なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……うーん、なーんか気になるんだよなー」
「気になるって……なにが?キリトちゃん」
もう一人の私と、別行動を取り初めてはや二日目。
なにか有力な資料でもないか、と彼女が互助会に向かったのに対し、こっちに残った私たちは相変わらず列車内を探索していたのだけれど。
先日からずっとなにかを気にしたような様子を見せていたキリトちゃんが、思わずとばかりに声をあげたため、私たちは彼女に注目することに。
で、そうして注目を集めた彼女が主張したのが、先日の食堂車で出会った二人についてのこと。
……要するにパンフレットを落としたあの少女達のことなのだが、キリトちゃんが言うには彼女達には
「んー?もしかしてあの子達が『逆憑依』かもってこと?……けど、あの二人の見た目、ちょっと違う感じだったよ?」
「ああ……リコリコだっけか?なんか一時期、滅茶苦茶流行ってたよなあれ」
「うむ?そのりこりこ……とやらが我にはわからぬのだが……?」
「あーうん、ハクさんの守備範囲ではなさそうだよね、確かに」
……そんなわけで、ちょっとしたリコリコ解説タイムに。
まぁ、私もそんなに詳しくなかったので、みんなでアニメ鑑賞タイムに変わっちゃったわけなんだけど……。
「……ふむ、ガンスリ系かと思っていたが、意外と違うのだな?」*1
「いや、あれはあれでそうそう真似できるようなモノでもないでしょ……」
お労しさがエグいわ、いやまぁリコリコもわりとそんなとこあるけども。*2
……みたいな感じで語り合いつつ、改めて彼女達の姿を思い浮かべることに。
確かに、全体的な空気感とかは彼女達を思い起こさせるモノだったわけだけど……だとすると、幾つか看過できない違和感があったわけで。
まず一つ目が、千束の髪の色。アニメだけだと金髪に見えなくもないが、あれは系統としては黄色掛かった白髪、ということになるらしい。
なんでも、実は病弱系でもある彼女の髪の色が典型的な青系の白髪だと、あまりにもベタだ……ということで変更されたのだとか。*3
確かに、属する組織において最強と称されるほどの実力を持つ人物が、病弱かつ白髪キャラ……だと、色んなキャラを想起してしまって『どこかで見たことがある』なんて言われてしまう可能性は否めまい。トキさんとかの系統、というやつである。
そこを考慮して思い起こして見ると、件の千束っぽい人の髪の色は、普通に青系の白髪であった。
……プロトタイプという言い訳はできなくもないかもしれないが、ネトゲ内の『逆憑依』が基本自身の姿そのままになることを思えば、細かいことではあるとはいえ髪の色が違う……というのは考え辛いことだと思われる。
次に、相方であるたきなの服装について。
彼女達が属する『リコリス』は、犯罪が起きる前に犯人を殺すことを許可される『
これは、『そこらに普通に居るような女子高生が、そんな凄腕エージェントだとは思われまい』という一種の先入観を利用したモノでもあり、彼女達の制服はある意味現代の迷彩服と言える代物だ、ということになるのだが……。
だとすると、あのたきなが来ていた制服は、言い方は悪いがとても
ところどころに和風を感じさせる意匠が凝らされたその制服は、ふと見た時に抱く印象が、普通の制服とはまったく違う。
ただの制服を迷彩として使っているのだから、そういう個性が滲み出てしまう意匠は本来避けて然るべきものなのだ。
……というか、原作のたきなに『和』を感じさせる要素なんて、それこそその髪の色くらいのもの。
そういうところを鑑みるに、彼女の纏う空気を大きく変化させるそれらの服装は、『逆憑依』がアバターとなる時の原則からするとどうにも違和感を感じさせてしまうのである。
「……あー、デフォルトだと存在しない服装でも、俺らの場合はそれがデフォルトとして発生する……みたいな?」
「だねぇ。ハセヲ君のデフォルトの服装とか、わりと奇抜よりだからね、実際」
