なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「なんというか、疲れましたね……」
車内にはふぅ、という感じにため息を吐くはるかさんと、その横で全くよ、と頷くツァン・ディレちゃんの姿が。
……クラウド君と黒子さんは、他の七番勝負の参加者達と一緒に、一足先に郷に戻ってしまっているが。
助手席で窓から外を仏頂面で眺める天子ちゃんと、こうして後部座席に座っているツァンちゃんは、一緒に出雲行きとなっている。それは一体何故なのか?
「その、ボクのカードが迷惑を掛けたわけだし……フォローとかしておきたいというか……」
という、ツァンちゃんからのいみじくも可愛らしい……げふんげふん。真摯な申し出の結果によるものである。
……元がタッグフォースオリジナル組なので、その申し出当初はどうなる事かと思っていたのだが。
なんだかよくわからないけど、デュエルモンスターズはデュエリストが使うと、たちまち意☆味☆不☆明パワーを発揮し始めるので、彼女は普通に戦闘できる組であった。
なので、次の目的地にも同行を許可された、というわけだ。
それで、次に向かうところなのだけれど。
──十月の別称・異称というものをご存知だろうか?そう、五月を『皐月』と呼ぶようなアレのことである。
その流れに沿うのなら、十月は『神無月』と呼ばれている。
これを『神の無い月』と解釈するのは実は間違いなのだそうで、『無』は『の』の意味を持つ言葉というのが、現在有力な説だとされている。
その為、神無月とは本来『神
ついでに言うと、旧暦の六月(新暦に直すと大体一月ずれるので五月辺り)の呼び方である『水無月』も、田んぼに水を張る月の意味で『水の月』の読みが正しい……とする節が主流だ。
で、ここまで語っておいてなんなのだけど。
神無月、という呼び方からの『神の無い月』という解釈。
これは平安後期の歌学書『奥義抄』には既に記されていたものであり、その時代からずっと出雲では『十月は国中の神々が集う』として伝えて来たのだそうで。
その為、出雲での十月はこう呼ばれている。
──『神在月』、と。
そんなわけで。
『出雲に神々が集っている』という噂を頼りに、こうして島根までやって来たわけなのですが。
……わぁ、初っぱなから大歓迎だぁ。
「く、クジラ?クジラが空を飛んでいるっ?えっと、あれは一体……」
「わー、『風のさかな』だぁ、初手から飛ばしてんなーあははー」*1
「ちょ、またキーアさんがおかしくなったんだけど!?」
「ええ?!」
はるかさんとツァンちゃんがなにやら喋ってるけど、目の前の光景に既に胃が痛み始めた私には、なんにも聞こえちゃいねぇ!
……いやまぁね?
風のさかなの在り方は、確かに一種の神様めいてはいるけれども!
だからって街中を、どうどうと空飛びながらやってくるやつがあるかっ!!
というかアレもなりきり組なの?!マジで!?
「ってアレ?そこに見えるのはキーアじゃないか?」
「あらあらまぁまぁ、お久しぶりですねキーアちゃん」
「……ヘスティア様にエウロペさん!?なんでここに……ってあ、神様っ!?」
「ああ、僕達も呼ばれててね」
「わたくしは、ゼウスさまとヘスティアさまの付き添いです」
そんな風に空を眺めていたら、今度は地上側から声を掛けられる。
視線を下げた先には、ヘスティア様&エウロペさんwith白い雄牛組が立っていた。……なんか、雄牛の存在感がヤバいんだけど?実は降りてきてらっしゃる?……一応なりきりだから大丈夫?はへー……。
それと、二人の後ろには琉球っぽい感じの人がもう一人。
「ああ、私はヒヌカン。沖縄の火の神、竈を守るものだよ」
「竈繋がりって奴でね、ちょっとここいらの案内を頼んでいるのさ」
「い、意外な交遊関係……」
琉球っぽいどころか、そのまま沖縄の神様だった。
……ヘスティア様も竈の神だし、意外と竈の神ネットワーク的なものでもあるのだろうか……?
ちょっと疑問に思いつつも、二人と別れて街の探索を再開。
「……ひえっ、なんか聖杯が露店で投げ売りされてる……っ」
「ま、まさかとは思うけど、あの二人が居るの……?」
「あ、あそこに!……いや待て、その後ろにちょっとsYレならん人が居るような……」
「わー!?やめろやめろ!!三人目はまずい!!」
「全ては……
「いやなんでスプーン売ってるのアルジュナオルタさん」
立ち並ぶ露店商の一画で、ボーッと椅子に座って
「新世界の神になる!……なんて言ってたせいか、こうして呼ばれてしまったんですよ」
「ほう、奇遇だね。僕も人類を導く
「なるほど、君達も大変だな」
「……本当にガンダムな神様に言われてしまうと、僕も困ってしまうのだけれどね」
良い声の大学生と初代の人によく似た声をしている人と、それからどうみてもSDな騎士さんが話してて、思わず遠い目になったり。*4
……遠くにジム神様とザク神様が見えるんですがそれは。*5
え、単なる像?ならいいんだけど、騎士さんが並ばれるとちょっと身構えるのでやめて欲しいなって。
……なんてツッコミをひたすら入れ続けたせいで、変に疲れてしまった。
というかこれ、あれだよね?
