なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
はてさて、今まで感じていた違和感の正体が、少女達の動きがあまりにも自然すぎた、ということにあったのだと確信した私たち。
そうなると、あれはやはり『逆憑依』なのだということになりそうなのだが……一応、驚異的なエモ廃ならやってやれなくもないかも?……みたいな部分もあり、あともう一押しくらいなにか確信めいたものが欲しい感じの私たちなのであった。
いやだって、ねぇ?
状況証拠的にはまごうことなき黒なんだけど、だとするとやっぱりあの姿が変……ということになってしまうというか。
だって『逆憑依』って、
………………ん?
「どうしたんですかぁ~?私の顔なんか見つめてもなにもありませんよぅ~」
「……あー、それならあり得る、のかな?でも……いや、それくらいしか……」
「いや、いきなりなにをぶつぶつ言ってんだよ、ビビってんぞそいつ」
「び、びびびビビってなんかないですぅ~!」
ううむ、と悩みながらふと視線を向けた先。
そこにいたのは、なにやらあたふたと慌てたような動きを見せているドトウさん……もといマッキー。
彼女は中身が
そう、他人になりきること。
それは、本来とても難しいことである。……いやまぁ、『逆憑依』がなにを言ってるんだ、という話なのだが。
ともあれ、
──なりきり郷において、胸を張って『なりきれている』と言えそうなのが、行き過ぎて危うさを兼ね備えるまでに至った、レベル5に分類されるマシュやシャナくらいのものである……ということからわかるように。
無論、他の人々がなりきりに真剣に向き合っていない、という話ではない。ここで重要なのは、彼女達のレベルまで行くと『なりきり』というよりは最早『演劇』のレベルに達している、ということにある。
いつぞやか語ったように、なりきりの最上級というのは俳優、それもその中にある特殊例の『メソッドアクター』になる。
これは、最早役がその人に乗り移ったレベルの演技力、ということになるわけだが……そのレベルまで行くと、本来の人格に影響を及ぼすことさえあるとされている。
それくらい、役と自我の境界を曖昧にしてこそ、なりきりというものが本来目指すものに近付けるということになるわけなのだが……正直な話、そんなレベルまでなりきろうとする人間というのは、ごく少数でしかないだろう。
当たり前だ。だってそれは自己的な人格改造、下手な言い方をすると遠回りな自殺ですらあるのだから。
自分ではない誰かになりきることで、本来の自分が歪められるなど、やり方としてはあまりに歪、あまりに特異すぎるだろう。
無論、そういうやり方でしか辿り着けない境地、というのもあるのだろうが──普通、それを遊びの延長線上で目指そうとする者は居ない。
──そう、遊び。
なりきりなどと呼称する場合、それは普通遊びの延長線上でしかないのだ。
互助会の人達のように、本来の自分の方を付属品だと勘違いしてしまい、結果としてなりきりの範疇を飛び越してしまった人も居るけれど──そういう特殊な例を除けば、大抵の『逆憑依』はキャラの人格を持つものの、それだけに傾倒することはない。
そのキャラにとっての常識でも、それが今の常識にかち合ってしまうのであれば、容易に折れることができる……それくらいの柔軟さを持ち合わせていることがほとんどだろう。
だがしかし、そうなってくると困ったことが起きてくる。再現度だ。
例えば極悪非道の悪役に『逆憑依』してしまったとして、その人物そのままをなぞる、ということはできないだろう。現代の常識にかち合う思考や行動を、
──だがしかし、そうして自重したキャラクターは、はたして元のキャラと同一だと言い張れるだろうか?
「……つまり、今の姿の俺はまだしも、以前の姿の俺ならもう少し刺々しくしとくべきだった……みたいな話か?」
「まぁ、ハセヲ君はわかりやすいよね。……いや、ハセヲ君は寧ろわかり辛いかも……?」
「……いや、今は裏設定とかいいから」
ばみょん、なんて言わねーよ。*1
……などという言葉がハセヲ君の口から漏れたが、一先ずスルー。……いや、彼の場合裏設定とか考えるとドツボにはまるから、ね?
