なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「──ではマザリーニ卿、調査結果を」
「はっ。では失礼しまして……先王様と王妃殿の夫婦仲についてですが」
さて、日付は変わって次の日のお昼頃。
昼食などもしっかり食べて、活力を補充した私たちは改めて会議室に集い、集めた情報を共有しようとしていたのであった。
まぁ、外様である私たちが宮廷内で集められる情報などたかが知れているため、主にその辺りに明るいマザリーニ卿からの報告が主題となるわけだが。
このマザリーニ卿、国民達からは口さがなくあれこれと言われているものの、その実このトリステインという国を心から愛しているからこそ、こうして色々言われながらも宰相をしている……という人物だったりするわけで。*1
言うなれば、前王の詳細について一番詳しいのは何気に彼、ということになるのである。
で、そんな彼がもたらした報告というのが……。
「……夫婦仲は良好だった、と?」
「ええ。そもそもの話私が先王様にお仕えしたのは、偏にその人間性を買ってのこと。……妾すら作らず、王妃殿のみに愛を注ぐ様には、宰相としては一つ物申したいところもございましたが*2……一人の人間としては、嘘偽りなく敬愛していたと申しても過言ではないでしょう」
「……ふぅむ、なるほどラブラブだったと」*3
「らぶらぶ……?」
「ああ、気になさらぬようマザリーニ卿。遠き異国にて『夫婦仲が良い』ということを示す言葉、という程度のものでしかないですから」
「はぁ……?」
二人の仲は、極めて良好であった……というものであった。
言い換えれば、子供に注ぐ愛よりもパートナーへ注ぐ愛を多めに取っていた、とでも言うべきか。
この辺り、このハルケギニアでのアンリエッタの性格諸々が、原作のそれとはかけ離れてしまっていることも理由の一因、ということになるらしい。
どういうことかと言えば、要するに『手間の掛からない子供』過ぎたのである、ここでのアンリエッタは。
幼い頃から王たる器の片鱗を見せていた彼女は、原作のようなお転婆さもないまさに淑女。
……気味が悪い、とまでは行かなかったようだが、ふとした時に自身のことが後回しになっていても、それを咎めない……もとい、父には母を、母には父を優先して下さい……と言ってしまえるだけの自立心が既に芽生えており、そこについ甘えてしまっていた部分があったのだとか。
まぁ、それも仕方のない話。
複数のアルトリアを纏めて煮込んだような素質を持つこのアンリエッタ、スキルにしてみれば下手すると『A』以上のカリスマを持っていてもおかしくない。
……呪いじみた、などという形容詞が付くことのあるレベルまで高まっているのだから、一番長く近くに居る両親達が変な影響を受けていても仕方がないのだ。*4
とはいえ、マザリーニ卿が心酔するように、先王もまた王としての資質に溢れた人物であった、ということは間違いなく。
その辺りが色々と噛み合った結果、『この娘以外の子を為しても、ここまでの王の資質を持つことはあるまい』と世継ぎについては検討を打ち切ってしまった、という形になっていたようだ。
……げに恐ろしきは騎士王の威風、ということか。
とまぁ、このトリステインに王子が居なかった理由と、それから王妃が喪に伏せ続けていた理由もなんとなく理解はできた。
「え、今ので?」
「王と王妃の仲が想定よりも良かったことと、それからアンリエッタが王の資質に溢れていたこと。……この二つが分かっていれば、まぁなんとなく理解するくらいは……ね?」
驚いたような顔をするクリスに、簡潔に今回の答えを述べる私。
……要するに、王妃が喪に服しているのは『単に先王を愛しすぎていた』のと、『アンリエッタが王として相応しすぎた』という二点が理由、というわけである。
前者に関してはそのままの意味──愛が大きく深いものであったため、その喪失に耐えられなかったのだ、ということ。
そして後者は、仮に一度でも女王として立ってしまえば、娘に王権を譲るタイミングはほぼ自分の死ぬ時に決まってしまうから、ということになる。
「んー、んー。ボク、よくわからないや」
「難しいことは一つもないよ。一つの国に王は二つも要らない、ってだけだから」
むむむ、と唸るエー君の頭を撫でる私。
……先程から何度も述べている通り、アンリエッタの王の資質は最早最上位クラス。寧ろ彼女以外の誰が王となるのか、というようなレベルのものである。
……が、彼女はまだ年若い娘である。国を継いでその身を国に捧げるには、まだまだ早いわけで。
となると、彼女が王となるに適した年齢まで、他の誰かが政を回していく必要が出てくる。本来ならば、それは先王がやるべきことだったのだが……。
