なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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バレンタイン当日までに終わりますか、と彼は問い掛けた

「わしら以外の乗客、というと……」

「一般の利用者、ってことだね。……さて、さっきこの列車に乗る人は、一部のファンを除けば()()()()()()()()()()()()()()()、みたいなことを言ったよね?」

「うむ、確かに言っておったの。……それがなにか?」

「うん、それなんだけど……キリトちゃん、乗客さん達ってどんな感じだった?」

「え?……あ」

 

 

 さて、私たちが関わらなければ、そもそも私たちが心配するようなことは起こらなかったのでは?

 ……というのが、前回のミラちゃんの発言の本質なわけだけど。はたしてそれが正解なのか、と問われると……私は否、と返すこととなる。

 

 その理由が、この列車に現在乗車している乗客達。

 ……先ほども述べた通り、この列車は現実に存在したエメという豪華クルーズトレインを電脳空間に再現した──酷い言い方をすれば()()()である。

 そう、劣化品。この列車は確かに現実のエメを忠実に再現しているが──その再現度を直に体感しようとするならば、必然フルダイブタイプのアクセス手段が必要となってくる。

 

 例えば今、私たちが座っている座席だが……これは高級列車特有の、こだわり抜かれた素材の使われた()()()()()()()()()()()()座席。

 言うなれば高級調度品の類いであるが、普通のプレイヤーにはその『見た目』しか得られる情報がない。

 対し私たちのような『逆憑依』達は、各々が自身の感覚を引き連れることに成功しているため、これらの座席に使われている素材の肌触りや感触、そこから伝わってくる温度や質感に至るまで、その全てを楽しむことができる。

 

 つまり、私たちは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()わけである。対し、普通のプレイヤー達は先ほどから述べている通りの──、

 

 

「視覚情報と、あとは聴覚情報だけ。それでこの乗車賃は正直高いわけで、そうなると普通は()()()()()()()()()()()()()人間だけが買っている、という風に見るのが正解となる」

「何度か話題に上がってる撮り鉄とか乗り鉄とか、ってことだな?」

「まぁその二つにしても、あの金額を払ってまで乗りたいって思った結果、触れられたものに『やっぱり違う』ってなる可能性もあるけどね」

 

 

 そう、この列車に普通の人間が乗るのなら、運営側から与えられるものとは別に、本人達が勝手になにかの付加価値を得ている……という風に考えるべきなのである。

 例えば──そこに単なるクリアファイルがあるとして、普通の人はそれに書類を挟むくらいしかしないだろうが……それがキャラクターの描かれたものであるのならば、人によっては別の活用法を見いだすだろう……みたいな。

 

 お金を払っている以上、なにかを得たいと思うのは自然なこと。つまり、それだけの金額を払ったことに見合う()()を欲しているのが、本来の普通の人々の反応ということになるのだ。

 物が貰えないのなら思い出を、というわけである。

 

 ……しかし、その思い出にしても、五感のうち視覚情報がその九割以上を占めるもの。

 一応、『怪盗』が出てくるのが真実であれば、それ関連の記憶が対価となる可能性は十分にあるが……現状それは起こるかどうかもわからないもの。

 このイベントがオーナーさんのプランを再現するものであるならば、確実に起こることではあるが……()()()()()()()()、普通の参加者がそれを知ることはないはずである。

 

 つまり、『この列車に関わること』それそのものが報酬になるような──いわゆる乗り鉄や撮り鉄のような人でもない限り、この列車に乗ることで楽しめるのは精々雰囲気と景色くらい、ということになってしまうのだ。

 ……正直な話、ちょっと興味のある映画を見に来た、くらいの期待度にしかならなさそうというか。

 

 なので、本来ならばこの列車に乗っている普通の人のテンションと言うのは、精々『クルーズトレインってこんな感じなのかー』みたいな、ちょっと距離を置いた楽しみ方になるはずなのである。

 

 ……が、ここでちょっとした疑問が巻き起こってくる。

 先ほど他の面々は、()()()()()()()()()()()()グループがあった。

 

 

「……ああ、なるほど。そういえば少し違和感があったが……そういうことか」

「え、なになに?ハクってばなにに気付いたのさぁ~?」

「わからんかアグモンよ。我らが尋ねごとをした時、()()()()()()()()()()()()?」

「えー?そんなの、みんな楽しそうに……あー」

「……みんな気付いたみたいだからぶっちゃけると。──要するに、本来普通の人が抱いているであろう期待感に比べて、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そう、その疑問と言うのが、乗客達の空気。

 ……本物の列車に乗っているのならばいざ知らず、この列車は電脳空間の()()である。

 無論、実際にはこの『tri-qualia』のゲームシステムが総力をあげ、現実のそれを忠実に細部まで再現した、見る人が見れば垂涎の品であることは確かだが……それを楽しむための窓、すなわちHMDの性能が足りていないことで、それを本当の意味で楽しむことはできないはずなのだ。

 基本的には視覚が主であり、聴覚も多少は関わってくるだろうが……それがメインになれるようなタイプのものでもない。

 これが映画を見に来たとかであるのならば、確かに聴覚も重要になってくるだろうが……これはあくまでもクルーズトレイン、基本的には窓から見える景色と、車内で出される食事などが主なコンテンツとなる。

 

