なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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わかっていたけど後の祭り

「…………」

「そ、その、せんぱい?元気を出してください、ね?」

「チーズ蒸しパンになりたい……」*1

「せんぱい?わりと余裕なのかそうではないのか、微妙に判断に困ることを言うのは止めませんかせんぱい??」

 

 

 結局、二人をボコるのにやりたくもないことをさせられた私は、膝を抱えてベッドの上で横になっていたのであった。

 ……新年もすぐそこだと言うのに、なんともテンションの下がる話である。

 

 いやまぁ、あの二人も色々と考えてああいうことをした、というのはわかるのである。

 何分あれも私には違いないので、なにを心配してなにを不安に思っていたのか、というのは手に取るように理解できるのだ。

 それなのに私がイラッとしているのは、偏に回避できない状況に引っ張り込んで無理矢理やらせやがった、その所業にである。

 

 

「……怒るに怒れねぇからふて寝するしかないのがね……」

「結局、あれってなんだったわけ?貴女、分裂したんでしょ?」

「……あー、うん。一つ言えることがあるとすれば……できないとかそういうのは、全部建前ってことかな」

「はぁ?」

 

 

 ことここに至っては、黙っているのも無理がある。

 なので、素直に話すことにするが……そもそも、今まであれこれ言ってきたことのほとんどは、基本的に周囲を納得させるための耳障りのよい嘘でしかない。

 ……クソザコナメクジである、ということは決して間違いではないが、それに関わるほとんどの事が嘘なのである。

 

 

「嘘、というと?」

「できない、っていうのは基本的に言い訳だってこと。私はいつだって常に最善で最悪。……変化はないから、どの姿でもできることに変わりはないってこと」*2

「え?でもそれでは……」

「そういう倫理や理屈を捏ねてたってだけ。……まぁ、そうやってルールを定めとかないと、私なんて存在はすぐに消えてしまうから、ってところもなくもないんだけど」

「消える……?」

 

 

 いつぞやかに言ったように。

 私、キルフィッシュ・アーティレイヤーという存在は、所詮はキリアという存在から派生した、あまりにもあやふやなもの。

 核となりうる逸話を持たない私は、そもそもただ存在するだけで彼女に置換されていく存在でしかない。

 

 

「その話は、解決したはずでは……?」

「帰ってこないでしょ、キリア。……多分だけど、この世界に関しては私に任せる、って気持ちになったんじゃないかな」

 

 

 思えば、何時まで経っても戻ってこない彼女の姿に、私の不安は日毎に増していっていたのだ。

 ──年を越した時には、もう()という存在は消えてなくなっているのではないか、と。

 

 とはいえ、それは私がキーアという存在になってしまった以上、いつかは来る確実な未来であり。それを避けることはできない以上、それを見て見ぬフリをするのは、問題を先送りする現実逃避以外の何物でもない……というのも確かな話だったのだが。

 だからこそ、あの二人はあの場であんな無茶をしたのだろうし。

 

 

「……いえ、待ってくださいせんぱい」

「待たない。……もうこの際だから告白するけど、貴女のせんぱいはもう居ないの。だって私は、ただ生きている()()をしているだけで、ずっと削れていっているのだから」

 

 

 キリアやキーアが抱える【星の欠片】とは、あまねく全てより小さく細かく弱いものである。

 ……とはいえ、それには深度があり、理屈の上での上下がある。

 私達のそれ──【虚無】と呼ばれるそれは、善悪も無限も刹那も、ただそれ一つで表すことのできる最小。

 そこに付随する性質は、自身に対しての何もかもを()()()()()()()に導くこと、である。

 

 それは、自身への影響を、全て『死』という結末に導くこと。

 あまねくなにもかもを、一番大きな結末によって飲み込むことにある。

 

 

