なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……なんだかどこかでわりと大事になってる気がするっすねー」
「そうなんですの?あさひさんは流石に勘がよろしいのね」
「……なんか調子狂うっすねー」
「?」
さてはて、他の
我がことながら、なんと騒々しいのでしょうか。
年の終わりなのですから、もう少し粛々として頂きたいものなのですが。
……と言うようなことを口にしたところ、目前のあさひさんから返ってくるのは困惑の感情。
私、なにか変なことでも言ってしまったのでしょうか……?などと心配するも、『あーいいっすいいっす、私のことは気にしないで欲しいっす』などと追及を避けられてしまうのでした。
……まぁ、今の私が常日頃の
「……それ、わかっててやってるんすか?」
「はい?」
「……もういいっす。私が振り回される側に回るとは思ってなかったっすから、ちょっと困惑してただけなんで気にしないで欲しいっす」
「まぁ、冗談がお上手ですこと。私、寧ろあさひさんには振り回される側だと思っているのですけれど?」
「止めて欲しいんっすけどあさひのキャラを保つの苦しくなるんで!!」
「あらあら」
ふぅむ、どうやらあさひさん、私に対して苦手意識があるご様子。
確かに、普段の
「…………」
「まぁ凄いお顔。ですが、別に適当なことを言っているわけではないのですよ?人とは誰しも様々な
何度か
喜んでいる時、怒っている時、哀しんでいる時、楽しんでいる時。
それらは全て、同じ人の別の顔であり、それらに一貫性がなかったとしても、実際はそうおかしいことではない。
そこでおかしいと思うべきなのは、寧ろ他人格間で気持ちや記憶の共有ができていない時。『あの時の自分はどうかしてた』という感想は、本来思って然るべき感情であって、そこに疑いを挟み込むべきではないのです。
「……ええと?」
「感情、という人の持つ機能を乗りこなせているかどうか?その深度を見る基準が、各感情間の連動……ということです。感情に振り回されて突拍子もない行動をしてしまうのは、ある意味単に初心者であることを示すだけのもの……とでも言いましょうか」
わかりやすいのは、子供の行動。
彼らはまだ、感情というものを扱い始めたばかりであり、それらの感情がその場その場における最適な行動をするためのツールである、ということに気が付いていない状態。
ゆえに、彼らは怒りに任せてモノを壊すし、嬉しくなって踊り始めたり、哀しくなって親にすがり付いたりしてしまう。
感情を反射反応にしてしまって、自身という人格を操作できなくなってしまっている……という風にも言えるかもしれません。
そういったものが無くなり、怒るべき場所で怒り、楽しむ場所で楽しみ……といった、過剰に感情に流されるような行動が無くなれば、自身の人格を掌握した……という風にも見なせるわけで。
それは、時に冷たい印象を受けるかも知れませんが──やるべきことを最良の状態で行えるようになっている、という点を見れば、確かに成長していると言えるでしょう。
反対に、感情に振り回された結果、特定の精神状態の時の記憶があやふやになっている……というような状態に陥ってしまった時、それは人が自分という人格の掌握に失敗した、ということ。
いわゆる多重人格は、それらの分離に核となるものを必要としますが……大抵、嫌なことから逃げるためのモノとして作られる、ということが多い。
それはすなわち、悲しかったり怒りたかったりする状況において、感情を支配することを放棄したというのと同じこと。
ゆえに、それを見たくない・感じたくないと切り離してしまい、結果として知識や記憶の共有がなされなくなる……。
無論、トラウマのようなものを前にして、冷静でいられるような人間というのはそう多くないでしょう。
しかし、本来この感情というペルソナは、それらの状況をストレスなく過ごすためのもの。
楽しむことも喜ぶことも、体に与える影響としては全てストレスの一種でしかないのだから、本来悲しいことや怒りたいことに対してだけ、忌避を抱く意味は薄いのです。
単に長く生きたいだけなのなら、感情の波など無い方が遥かに良いのですから。
「それを由とせず、向き合うことを選んだからこそ生まれたのが、この感情という機構。……ゆえに、どれか一つが欠けている、なんてことは普通はありえない。屈強な殿方の中にも、自覚していないだけで乙女のような思いは埋まっていますし、か弱き女性の中にも、逞しき勇者のような祈りは隠れていて然るべきなのです」*1
「……ええと、つまりなにが言いたいんっすか?」
「私も紛れもなく
「いやー!なんだそういうことなら早く言ってくださいよー!私達マブダチっす!マブダチ!」
「わぁ」
なんという素早い心変わり。……いえ、先ほどの言に従うのであれば、なんと華麗なペルソナの切り替え……とでも言うべきでしょうか?
