なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「このままでは私の寿命がストレスでマッハなんだが!?はやくどうにかしテ!!」
「と言ってもこの状況じゃあ、どうしたもんか……っ」
吹き荒れる銃弾の嵐の中、こちらに飛んでくるモノを全て叩き落としている天子ちゃんは流石!……なんだけど、攻撃役であるクラウドさん・及び補助役の黒子さんの手数……というか火力が明らかに足りてない。
相手はなんだかよくわからない状況によって、徐々に神格化しつつある織田信長である。
こちらのようになりきりという枠ではなく、原作……
……ちょっと幾らなんでもぐだぐだしすぎなのでは?*1
……正直、出れるものなら私も前に出た方がいい……のだけど。
横に居るはるかさんにこちらの事がバレたら元も子もないので、出るに出られないのである。
彼女の視線がどこかに外れてくれてれば、まだどうにかなるのだけど。……今のこのてんやわんやな状況じゃあ、その辺りは期待薄だ。
(おや、こういう時こそボクのでb)
(却下、あの台詞じゃないけど却下)
(ふむ?……キーア、今すぐボクと契約を!)
(おいィ?なんでわざわざ言い直した?)
なんて風にちょっと考え事をしていたら、脳裏に響く少年のような声。
……さっきまで沈黙を保っていたキャタピー……もといCP(QB風味な呼び方)。
それが危機的状況において声を掛けてくる、とか。
……まんま本編のQBムーブなのは、一体どういうことなのか。
まさか狙ってたのか貴様?なんて風に思考が荒くなってしまったので、ちょっと深呼吸。……いかんいかん、勝手に黒幕扱いするのは流石に良くない。
(ははは冗談キツいなぁ。ボクは確かに【複合憑依】、ちょっと出力高めななりきり勢さ。……とはいえ一度も、そう一度もボクは
(……は?いや、は?)
なんて、自分を落ち着かせようとする中で、唐突に落とされた言葉。
え、いきなり何を言い出すのこの人……人?
いやいや待て待て、だって思考誘導とか隠れるとか教会とか出せてたし、魔法少女云々も夢と願いでどうとか……はっ!?
(そう、そういうことさ。ボクは【複合憑依】としては失敗作なんだ。キュゥべえとしてできることは、
(いやちょ、いやホント待って、それじゃあ私が貴方捕まえたの、完全に誤解からじゃない?!)
(そう、つまり君は当初の想定より罪深いんだよ……!!)
「▂▅▇█▓▒░('ω')░▒▓█▇▅▂うわぁぁああああっ!?」
「ふぇっ!?ななななにっ!?ボク何かしたっ!?」
「うるさい、気が散る!……いやとりあえず頭を出すのはやめろっテ!!」
思わず花京院*2ばりに叫び声を上げてしまったが……、いや、いや?!マジで?!デジマ!?
……やっちまったって奴じゃねぇか、勝手にシリアスぶって無茶やった阿呆じゃねぇか、うわ死にたくなってきた!!
(死ななくていいから。だからほら、今すぐボクと契約を!)
(……いやーもうなんかどうでもいいですわーこんなくずみたいなわたしにできることなんてなにもないですわーははは)
(……あ、まずった。ちょっと追い詰めすぎた)
(ふへへへへそうさいっつもからまわりしてんのわたしからまわりしすぎてくるみもわれねぇふへへへへ)
(おーい、もしもーし。正気に戻って欲しいんだけどなー)
(ふへへへへへへ)
(ダメだこりゃ。どうしたもんかなー)
ふふふふふ、私は貝になりたい*3……貝になって誰の目にも付かない場所で、静かに終わっていきたい……。
なんて事を真剣に思いながら、体育座りで項垂れていると。
「……いったぁっ!?」
突然、指先にはしった鋭い痛み。
見れば人差し指に小さな刺し傷と、そこから小さな玉のようになった血液の塊が。
え、なに一体?そんな事を思いながら、ふと視線を動かせば。
「……カブト、君が?」
「
腕をよじよじと上る、小さなカブトの姿が。あらやだ可愛い……じゃなくて。
どうやら、この傷はこの子にぷすっとやられたもののようだ。……落ち着け、ということだろうか?
「……そうだね、沈んでる場合じゃない、か」
状況はとても悪い。
……いやちょっと待った、なんかノッブの背後に無数のノッブの姿が見えるような……?
いかんこれ、数多なる世界から無限のノッブを召喚しようとしてる!?やっべぇ呆けてる場合じゃねぇ!?