「死で死を洗い、死で死を否定する。不死身なのではなく、絶死。なにをされても絶対に死んでしまうがゆえに、全ての影響をまるで亡きもののように扱う異常現象。──【永獄致死(インフィニット・オーバーフロー)】って私は呼ぶけど、それが【虚無】を扱う上で必ず向き合わなければならない業。──()(キーア)になった時点で、もう生きてはいないんだよ、マシュ」*3

 

 

 そんな人間が……いや、人間ですらないものが。

 どうして、誰かの愛を受けることができようか。

 そう告げた私に、マシュは小さく首を振って。

 

 

「──嘘です」

「嘘じゃないよ。私のやってることは全て真似事、だって言ったでしょう?それから、実際にキリアがここへとやって来たこと。……それらは私が【虚無】によって形作られていることを明確に示している。……なら、私はもはや思考しているフリをしているだけの、単なる死体だ」

 

 

 人の思考は他者からは観測できず、ゆえに他人が本当に自意識を持つ存在なのかどうか、ということは証明できないという。

 それに倣うならば、今の私は間違いなく哲学的ゾンビ、というものに区分されることとなるだろう。……唯一の違いは、それが自分自身の人格に対しての疑問である、ということだろうか?

 

 

「すごく大雑把に言えば、今の私はパラパラ漫画みたいなもの。……『す』『ご』『く』みたいに、そうして喋っている状況で死んだ、という私の写真を、上から何枚も何枚も貼り付けているようなもの。だからこそ、どんな相手のどんな凄い攻撃も、容易く受け流すことができる。──だって、攻撃というものの目指す先は、相手を殺すこと。望まなくても死ぬのだから、これ以上ないほどの防御手段でしょ?」

「──止めてくださいっ!!嘘です、せんぱいは生きています!生きて、ここに……っ!」

「それも、心臓が膨らんだ時の死に様と、心臓が萎んだ時の死に様を交互に張り付けてるだけ。【虚無】の本質がそういうものである以上、私が生きているはずはないんだ。……そんな当たり前のことから、目を逸らしていた私を、あの二人はバカだと罵ってたんだよ。──そんなことをしても、誰も幸せになんかならないのに、って」

 

 

 いつかはバレる嘘を、ずぅっとつき続けるつもりなのか?

 ……あの二人が言いたかったことはそれで、結局周りの暴動だなんだのの話は、単なるきっかけ作りに過ぎなかった。

 お前はいつまで、不誠実なままでいるのか?……と。

 受けるつもりがないのだから、すっぱりと切り捨てろと。

 

 私は、悲鳴をあげるように泣きじゃくるマシュを見つめながら、胸の奥にずしりとのし掛かる重さに、小さく呻き。

 ──それさえも、本当の感情ではないのだと、一つため息を吐くのであった。

 

 

 

 

 

 

「……あー、疑問が幾つかあるんだけど、聞いてもいい?」

「いいけど?もうここまでぶっちゃけたんだから、なにを聞かれても一緒だし」

 

 

 どうせ、このあとやることは決まっているし。

 啜り泣くマシュを背に、声をあげたクリスの方に向き直る私。

 視線を向けた彼女は、なんとも言い難い表情で、言葉を吟味するように虚空に視線を向けたあと。

 

 

「ええと、とりあえず一つ。貴女の言う【星の欠片】っていうのは、貴女の考えたものってことでよかったのよね?」

「実際に存在してた辺り、並行世界とかの記憶を覗き見た、とかだとは思うけど……この世界にその概念を持ち込んだのは私、ってのは間違いないと思うよ?」

「なるほどなるほど。それから二つ目、貴女が今までやって来たことは【虚無】による模倣で、【虚無】とはすなわちなにもかもがなくなっていることを指す言葉。……この場合だと、あらゆる影響が打ち消しあい、『死』という結果に帰結する……と」

「まぁ、うん。私に対しての事象の全てを、私の死という結果で上書きし続けるものだから。……私の死という結果さえも私の死で上書きし続けるから、永遠に結末にたどり着くことがない──ブラックホールに落ちていく人が、いつまでもそこに落ちずに見え続けると言われるように、私はいつまでも生き続けているという風にも見える……みたいな感じかな」

