なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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現実と虚構の狭間にて、美味しいケーキを食す

「……うーん」

「この光景を見ると、確かにうーんと言いたくなるのもわかるのぅ」

 

 

 報告会を終えた私たちは、その足で食堂車に向かっていた。

 理由としては、あれこれ話したので喉が乾いたのと、ちょっと小腹が空いたなーというもので……まぁ、電子の世界でモノを食べても、現実の私たちにはなんの意味もないので、基本的には気分を味わいに、みたいなところが大きかったのだけれど。

 そこで見た光景に、私たちは思わず唖然としていたのです。

 

 そう、そこで繰り広げられていた風景。

 それは、()()()()()()()()()()()()()、というものなのでありました。

 

 

「……えーと、ここでなにか物を食べたとしても、特別なバフが付いたりはしないんだよな?」

「だねぇ。一応、ここで食べたっていうログは残るけど……それが特別なにかを意味するのか、と言われると単なる自己満でしかないんじゃないかなー、というか」

 

 

 キリトちゃんが苦笑いをしながら、彼らの行為の意味を尋ねてくる。

 そう、『tri-qualia』における食事は、パラメーターの『空腹度』を満たすだけでなく、料理によっては特殊な強化バフを得られることもある、わりとRPGにおいてはオーソドックスなシステムとなっているのだが……。

 アイテム名に明記されているようなもの──例えば、ク○アおばさんのクリームシチュー、みたいに地名や名前が付記されているものであれば、通常の同種アイテムとは違う効果が付与される、なんてことも確かにあるのだ。

 例にあげると──先のおばさんのクリームシチューならば、普通のクリームシチューが『寒さ耐性』効果を持つのに対し、それに加えて『攻撃力アップ』も一緒に付与される、みたいな感じに。

 

 だがしかし、この食堂車で提供されている食事というのは、『エメの○○』みたいな名前が付いていない、至って普通の料理なのである。

 このイベントでは戦闘の予定はなく、また料理の効果は凡そ三時間程度しか持続しないこともあり、正直ここで料理を食べるというのは、ゲーム内通貨の無駄遣いに等しいのだ。

 

 ──にも関わらず、食堂車は人でごった返している。……そう、乗客達が挙って料理を食べに来ているのだ。

 その姿は──普通の豪華列車としてはおかしくないが、()()()()()()()()()()()()()()()()としてはおかしいことこの上ない。

 それをする理由が『この列車に乗った記念』だとしても、ここまで大勢の人で賑わうようなものではないだろう。

 そういう意味で、今私たちの目の前に広がっている光景は、異様なものとしか言いようがないのであった。

 

 

「……そこまで言うほどか?」

「まぁ確かに、リアルマネーじゃなくてゲーム内通貨だし、そこまで出し渋るもんでもないって言い分はわかるけど……ここの料理、ちょっと列車から降りてそこらの食堂にでも行けば、普通に食べられるものなんだよね」

「なんと」

「ついでに言うと、外で食べた方が遥かに安い。具体的には、これくらい」

「……三倍くらい違うではないか!?」

 

 

 そんな私たちの物言いに、いまいち共感できないとばかりにハクさんが疑問の声をあげるが……その声も、この食堂車で提供されている料理の値段がどれほど跳ね上がっているのか、及び同じ効果を持つ同じ料理が普通にそこらの食堂で食べられる……という事実を知らされては、容易く霧散するというもの。

 効果が違うのならわかるし、値段がそれほど変わらなかったりしてもわかるだろう。……しかし、ここにある料理はその提供場所以外、なにもかも外で食べられるモノと同じで、値段に関しては激しく劣化しているのである。

 

 もう、わざわざここで食事をすること自体がおかしい、としか言いようがないのもわかろうと言うものだ。

 

 

「値段が高すぎる、効果が変わらねぇ、そもそも料理の効果が必要になる機会が、この列車に乗ってる限り存在しねぇ……まぁ、控え目に言っても『頭おかしい』ってなりそうだわな、実際」

「……ログにここで食べた、って載るくらいしか、()()()恩恵がなさそうだもんねぇ」

 

 

 とはいえ、一応理由のようなものは推察できたりもする。

 効果や値段など、直接的な損得の部分で劣っているのは確かだが……この料理には他の場所と違う点が二つある。

 それが、見た目のグラフィックと提供されている場所だ。

 

 そう、システム的に同じアイテム扱いされているが、よくよく見てみるとここで出される料理は、明らかに高級そうなグラフィックに差し替えられているのである。

 分かりやすく言えば、普通の店で出されるハンバーグが『白い皿に乗せられた、ソースの掛かったオーソドックスなハンバーグ』なら、ここで出てくるハンバーグは『熱々のプレートの上で熱せられた、熱々出来立ての専門店で出てくるようなハンバーグ』、みたいな。

 ……正直、ここまで見た目が違うのに名前も効果も変わらないのは詐欺では?……みたいな気がしなくもないのだが、その辺りの無駄なこだわりを実現できる『tri-qualia』のシステムが凄い、ということなのかもしれない。

 

 ともかく、ここで出される料理は見た目からして高級品、というのがわかる作り。

 ゆえに、スクショとかで掲示板にでもあげれば、それなりに話題になる可能性は十分にあると言えるだろう。……まぁ、それも描画力の足りてない機械で撮ったスクショになるため、本当の色艶とかは再現しきれないものになっているだろうが。

 まぁ、明らかに力が入っていることはわかるので、それで問題ないかもしれないけれど。

 

