なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
かつて存在したという、豪華クルーズトレイン・エメ。
その所有者であった人物から許可を得て、電脳空間にそれを忠実に再現した……という触れ込みのそれは、かつてその列車の最終運行となるはずだったバレンタイン運行を、この電脳空間で果たそうとしている……というような話なのだそうで。
まぁのっけから怪しさ満点なわけなのだが、それに反して集まっている面々には特に怪しいところはなさそうなのであった。
……まぁ、別な意味では怪しい感じだったんだけども。
「こここ、この列車はスクショとか撮っても?!」
「すみませーん、肖像権的な問題でスクショはNGなんですー」
「そんなー!?」
「……撮り鉄、ってやつなのかな、あれ?」*1
「
列車の前で起きていたやり取りを見ながら、ミラちゃんと話す私。
一応ゲームの中だと言うのに、現実にも居そうな感じの格好をしていたその一団は、この列車が動いている姿を(自分の手で)写真に収めることはできない……と受付らしき人物から聞かされ、膝から崩れ落ちて居たのであった。
……現実にも居そう云々は、彼らがカメラとか三脚とか携えた一団だったから、と一応記しておく。……いや、寧ろその装備どこで手に入れたのよマジで、みたいな感じというか?
龍が如くとかアキバズトリップとかでなら見れるかも知れないが*2、ファンタシースターとかモンスターハンターとかでは絶対見掛けないような、あまりに普通すぎる姿の撮り鉄の一団になんとも言えない気持ちを抱かされつつ、気を取り直して今回のイベントの概要を確認する私である。
……スポンサー欄には、この列車の本来の持ち主であるあの男性の会社の名前が記されているし、そこで連名にされているのも『tri-qualia』の運営。
少なくとも細部におかしなところのないそれは、しかしおかしくないからこそおかしい、としか言いようがないものだったわけで。
生前のあの人があれこれと手を尽くした結果の一つだと、このイベントが開催されるに至った経緯がそこに記されているわけなんだけど……それにしては、本来のあの列車の顛末が抜け落ちているのが気になるというか。
具体的には、あの列車の中でオーナーが首吊り自殺をしていた、という事実に繋がるものがなにも書いてないし、なんならオーナーはまだ生きてます、みたいな空気になっているというか?……いやまぁ、あの石化した彼らのことをまだ生きているとするのであれば、ある意味間違ってはいないわけなのだが。
彼らが
まぁ、キナ臭いのだけは確かな話。
ゆえに、この列車の目的について、私たちは調べを進めて行かなければいけないわけなんだけど……。
「……当日参加枠の無い、完全予約制なんだよね、これ」
「あの撮り鉄達が嘆いておったのも、実際に近付けるのが今だけだから、というところが大きいようじゃからのぅ」
──これが中々難しい。
それもそのはず、今日のこの列車の運行は、なんと事前に予約をした人間のみを対象としていたものなのである。
しかもその予約の倍率、普通にテンバイヤーがわいてくるレベルのエグいやつというおまけ付き。
……いやホント、電脳空間に再現したものだから値段は下がっているとはいえ、元々が豪華クルーズトレインであることもあり、乗車料金が五桁越えしてたにも関わらず、そこからさらに値上がって六桁とかになってたからねこれ。
そりゃまぁ、そんな値段になっていれば乗れなくても近付いて見てみたい、みたいな気分になるのも仕方のない話というか。
ただまぁ、一応無闇に高い、というわけでもないようで。
「チケット一枚に付き十名まで同行可能……ってのは、実際の列車じゃないからこその制限だよね」
「列車の中身を拡張するのは自由じゃからのぅ」
このチケット、一枚で最大十人まで一緒に乗り込むことができるのだとか。……実際の列車ならばそんなことはできないだろうが、これが電脳空間に再現されたものである以上は、乗客の上限も好きに弄れるのも道理というか。
なお、あくまで内部空間を拡張しただけで、編成は弄られてなかったり。……まぁ、そこら辺うるさく言う人もいるだろうしねぇ。
そんなわけで、単なる撮り鉄だけでなく、乗り鉄的な人達も集まっていたりするので、わりとごった返している駅前なのでありました。
……はてさて、ここまで語って問題が一つ。
私たちも寝耳に水であったこともあり、生憎と乗車チケットの持ち合わせはない。……つまり、私たちも今から周囲に散見される乗り鉄達のように、誰か一緒にこの列車に乗せてくれる人を探さなければいけないわけなのでして。
「……都合よく知り合いとかいないかな?」
「いやー、無理じゃろ?だってわしらの知り合いの中に、こういう列車に乗るのが好きな人間が何人おる?」
「真っ先に思い付くのが、今目の前にいるわけなんだけど……」