感情、というものを得た人類は、どうしても避けては通れない状況に直面する、という機会を増やしてしまいました。
何故か?それは、人が言葉を持ち、思想を持ち、自身の中で育むようになったから。
単なる獣のように、ただ『産めよ増やせよ地に増えよ』*2と過ごすだけならば、感情というものを持つ必要は一切無かった。
それらは単なる摂理であり、ただ無為に過ごすだけでも達成できるもの。……効率や手段を問わなければ、幾らでも繋いでいけるものです。
そこに理由を求め、意義を求め、理屈を求めたのはなんのためか。……それは恐らく、どこまで行っても答えの出ないものなのでしょうが。
「悩むことこと人間の本義。……であれば、それもまた神の思し召し……ということなのでしょう、恐らくは」
「……いや、やっぱ慣れないっすよこのキャラ。どこに向いてるんすか?明日?明後日?」
「なにか、言いたいことが?」
「なんでもないっすよー!はははは!」
年の終わりのこの時に、私はただ祈りを捧ぐのです。
──どうか、皆人に救いあれ、と。
「……はっ!?私の黒歴史が暴走している予感がする……!?」
「今の状況は黒歴史じゃない、とでも言うつもりかおのれは」
「やん、クリスがぐれてる……」
「誰のせいだ誰のっ!」
「まぁまぁ、落ち着いてくださいお二方とも……」
突撃してきたマシュによって、星になった私がそのまま隕石の如く落下してきてから暫く。
何故かマシュに抱き寄せられていた私は、他の私達が無茶苦茶やってる予感を感じとり、思わず身震いしていたのでありました。
……え?今のこの状況は黒歴史じゃないのかって?……はははは。
「黒歴史を呼ぶんじゃない!」
「なに、エー君呼びたいんたら呼ぶけど?」
「そこまでしろとは言ってないカナー?!」
写真まで撮られてるので、どう考えてもあとから黒歴史認定間違いなしである。誰かタスケテ()
……まぁ私の状態は一先ず脇に置くとして。
酒飲み達がはっちゃけそう、みたいな注意は決して間違いではないとは思うのだが、私を三人に分けたのは早まったかなー、と今更ながらに後悔する私である。
なんでかって?フラットに三人に分けたのではなく、属性を考慮して分けたのでキリアの時より暴走度が上がってるから、かなー?
「……どういうこと?」
「キーアとキリアだと、陰陽的な感覚で善の中の悪・悪の中の善……みたいな感じに、各私の中にブレーキを仕込むことができるんだよね」
「こ、言葉の意味はわかりますが、少し困惑してしまう字面ですね……」
首を傾げるクリスに、大まかなことを説明していく私。
単純に善悪で分ける場合、その根拠とするのは太極図──陰中の陽、陽中の陰を自然と含むモノになるため、善悪に分かたれていると言いつつ、それらの行動にはある程度理性のブレーキが伴ってくる。
が、今の私の分け方は、善と悪と中立の三種。
……言うなれば、陰中の陽と陽中の陰を取り去って、それを合わせて中立にしているのが今の私。
つまり、私がブレーキ役なので、そんな私が居ない二人は文字通りの暴走特急なのである。
「……不味くない?」
「いやまぁ、流石に周囲の不利益を引き起こすようなことはしない、とは思うんだけど……何分私魔王ですので……」
ないとは思うのだが、しかしキーアは本来魔王──人の試練となることを望むタイプの魔王なので、その悪性部分と善性部分がそれぞれ勝手に行動し始めた時、どうなるかよくわからん……というのも確かなわけでして。
「……つまり?」
「最悪さっきみたいに、二人ともマシュに吹っ飛ばして貰わなきゃいけないかもしれない」
「なにやってんのアンタ!?」
「うるせー!あとから気付いたんだよー!!」
「お、落ち着いてください二人とも!現状ではまだ可能性の段階!可能性の段階ですの……で……」
「……マシュ、どうした……の……」
私の予想に対し、わーきゃー喚き始めたクリスと、それに呼応して同じように喚き始めた私。
あまりにも不毛な戦いに、待ったをかけようとしたマシュが、どこか遠くを見ながら静止し、それを不審に思った私たちもまた、彼女の視線の先を追って……。
「さぁ皆さん、世の中には主張しなければわからないこと、というのも多数存在します!今からそれを投げ付けに向かいましょう!」
「「「おーっ!!」」」
「ふん、安心して座っているがよい八雲紫。この場は真なる魔王である我が任された!」
「ねぇなに?!この状況は一体なに!?なんで私椅子にぐるぐる巻きにされて縛られてるの!?ねぇなんで!?!?」
「「「……やりやがったアイツら!!?」」」
そこにあったのは、多数の酒飲み達……だけでなく、多くの人を引き連れ聖女の如く先頭を進む私と。
それを迎え撃つ、ここで一番偉い人であるゆかりんを背後に、向かってくる人々を待ち受ける魔王な私の両者が、広場で向かい合い、今にも激突しようとしている光景なのであった。
───アカン(真顔)