なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
さて、前回から引き続いて、酒飲みと暴力の必然的な関係性についての話だけど。
酒を呑んで気が大きくなるのは、普段感じているストレスからの開放によることが大きい、というのは先ほど話した通り。
それから、普通の人は他者に攻撃衝動を抱くこともない、というのも先ほど話した通り。
では何故、酒飲みの中に他者を攻撃する者がいるのか、というと……。
「倫理や理性で普段抑えすぎているから、ってところがポイントかな」
「抑えすぎている?冗談も休み休み言ったら?」
「……なんでそんなキレ気味なんですかクリスさん……?」
なんか知り合いにそういうタイプの人でも居たの?……みたいなキレ方をするクリスに、思わず戦々恐々とする私だが……ええと、これに関してはあくまで当事者意識を取り除いた上での見解、というところをまず理解して欲しい私である。
「と、言うと?」
「例えば、相手がなにかしらの犯罪を犯したことのある人だとして、そういう人が普通に暮らしていたとしても、周囲からの視線は意味合いが片寄ってしまう、ってこと」
例えば、かつて強盗をしたことがある人が居たとして、その人が家の補修にやって来た場合。
なにも知らない人からすれば、そこで得られる相手の情報とは、あくまでも『補修にやって来た人』という、最低限のモノである。
無論、見た目や行動・態度から見て取れる情報、というものも幾つかあるだろうが──それらは本質に至るようなもの、とは言い辛い。
それらの情報はどこまでも表面的なものであり、その人の経歴や内面を察するには足りないにもほどがある、と言えるだろう。
対し、相手の過去を知っている場合。
態度や行動を普通に見た時に、『仕事を真面目にやっている』という風に捉えられるはずのものが、過去の経歴を知るがゆえに全て反転する、ということになったりする。
どんな行動も、新しい犯罪を犯すための前準備なのでは?……というような疑いがついて回ってしまい、必要以上に神経を尖らせることになるのは間違いあるまい。
──ここで問題になるのは、その疑いは
例え昔事件を犯したことがある人間であっても、その場その時に
無論、一度犯罪を犯した人間が、その犯罪についての選択肢を解放した状態である、ということに間違いはない。
が、それは普通のことについても同じこと。
人はまっさらな状態で生まれ、そこから様々な選択肢を開拓していくもの。
そしてそれらの選択肢は、あくまでも
「つまり、他人から見る限り相手がそれをするかどうか、っていうのはどこまで行っても予測でしかないのよ。そして、予測でモノを語る限り、それは偏見以外の何物でもない」
「……まぁ、それはそうだけど」
こちらの言葉に、納得がいかなそうな声をあげるクリス。
……まぁ、悪人はいつでも悪人ではない、というだけの話なので、納得できないのも仕方ないところではあるのだが。
ともあれ、常日頃自身に見せている姿が、その人の全てである可能性というのはとても低い。
ゆえに、他人の評価をする際に、自身の視点のみを根拠にするのはとても危うい、ということになるわけである。
……とまぁ、ここまでは前提部分。
酒飲みと暴力の必然性について話を戻すと、本来の自分とのギャップに悩んでいるのはなにより
「は?」
「酒みたいな常習性のあるものは、それが入っていない時に慢性的な頭痛などの
「……あー、うん。わかるような……?」
まぁ、ゲームについては『他人と競うものの場合、決してストレス解消だけができるとは限らない』ということにもなるわけなのだけれど。
──そして、これは酒の問題についてのそれと、同類であるとも言える。
これらのモノは、本来解消するのに問題を持っているストレスを、代替して解消することができるものである。そして、その便利さに反して、どうしようもないデメリットを抱えているものでもある。
ゲームの場合、いつでも確実にストレスを解消できるわけではないこと。
酒の場合は、頼りすぎれば依存性によって逆にストレスを誘引するようになること。
そしてそれらは、そうして起きた
……言うなれば、ストレス解消のスパイラルに陥るのである。
そのあとはまぁ、想像の通り。
ストレス解消のために起きたストレスを、再びその解消手段で解消し続けるそれは、際限なく必要量を大きくし、また返ってくるストレスも膨れ上がっていく。