「みんな知っての通り、先王様は崩御済み。本来ならすぐにでも彼女に後を継いで欲しいところだけど……」
「器としては良くても、そこに経験や年齢という水が満たされていない以上、時期尚早だと思うのはなにも間違いではないね」
特に、傍らにあの花の魔術師が居るのだから、決して二の舞を踏むことはしないだろう。──王を使い潰すような形になってしまうことは、可能な限り避けるはずだ。
そもそも彼、彼女が
そしてそれは、王妃である彼女の母・マリアンヌについても同じようなことを考えている、と考察する理由になる。
本来であれば父から直接継ぐべきだった王権。
それが叶わなくなった今、すべきことは彼女が女王として立つこと──
いつか娘がその座を継ぐ時まで、
「……どういうこと?」
「さっきの男系継承の話を思い出してみて。……元々先王様はウェールズの王家の血筋で、正当なトリステイン王家の血筋というのは、本来マリアンヌ様の方。……だけれど、この国で実際に王権を執っていたのは先王様だった」
「……トリステインは男系継承が基本だった?」
「そう見るのが普通でしょうね」
先王の更に前の王──フィリップ三世は、描写を見る限り普通に王位を継いだ、正当なトリステインの王家の血を引く人物であろう。
そして彼もまた、息子を作らず・または作れず、次代を娘であるマリアンヌに託している。
……要するに、本来であればアンリエッタもまた、他所から婿──王を迎え入れるのが筋であるはずなのだ。
少なくともマリアンヌ自身がそうした以上、彼女が臨時にでも王権を執るのであれば、次代のアンリエッタには同じように促さなければなるまい。
また、先王からアンリエッタに繋がる王の系譜に『間』を作ってはいけない、みたいな思いもあるのかもしれない。
「女系継承は傍流を巻き込んでしまう、って話があっただろう?少なくとも、王妃様は一度それを先王様という形で行ってしまっている。……となれば、悪いお貴族様達が画策すること、というのもなんとなく分かってくるだろう?」
「……あー、自身の息の掛かった相手を輿に入れようとする、みたいな?」*5
「そういうこと。少なくとも今の王妃様に求心力はないから、国を平定しようとすると新しい王を迎え入れよう、みたいな流れになるのは目に見えてるね」
このハルケギニアは、原作のそれらと比べれば随分と優しい世界となっているが……完全無欠の世界、というわけではない。
ほどほどに悪い人もいるし、それなりに悲劇も転がっている。今のところ出会ったりはしていないが……原作におけるアニエスに相当する人物が何処かに居たりしても、そうおかしくはない。
ゆえに、国の舵取りに口を出す悪いお貴族様、というのも普通に存在しているのだ。まぁ、原作の彼らと比べれば、かなり甘めの存在となっているのも確かなわけだが。
ともあれ、そんな彼等が居る以上、王妃がそのまま王権を継いだとしても、恐らく別の王を立てよう、というような動きが始まることは目に見えているし、それが仮に成就してしまえば、娘が後を継いだ時にも同じ流れになりかねない。
その辺りを踏まえての、空位である。
つまり、この空位はトリステインという国の転換期──一つの王朝が途切れ、アンリエッタが作る新しい王朝となることを期待しての。
「確かに王妃を辿れば血は繋がるけど、精神的な意味では前王朝とは別物になる……みたいな?それこそ、新しいキャメロットみたいにしていくものだ、と思っているのかも」
「……あー、そうなるとマシュが居るのってわりと都合がいいのね」
「え、わわわ私でしゅか!?」
で、その辺りを考えると、アンリエッタの繋がりにマシュが居る、というのがわりと大きな意味を持ってくるわけで。
……まぁうん、こっちでちょっと祝福とかしてあげれば、このトリステインが新たなブリテンになる、なんてこともあるかもしれない、みたいな?
まぁ、本当にブリテンになっちゃうとなんか滅びそうなので、アンリエッタの統治を助ける新たな騎士達が現れますように、くらいの祈りで十分かとは思うが。
ともあれ、ある程度状況を整理した結果、見えてきたものがある。
「……うん、これあれだな!王妃様に統治の手伝いを頼むの、わりと悪手だなこれ!」
「そそそそれじゃあ、私はどうすれば?!」
「……分身の術覚える?」
「結局私が仕事してるだけじゃないですかーやだー!!」
それは、当初の予定が全部瓦解した、ということ。
……うん、下手に王妃様に政治を任せると、目敏い一部の貴族がいらんこと考え始めかねないなこれ?……という気付きを得た私たちは、改めてどうしよう?と唸る羽目になってしまったのでありました。
いや、真面目にどうしようかね、これ?