なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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呑んでも呑まれない、そういう気持ちで呑む

「で、さっきの場所で貰ってきた情報なんだけど……って、なにその顔」

「え?いやだって、他の人と一緒になって、酒呑んで騒いでただけじゃなかったのあれ?」

「なにを言いますやら。男の宴会は女の井戸端会議みたいなもんなんだぜ?」

 

 

 主に情報交換の場、的な意味で。

 

 ともあれ、周りと一緒になって酒を呑みながら集めた話を、みんなに共有するために口を開いた私なわけだけど。

 何故か、クリスとかがこちらを信じられないものを見るような目で見つめてきていたのでした。……いや心外だわ、真面目に仕事してたのにー(棒)

 まぁ、所詮は酒の席での話なので、信憑性とかはうっちゃってるのは仕方ない……と予め了承しておいて貰う必要はあるのだけれど。

 

 

「はぁ、なるほど?単なる世迷い言の可能性もあるってこと?」

「無論、あらゆる虚飾を剥ぎ取った真実の話……って可能性も高いわけだけどね。酒の席では秘密もよく漏れる、とは誰もが知る通りの話なわけだし」

 

 

 私から言えることは、まったく情報のない環境下においては、意外とバカにできたものでもない情報源になるということ。

 ……特に、今みたいな『起こることは確実だけど、それに関する情報が一切足りてない』みたいな時には。

 

 まぁ、今さら信憑性云々の話をしても仕方ないので、結論だけ先に言わさせて貰うと。

 

 

「色んなところで酒を呑んでいる人がいる……っていうのは、少なくとも間違いない話みたいだね」

「つまり、各所に問題の種火となるものが転がっている、と?」

「そうだねぇ。楽しく呑んでいるうちはいいけど、これに周囲から情報が与えられた途端、火の付いたネズミ花火みたいなことになる……っていうのは、わりと簡単に想像できる未来だねぇ」

 

 

 他所から色んなところをはしごしてここに来た、というおじさんの話が嘘でなければ、さっきの集会みたいな路上呑みがそこらに転がっている……ということになる。

 店で呑んでいない人の面倒な点は、騒ぎ出した時に周囲に止めてくれる人間がいない点。

 寧ろ、燃え広がる炎に油を注ぐかのように。

 周りもまた酒飲み達で囲まれていることによって、更に前後不覚になるまで酒を呑め……などと言われるだろうことは、容易に想像できてしまう。

 そうなればどうなるか、というと。……まぁ要するに暴徒化、ということになるわけである。

 

 

「酔っぱらいに道理は通じないからねぇ。ついでに言うなら、酔いが色々な枷を外す、ということも十分に考えられるわけで……」

 

 

 世間では酔っぱらいの起こした事件や、そこに纏わる結末をよく『当然の報いだ』とか『酔っぱらって気が大きくなる人はどうせその程度の人』、みたいなことを言われたりするが。

 酒を呑んで豹変することを、私は別に軽蔑はしない。

 だって、誰もがなにかを抱えている。抱えて、それを秘め続けている。

 酒は、そういうものを一時剥ぎ取ってしまうもの。倫理や常識を、危うくしてしまうもの。

 どの程度の量で酔うのかとか、はたまたどんな酒類が体に合わないのかとか、それらはその人に落ち度があるものではなく。

 

 ゆえに、前後不覚になるほど酔ってしまった、ということがすなわち悪か?と問われると否と返すしかないのである。

 それらは結局、人によって反応は違うと言い置くしかないがゆえに。

 

 酔っぱらっても周囲に迷惑を掛けない人がいる、という反論も、結局はその人が他者にぶつけるようななにかを秘めていなかっただけ、ということであり。

 ゆえに、酒飲みに罪はないのである。ノットギルティ。

 

 

「……難しい話をして煙に巻こうとしているけれど、要するに酒飲んで酔っぱらって失敗しても責めないでね、って言おうとしてない?」

「…………いいかいクリス、酒に呑まれないというのは、すなわち別に心の強さがどうこうの話ではないんだ。酒に依存性がある以上、それはある種の『認められた麻薬』みたいなものであることを端的に示すものであり、ゆえにそれに対して強いだの弱いだの論じるのは本来話がずれていて……」

「ずれてるのはー、お前の頭だ!!」

「地味に痛いっ!!?」

 

 

 ……そんな感じに、世の中の酒飲み達の地位向上を目指した私でしたが、しらーっとした目をしたクリスのハリセンにより、その話は強制的に中断させられることとなるのでした。ちぇー。

 

 

 

 

 

 

「でもだねクリス、これだけは言わせて欲しい。酒を呑んで気が大きくなる人は、なにかしら世界に不満を持っている人だということ。それを無視して酒だけ禁止したり相手を非難したりしても、その人の更正には欠片も繋がらないんだってことを……」

「まだ言うのかこの酒屑魔王は……!」

「でもまぁ、分からぬ話ではないのぅ」

「ちょっと、ハクさんまでなに言ってるの?!」

 

 

 でも、一度中断させられた程度では諦めないキーアさんである。

 だってこれ、これから誰がなにを起こすのか、のプロファイリングの途中みたいなもんだからね!