奇抜……と微妙な顔をしているハセヲ君だが、しかしてその服装が奇抜寄りなのは間違いない。
だって、
その
で、現在の彼の姿である
……でもやっぱり方向転換し過ぎな気もする。だって黒から白、だからね。いやまぁ、小説版の彼の
……え、
とまぁ、あんまり正統派なカッコよさには繋がってない感じのあるハセヲ君である。
……いやまぁ、全体的に見ればちゃんとカッコいいんだけどね?でもちょっと肌出しすぎ刺々しすぎ、みたいな感じもあるというか。
閑話休題。
まぁ要するに、彼の服装はあまり類例がないタイプのもの、ということ。
にも関わらず、彼のデフォの服装はゲーム内のそれそのものであった。……ということは、『逆憑依』のアバター時の服装というのは、そのキャラのパブリックイメージに沿ったものになる、というのが普通なのだろうと予測できる。
つまり、あのたきなっぽい人の服装が普通の制服でない、という時点で『それっておかしくないかな?』ってなる、というわけなのだ。
いやまぁ、運営から贈呈された特殊アバターがあれば、先までの違和感も払拭できるんだけどね?……でもこう、ほんのり本人と違う感じの──言ってしまえば
要するに、指摘できる程度には違いがあるけど、まったく別のキャラと主張するには弱い……みたいな違いなので、あれが
「ふぅむ、別人認定には浅いが、本人認定には深い……そんな違いと言うわけか」
「そうだねぇ。それと、本来『逆憑依』の見分けに使える『他と反応が違うところがある』っていうのも、今この列車の中だとまったく宛にならないってのも問題だったりするねー」
ハクさんがむぅ、と小さく唸る。
そう、今回の話がややこしくなっている一番の理由は、この列車に乗っている限り『逆憑依』と普通のプレイヤーの差異が限りなく小さくなっている、というところにある。
私たち『逆憑依』は、普通の生活でも常にアバターを被っているようなものであるため、こういうネットゲームにログインするとその辺りが判定に悪さをし、結果として憑依部分が電脳空間における感覚器としての役割を果たしてしまう……という問題があるが。
その問題は、逆を言うと私たちの同類を見分ける手段として、とても有効なモノとなるという利点にもなっている。
この『ネトゲにおいて勝手にフルダイブになる』というのは、『逆憑依』だけではなく【顕象】でも起きることなので、実はその辺りの見分けには使えなかったりするが……そもそも現実でもその辺りの見分け方は自己申告の部分もあるため、大して問題じゃなかったりする。
まぁともかく、本来私たちと普通のプレイヤーは、見分けることがとても簡単なのだ、ということは間違いではない。
だがしかし、現在私たちが乗り込んでいる豪華列車・エメにおいては、その判断方法は使えなくなってしまっている。
そう、この列車そのものが感覚器として代替を行っているらしく、元が普通のプレイヤーであっても今は料理の味などを楽しむことが可能になってしまっているのだ。
そのせいで、私たちはある種のアドバンテージを失ってしまっている、というわけなのである。
……いやまぁ、できないことができるようになっている、ということ自体は喜ばしいことでもあるんだけどね?
ただこういう『逆憑依』かどうかわからない相手に相対した時、それを判別するもっとも確実な方法が封じられている……ということになるのはちょっと問題かなー、というか。
そんなわけで、どうにも確証が持てないためううんと唸る羽目になった私たちは。
「……とりあえず、様子を見るって意味も込めてもう一度食堂車に向かう、というのはどうだろうか?ここで無闇に唸っていても、解決できるものも解決できないだろう?」
「……んー、アンチノミーさんの言う通り、かな?正直今のところ他にできることもないし、キリトちゃんの違和感を解消するってことを優先しても問題はないと思うし」
そうして、再び食堂車まで向かうことになったわけなのであった。