 要するに、本来電車旅行で楽しみになるようなものの大半が、普通の乗客に取っては劣化したもの、もしくはそもそも楽しめないものになってしまっているのだ。

 ゆえに、普通であればこの列車の乗客達のテンションは、楽しみではあっても羽目を外すようなものではないはず。……友人と一緒に乗り込んだとしても、旅先に訪問することでなく電車に乗ることそのものを楽しむに近いこの列車において、過剰な盛り上がりを見せることはないはず。

 

 ──にも関わらず。

 この列車に乗り込んだ普通の乗客達の間に流れていた空気は、そんな落ち着いたものではなかった。

 そう、それは普通に()()()()()()()()()()()()と、決して見劣りしない……ほとんど遜色のないものだったのである。

 

 

「はっきり言って、異常事態よね。私たちがそういう反応をするのはわかるけど、彼らにとってこの列車は、ゲーム内イベントでちょっと時間の掛かるもの、くらいのカテゴリでしかないはずなのに」

「……そういえば、『これだけお金を払ったんだから、楽しまなきゃ損』……みたいな空元気でもなかったね?」

 

 

 アスナさんの言うように、彼らのテンションの高さは、決して無理矢理上げたようなものでもなかった。

 高い金を払ったんだから、楽しまなければ損──そんな思考が挟まった、無理矢理に高められたテンションではなく、自然と笑みが綻ぶような、今から起こることが楽しみで仕方ないという空気感。

 ──まるで、私たちには見えていないものが見えているかのような、一種の不気味さすら感じられるもの。

 

 キリトちゃんが気付かなかったのは、恐らく長くゲームをしていたことで認識がずれていたからだろう。

 彼女にとってみれば、この列車はまさに豪華客船。出てくる料理は美味しいだろうし、見える景色も美しいだろう。楽しめない方がおかしい……そんな気分になるもののはずだ。

 それが、本来私たちのような『逆憑依(フルダイブ)』組にしか味わえないものだ、ということを失念していたことに気が付かず。

 

 

「……つまり、まさか……」

「まぁ、流石にAIDAサーバーみたいなことになってる、ってわけじゃないだろうけど*1……下手すると()()()()()()()()()()、急に映像が鮮明になった……なんて人も居るかもしれないね?」

「……マジかよ」

 

 

 これらの事実から推測できることが一つ。

 撮り鉄や乗り鉄のような、列車に関わること自体が楽しいと思えるような人種ではない、あくまでも普通の利用者であるはずの彼らは。

 ──この列車に乗った途端、私たちのような『フルダイブ』──五感で電脳世界を感じられるような状態になっているのではないか、という疑念。

 

 無論、あまりに鮮明に過ぎれば疑念を抱かれるだろうが……ちょっと画面が綺麗になったような、とか。

 はたまた、体感型(4DX)映画のように、振動や匂いが感じられるような()()()()とか。

 そういう、ちょっと感覚が鋭敏になったかも?……程度で済まされるような変化だろうとは思われる。

 

 ……思われるが。私たちからしてみれば、その時点でわりと厄ネタだ、という気分になるのも確かな話。

 本来感じられないものを感じているのが正しいのであれば、この列車を放置することがどういうことになるのか、わからない私たちでもない。

 先ほどは『AIDAサーバー』ではないが、と述べたが……【兆し】の起きる場所、みたいなことになっていてもおかしくないし、それ以外のなにかが原因となっている可能性もある。

 

 そして、それらの乗客の様子と言うのは──そもそも私たちが集まる前から、それらしき空気があった。

 何度も言うように、この列車は当日参加枠のない、完全予約制である。それはつまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という可能性を示すものでもあるのだ。

 

 

「まぁ、転売ヤーが元気だったからちょっと見てみた、みたいな人も居るだろうけど……それでもチケットがちゃんと捌けてる辺り、乗る前からなにか特異な影響を発生させている、って可能性は否定しきれないというか?」

「……つまり、どちらにせよなにかは起こってただろうから、こうして対処できる人間が居ること自体は喜ばしい……と?」

「そうなるねぇ」

 

 

 もし仮に、私たちがこの列車に乗ってなかったとして。

 ……まぁ、去年の再現は発生しなかったかもしれないが、そもそものキナ臭さを思えば別種のトラブルが発生していた可能性は、どうにも否定できない。

 私たちが参加してややこしくなった可能性はあるが、同時にそれで対処できる可能性も上がったのだというのであれば……まぁ、気分的には寧ろお得、くらいのものだろう。

 

 そういう風に見ることができる、という話ではあるが。

 ……まぁ、放っておけないのも確かな話。

 なので、今私たちにできることは『私たちのせいで』と悔やむことではなく、『私たちが居たから』問題に対処できるのだ、と前を向くことだろう。

 

 そう結論付けて、一先ず報告会は終わりを告げることとなるのだった。

 

 

*1
『.hack//G.U.』において登場したもの。作中の敵対的存在であるAIDAが、『The world』のサーバーを模して作り出したもの。その空間内のプレイヤーを纏めて寄生しているような状態にする為、サーバーが維持されている間プレイヤー達は()()()()()ことになる。サーバーを維持しているAIDAを倒せば解放されるが、その前にプレイヤーがダメージを受けて死亡すると、現実の人間も未帰還者にされるという危険性がある

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