気付けをしてくれたカブトに感謝しつつ、改めてCPに問い掛ける。
(誂えるだけ、と言ったけど具体的には?)
(魔法少女と言えば正体が何故かバレないもの。そこだけはバッチリだよ)
(……もう貴方キュゥべえ以外の別の何かなんじゃないの?でもまぁいいわ、結ぶわその契約!)*4
(そうこなくちゃ!あ、じゃあ適当な物陰にどうにかして転がり込んでね)
(いきなり無茶苦茶言うね君?!)
なお、別に魂を加工してうんたらとか、夢を食らってうんたらとかではないらしい。あくまでもそれらをしるべにして、彼自身が
……その時点で別物じゃんって感じで、また自分のやらかしに胃が痛みそうになるが我慢。
しかし、物陰、物陰ねぇ……?
どうやって動いたものか、そんな事を考える私の前で、
「くっ、しまった!」
「お気を付けを!そちらに向かいました!」
「ぬおォっ?!」
三人が逸らし損ねた弾丸が、はるかさんの方に飛んでいって。
──なるほど、ここしかない!
決断と同時に彼女を突き飛ばし、銃弾から逃してついでに物陰に転がり込む!
……いやちょっと待って、突き飛ばしたまではいいけど、なんでこの弾丸光って……あ
「きゃああああっ!!?」
「き、キーアさぁあぁぁんっ!!?」
「くっ、お前あんま調子ぶっこき過ぎてると、マジでかなぐり捨てンぞぉっ!!?」
「落ち着いて下さい天子さん、焦っては勝てるものも勝てなくなりますよ」
「だがなぁ!!」
事前に彼女が特級の存在である事を聞いている天子であるが、それでも気が気ではなかった。
仮にも盾役を任されたモノとして、自身の防御を越えて味方に被害を出されたとあっては、他の盾役に──特にマシュには申し訳が立たない。
もっとも、
それでも、彼女の代わりに盾を任された以上、それを完遂できなかったということは、彼女の心に少なくないダメージを与えていた。
そしてそれゆえに──対応に粗が出る。
「!しまっ、」
「凶斬りっ!……浅いか」
その場に縫い止める為の
目標たる魔王はこちらから離れた場所で不敵な笑みを浮かべ、虚空に手を翳す。
──瞬間、世界が
「……これはこれは、些か不味いことになってきたようです」
「おいィ?洒落にならないとか言ってられないんだが!?」
ここに顕現した姿が、BASARAの信長であったからなのか。
はたまた、この場の特殊さこそが
いずれにせよ。対峙する者達から、元々存在しなかった余裕と言うものが、更に奪われていくという事だけは確かだった。
──虚空より彼の魔王が取り出したるは、神の敵対者のみが保持を許されるという、
放たんとせしは、世界を滅ぼす黒の極光。
「一発で沈めてやるよ……覚悟はできたかぁ?」
──まずい。
反射的にそう思い、緋想の剣の力を使おうとして──一瞬躊躇う。
……そもそもの話、天子は純粋に天子になりきっているとは言い辛い。
ぶっきらぼうな騎士というフィルターを通して、辛うじてなりきりとして成立させているに過ぎないのだ。
こうして武器として使えている以上、曲がりなりにも『比那名居天子』として認められては居るのだろうが……はたして、それは
目の前の、あの極光と対峙し凌駕できる程に、己は認められているのだろうか?
とはいえ、それしか手がないのも事実。
あの規模の攻撃をどうにかするには、他でもない自分が相手の気質ごと
時間が、急に遅くなったような気がする。
周囲の音が次第に遠ざかっていく。
己と、相手の放つ輝きだけが、世界を埋める。
──そして、残酷な現実に気が付いてしまった。
相手の気質が萃められない。
相手の方が強く気質を掴んでいるから、こちらの対処が間に合わない。
このままでは、相手の技の発動を止められない。
このままでは──皆、纏めて
恐怖に目の前が真っ暗になる。
黒子のしっかりしろと言う声が遠くから聞こえる。
クラウドが最後の足掻きとばかりに信長に向かっていくのが見える。
───けれど、けれどけれどけれど。
間に合わない、打つ手が、ない。
ここに居る自分には、何もできない。
どうしようもない絶望に、もはやこれまでと意識を落とそうとして。
「──絶対、だいじょうぶだよ」
──剣を握る己の手に、重なる誰かの華奢な手を見た。
驚き、隣に向けた視線の先に居るのは。
先程己が守れなかった少女を、そのまま成長させたかのような姿を持つ美しき少女。
御伽の国から飛び出したかのような、可愛らしい服を身に纏った少女。
……そんな少女が、己の手に自身の手を重ね、淡く微笑んでいる。
吹けば消えてしまいそうな、儚い笑みにも思えるそれは。
けれどどうしてだか、
「もう、絶望する必要なんて、ない」
静かに語りかけるその声を聞いた時、緋想の剣が唸りを上げた。
──萃められる、どこまでも、どこからでも、誰からでも!