 

 ……ってなわけで、改めて現状を確認。

 今の時期は年末で、色んなところで路上呑みしている人がいる状態。

 彼らは今のところ無害な存在だが、なにか切っ掛けがあれば騒ぎ始める可能性は大いにある。

 

 じゃあなんで、彼らが騒ぎ始める可能性があるのかというと……極論、彼らが現状に不満があるから、というのが大きな理由となってくる。

 

 まず、大前提として──全ての()()()人というのは、フラットな精神状態では他者を積極的に害そう、などという思考を抱くことはあり得ない。

 これは別に性善説とかではなく、単純に『相手を殴れば殴られる』……すなわち他者に報復の正当性を与えるためである。

 自身が正しい、と意味もなく確信することはあり得ないため、()()()()()()()()()()()()()()、徐に他者を殴ったりすることはあり得ないわけだ。

 

 これは、例えば酒を呑んで暴力を奮うようなタイプの人間であっても、実は当てはまっている。

 彼らの中での正当性、という基準があるがゆえに分かりにくいが、実際は彼らも意味もなく相手を殴っているわけではないのである。

 では何故、彼らは他者を攻撃してしまうのか?……それは、酩酊状態における倫理のブレーキの停止、というところに理由がある。

 

 

「酔っぱらうと思考能力が落ちるでしょ?そうなると、普段は理性とか倫理で『ダメだ』って抑えていることが、『なんでダメなのか』わからなくなるのよ」

 

 

 普通、世間の人々は様々なストレスに晒されている。

 上司との軋轢・自身の給料とその使い道・他者との関係・世間の物価の上昇や、恋人とのコミュニケーションの成否──。

 人々の周りには、色んな『心を動かす』物事が転がっている。ストレスというのは、世間一般に悪いものだと思われているが──本来、ストレスと言うのは周囲から受けた刺激による緊張状態を示すもの。言うなれば、ストレスに良いも悪いもないのである。

 

 つまり、人が好意を抱くような物事も、体にとってはストレスの一つになっていることがある、ということ。

 人は生きているだけで、思った以上に体に負担を強いているということになるわけだ。

 そして、その緊張状態を解す上で、一番効果的なのモノの一つが、なにを隠そうお酒なのである。

 

 緊張の反対は弛緩。

 つまり、酒を呑んで感覚が鈍っている状態というのは、すなわちあらゆるストレスから解放された状態、という風にも見なせるのだ。

 

 ……ところで、ストレスと言うのは良いも悪いもないと先ほど述べたわけだが。

 倫理や理性による縛りというのも、真実ストレスと──それも良いストレスだと言うことができるだろう。

 やってはいけないこと、やるべきではないことに対してのブレーキとなるそれらは、()()()()()()()()()()()という点を無視すれば、確かに人間社会を健全に運用するための『良い』ストレスだと見なすことができる。

 

 ……お察しの通り、世間一般的に良いからと言って、本人にとって良いかどうかはまた別の話。

 無論、法や規則で決められたことであるのならば、やるべきではないと認めてはいるはずだ。

 ……だが、それは本能の部分で納得できていることか、と言われると否、と言うことになる場合もある。

 

 

「こういう言い方をすると怒られそうだけど……それも結局は個性なんだよね。人が認めたがらない、個性って言葉の負の面だ」

 

 

 多様性を認めるのならば、どうしても他の個性と衝突してしまう個性がある、ということは認めなくてはなるまい。

 誰もが仲良く、相手を尊重して生きていく……なんて話は、それこそ夢物語。

 

 許せるもの、許せないもの。好むもの、好まないもの。

 そういった物事は一人一人違って当たり前であり、それが受け入れられないなんてことは、別に悪でもなんでもない。

 それが悪となるのは、自身のそれに他者を倣わそうとすることだ……という話は、元の部分から脱線しまくっているので今は脇に置くとして。

 

 ともかく、そういった他者との違いを矯正して生きている人というのは、それこそ数えきれないほどに世に溢れているわけで。

 それらがストレスの一種である以上、自由になりたいと思ってしまうのはそれこそ自然な反応なのである。

 

 だが、人はストレスを一切感じない環境というものを、容易に用意することができない。

 寒さや暑さ、眩しさや匂いなどなど、些細な環境変化もストレスの要因となりうる以上、それらを完全に遮断するにはそれこそ今のストレス環境を維持した方がマシ、というような労力を掛けさせれれる可能性が高いわけで。

 

 ──そうなってくると、お酒と言うもののコスパの良さが恐ろしくなってくる、というわけである。

 

 

「……話が二転三転してるけど、結局なにが言いたいの?」

「要するにだね、酒を呑んで豹変しない人の方が大抵おかしいってこと。このストレス社会において、ストレスから開放されるほぼ唯一の手段を用いておきながら、まったく変化がないというのはそれはそれで異様だってこと」

 

 

 クリスからのジト目を受け、一先ずの結論を投げる私。

 ……まぁ、これは些か言いすぎの部類に入るわけだが(というか、私も酔わない方だが)……ともあれ、酔わない人がそうでない人と酒の使い方が違うということは間違いなく、両者の溝もまた大きいだろう……というのは、これまた長くなりそうなので置いとくとして。

 

 ともかく、酒を呑んで酔っぱらい、ストレスから開放された人が変なことをすること自体は、別に責められるようなことではないということ。

 だってそれは、結局『世の中クソだな!』って言うだけの元気がない人が、それを言う切っ掛けを得ただけ、ということでしかないのだから。

 

 

「で、そういうことが言えるような精神状態だと、他の不満とかもどんどん飛び出してくるわけ。それこそ普段なら気にもしてないようなことでも、まるで蛇蝎の如く気になってくるってわけ」

 

 

 その結果、例えば『相手の行動が気に食わない』なんて思いが沸いてきたりして、それが攻撃衝動に繋がってくる……みたいな。

 そこまで語って、クリスの方を見てみると。

 

 

「…………」

「うわぁ、ごみを見るような目……」

 

 

 彼女の視線は絶対零度と化し、こちらを射ぬいていたのであった。

 ……この状況で言いたくないんだけど、もうちょっと続くんじゃ、次回に。

 

 

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