「神ならなんでも良いって……『かみあり』やんけ!今気付いたわ!」*6
「あれをそのまま再現した、というわけではないみたいですけどね……」
退避するようになだれ込んだ喫茶店で、コーヒーを頼みつつ椅子に深く座り込む私達。
……いやもう、犬も歩けば棒にあたるならぬ、人が歩けば神にあたるような状態なんだもの、そりゃ疲れるよとしか……。
何が問題って、この状況がなりきりと関係あるのか、端的にいってわかんない事である。
……かみありの世界観が元になっているのなら、そもそもなりきりでなくとも『流行り神』*7の理論で顕現している可能性がある。
そうなると、この前のノッブみたいな、ある種の原作超え……なんてものである可能性もあるわけで。
いや、私嫌だよ?
既にジム神様の御神体、みたいな顔した像が存在したんだよ?……無限力*8相手とか考えたくないでーす。
……ここで無理ですって言わない辺り、チートスレ主の面目躍如ではあるのだけど。
でも無限力VSキーアなんて展開は誰も求めてないと思うので、でき得る限り穏便に終わって欲しいなーと願うばかり。
「……そもそもの話、なんで神様達は出雲にやって来てるわけ?」
「は?えっと……神在月だから?」
そんな中、ふと思ってしまった今回の事態の原因。
……呼ばれた、みたいな事を言っていたけど、一体誰に?
日本全国津々浦々、色んな場所の神達が集っているようだけど、それは何のために?
……ヘスティア様とエウロペさんが来てる辺り、キナ臭い話ではないのだろうけども。
「じゃあ、その辺りを中心に尋ねてみる?」
「そうしよう、原因究明の方が大事だよこれ」
午後からの予定も立てたところで、そのままお昼タイム。
出雲のご飯は美味しゅうございましたとさ。
「ハロウィン」
「パーティ?」
聞き返す私達の前で、まさかのデュエルモンスターズ世界の裏側の人、ダークネスさん*9が子細に解説をしてくれた。……いやそもそもなんで居るのこの人……人?
「我もまた、広義で見れば神の様なもの。……そもそもの話、デュエリストがリアルダイレクトアタックできる時点で、我の存在など些細なことなのではないか?」
「……それもそうか」
「ちょっとっ!?これ絶対そんな単純に納得して良い奴じゃないわよね!?」
とまぁ、ゲームオリジナルとはいえデュエリストである、ツァンちゃんから抗議の言葉が上がったが。
目の前のダークネスさんは周囲を闇にーとかもなく、普通にハロウィン楽しんでただけなので、とりあえず放置でいいか、となったわけでして。
それにしてもハロウィン、ハロウィンと来たかー。
「……なんか胃が痛くなってきた」
「今度はなにっ!?」
「あー、私もちょっと用事を……」
「て、天子さんまで?!一体ハロウィンに何が……ハロウィン?」
そう、今回のこの大騒ぎ。
神様(真偽新旧その他諸々問わず)が集まっているのは、単にハロウィンをしよう、となったからなのだと言う。
因みに仮装はなし。……デフォルトで仮装みたいなもんだからね。
で、ここまで周辺住民に見られてても特に問題になってないのは、ハロウィンであることと『かみあり』的な空気の合わせ技、みたいなものなのだそうで。
要するに、ぶっちゃけほっといても十月が終われば、自然と立ち消えするものなのだそうな。で、立ち消える時に記憶に関してもぼやけて問題ないものになる、と。
言われてみれば、街中にやけにカボチャが多いなーとは思っていたが。……まさか出雲でハロウィンとは、ねぇ。
……まぁ、そこで終われば良かったのだけれど。そうは問屋が卸さないのが、なりきり関連の事件にて。
「子ネコ~~~っ!!」
「ひいっ!?エリちゃん!?」
涙目でこっちに突っ込んで来る、ブレイブなエリちゃんを見付けたから、さあ大変。*10
アレよアレよと言う間に、出雲大社の下からチェイテピラミッド姫路城がせり上がってきたり。
どこからともなく憎悪の空を引き裂いて、正しき統治者への怒りを胸に顕現した巨大メカエリちゃんと、それに呼応するように単なる像だったはずのジム神様とザク神様が動き出したり。
憎悪の空云々のせいなのか、無数のナイアシリーズがわらわらやって来て、てんやわんやになったり。*11
……まぁ、語るも無惨なハロウィンパーティが、始まってしまったわけなのだけれど。
思い出すと正直脳が震えるので、この辺りのことは封印しておきたい所存なわけです、はい。
『みたいな事を上司に説明したら、まさしく宇宙猫のような表情を返されまして……』
「そりゃそうでしょ」
「聞けてよかった」*12
『?!』
後日、たまたまゆかりんと一緒に居た時に、その話を上司にしたのだとはるかさんから告げられて、思わず同意してしまう私達なのでしたとさ。
……まぁ、それだけで済むんだから、外の人は楽だよなぁ。なんて事を、現在なりきり郷に蔓延るハロウィンの空気を身に感じながら思っていたわけなのですが。……救いはなかったよ!