なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「一つの計画に、二つ以上の思惑……かぁ」
「ここの運営が、純粋に本来の運行計画を遂行しようとしているだけなら、って注釈が付くけどね」
はてさて、現状こちらが得ている情報を元にすると、どうにもこの催し、わりと普通にあのオーナーさんの遺作とでも言えるものを、忠実に再現しようとしている
……それにしては不穏な要素が多い辺り、単にオーナーさんのためのもの、とも言い辛そうな空気である。
というか、そもそも『tri-qualia』はカーディナルシステムを元にした、自動クエスト生成システムを採用している。
……どこぞの神的にはそんなん認められるか、的なアレだったようだが、どちらにせよ現状のシステム運営が製作者の手を離れてしまっている、というのは確かな話。
それゆえに──外からこういうクエストを作って欲しい、とお願いすることはできても、それを強要できない以上──このイベントが『tri-qualia』そのものが必要だと思って作ったもの、と考えた方が良い部分もあり……。
「……ってことは、なんだ?ゲームのシステムが亡くなった人間の鎮魂を望んでいる、ってことか?……バカバカしい、って切り捨てるには、ちっと関係者が立て込んでやがるな」*1
「ネットゲームに限らず、電子の世界において新たなる生命体の萌芽は繰り返されてきた題材……ってわけか」
そうすると、一つ目の思惑──オーナーさんの慰安目的としては、このゲームそのものが企画したのでは?……と考えられてしまうのだ。
なにせ、このイベント自体の必要性が見えてこない。
このイベントはバレンタイン関連のそれとして定義されているが、同時にこのイベントに掛かるのは参加費用だけであり、それによってなにかのプラスが得られるわけではない。
……と言うと語弊があるかもしれないが、ここで重要なのはこのイベントはゲーム内課金に相当する、ということである。
確かに、かつて存在した豪華クルーズトレインに乗れる……というのは、それだけで参加費を募ることができる要素だと言えるだろう。
再現度の高さゆえ、それだけを目的にして参加しても、思い出という面ではしっかり元を取れると判断できるかもしれない。
……が、しかしだ。
思い返して欲しいのは、『tri-qualia』はあくまでも
つまり、どれほど精巧に似せて作ったとしても、それを享受する側には越えられない壁があるのである。
普通の人は、私たち『逆憑依』みたいにフルダイブ方式にはなっておらず、単純なVR形式でしかないそれは──触れること叶わず、見ることもそこまで叶わず……という、現実には決して届かぬ体験のみを与えるものである。
私たちは電脳空間の感覚がリアルのそれと重なっているため、飲み食いすれば味を感じることもできるが……彼らはそうは行かない。
彼らにとってこのクルーズトレインというのは、あくまでも雰囲気を楽しむだけのものなのだ。
それを如実に示すのが、払った金額に対する保証がなにもない、ということ。
これは言い換えると、『課金したにも関わらずゲーム内でなにかしらの優位を得ることができない』、ということになる。
MMOという作品は、基本的にプレイが無料ということがない。大抵の場合、月額利用料という形で継続的な課金を強いてくるものである。
それは、基本無料タイプの作品と違い、ゲーム内コンテンツの開発費や維持費が殊更に高いため、というところが大きい。*2
複数人が集まって大きなボスを倒したり、はたまたゲームの世界で物を作ったりアイテムを集めたり……。
そういう、もう一つの世界とでも言うべき性質を以て形作られるMMOの世界というのは、そこにアクセスする人間というのも、それはそれは多くの個と種を兼ねている……ということがほとんどである。
さらに、彼らが思い思いに動くのならば──その処理のために発生する負荷というのは、それはそれは大きなものとなることだろう。皆が皆同じ動きをしているのならともかく、それぞれが好き勝手に
