なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……ここに来るのも久しぶり、ですね」
「なんじゃ、一度来たことがあるのか?」
「去年に一度だけ。……まぁ、あまり訪問したいところでもないですからね、ここ」
「あー、ドクターウェストだっけ?大分変人、みたいなことを聞いたことがあるけど」
久方ぶりに例の運営会社があるビルまでやってきた、私たち一行。
……なのだが、実はこうしてここにたどり着くまでに、一悶着あったりしたのだった。
とは言っても、リアル側の道中になにか問題があった、というわけでなく……。
「いやー、メンバー選考でそれなりに時間を食ってしまったのぅ」
「まぁ、あとの事を思うとね……」
そう、単純にメンバー分けの時点で、議論が紛糾してしまったのだ。……というのも、リアル側で動きたいという面々が多かったのだ。
私はまぁ……最初から分裂してどっちにも同行、という形だったので問題は無かったのだが。
「……いやいやいや。ここはあれだろ、リアルで乱闘騒ぎになりそうってんなら男手の方が必要だろ?なぁキーア?」
「え?……えー、えーと……」
「それだったら、リアルでも普通に戦闘力がある私たちの方が良いよね、キーアちゃん?」
「え、ええー……?」
まぁ雑に言ってしまうと、エメ側の探索を嫌がる人が多かったのである。
しかし、それもまた仕方のない話。確かにリアル側はあのドクターウェストを筆頭とした、明らかに頭の痛くなる面々との対話が必要となるわけだが……それでも、今回の騒動の中心地は『tri-qualia』の中の方。
端的に言ってしまうと、リアル側の方が必要な労力が明らかに低く見えるのである。となれば、できる限り楽をしよう、みたいな空気になってしまうのも仕方のない話で。
……いやまぁ、気持ちはわからないでもないのだ。
だって単にめんどくさいだけのドクター達と、めんどくさいのに合わせて厄介そうだったりしそうなゲーム内の騒動を比べれば、前者の方が比較的簡単そうに見えてしまうのは仕方のない話だし。
実際、ゲーム内の仕様外拡張──五感の電脳化は、ゲームの外からどうにかする、ということはできまい。どう足掻いても、ゲームの中から解決策を模索する必要があるはずだ。
それがどれほどの労力を必要とするのか、現状では想定もできないが……少なくとも、ゲーム外であれこれする分に比べると、遥かに面倒臭いものになっているのは想像だに難くない。
そりゃまぁ、やりたくないって人でごった返しても仕方ない、というやつなわけである。
とはいえ、それはみんな同じ話……いや、一部以外の人間には同じ話、というか。
「ボクはこっちー」
「じゃあ我もこっちだの。……まぁ、端から表に回る気は無かったが」
「アグモンとハクさん?……ええと、アグモンはわからなくもないけど、ハクさんも?」
「……いや、お主すっかり忘れておるかも知れぬが、我ってば『白面の者』だからな?」
「あ」
あっ、ってお主なぁ……と呆れたような声をあげるハクさん。……そういえばそうだ、この人すっかり馴染んでしまっているけど、その本質は【顕象】──それも特級危険物の『白面の者』が様々な【継ぎ接ぎ】の末成立したものなのだった。
そのあり方は【継ぎ接ぎ】ながら【複合憑依】に近く、それゆえに安定しているが……本来人のごった返すような場所に、なんの対策も講じずに放り出していいタイプの存在ではないのである。
あり得ない話ではあるが、バレンタインの空気に当てられて第二・第三の『白面の者』……いや、この場合は彼女の尾と言うべきか?……まぁともかく、そういう危険物以外の何物でもないモノを発生させてしまっては、目も当てられまい。
……一応、なりきり郷自体が感情の窪地になっていて、そういうものを集めやすいにも関わらず、彼女がそういうものを生み出して居ない時点でいわゆる余計な心配、というようなものである可能性もあるが……。
同時に、彼処には彼女と似た境遇の者が複数存在している以上、彼ら彼女らの間でそういうものの発散の役割を無意識の内に分担しており、結果として【兆し】になるほどの純度を得ていない……端的に言えば『フィルターがいっぱいあるので濾過が間に合わなくなることがない』、みたいなことになっている可能性も同時にあるわけで。
後者が正解の場合、迂闊にそういう役割を持つ面々を外に出すと、目も当てられない事態を引き起こすかもしれない……なんて予想を、笑って否定できなくなってくるのである。
……え?そのわりにビワとかは結構外に出てた気がする?いやまぁ、彼女の本体はビッグなほうのビワだったわけだし、浄化云々もそっちの領分だし……。
まぁそうでなくとも、そもそも【顕象】である彼女の外出許可というのは、そう簡単に降りるモノではない。
そういった諸事情を加味するに辺り、彼女はこっちで捜査を続行する、というのが一番角が立たないのも確かな話なのであった。
……というわけで、彼女達二人を除いた面々で、再度議論が始まったわけなのだけれど。
結局、いざとなれば『憑神』を呼ぶことができるかもしれないハセヲ君が、こっちのトラブルには一番適任かつ現実世界での戦闘力がほぼない、ということで真っ先に残留が決まり。
ついで、彼に引き摺られる形でキリトちゃんとアンチノミーさんも残ることが決まって。
「……で、リアルでも荒事に対応できる私とミラちゃんが、こっちの担当になったんだよね」
「なんかこう、どこかで見たことのあるメンバーになってしまったのぅ」
「樹海……破壊の光景……通信不良……うっ、頭が!」
「やめようキリアちゃん、そういうのフラグって言うんだから、ね?」
で、最終的にこのどこかで見たことあるような三人組が、リアルの方での調査を任される形となったのだった。……なんか嫌な予感しかしねぇ!*1
……え?
