なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……しかしまぁ、ネット世界じゃから姿を云々、というのはなんともあれじゃのぅ。あんまりわしが言えた義理でもないが」
「ミラちゃんのそれは、男性キャラとして作った理想のアバターに対する
はてさて、列車の中の通路を歩きながら、同乗者となったマッキーもといドトウさんに声を掛ける私たち。
……なんというかこう、ネットの中なので好きな姿にする……というのはわりと良くある話だが、それが本来の姿と真反対なことに、これほど色々と察してしまうのはなんというかあれというか。
というか、本来私たち『逆憑依』ってアバターとしての姿も同じキャラになるのが普通のはずなんだけど、なんでマッキーは別のキャラになれてるんだろ?
……というような疑問が浮かんできたわけだが、その辺はどうやら私たちもよく知る実例があったようで。
「……うちのアスナさんのお知り合いに、女性となったキリトさんがいらっしゃるでしょう?」
「ん、キリトちゃん?なんでここであの子の話が……ってあー」
「む、なんじゃなんじゃ、二人だけで納得するでないわ」
「あー、えーとね?普通なら私たちって、初めてネトゲにログインした時に、それまでせっせと作ったキャラメイクとか全部無視して、リアルでの姿とほぼ同じアバター姿にされるって副作用?的なものがあるんだけど……」
「……そうじゃの、折角のネトゲじゃしダンブルフ再誕とかできるんじゃ?……などと思っていたわしはお笑い草じゃったの……」*2
「あ、あー。ええと……その辺りの話にも関わってくるんだけどさ?どうやら『tri-qualia』に限った話ではあるけど、運営から貰ったアバターに関しては
「……ぬ?」
彼女が口にしたのは、我らがネトゲクイーンであるキリトちゃんのこと。
最近はなんかもう吹っ切れてしまったのか、はたまた単なるヤケクソなのか。
……『ノーコンテニューでクリアしてやるぜ!』*3とかなんとか言いながら『
──そう、イシュタル。
今のキリトちゃんの外見は運営から貰った特殊アバターによって、ほぼイシュタルのそれと同一のものになっているが、それは本来の『逆憑依』の常識からしてみればおかしい話なのである。
なにせ私たちの姿は、それが
ゆえに、その姿は例え他のアイテムなどを装備しても、それが外見に反映されず不変である……という類いのモノのはずだったのだが。
どうやら『tri-qualia』内かつ、それの制作者が運営であるいわゆる記念アバター系のモノである場合に限り、私たちの先天性アバターを後天的に上書きすることが可能なのだという。
つまり、今こうしてメイショウドトウの姿をしているマッキーも、実際はメイショウドトウのアバターを上に重ね着している、ということになるわけで……。
「……!つつつつまり、なにかしらの記念としてダンブルフのアバターを作って貰えさえすれば……!?」
「このゲームの中、っていう制約は付くけど……ミラちゃんの姿から渋いお爺ちゃんの姿に戻ることも不可能じゃない、ってことになるね」
「……わしこのゲームの中に住む!!」
「言うと思った」
そこから導き出される答えはただ一つ。
今こうしてテンションが急上昇したミラちゃんも、このゲーム内でなにかしらの功績を築き上げ、アバターを製作して貰う機会を得ることさえできれば──彼女が理想とする姿、ダンブルフのような渋い老人の姿に変化することも可能、ということ。
いや、その程度でそんなに喜ぶの?……などと思う人もいるかもしれないが、これって結構死活問題なのである。
アバターとは即ち、人が意図的に被る『他人に見せるための姿』である。……それを私たち『逆憑依』の常識に当てはめると、思い付く名前というものがあるだろう。──そう、【継ぎ接ぎ】だ。
パッチワークというルビの振られる【継ぎ接ぎ】だが、その本質はオーバーレイ──上に被せることでそこに写る情景を変えるもの、という風に見なすこともできる。
周囲から見える姿が変わるということは、本来の姿から変化した、と言うことにもなりうる。
認識の変化をもたらすそれは、認知による自己の保持を行っている面のある『逆憑依』にとって、己の存在そのものを揺るがすものと言ってしまっても過言ではない。
つまり、姿を変えるというのは本来私たち『逆憑依』にとって、わりと危険な行為だということになるのだ。
元々変身することが前提であるような存在──例えばメタモンのような変身キャラだとか、はたまた変化の術による変装を行える忍者系のキャラなどであれば、本人のパーソナリティーへの変化を極力抑えることができるが……。*4
そうでない場合、被せた新たな
再現度の算出方法的には【継ぎ接ぎ】である方が有利ではあるが、その存在そのものの安定性を思えば、あまり推奨される方法であるとは言えないだろう。
実際、タマモちゃんとかが憤慨してたのは、その辺りに原因があるわけだし。
記憶としてはタマモクロスのそれが基本となっているのに、後から加えられたユニヴァース要素による記憶の改変や増改築が行われたというのは、それはそれは大層気持ちの悪い感覚をもたらしていたことだろう。
……まぁともかく、【継ぎ接ぎ】は後から気軽に起こそうと思えるほど、単純な強化手段ではないというのは確かな話。
それゆえ、先ほど例にあげたような『変身技能を端から持ち合わせている』ような人物でもない限り、自分の姿を他に誤認させるような行為は極力止めておいた方がよいのだ。
ミラちゃんが変化の術などを覚えようとしてなかったのも、下手すると声が少女のままのダンブルフとか、そういうおぞましいものを産み出す可能性があったからだったりするわけで。
……え?その割には私の他人への指導内容が、わりとあれだったりすることがある?
そこら辺はまぁ、私が大丈夫なタイプだからってのもあるし、ここまでの問題点が基本【顕象】には無関係、ってところもあるし。……まぁ要するに、
で、そんな問題点も、この『tri-qualia』内でなら回避できる……などと言われれば、そりゃもう喜ぶのも仕方のない話。
一応、概念的には『このゲーム内での感覚の二重化』にアバターが変更できる理由があるとかないとか、そんな話を聞いた覚えもあるが……『感覚の二重化』自体は他のネトゲでも起こり得る現象である以上、根本的な原因は『tri-qualia』そのものにあるのだろう、というのは間違いあるまい。
とはいえ、そういう原因究明は現状には全く無関係な話。
今現在重要なのは、運営に讃えられるようななにかを為せば、自分の好きなようにアバターを弄る機会が得られるかもしれない……という事実の方。
そんな思いに溢れに溢れたミラちゃんの姿に、思わず苦笑が溢れるのも仕方あるまい……という話である。
事実、私と
「……この様子ですと、彼女がHMDを購入するのも時間の問題、ということになるかもしれませんわね」
「同室のアスナさんには、ミラちゃんがネトゲに嵌まりすぎて依存症みたいにならないように、注意して貰うように予めお願いしとかないといけないかもねぇ」
「依存症とは失礼な。ただわしのぱーふぇくとなぼでーを毎日眺めるだけじゃぞ?」
「うーん……発言的にかなりあれなんだけど、実際に出力される映像は自分の姿を見て悦に浸るお爺ちゃん……なんだよなぁ」
脳裏に像を結ぶのは、姿見の前で久方ぶりの自分の姿にほぅ、と感嘆の吐息を漏らす爺の姿。……さっきの予想も大概だが、こっちの予想も大概だと思われる。
まぁ、こっちがそんなことを思ったとして、実際にそれが得られるかもという期待は、彼女を走らせてしまうには十分な理由、ということになってしまうのだが。
この辺り、ダンブルドア先生との談話では満たせない欲求になるため、周囲が注意するしか無いんだろうなぁとため息を吐かざるを得ない私たちなのでありました。