なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

558 / 1297
探し人、待ち人至らず

「う、うーん。とりあえず、社長さんが居なかったのはわざとだけどわざとじゃない、ってのはわかったかな。……それで、私たちはどうするの?追い掛ける?」

「そこなんですよねぇ……」

 

 

 前回より引き続き、喫茶店で駄弁っている私たちである。

 アスナさん達は、ドクターウェストの出鱈目っぷりに真面目に考えることを放棄したようだが……そのまま他の思考まで放り投げるのは止めて欲しい、というか。

 だってほら、予測も予想もできないのがドクターウェストなわけで。……探すのとか無理でしょ、マジで。

 

 つまり、居ないのは仕方ないが、だからといって探しに行っても見付けられる気がしないというか、下手すると探しに何処かへ行ったタイミングで戻ってきかねないというか。

 ……そんな感じの人なので、もういっそ放置するくらいでいいのでは、みたいな感想が飛び出してきてしまうのだ。流石にそれはどうなん?……みたいな気分になるのも仕方がない、というか。

 

 

「むぅ、その時々においてなにをするかの予想が全く付かぬ、と。……論理的に言うのなら、常に波動関数が定まらぬ、みたいな感じかのぅ?」

「なにその永続的シュレディンガーの猫」

 

 

 いやまぁ、ある意味間違いではないとは思うけど。やり過ぎて邪神を困惑させたこともあるし、あの人。*1

 

 ……まぁともかく、居ないと言うのなら今は会えないのだろう、と考えておくのが正解だ、というのは確かな話。

 なので、他のことをするしかないのだけれど……うーむ。

 

 

「……早々に、こちらですることがなくなってしまった感じがありますね」

「確かにのぅ、わしらは現実方面から攻める……という目的で一時ログアウトしてきたわけじゃが、このままだとなんの成果もないままに戻るしかなくなるのぅ」

 

 

 最大限に怪しい場所であった運営会社が、真っ先に探す意味がなくなったのだからそりゃもう、私たちの商売……もとい仕事も上がったり、というものである。

 一応、彼の秘書的立場のタマモキャットは居るけど……彼女から話を聞く、というのはドクターウェストを相手にするよりも困難なもの。

 原作者曰く『かわいく、たのしく、そうめい、ちょっと三秒か三年くらい未来の考えで、つねに真理だけをかたり、ご主人のためにいきる』とかいう思考回路なのが彼女*2なので、正直まず彼女のなりきりができてる、って時点でわりと難敵なのだ。

 

 

「まぁ一応、『本来語りたいこと』を未来視点に変えて、そこにギャグやユーモアを加えて煮立てれば、なんとなーくキャットさんの台詞になるっぽい、というのはわかりますが」

「……いや、なに言っとるんじゃお主?」

 

 

 ついに壊れたか?などと失礼なことを言うミラちゃんにチョップを食らわしつつ、運ばれてきたデザートをつまみながら、どうしたものかとため息を吐く私なのでありましたとさ、まる。

 

 

 

 

 

 

「……ってことらしいよ?」

「うーん、偶然なのか必然なのか……」

 

 

 そんな感じの念話が向こうから来ましたよー、と周囲のみんなに共有した(キーア)

 それに対してのみんなの反応は……あーうん、大体頭が痛そうにしてるね、仕方のない話だけど。

 

 この中では、実際に彼に会ったことのあるハセヲ君が顕著だが……相手は『こっちの思惑を外れてくれるならまだマシ』なタイプ。

 下手するとこっちの思惑を勝手に解釈し、斜め上の対応をしつつ着地点はしっかりしてる……みたいな、とにかくこっちの胃を破壊する気しかないだろお前、という感想がいの一番に飛び出すタイプの存在である。

 ゆえに、向こうからの報告にあった『向こうはこっちを避けてないが会えない』の意味も正確に理解し、どうしようもないことをきちんと把握して、ううんと唸るしかできなくなっているのであった。なんというか……まさにはた迷惑、というか。

 

 そんなこんなで、流石にこのまま戻ってくるのもあれ、ということで表で色々探してみる……と締め括られた向こうからの念話。

 特に、この再現の元となったエメ、そこに半ば融合していたイマジン……もとい魔列車を取り込んだ夏油君ならば、なにかしら有益な情報を持ってるかもしれない……という締めの部分は、彼女達が互助会に向けて出発した、という事実を端的に示していたのだった。

 

 

「互助会で資料探し、ねぇ。……よくよく考えたら、こっちには互助会メンバー居ないのよねぇ」

「……そ、そうですねぇ。マックイーンさんがいらっしゃったら、色々聞けたかもしれないですねぇ!」

「……ん?ってことはアンタ、うち(なりきり郷)にも向こう(互助会)にも所属してないのか?」

「そそ、そうなんですぅ!今はどうしようかなー、と迷ってる最中なんですぅ~!」

「ふーん……」

 

 

 そこまで把握して、ふとドトウさん、もといマッキーの方を見つめる私。

 

 ……一応、今の彼女の中身がマッキーである、と気付いているのは私とミラちゃんくらいのもので、かつ彼女は中身が自分であると気付いて欲しくないため、こちらに痛くなるほどの熱い()視線を向けてきているわけなのだけれど……。

 よくよく考えてみたら、互助会で資料を漁るのなら彼女が居た方が良かったんじゃないかなー、的な思考もなくはない私である。

 いやまぁ、この個室は彼女がチケットを購入した結果借りられているものなので、彼女がこっちに居ないというのはありえない話なのだが。

 とはいえ、最終的に互助会に訪問することになるのであれば、最古参である彼女が居れば色々スムーズだったんじゃないかなー、など思ってしまうのも確かな話なわけで。

 

