なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「さて、改めて状況を説明させて貰うわね」
「へーい」
諦めてゆかりんの話を聞くスタイルとなった私たち。
イベントごとのある時期に来訪する彼女は、どう足掻いても問題の先触れでしかないので、正直お帰り願いたい所なのだが……まぁ、彼女はここの責任者なのでそうも言ってられない。
普通なら、責任者が直々にやってくる時点で、想定外のことが起こっていると言っているようなものだからだ。
「あーうん、そういえばそうね。私ってばそこら辺あまり意識しないからあれだけど、責任者が直で動くのって本来変なことなのよね……」
「おい」
……まぁ、我らがゆかりんの場合、他の誰かに任せるより彼女自身が動いた方が速い、みたいな面もわりと大きいのだが。
というわけで、実際は緊急の用件かどうかは微妙、という話になるようで。……やっぱり追い返していいんじゃないかな?
「ああゴメンゴメン!別に大した用事じゃない、ってわけじゃないからそーゆうのはなしにしてー!」
「そのテンションだと本来どうでも良いことの筈では?」
なお、その辺りの話を聞いたゆかりんの反応はこんな感じ。……やっぱり面倒事じゃないですかやだー!!
「おほんおほん。……ええと、どこまで話したのだったかしら?」
「触りすら聞いてませーん」
「ああなるほど。……話題があちこち飛びすぎね、気を付けるわ。では改めまして、貴女達にお仕事を持ってきました~」
「うわー嬉しくねー」
「そこで素直に言葉を吐かないの。……おほん。ええと、去年のバレンタインで起きた事件については、改めて説明する必要もないわよね?」
そうして仕切り直した彼女が口にしたのは、去年の今頃に起きた事件についての質問。……その辺りの話は先程ミラちゃんともしていたので、ある意味タイムリーな話だが……。
そう告げる私たちに彼女は満足げに頷いたあと、続きを話し始める。
「そう、去年のバレンタインに起きたのは幽霊列車騒動。あれは元々あの列車の持ち主であるオーナーさんに頼まれて、終わりを迎えることとなるクルーズトレインを引き取る、みたいな話だったわけだけど……」
「【顕象】周りのややこしい話やら向こう──互助会の介入やらで、結局大騒動になったんだよね」
「あれ以降外の依頼を受ける時は、慎重に慎重を期すようになったわけでね……」
「ジェレミアさんのお仕事が増えた、みたいなこと言ってたっけねー」
あのバレンタイン特急に纏わる事件は、元々廃線予定のクルーズトレインの最終運行を、派手な形で人々の記憶に残し終わらせる……という、いわば有終の美を飾ることを目的としたものであった。
とはいえ、そこには様々な思惑が絡んでいた。例えば琥珀さんの目的──今を以てなお明らかにされきってはいない、再現度の上昇とそれに伴う能力の変動、それを明らかにするためのもの──とか、実はバレンタインよりも前に既に亡くなっていた父の無念を晴らすための娘の思いとか、思いを『願い』と解釈し、そこに集った【兆し】から生まれたイマジンだとか。
そして、そこに霊としての概念を導きだし、自身達の力とするために現れた夏油君だとか。……まぁ、色々と人間模様が交錯していたのは間違いないだろう。
「わしに至っては単なる慰安旅行の類い、でしかなかったはずなんじゃがのぅ」
「それも賢者ミラの趣味に従って行った、ごく普通の行為でしかなかったんだから、本当に巻き込まれ損だよねー」
「笑い事ではないわっ。……まぁ、こうしてゆっくり茶会など開けるようになったのは、とても良いことじゃと思うがの」
そして、事件の現場にたまたま居合わせたミラちゃんから繋がる線により、私たちは自分達以外にも『逆憑依』に関わる組織があるということを認知し、バレンタインの騒動とは別の騒動に巻き込まれて行くことになるわけだが……まぁ、その辺りは別の話。掻い摘まむにしても長くなるのでここでは省略である。
「まぁともかく。あの事件には色んな人の思いが交錯していたってのは確かな話。──そして、その中心となった親子が、物言わぬ石像になるという形で終わりを見せたのも、まぁ記憶に新しいことよね」
そして、騒動の結末。
夏油君が幽霊列車を呪霊と定義して呑み込んだことにより、
何故か石化した彼らは今もなお消えずにそこにあり、物言わぬ姿のままなにかを待つように佇んでいる……というのが、この騒動の終着点である。
で、この結末には幾つかの不明点がある。
一つは、彼らが何故『tri-qualia』──電脳世界に現れたのか、ということ。
確かに、彼らは最早肉の体を失い、そのまま放置していれば世界に霧散していたはずの存在。