今の私達ならやれると、そう応えるかのような剣の威容に、傍らの少女が微笑みを強くして。
「私達の全ては、まだ始まってもいない。だから、本当の自分を始める為に──始めよう、最初で最後の───本気の勝負!!」
その閧の声と共に、剣は更なる唸りを上げた。
…………。
…………死にたい(数分ぶりn回目)。
(何を言ってるんだこれからが良いところじゃないかひゃっほう!)
CP君が未だかつてないレベルで絶好調だけど、対照的に私は未だかつてないくらいに絶不調です。
……何が悲しくて、魔法少女の格好して人前に出にゃならんのですか……っ!
一応カブト君を『みがわり』で私に化けさせてはるかさんの隣に置いてるから、ここに居る私はよく似た誰かだと思われてるとは思うけど!
CP君の言うことが間違ってなければ、そもそも認識阻害されてるから大丈夫なはずだけど!
それでも、それでもだっ!
この歳になって、魔法少女の格好で人前に出るはめになるだなんて、欠片も思ってなかったんですよ!
魔法少女らしい台詞とかなんも思い付かんから、先輩方の台詞をお借りするはめにもなってるしさぁ!?*5
(先輩方、ほほーう先輩方。なるほどなるほど、確り魔法少女としての自意識が芽生えているようで、何よりだよキーア)
(あああああああ、くっそこうなったら速攻で倒して速攻で退避じゃー!上等だやってやんよォォォッ!!)
(うーん、そこまで脳内で叫んでても、表面上は綺麗に微笑んでる辺り、キミ素質あるよー)
(うるせー!)
もはややけくそ、もはや玉砕覚悟である。
キーアん必殺パパパパァウァー!!*6
キーアはなんでもできると言ったな!?だったら私も天子ちゃんと一緒に気質を萃めるんだよぉ!!
二人の力を合わせて倍、いつもより大きな私で更に倍、魔法少女の力、お借りします!してその分更に倍!
おまけにテンションマックスいつもよりやる気多めの倍の倍で、
「──面白い、ならばその力ごとねじ伏せるまでえっ!!」
「やれるものなら──」
「やってみろっ!!」
「ワールド、」
「全人類の、」
「デストロイヤァァアァッ!!」
「緋想天!!!」
瞬間、世界は光に包まれて────。
「こ、こここここからどうなってしまうのでしょうか!?」
「ふふふ、ここから先は来週につづく、だよー」
「そんな殺生な!?」
「……うわぁぁああああっ!!?」
あれやこれやと色々あった出張から暫くして、英気を養うためにお風呂に向かおう、と部屋を出た途中。
……リビングで謎のアニメらしきモノを見るマシュと、彼女の前でうねうねと何事かを説明するキャタピーの姿を見掛けた私は、凄まじいまでの悪寒に襲われて、流れているアニメを注視していたのだけれど。
……なんやねん『マジカル聖裁キリアちゃん』って!!?
確かにあの時他の人にごまかすのに、そんな名前名乗ったけどさぁ!?
なんであの時の事がアニメになってんの?!どうして放送されてるの!!!?
肖像権は?!そもそも何にも聞いてないし、どっから制作費が!?
あああ、聞きたい事が山ほどあって、何にも口から出てこない!!
「『主よ』を意味する『
「どうだろうねぇ?その辺りは次回以降のお楽しみ、だろうねぇ」
「なるほど、それはワクワクものですね*8、せんぱ……せんぱい?どうなさいましたかせんぱい?!どうしましょうキャタピーさん、せんぱいのお顔が真っ青に!?」
「……私、もうなりきりやめるぅ……」
「せんぱぁぁあいっ!!?」
……しばらくなにもしたくない。
そんな気分でソファーに倒れ込む私なのでしたとさ。
なお、このアニメがはるかさんの目に入ったせいで、また一波乱あるのだけれど……それはまた別の話。
出雲のお話は幕間になりますので、四章はこれにておしまい!