寧ろ彼女が外に出られるわけない(主に真相を明かしたくない的な意味で)じゃないですかやだー。
まぁ、ビビってても仕方ないので、意を決して運営会社のビルに突入した私たちなんだけど。
「むむ、またもやお前達、否や貴様達か。だが生憎千万、うちのご主人は留守なのだな」
「あれー?」
そこで待っていたのは、大層暇そうに社長室を掃除している、メイドなタマモキャットただ一人なのであった。
なんでも、聞くところによれば件の社長……もといドクターウェスト、この数日ほど仕事で留守にしているのだとか。
「ふむ、あんなのでもキャットの主人、すなわち猫缶。ニンジンを所望するより安上がりだが、決してプライスレスではないのだな」
「……ええと、どういう意味?」
「えーと……多分心配している、のでしょうか?」
耳の垂れ下がったキャットの発言を読み解くに……多分、こっちにろくに連絡も寄越さぬまま、ここを留守にし続けている……みたいな感じだろうか?
……まぁ、ここで待ってても戻ってくる様子もなかったので、仕方なしに彼女に別れを告げ、ビルの外に出てきた私たちである。
「……どう思う?」
「うーん……タイミングが良すぎる気がしますが、それ以上に
「わかり辛いのぅ……つまり、どういうことじゃ?」
「別にあの人達に予言能力とかはありませんから、私たちが訪ねてくるタイミングでここにいない、というのは確かにタイミングが良すぎる気がしますが……同時に、このタイミングの良さは
で、場所を近くの喫茶店に移し、先ほどのあれこれがどういうことなのか、と考察を始めたのだけれど……。
こちらの訪問に対し、もっともらしい理由で席を外している……というのは確かに疑わしいが、同時に
その理由は、彼らの中に予言能力者が居ないことと、
「あの三人の内、基本的に表側に居るのはドクターウェストです。茅場に関しては表に出ているだけで
「なんだか、色々と難儀なことになってるんだね……それで?それが何故彼らが偶然居なかった、って思うことに繋がるのかな?」
「ドクターウェストは、無限に等しい繰り返しの中で、
「この上ない説得力!?」
彼らの主体が、基本的にドクターウェストにあることにあった。
……彼ら三人の内、恐らく対外的に一番コミュニケーション能力が高い、ないし
実際には、彼も大概な人物なのだが……自身のゲームを世に送りだし、実際に凶行に及ぶまでその危険性を隠し通した手腕は、彼が人の良さを擬態する術を持つ証左としては十分だと言えるだろう。
……まぁ、そういう意味では神の方でもできなくはなさそうだが、彼は完全に拗ねているらしく、一度も姿を見せたことがない。理由が理由だけに、そうそう表に出てくる気にはならないだろう。
そう考えると、比較すべきなのは茅場と、ドクターウェストの二人と言うことになる。……この二人なら、一般受けが良いのがどちらか、という問いに迷うことはあるまい。
だがしかし、実際に他者との対応を一手に引き受けているのは、なんとドクターウェストの方。……その理由は、茅場が表に出すぎると、虞美人パイセンという文字通りの爆発物を引き寄せてしまうがため。
……あの状態のパイセンは完全に暴走機関車なので、制御することは不可能である。
そう考えると、消去法的にドクターウェストの姿を取らなければいけない、というのはすぐに理解ができてしまう。周囲に爆発痕が無かった辺りも、その説を後押しするだろう。
そして、そうして主人格として抜擢された彼には、一つの有名な話がある。
それは、彼の原作における一種の偉業。
その作品では、
その人物は、何度も世界を繰り返す内に飽いていったわけなのだが……そんな彼が、唯一目を見張る存在があった。
──そう、それこそがドクターウェスト。無限に等しい繰り返しの世界の中で、
「つまり、彼の行動はこっちに予想なんてできないのです。……こっちの期待を裏切る、という点に置いて、彼より優れている人は居ないに等しいのですから」
「ええ……」
なお、そんな彼の無茶苦茶っぷりを聞いた二人は、わりと真面目に引いていたのでありましたとさ。