そういう意味で、電子の世界と相性がいいのはある意味当然なのである。BBちゃんの反対というか、彼女の出身世界における
近似の例をあげるのならサイバーゴースト*1、ということになるのだろうが、だがあれは予めそうなるような素養というか環境要因があったというか、ともかくいきなり
例えば紺野木綿季のように、医療用の電脳マシンに繋がれたままその生涯を終えた、というようなことがあれば、もしかしたら
あの世界にもサイバーゴーストのような存在は居るには居たが、それもある意味偶然によるもののようなもの。狙ってなれるものではないのだし、そもそもそれを選ばないということもありうる。
そういう意味において、彼らの境遇というものには不明点が多すぎるのである。
確かに今の彼らは物言わぬ石像だが──ログアウト先が消失したままにも関わらず、そこにあり続けるというのは異常だろう。
そも、どうやってログインしたのかさえ謎なのだから、そこに纏わる謎はそれこそ星の数、というやつだろう。
問題点はまだある。あのオーロラだ。
状況から見るに、あのオーロラこそが彼らを電子の世界に誘った大本だろう。しかし、あのようなことができる人間、というのが見当たらないのである。
オーロラのカーテン、という時点でとある世界の破壊者が候補に浮かぶが、彼の姿は何処にもなかった。そう、なりきり郷にも、互助会の方にも……である。
互助会は施設そのものがそこまで大きくないこともあり、そこに所属する人員について調べるのはそう難しいことではない。
ゆえに、そこにあの男の姿がないことは明白であった。
対してなりきり郷の方は広大無辺、捜索範囲があまりに広く、本来であれば『居ない』と明言するのは悪魔の証明のようなもの、ゆえにこう断言するのは些か不自然ではあるのだが……。
「他のライダー達が集まる場所があるからね。そういうところで情報を集めれば、彼がここにいないことは普通に認知できるってものよ」
「なるほどねぇ……」
私の言葉に頷くゆかりん。
このなりきり郷には、ライダー系の人達が集まって過ごしている場所が幾つかある。そういうところで話を聞けば、噂程度のものであれどんな人物がいるのか、ということはすぐにわかる。
なにせ、彼らは仮面ライダー。子供達の憧れの存在であるため、自身達のことを隠したりするようなことはあり得ない。
ゆえに、そこから得られる情報に間違いはないだろう。そんな彼らが『士?見てないなぁ』と言っていたのだから、第一参考人──仮面ライダーディケイドは居ない、と言ってしまって良いのだと思われる。
まぁ、彼のライバルというか相方というべき存在であるディエンドの方は、他と馴れ合うようなことは恐らくないので、彼がこのオーロラを起こしたのだとすれば、こっちにはわからない話ということになってしまうわけだが。
「というか、仮に彼らだとしても、現実世界から電脳世界にオーロラを繋げられるのか?……みたいなツッコミもあるからねぇ」
「あれじゃろ、えーと……エグゼイド、じゃったか?」
「あー、ゲーマー?……いやどうだろ、確かにゲーム系だけど、あれってAR系じゃなかったっけ……?」
それと、彼らが電脳世界までカバーしていたかどうか、というところに疑問もなくはない。それくらいできそうな気もするが、仮にそうだとしてもあれ以外ほぼ姿を見せていない、という時点で首を傾げる部分も多いわけだし。
……というわけで、あの事件の結末の部分には、微妙に説明のできない要素が多いのである。
「で?そこまで思い返してみたことと、今回のゆかりんの案件にはなにか関連があるの?」
「なにかもなにも、関係大有りなのよ。これを見て頂戴」
「んん?どれどれ……?」
「なんじゃこれ?」
そこまでを回顧して、私たちは改めてゆかりんに疑問を呈す。
確かに腑に落ちない点の残る事件ではあったが、それが今回の彼女の来訪となにか関係があるのか、と。
そんなこちらの言葉に対し、彼女は大有りよと声をあげる。
そう言いながら彼女がこちらに差し出したのは、彼女のスマホに映る、とある記事。
それは、『tri-qualia』内においてイベントを開催することを知らせる物だったのだが……。
「……『幻のクルーズトレイン・エメでバレンタインを楽しもう』……?」
「ね?関係あったでしょ?」
「関係あるもなにも……」
「まんまじゃろこれ!?」
そこに映っていたのは、私たちがあの時乗り込んだ列車……クルーズトレインであるエメの勇姿。
思わず隣のミラちゃんと顔を見合わせてしまったとして、誰が責められるだろうか。
そんなことを思いながら、私はスマホの記事を見つめ続けていたのだった。