要するに。それらの処理や負担を解決するために必要な労力やサーバー費を、プレイヤーからの課金で賄う場合──プレイ料のない、ガチャなどの一時課金のみを期待してとなると、恐らく通常の費ではないレベルで渋いガチャが追加される、などの憂き目を見る羽目になる可能性が高いのだ。
無論、コンテンツの規模やクオリティ次第では、そこまでの課金を求める必要がない場合もあるだろう。
プレイ料という形ではなく、パスポートのような『継続課金で得になる』要素を用意することで、実質的なプレイ料を取る方法もあるかもしれない。*3
とはいえ、それで賄える金額にも限度はある。
……日本人に顕著ではあるが、いわゆるサブスクに払う金よりも、ガチャに払う金の方が財布の紐が緩みやすい、なんてこともあるわけで。*4
それは裏を返せば、本来お得なシステムであるパスポート方式も、人によっては購買意欲を減衰させる可能性があるということ。……それだけでは運営費を賄えない、という不可思議なことになる可能性は十二分にある。
そういう意味で、プレイ料に加えちょっとした課金要素を持つ、みたいなものが最近増えているのも、なんとなく頷けてくるものだと言えるだろう。
プレイ料を最低限にしつつ、他の要素で課金を促せば、運営費を賄うのもやりやすくなるというわけだ。
……話がずれたので元に戻すと。
プレイ料というのは、本来ゲームそのものを遊ぶためのもの。いわゆる入場料のようなもので、それ自体の価値は『入場できること』そのものと等価である、と言い換えてもよい。
……ここまで言えばわかるだろうが、このエメにおける乗車賃というのは、その中でできることの少ない普通のプレイヤーにとって、ほぼほぼ単なる入場料に過ぎないのである。
無論、実際の列車と違い、列車運用のための人員や調理師などを雇わなくていい分、トレードされるべき価値はあくまで『この列車の再現のために掛かった費用』だけで済む。
……済むのだが。逆を言えば、
ゲームの中で遊園地に行くようなもの、とでも言うべきか。
いや、それが遊園地ならばまだマシな方。
実際にはこの列車でできることは、高級列車に乗った気になることと、本物のそれには足りぬ風景を楽しむことだけ。
行ってしまえば、五桁越えの課金をしてまで乗り込む魅力、というものが感じられないのである。
本来、こういうイベントの場合、参加に際してなにかしらのアイテムなどが貰える、ということが多い。
いわゆるアバター課金、というものだが……今回の場合、それすらない。精々、できて車内の購買からチョコを買って相手に贈る、くらいのものだろう。
それにしたって、五桁越えの課金に見合う効果があるとは思えない。
「つまり、徹底してプレイヤーを引き入れよう、みたいな姿勢が見えてこないんだよ。一部の熱狂的なファンを除けば、普通のプレイヤーはまず見向きもしないような……みたいな?」
「……あー、なるほど?その部分に引っ掛かりがあるってことか」
「……む、どういうことじゃ?」
そう、このイベントには、どうにも運営的な『稼ぎを得よう』という意識がない。
ゆえに、
……なのだが、そうなってくると引っ掛かる面がある。
そう、一部のファンを除けばまず触れようと思わないものというのは。……裏を返せば、
そう、この場合は私たち『逆憑依』に関わる人間は、一部のファンを除いた
なにせ私たちは、このゲームを周囲より一段階上の体感で遊ぶことができる。そう、この豪華クルーズトレインを誰よりも楽しめるのが私たちなのだ。
つまり、本来このイベントは単なるオーナーさんの慰安のためのもので、それゆえに最終的な結末も恐らく『怪盗に盗まれる』だが──。
「そこに私たちがいることで、前回の再現が起きる可能性が増えた、ってことになる」
「……もしかして、わしらが集まったのは失策?」
「それもそうとは言えないんだよね」
「ぬ?」
私たち『逆憑依』が集まることにより、逆に以前の事件を再現する空気が成立したのでは、と疑うことができてしまうのである。
ゆえに、ミラちゃんの『わしら、失敗?』などという台詞が出てくるわけなのだが……同時に、ことはそう単純でもないという話になってくる。
その理由が、私たち以外の乗客達にあるのであった。