 

 

 放たれたのは、幾つかの質問文。

 今まで聞いてきた断片的な情報から、ほぼほぼ正確な実像を見出だしたとおぼしき彼女は、淡々と事実確認を行っていく。

 ……そう、今の私の姿は、一種の残響のようなもの。

 永遠に死に続けるということは、見方を変えれば()()()()()()()()ということ。

 それは詭弁を弄すれば『今なお生きている』という風にも見なせるわけで、私が現在こうして生者のフリをできている一番の理由、ということにもなってくる。

 

 

「なるほどなるほど。……で、【星の欠片】って言う区分に含まれる能力は幾つかあるけど、基本的に同名・同質のものが生まれることはなく、一人がそれを冠している以上はそれを目覚めることはできず、仮に目覚めたとしても【星の欠片】の基本原理的に、徐々に本来の持ち主に存在が置換されていく……と」

「そう。あの時はどうにかなった、みたいなことを言ってたけど……多分、お別れを言う時間をくれた、ってことだと思う。ここまで時間が経っても戻ってこない辺り、そのモラトリアムも終わりを告げ、いい加減(キリア)になれって遠回しに告げてるんだろうけど……」

 

 

 これもまぁ、以前から述べている通り。【星の欠片】は無限数であるが、同時にそれら全てが自分である、とするものでもある。

 一粒一粒が意思無き自身であり、それらは普段目覚めもせず単なる物質として過ごしている……。

 ゆえに、それを励起できる存在は目覚めている自分自身であり、たまたまそこにバグのような形で割り込んだ私も、そのうちその影響の中に溶けていくだけの、ちっぽけな存在でしかないのである。

 

 

「……なるほど、ね。じゃあそれを踏まえて、貴女の()()()を斬らせて貰うわね」

「…………いや、なに言ってるのクリス?勘違い?私が?」

 

 

 そんな一連の話を聞いて、一つ頷いたクリスは──私が間違っていると告げてくる。

 ……いや、なにを間違うというのか。私はこうしてキリアの名代として、【虚無】を扱うことを赦された存在。

 それはつまり、やがて彼女になる巡礼の旅のようなもので、

 

 

「決定的なことを言ってあげるわ。──帰って来てるわよ、キリアさん」

「え゛」

 

 

 途中に挟まったクリスの言葉に、思わず振り向いてしまう私。

 それは何故かと言えば、彼女が呆れたような表情で、私の後ろを見ていたため。

 そうして振り返った先には──、

 

 

「あ、あはははは……ええとその、ごめんなさいね?ちょっと自分の領地を視察しに行ってたら、その、キーアちゃんがそこまで思い詰めることになるだなんて……」

「……てめぇを殺して私も死ぬ!!」

「ひゃあ!?ちょっ、落ち着いて、ね?!」

 

 

 困ったような笑顔で、お土産らしきかみぶくろを持ったまま佇むキリアの姿がそこにあり。

 ……思わず襲い掛かったのは悪くない。私は悪くないんだ……っ!!

 

 

*1
『銀魂』の作者・空知英秋氏が作中で呟いた迷言。現実逃避なのか、はたまた単なる妄言なのか……のちに、キーホルダーという形ではあるが実際にチーズ蒸しパンになれたりもした(?)

*2
【星の欠片】の基本原理。最小物が集まって形をなす、という関係上、そもそもコンディションの差と言うものが本来存在しない。あえて言うのなら、動員数による総出力が違うだけである

*3
本末転倒の一。あまねく影響を嫌った存在が、どうにかして色んなものを無視できないか、と試した結果生まれたもの。自身に対して起きる全ての事象、その結果を『~だが最終的に私は死んだ』と書き換える現象。本来そんなことをしても単に一つ死体が増えるだけだが、無限数である【星の欠片】が行うことによってバグを引き起こしている。死んだ、という結果がいつまでも上書きされる為、本人はともかく周囲から見ている分には元気に生活しているように見える

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