なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「んん、久しぶりねぇこの感覚」
「うむぅ、なんというか気持ちが悪いのぅ、これ」
ゆかりんからの依頼により、急遽『tri-qualia』へとログインを果たした私とミラちゃん。
私はまぁ、これまでも何度かログインしているので、すでに慣れたものだが……ミラちゃんは今回が初ログイン、ということもあってか幾分気持ちが悪そうにしていた。
……まぁ、私たちはネトゲをすると勝手にフルダイブ状態になるので、色々と感覚が変になるというのも仕方のない話ではあるのだが。そもそも、フルダイブと言いつつも感覚がゲームと現実の二重になる、という不思議さ加減だし。
「うむ……こう、コントローラーを握る手が空いておる、という感覚になるのがどうにも脳みそをバグらせるというか……」
「でも、感覚云々を抜きにしたらこっちの方が調子がいい、なんてことない?」
「む?……ううむ、言われてみれば……」
だが、恐らくミラちゃんに関しては、比較的この世界と相性の良い方だろうと思われる。
彼女は元々ゲームのキャラクターに憑依して、ゲームの世界に転移・ないし転生したタイプの存在。そのため、ネットゲームのような場所とはその生まれからして親和して然るべきなのである。*1
その発言を聞いたミラちゃんは、思わずとばかりにすい、と中空に指を滑らせ自身のステータスをチェックし始めたわけなのだが……。
「……うむ、完全に元と同じ、と言うわけではなさそうだが……現実でのわしより遥かに原作のわしに近付いておる、というのは間違いなさそうだのぅ。なにせ精霊王の加護が、部分的にとはいえ再び機能しておるようじゃからのぅ」
「なんと?!」
そうして彼女が告げたところによると、なんと今の彼女は精霊王の加護が有効化されているとのこと。
……いやまぁ、聞くところによれば『精霊王の加護:B-』みたいな感じで、本来のミラちゃんのそれに比べると大分劣化しているらしいのだが*2……ともあれ、それが電子の世界の中でなら多少なりとも使える、というのは中々大きな話題だと言えるだろう。
少なくとも、今のミラちゃんなら『軍勢』と呼ばれたその実力の三割?くらいは発揮できそうだということになるわけなのだから。
「三割……」
「ん、そこに引っ掛かるの?だってリアルでのミラちゃん、仙術主体の召喚術士……って感じで、本来であればやれるはずの意思持つ精霊達の使役、ほとんどできてなかったわけじゃん?」
「ぬぐぅ」
その、三割という部分に引っ掛かりを見せたミラちゃんは、微妙に渋い顔をしていたが……実際、本来の彼女は複数の精霊達を使役し、状況に合わせて最適な行動をするタイプの存在なので、その手札の多彩さが失われた状況では、実力の半分どころか一割も出せていない……と思われても仕方ない話だと思うのだけれど。*3
実際、お気に入りだという
それが今回、電子の世界の中でならば、幾らか制限が解除されている……と言うのだから、その分の戦力向上分を踏まえれば
とまぁ、そんな感じのことを理路整然と説明したところ、ミラちゃんは殊更大きくため息を吐いたのち、こちらに恨みがましげな視線を送ってきたのだった。
「……お主はよいのぅ、基本的にどこでも全力が出せて」
「お?そこ突っついちゃう?よかろうよかろう、不幸自慢がしたいのならそういえばよかろう。つまりはアレだ、不幸バトルしようぜ不幸バトル!」
「ぬわっ!?止めぬか止めぬか!!というかその胸元のスターター何処から引っ張り出しおったお主!?」
「努力して未来掴んで
「なんかムキムキになっとる!?」*5
……はい、なんか虚しくなってきたので、ミラちゃんで遊ぶのはこれくらいにして。
ともかく、電脳空間内限定とはいえ、ミラちゃんの戦力が向上しているのはとても良いことである。
