なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
はてさて、話が二転三転して、なにがなにやらという感じだが。
……当初の話としては、多忙なビジューちゃんの負担をどうにかして減らせないか、というのが焦点となっていた。
その上で、現状一番確実な方法が王妃を政治の場に引っ張り出すこと、だったのだが……。
「前王からアルトリアに繋ぐ、という形がベストっぽい以上、下手に王妃様に王権を持たせるのは一部の貴族達を勢い付かせる可能性が高い……ってのが問題なのよね?」
「だねぇ。なんだかんだでマザリーニ卿が鳥の骨、なんて揶揄されてる以上、彼をどうにかして追い落としたいと思っている層が居ることは確かだから」
「……まぁ、否定はできませぬな」
マザリーニ卿の『鳥の骨』という呼び名は、本来王家を思うままに操ろうとしている(ように見える)彼への揶揄のためのもの。
……言うなれば彼の
実際、マザリーニ卿のやっていることとは、政に関わらない王妃や、未だ王位に立つには経験と年齢の足りない王女に変わり、この国をどうにか運用する……というもの。
すなわち国にその身を捧げ、粉骨砕身の精神で現状を保とうとする、言うなれば『善』の行為。
ゆえに、普通に近くで見ていれば彼に翻意がないのは明確であるし、彼が居なければこの国が立ち行かないこともすぐに察することができる。
にも関わらず、こうして彼を揶揄する言葉が浸透しているということは──主の居ぬ間にこの国を乗っ取ろうとしている存在が、自身の動きを隠すためにわざと喧伝している、という風に見る方が正しいだろう。
雑に言えば、自分がやろうとしていることを他人におっ被せようとしているやつがいる、というか。
「こういうの普通に多いからね。病的なまでになにかを否定する理由が、自分がそのなにかをやっていることの疚しさからだった……ってのは」
「あーうん、聖職者とか教師とか、本来善い人でなければならない立場の人こそ悪意に染まりやすい、みたいな?」
「そうそう」*1
無論、全ての人がそうではなく、いわゆる『ワインに泥水』的なあれなのだろうとは思うが。*2
……ともあれ、聖属性に当たる人ほど染まりやすい、みたいな思いを抱かれやすいのは確かな話。
そういう意味でマザリーニ卿は被害者の方だし、それを揶揄する方は加害者である可能性が高いのだろう。
ともかく、現状においては今の『マザリーニ卿を酷使する』という形式が一番丸い、というのは確かな話。
……実際、マザリーニ卿自身がそれでいいと思っている節があるので、負担軽減云々については別として、彼が周囲の目を引き付ける、という形式そのものに間違いはないのだと思われる。
問題なのは、そこに巻き込まれる形となったビジューちゃんの方だろう。
「今のところは単に忙しい、で済んでいますが……」
「トリステインを裏から操りたい、と思っている人が居ると仮定するのなら、ビジューちゃんほど操作しやすい人も居ないだろうからねぇ」
現状において、彼女が問題としているのはあくまでも仕事の忙しさ、それだけである。……あるのだが、このまま彼女に仕事を割り振り続けるのは少々問題があるだろう。
彼女はこのハルケギニアにおいて希少かつ貴重・ついでに王権よりなお尊い権威と見なされかねない『虚無』の使い手である。
数ある『ゼロ使』の二次創作において、『虚無』を目覚めさせたルイズをアンリエッタよりも王に相応しい……という風に解釈した作品というのも、それなりの数が存在している。
実際、『虚無』が始祖ブリミルの使った系統である以上、その再来とみなせる彼女の存在は、平時であれば国を割りかねないようか厄介な火種であることは間違いないだろう。
……まぁ、原作においてはそんなことを言っている暇がなかったし、彼女が『虚無』の使い手であることを知る者も少なく、最終的にルイズは地球に行ってしまうため、継承権云々の話もうやむやになってしまったわけだが。
どっこい、この世界においては前提からして話が違う。
他国からの侵略、というものがない以上、現在は戦時ではなく平時、すなわち平穏な時。……そして、陰謀というのは得てして平時に張り巡らされるものである。
つまり、『虚無』に目覚めたビジューちゃんというのは、
ついでに、現王家はほぼなにもしていないに等しい、なんて追加要素もある。
「国家転覆を狙うには、色々と都合が良すぎる環境だよねぇ」
「それを嫌って、マザリーニ卿以外とは極力顔を合わせないようにしているのですが……」
「うん、事情を知らない人からすれば、鳥の骨の風聞と合わせてマザリーニ卿が現トリステイン王家を転覆しようとしている……なんて風に思われてもおかしくないよね」
「本当にそれを狙っている側は、それを都合良く喧伝するでしょうしね……」
つまり、あまりビジューちゃんを働かせ過ぎると、意図せずこの国の分断を招きかねないということ。
……とはいえ、現王家の
「……うーん、こうなるとアルトリアに分身を覚えて貰う、とかの方が良いのかも?」
「確かに。結局今の問題って『現王家が政治に関わっていない』ことが一番の問題、だからねぇ」