「そう、わしじゃな!……言っとくが、そんな都合の良い話はないからな。だってわし、乗るんなら普通にリアルの列車に乗るし」
「だよねー」
相乗りさせてくれ、というのは流石にハードルが高いと言わざるを得まい。
……こういう時都合よく知り合いがチケット取ってたり、ということを期待するものだが。
生憎、私たちの知り合いの中でこういうのが好きそうなのは、まず間違いなく今目の前ではぁ、とため息を吐いているミラちゃんなわけで。……まぁうん、そもそもネトゲにログインするのがこっちでは初、という彼女がそのネトゲの中でしか乗れない列車のチケットなんぞ持ってるわけがない、というわけでして。
というか、そもそも前々から『tri-qualia』をやっていたとして、
……いやほら、周りに居るのが私たちみたいな『逆憑依』なら、実際にゲーム内で飲食してても特に問題ないけど、一般プレイヤーの前で『うまいうまい』言いながら駅弁とか食べてた日には、煉獄さんの物真似してると思われるならまだマシ……みたいな目で見られること受け合いというか。
絶対変な噂になるやつなので、仮に前々からやっていたとしても近寄ろうとはしなかっただろう。……彼女が列車とか好きなの、旅の風景とかも一因だろうけどそこで出会う色んな料理達にも理由がある、ってのは彼女と付き合ってればすぐにわかることだし。
まぁそんなわけで、すぐに思い浮かぶようなメンバーの中に、この列車に乗ろうとする物好きは居なさそう、という予測が立つわけなのでございます。
「んー……こうなると、他の人達みたいに『お金出すから連れてって』とか言うしかないのか……?」
「それはそれで、同じ客室に入れられることになる以上はわしらの動きが他より良い、ということに気が付かれる一因になる気がするがのぅ」
「うーん八方塞がり……って、ん?」
というか、場合によっては列車内で大立回りする必要もあるわけで。……そうなると、乗せてくれたのが一般プレイヤーというのは、どうもその人に多大な迷惑を掛けることになりそうな気がするというか。
……みたいなことを言いながら、あーでもないこーでもないと唸る私たち。
と、そうして首を捻る私の視界の端に、なにか見たことがあるものが通りすぎて行ったような気がして、私は小さく声をあげながらそちらに視線を向けることに。で、それに釣られるようにミラちゃんもそっちに視線を向けて……。
「……はい、メイショウドトウ様ですね、お待ちしておりました」*3
「はい、よろしくお願い致しま……あ」
「「…………」」
そこにいた一人の人物に、私たちは注視する。
──その人物は、誤解を恐れずに言えば受付役の人が述べた名前通りの見た目──ウマ娘の一人、メイショウドトウそのものの姿をしていた。
……していたのだが、しかしその姿から飛び出した声と、その口調は全く別物であった。
そう、本来の彼女のそれ──間延びしたような声とは違い、今の彼女から放たれたそれは、まるで良家のお嬢様のようなもの。
しかもそれは、どうにも
「……その声は我が友、マッキーではないか?」
「ひ、ひひひ人違いですぅ~!私はバエルに集えとか言いませんし、カチャウとか言ったりもしないですぅ~!!」*4
「いや、無理して声色を変えても無駄でござる。その声は間違いなく我が友マッキーのもの……」
「ええと……お客様?登録情報に詐称があった場合、こちらと致しましては乗客をお断りすることに……」
「わー!!わー!!!すみませんですぅあの人達実は現地集合で落ち合う予定だった同乗者の方達ですぅ!!ニックネームで呼びあってたのでちょっと勘違いしてらっしゃるんですぅそっちではマッキーって名前だったのでぇ!!」
「は、はぁ。でしたら、彼女達も同じ客車に?」
「そうしてくださいですぅお願い致しますぅー!!」
「あ、なんだ。じゃあそういってくださいよドトウさん。名前違うなんて知りませんでしたよぉー」
「は、ははは。そうなんですぅ、こっちではドトウさんなんですぅ……」
それが誰なのか気が付いた途端、私はミラちゃんと目配せをし、即座に作戦を開始。……どうにも相手は自分が普段とは違うキャラをやっている、ということを隠したい様子。
で、この列車の抽選に使われる情報は、複垢だとバレた場合当選が取り消しになる可能性があるわけで。……いやまぁ、多分彼女は今の姿以外にアカウントなんて作ってないだろうが、そこを運営に疑われるのは困る話以外の何物でもない。
なので、リアルの彼女を匂わせつつ話し掛ければあら不思議。私たちはこちらの事情を知る同乗者を、まんまと入手することに成功したのであった。やったね!
「やったねではありませんわ一体なに考えてるんですか貴女達!?」
「はっはっはっ。その言葉はそっくりそのままそっちに返すよマッキー。見栄を張るのは虚しいだけだぜ?」
「ぐぬぬ……」
……と、言うわけで。中身メジロマックイーンなメイショウドトウと一緒に、私たちは例の列車に乗り込むことに成功したのでしたとさ。