できればその向上した戦力で、今回のあれこれもサーっと片付けてしまって欲しいものだが……まぁ多分、無理だろうね(無慈悲)。
そう思うだけの理由が実はあるわけだけど、ここでは言及しないキーアさんである。
「……なんかこう、含みのある態度じゃのぅ……」
「まぁまぁ。とりあえず、イベントの舞台になってるサーバーに行こうか」
「ふぅむ?……ええと、今わしらがおるのは……」
「Δサーバー、悠久の古都 マク・アヌだね。で、イベントの参加会場があるのは……」*6
相も変わらずこちらをジト目で見つめてくるミラちゃんに苦笑しつつ、腕を振って表示させた地図を指差す私。
地図上で点滅する私たちを表すマークの上には、現在のサーバー名である『マク・アヌ』という文字が浮かんでいる。
それを確認したのち、地図を操作して表示したのは、こことは別のサーバー──
どうやら『tri-qualia』におけるオリジナルのサーバーであり、今回のイベント用の舞台として最近増設された新規サーバー、ということになるらしい。
まぁ要するに、今回の私たちの目的地がここ……ということになるわけで。
「よし、とりあえず移動しよっか」
「向こうに着くまでに慣れるかのぅ、これ」
「……いや、そんなに掛かんないからね、移動には」
一先ずあれこれ言うのは向こうに着いてからだ、と議論を切り上げ、私たちは移動を開始するのでありました。
「バレンタイン目前ってこともあってか、何処もかしこもそういう飾り付けばっかりだねー」
「普段食料品を扱わない店ですらチョコを売り出しておるのは、ある意味ネットゲーならではということなのかのぅ」
疑問を呈するミラちゃんに、思わず苦笑を返す。
まぁ、所詮はデータなので、適当に項目に追加すればそれで終わり、ってことからわりとお手軽なのは間違いないだろうけど。
そんなことを思いながら、街を歩いていく私たち。
ここ、歓待都市 イオマード・フェイシュは、その名前の通り多くの祝祭を行うためのイベント専用ルートタウン、という位置付けとなっているらしく。
今月はバレンタインなのでその手の装飾で溢れているが、例えば先月であれば正月風の装飾がほとんどだったりするし、四月頃ならば桜が舞い散る和風な空気になったり、はたまた復活祭優先でイースターエッグを探すイベントが開催されるなど、季節ごとにあれこれと変化しているのだそうだ。
そんなわけなので、薬屋みたいなバレンタインとはまったく関係なさそうな場所でも、この時期には店先にチョコレートを並べたりしているのだった。……え?薬局に食べ物は今なら普通?*8
まぁともかく、街全体がそもそもイベント用、ということもあって周囲を覆う空気は浮かれ気分真っ最中、行き交う人々全てが陽気に笑いながら、迫るバレンタインに浮き足だっているのである。
そんな人々の合間を縫って、私たちが向かう先。それはこのルートタウンの一画、海に面した位置にある舞台。
そこには、今回のイベントに参加するために集まってきた人々が、イベント開催の合図を今か今かと待ち構えていたのであった。
「……うーん、思ったより人がいるねー?」
「知る人ぞ知る、みたいな列車だと聞いておったような気がするんじゃがのぅ……」
そのイベントこそが、ゆかりんから調査を依頼されていたもの。……かつて存在したという幻のクルーズトレインである、列車・エメを電脳空間に再現し、それに乗ってゲーム世界を旅しよう……という趣旨の電脳クルーズなのであった。
……うん、色々と言いたいことはあるが、先ずは一つツッコミを入れさせて頂きたい。
誰だよ今回のイベントの主催者!絶対そいつ黒幕か関係者だろ、今すぐこっちに顔見せやがれ!!
「キーア、気持ちはわかるが押さえよ押さえよ」
「がるるる……」
どう考えてもトラブルの香りじゃねぇか、と私が吠え始めたのも仕方のないことだと思うんですよ、はい。
抑え役になってくれてるミラちゃんには悪いんだけど、ね?