 ……そういう意味で、ジトっとした視線を彼女に向けてしまうのも、ある意味仕方のない話なのです、はい。

 

 

「とはいえ、こっちもこっちで行き詰まってるんだよなぁ」

「まぁ、確かに。本来の行程をそのまま持ってきてる形だから、最後の方まですることないんだよねぇ」

 

 

 だが、キリトちゃんの言う通り、こっちも調査が行き詰まっている、というのも確かな話。

 なにせこの列車、元々のオーナーさんが現実でやろうとしていたバレンタイン運行をそのまま再現しているため……具体的には終点である北海道まで、基本的に単に観光する以外の変化がないのである。

 

 さて、バレンタイン運行の再現と言いつつ、どこまで再現しているのか?……みたいなところが曖昧だったこの列車だが、ここで改めておさらいしておこう。

 

 電脳空間に再現された豪華クルーズトレイン、という名目の存在であるこの列車は、スタートこそルートタウン内というファンタジー的な場所だが。

 そこから伸びる線路や風景は、全て本来この列車が走るはずだった場所──つまり現実空間のそれを、電脳空間に忠実に再現したものとなっている。

 それは、かつてのオーナーさんの会社が保有していた独自路線まで含め全て再現した、完全なこのイベント専用のマップ。

 ……流石に日本全土をこのためだけに再現する、とは行かなかったので、通過する線路周りの風景や街だけを再現したものになっているらしいが……それゆえ、単なる景色だけに絞れば、その再現度はまさしく最上級。

 正直、電車に乗って景色を見て帰る……という、単純化した目的だけを見れば明らかに無駄、と言われても仕方のないレベルの金の掛かり具合である。……まぁ、だからこそ本物でもないにも関わらず、結構な乗車賃を求められることになったのだろうが。

 

 旅行期間が長いこともあり、原則的に戦闘の可能性はなし。……言い換えれば、ホームでもないのにそこらでログアウトしても問題がない、ということになるわけだが……ともあれ、ログアウト中も列車は運行を止めないため、特定の区画の景色を楽しみたい、などの気持ちがあればそれに間に合うようにログインしておく、などの行動は必要だったりする。……個別ではなく団体で参加するイベントなので、個人の都合には合わせてくれないというか。

 

 また、日本各地を列車で旅をする、というコンセプトでもあるため、各所の名物の再現にも結構な手間隙が掛かっているとかなんとか。具体的には関係各所への許可とか監査とか。

 まぁその甲斐あって、本家さんも満足の再現度に仕上がってるらしいのだが。……え?実際に再現に際して労力を負ったのは『tri-qualia』のプログラムの方?

 

 ともかく、そんな感じで意外と力の入りまくっているこのイベント、おかしいことがあるとすればこれが『普通に切った張ったするゲーム内で行われているイベント』である、ということだろう。

 列車内では原則戦闘は禁止だし、その規則を破れば強制退場もあり得る……という、徹底的に旅のみを楽しむ仕様となっている辺りからも、その本気度というのは察せられることだろう。

 ……まぁ、流石に景色以外の楽しみがないのも、ということで本来のエメと違って、後部車両には簡易カジノ的なものが併設されているらしいが。

 

 また、先述していたように、この列車の本来の目的は『バレンタインを祝うこと』である。

 ……流石に電脳空間内では大したこともできないので、本来あった料理教室はオミットされている(というか、そうして空いた部分にカジノ車両が差し込まれている)らしいが、システムパネルから申請すれば告白のためのスペースを借与してくれたりもするのだとか。

 まさに至れり尽くせり、チョコ貰っても味はしない、という点を除けばパーフェクトだと言えるだろう。

 

 ……というのが、私たちの見ていたパンフレットに載っていた情報だった。しかして一般層に配られていたものは、微妙に違う情報が載っていたのである。それが、

 

 

「この列車内部に限り、食事や風景などの『五感』に頼る経験が()()()()()()()()()()……みたいな話だったか?」

「そうだねぇ、さっきのパンフにはそんな感じのことが書いてあったねぇ」

 

 

 この列車の車内に限り、五感による体験を得られるというもの。……流石に触覚は痛覚に通じるからか制限があるようだが……その他の視覚・聴覚・味覚・嗅覚に関しては、システムから出力を『リアル』に変更することができる、という謳い文句なのであった。

 ……一応、双方向ではなく一方的な電気信号の送りつけ、かつ脳に悪影響を与えない程度の出力によって……みたいな、とてもそれっぽい説明文が長々と書かれていたが……多分、正解しているのは多くて二割程度、といったところだろう。

 だからこそ、私たちも運営が黒だ、と思ったわけなのだし。……少なくとも、なにかしらの異常存在(『逆憑依』とか)が関わっている、と見ておいた方がいいだろう。

 

 ゆえに、この列車の裏を探らなければいけないのだが……現状、その糸口すら見つからず立ち往生している私たちなのでありましたとさ。

 

 

*1
『デモンベイン』シリーズの一幕。邪神の企みを彼が打ち砕いた、というトンでもルートが存在する。それゆえ、黒幕は困惑した挙げ句に宇宙のリセットを行ったとかなんとか

*2
とあるインタビューより。タマモキャットの台詞を書く時の心構えみたいなものだが、大抵の人々が宇宙猫と化した

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。