……根本的なことを言えば、それらの解消法はどこまでいっても代替品でしかないがゆえに、歯車を掛け違い続けてしまうのもまた仕方ない、ということになるのだろうが……。
まぁともかく。この話のキモは、最初のうちは些細なモノであったはずが、雪だるま式にストレスを巻き込んだ結果、最終的に身を滅ぼすほどのモノに成長してしまう……というところにある。
「例えば、最初のうちはちょっと怒鳴る程度で済んでいたものが、次第に相手を傷付けるようになり、最終的にその生死を左右するほどにまでエスカレートする……というのは、まぁよくある話。──それをダメだと咎める倫理も理性も溶けているのなら、それを選んでしまうのは寧ろ必然、というものなんだよ」
「……ご高説どうも。でも結局、悪いのは本人なんでしょ?」
「まぁねぇ。世の中の倫理や法がそう定められている以上、それらを罪とみなすのはなんらおかしくはないねぇ」
……まぁ、結論まで話したとしても、納得して貰えるかどうかはまた別問題なのだが。
ただ一つ、ここに付け加えることがあるとすれば──与えられたストレスは、大体その人を形作るモノとなるということ。
自身にまっすぐ向き合おうとするのなら、決して目を逸らしてはいけないものだ、ということである。
「暴力を振るわれた子が、また別の誰かに暴力を振るう……その連鎖は、大抵そのトラウマ・ストレスの根治を目指さなければ解消されない──すなわち、かつてそれを行ってきた誰かが、二度とそんなことをしないと証明できるような状況にならなければならない……ってのは、頭の片隅にでも覚えて欲しいものだね」
「……そう。で、ここまで語った結果、これから私達はどうするのが正解なの?そもそもこれ、これから酒飲み達がどう行動するか、を予測するための前振りでしょ?」
……で、ここまで語ってようやく本題に戻ってくるわけだけど。
酒飲み達が暴徒と化す際、どう動くのか?……という予測は、正直難しいと言わざるを得まい。
こんなことを言うとまたクリスに『はぁ?』と言われそうだが、先程から言っている通り、酒によるストレス解消の範囲というのは、とても広く遠大である。
些細な誰かとの食い違い、できるはずのことができない絶望、明日よりも先が見えぬ不安……。
ありとあらゆるストレスを、酩酊による幸福感と思考能力の低下によって解消するそれは、しかし短期的な解消──一時的な忘却による擬似的なものであり、ゆえにこそそのギャップによって再び酒を求めてしまう、というギャップをもたらすものである。
本来ストレスの解消とは、そのストレスの元となる原因を断ってこそ。……それをしないままにストレスを一時的にごまかすそれは、一度ゼロになったものが再び返ってくるという結果になるがゆえに、なにもしない時よりも強くストレスを感じる羽目になる。
……言うなれば、波のようなもの。
一度底にまで達したそれは、されど再び元の位置にまで跳ね返ってくる。
そのギャップは平坦な線のようなものよりなお、精神に与える負荷というものが大きくなってしまうわけで。
つまりなにが言いたいのかというと、酒飲み達がどれくらい不満を抱いているのか、というのは表面からでは絶対に読み取れない、ということ。
口ではぐちぐちと文句を垂れる人でも、実際に抱えているストレスは大したモノではないこともあれば、笑い上戸でずっと笑っているような人が、それでもなお心の裡では仄暗い憎しみを燃やし続けている可能性もあるわけで。
それらが見ただけでは理解できない以上、どこを重点的に見回るべきなのか、狙われるだろう場所はどこなのか?……というのは、全く以て正確なことをなにも言えない、ということになってしまうのである。
「……それ、遠回しに全部無駄だって言ってない?」
「なにを言いますやら。一点に絞れないんなら、それをどうにかする手段を私は持ち合わせているのですよ?」
「うわぁ!?いきなり増えるなぁ!?」
……まぁ、だったら『全部守ればいいじゃん!』という、スーパー脳筋戦法を取るだけ、なのですが。
無論、こんなことすると色々と負担があれなので、そこら辺を手伝って貰う要因としてクリス達を引っ張ってきた、というところも大きいんだけど。
そんなことを宣いながら、私はサクッと三分割されるのでありました。
……魂と肉体と精神だな、多分!