 それから、もう一つの評価点であるのが場所──すなわちロケーション。

 このゲームにおけるログには、アイテムを使ったりなにかしらのトロフィーを入手した時などに、その場所についてのデータや時間などが付記される、という仕様になっている。

 なので、アイテム名としては変化がなくとも『豪華列車・エメで食べたハンバーグ』みたいな情報は、しっかりログとして残るのだ。

 まぁ、ログも永久保管とはいかないので、そのうち手動でバックアップを取ったりする必要性はあるが……ここで食事を取った、と仲間内で自慢する分には申し分あるまい。

 

 更に、先述の『明らかに他と見た目の違う料理』を合わせると──スクショに撮った時にいわゆる『映え』、みたいなものを演出することもできるはず。

 そう考えてみると、一応この食堂車で食事を取る意味、というのも少しは理解できてくるのだが……。

 

 

「映えスクショの場合は明確に、リアルと違って()()()()()()を選ぶ人が多いから、今の状況とは違うよねー……」

「ああ、なるほど。現実では問題となる『映え重視の写真を撮った後の料理』の問題も、ゲーム世界ではなんの気兼ねもなく破棄する、という形で解決できてしまうのか」

 

 

 アンチノミーさんの言う通り、映え写真に付き纏う問題である、写真を撮った後の料理の処理。

 本来、リアルではそうして映えを重視した写真を撮った後、料理を食べずに捨てる人が増えてきた……なんて社会問題があったりしたものだが、その心配はこちらでは存在していない。

 

 リアルにおいて、それらの料理が捨てられるのは──言うなれば料理そのものに価値を置いていないがため。

 端から食べることを目的としていない場合も多く、また仮に食べようとしても映え写真の撮り過ぎ=料理の食べ過ぎ・頼み過ぎとなり、処理しようにもどうしようもなく、結果として捨てられてしまう……みたいな、要するに『食べるための食事ではない料理』として、彼ら彼女らに認識されてしまっているがゆえの悲劇、ということができるだろう。

 こういうのはコラボカフェで料理にランダムでノベルティが付く、みたいな時にも発生する問題なわけだが……その両方とも、電子の世界であれば容易く無視できてしまう問題になるのだ。

 

 なにせ、ここにある料理はあくまでもデータ。言うなれば形のないものであり、それを捨てたところで誰も悲しまないし困らない。

 ダストデータが溜まる、なんてこともない以上、使われないのならそのまま捨てるのが寧ろ普通。

 結果として、寧ろ映えに使うのが最良、みたいな存在となりうるのだ。……なりうるんだけど。

 

 

「……食ってるな、普通に」

「写真を撮ってる人もいるにはいるけど、どっちかというと普通に食事している人の方が多いよね、これ」

 

 

 ──そう、それだけでは片付けられないものが、今私たちの目の前にある光景。

 確かに、運ばれてきた料理をスクショに収める人もいる。ログを取り、この列車で食事をしたと記録する人もいる。

 ……いるのだが、それだけではない。そこにいる大半の人は、そもそも()()()()()()()()()()()

 

 運ばれてきた高そうなハンバーグを、震えるナイフで切り分け、片方のフォークに刺して口に運び──その美味しさに震える男性がいる。

 ワインを口に運び、明らかに酔ったような声を挙げ、連れと思わしき人に落ち着いてと酔い醒まし(キュア)を受ける人がいる。

 甘いもの、辛いもの、苦いもの、酸っぱいもの。それらの味が明確に感じられることに、驚く老齢の女性の姿がある。

 

 そう、ここにいる人々は、皆が皆()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……これが異常でなくて、なにが異常だと言うのだろうか?

 

 

「……確かにすごく美味しいんですけど、なんで味がわかるんでしょうね……?」

「さぁ?なんかアップデートでも来たんじゃない?それよりー……どんだけ食べても太らないって、素敵だよね!!美味しいものいっぱい食べられちゃう!」

「……言っておきますけど、太らないということは()()()()()()()()()()()()()()ってことですからね?その辺り、パンフレットにも書いてありましたよね?」

「ん~、わかってるわかってるって!それよりほら、これ食べてみて!」

「むぐ。……美味しいですね」

「でしょでしょー!?もー、こうなったら私、ここのメニュー全制覇するー!!」

「……はぁ。まぁ、別にいいですけど」

 

 

 ……なんかこう、微妙に気になる女の子二人の会話に耳を傾ければ、どうやらこの事態は運営側が最初から想定したもの、ということになるらしい。

 んなばかな、私らが見た時パンフにはそんなこと書いてなかったぞ、とパンフレットのことを思い出そうとして……。

 

 

「……すみません、落としましたよ?」

「えっ、あ、ごめんなさーい!それからありがと!……って、すっごい美少女!?」

「失礼ですから止めなさい…………確かに、可愛いですね」

「……ええと、それでは私はこれで」

「あっ、ごめんね、なんか引き止めたみたいになっちゃって!」

 

 

 いえいえ、と手を振りながら、()()()()()()()()パンフレットを拾ってあげた私。

 ……表面上は普通にしていたが、その実内心はやられた、みたいな感覚でいっぱいであった。

 とはいえ、それは彼女達のせいではないので、決して顔には出さずに帰って来た私。

 突然移動した私に、みんなはなんだなんだ、みたいな顔をしていたが……その手の内に()()()()()()、先ほどの少女達が落としたパンフレットを見せれば、その疑問も容易く氷解するのであった。

 

 

「……運営は黒だ!!」

「マジかよ……」

 

 

 そう、そのパンフレットは、ドトウさん(マッキー)が持っていたモノとは全くの別物。

 一般向けと『逆憑依』向け。それぞれに違うパンフレットが渡されていたことを知り、私たちは運営を黒と断定することになったのでありました。

 

 




うーん、ちさたきは いいぞ。
でも二次創作で違う人とくっつくのも(それがいい作品なら)いいぞ。
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