そうなってくると、話は振り出しに戻ってくる。
今現在馬車馬のように働いている二人──マザリーニ卿とビジューちゃんの負担を減らすこと、及び現王家が政治に関わること。
この二つを満たすためには、王妃か王女を表舞台に引っ張り出すしかない。
……まぁ、そこについては再三述べている通り、王妃を引っ張り出すのは無理・もしくは無意味で、アルトリアもまだ全てを背負うには早すぎる、という答えを返すしかないのだが。
一応、対案は無くもない。
アルトリアを増やして女王に据えて、かつその補佐として先述の二人を付ける……とすれば、負担軽減としては申し分ない結果となるはずである。
問題があるとすれば、『虚無』が国を継ぐよりも正当性・正統性があると認めさせる必要がある、ということか。
そこを解消できない場合、ビジューちゃんを近くに置くのは、自ら地雷を抱え込むようなものになってしまう。
「例えば、先王様がビジュー嬢を補佐として迎える……というのであれば、然程反発は無いでしょう。無論、次代の王がどうなるのか、という問題は先送りとなりますが……今のような容易くひっくり返ってしまいそうな、不安定な王家という形にはなりますまい」
「今の状態だと、双子の王を戴くようなものだからねぇ」
原作のガリアみたいな状態、というか。
……少なくとも、今の状態ではビジューちゃんの方が王になる素質を周囲に示している、という形になるので貴族達もそっちを支持する、なんてことになりかねないし。
ただまぁ、その辺りは時間が解決する、という見方もある。なにせ彼女と王権を争うのはアンリエッタ──複数の
寧ろ、彼女以外の誰を王に据えるのか、みたいなことになりそうというか。
「ただ、今のままだと原作のアルトリアみたいに『王は人の心がわからない』案件になりかねないから、そうならないように色々学んでる……って話に戻ってきちゃうんだけど」
「ままならぬものです……」
……ただ一つ問題点があるとすれば。
今の彼女は、あまりにもアルトリアを纏めすぎている、ということ。……その因果までも再現してしまっているため、事前準備なしに国を治めさせると、以前の焼き増しになる可能性があるのである。
無論、このハルケギニアは神秘の消えていく世界ではなく、抑止力のようなモノもないのでかつてのブリテンのように、沈むことを約束された国、ということにはなり得まい。
ではなにが問題か、と言えば。……彼女が完成され過ぎている、というところが問題なのである。
「何処かのマユリ様が『科学者にとって完璧とは絶望だヨ』とか言っていたけど、その考え方はあらゆるものにある程度共通するものでもあるからね」
「マユリ?とか言う人物のことはよく知りませぬが、何故完璧だとダメなのです?」
「理由は二つ。それを誰が決めるのか、それとそこにたどり着いた時点で全てが無駄になるから、だね」
「……ふむ?」
完全・完璧というものが良くないのは、それが終点であること、不変であること、誰が決めるのかわからないこと……などがある。前者二つはある意味同じなので、理由としては二つか。
終点であることと不変であること、この二つは要するに完璧というものを『到達点』として見た時の問題点である。
例えばモノを切り分けた先、一番小さな
小さくなり続けることを命題とする【星の欠片】にとって、それ以上小さくできないそれは言うなればそれ以上の研鑽を無意味、と突き付けるものでもあるのだ。それから先に進めないのであれば、そこにたどり着いた時点で他のあらゆる全ては最早価値を失う、ということにもなりうる。
後者は、自身が決めた『完璧』はあくまでも自身だけの『完璧』であり、それが他者にも適用できるモノではない、という問題点。
人は他者からの影響を全く受けずに生きることはできない。つまり、他者からの影響で自身の『完璧』が崩れる可能性は、十二分にある。
そうでなくとも、他者からの影響で崩れるものが『完璧』、などと言うことはできないだろう。
すなわち、本当の『完璧』とは、あらゆる影響を受けても全く変わらないものである必要がある、ということ。それはすなわち、なにをしても変わらない・変えられない……すなわち【不変】である。
つまりはまぁ、そういうこと。
人は自身の視界から外れたものさえ認知に苦労するというのに、あまねく全てにおいて『それを変え得るモノはない』などと証明することができるはずがない。
それこそ、完璧な世界となったとしても『異世界』からの来訪者、などという形で崩されることとなるのだから、『完璧』であることの難しさは言うに及ぶまい。
──それを考慮してなお、アルトリアという少女は『王』という
そしてそれは、『王』という一面として完璧だっただけであり、『人』として完璧であったということを示すものではない。
「だから、あの花の魔術師は慎重になっているのさ。『完璧な王』では足りないと知ったから。人という不完全を抱いたまま、『完璧ではなくとも素晴らしい王』と成長させるためにね」
「……色々考えておられたのですね、彼も」
ふぅ、とため息を吐くマザリーニ卿を見ながら、苦笑いを返す私なのであった。