な顔をしてツッコミを入れてくる。
……とはいえ、酒飲みっていうのは基本自己弁護力が高い傾向にあるので、それこそ暖簾に腕押し程度の効果しかないのですが。
ともあれ、情報収集って面ではちゃんと仕事してるから、と言い置いて、おっちゃん達が炙っていたゲソを掠めとる私なのであった。
……え?それは俺が大切に育ててたやつ?酒飲みにルールは無用だろうがい。
無茶苦茶言っておらんかこいつ、みたいなハクさんの視線をスルーしつつ、再び酒をちびちび呑んでいく私である。
さて、今私たちがどこに居るのかというと。
ここはなりきり郷の中でも一番現実に近い場所、戦闘能力とか一切ないほぼ一般人に近い人達が住んでいる区画である。
で、周囲の人々は、そういう戦闘とか全く関係ないような作品に登場する人達。……いつぞやかのゆかりんはじめてのおやすみ、の時に周囲を囲んでいたような、『なにかしらの作品に出てはいるものの、特に重要というわけではなくほぼ背景みたいなもの』のなりきりの人達、というやつになるらしい。
「まぁ、吉良の同僚みたいな濃ゆーい人も居るみたいだけど」
「あれは濃ゆすぎると思うっすよー」
まぁ、モブはモブでもある程度目に付いた人達、という方が正しいみたいだが。
で、ここにいるのは『特定の場所で酒を飲みに集まっているおっさん』系のなりきり、ということになるようで。
そんな人達の輪に首を突っ込んで、情報収集も兼ねてお酒を呑んでいる、というわけなのでした。
だからあれだ、好き好んでがばがばお酒を呑んでいるわけじゃない、ということは一応主張しておきたい私なのです。
「嘘付け!絶対呑みたくて呑んでる奴でしょうが!」
「それは勿論。お酒はお酒、それはどんな状況でも変わらないのだから、感謝を込めてありがたく頂くのが酒飲みの礼儀というやつですよ酒うめー!!」
「取り繕うんなら最後まで取り繕えー!!」
なお、最後の同行者であるクリスには、大層怒られることになりましたがこれで懲りるくらいならそもそも酒なんぞ呑みません、まる。