まぁともかく。
そのキャラがしそうにない言動というのは、『逆憑依』・ひいてはなりきりとしての再現度を下げていくものである、というのは確かな話。
そこで一種の逃げ道として用意されているのが──二次創作的なキャラの誇張だ。
要するに、モノマネ芸人などが行っていること、ということになるか。
特徴的な言動をするキャラの、『特徴的な部分』を強調して笑いを取る……というそれは、正確性という意味での再現度とはまた別の方向性の再現度を稼ぐのに、実に持ってこいのやり方だったりする。
そのキャラ自身である、と周囲に納得させればいいのであれば、これほどわかりやすいモノもないだろう。
「例えばハム太郎なら語尾に『~なのだ』って付けるだけでも、なんとなく似ている気になってくるし。わしって喋るロリっ子ってだけでも、何処と無くミラちゃん感は出てくるよね」
「ああ。だからこそ私達のような、言動に特徴のないキャラはやりにくい、なんて話になってくるわけなのだが……」
「そういうキャラは
アンチノミーさんの言う通り、言動に特徴のあるキャラクターというのは、
無論、ちゃんとそのキャラ自身に見せるためには、やはりキャラクターの理解力を高めていく必要があるが……今その場で笑いや興味を引く分には、その程度のやり方でも問題はないはずだ。
──そう、なんとなく似ていれば十分。
それこそが、今回の違和感を解く最後の鍵だったのだ。
「……鍵?」
「なりきりという行為から生まれた私たち『逆憑依』は、その成立過程からして『他者になりきる』という行為に弱いと言える。……わかりやすい例は【継ぎ接ぎ】、かな。既になにかを模倣している私たちは、別のものを模倣しすぎると本来の自分自身に属性を加えてしまう──言い方を変えれば自分というキャラを
「……あー」
そう、私たち『逆憑依』に付き纏うモノ、【継ぎ接ぎ】。
本来の
そうして出来上がったものは元のそれではなく、新しいなにか。……定義が変わっているため、再現度の計算もまた新たに行われているとおぼしい。
言うなれば、二次創作のキャラとしての再現度、と言えるか。先の『笑いを取るためのモノマネ』と、扱いとしては近いものがあるかもしれない。
違いがあるとすれば、こちらは必ずしも笑いを取ろうとしているわけではない、ということか。
「なにかを強調した結果変質するのではなく、新しい要素を加えたことで変質したもの。……ある意味では連載当初と終盤のキャラが違う、という話に通じるものでもあるのかな?」
「ハセヲと楚良みたいな?」
「……なんで今回それを引っ張るんだよ……」
真剣に変な語尾を使うキャラ、みたいな感じかもしれない。
例えば遊戯王のキャラクターの一人、ティラノ剣山*2は語尾に『ザウルス』などの恐竜関連のワードを付けるキャラだが……それは別に彼がふざけて言っていることでない。
シュールな笑いを誘うものの、彼自身のそれは紛れもないアイデンティティである。……【継ぎ接ぎ】で付与される属性も、それに似たようなもの。
ギャグ世界の住人でもなければ、付与される追加部分は、あくまでも真面目にやった結果でしかないのだ。
さて、話を戻すと。
違和感があるというのは、恐らく逆──
「……!?」
「それが自然になっていると、そこに笑いは生まれない。……シリアスな笑いとかは今は置いといてね?真面目にやったら経過はどうあれその人の個性として馴染む、って話なんだから」
確かに、ティラノ君の喋り方は個性的……もっと言えば変なものだろう。
だがしかし、それを作中の人物が殊更にあげつらう、ということはなかった。……少なくとも、あの世界の中でのあの喋り方は、比較的ありふれた方のものだということになる。
つまりはまぁ、そういうこと。
他者に違和感を抱かせるというのは、逆にそれによって『自分がそうではない』と知らせているのに等しいのだ。
──そう、マッキーがドトウさんになりきらないのは、やり過ぎて『ドトウさん』がマッキーに【継ぎ接ぎ】されないようにしている、という見方もできる。
「……あ、あー。俺がイシュタルの服着てる時、
「だね。周囲から見て、なにを真似ているのかはわかるけど明らかに違う……みたいな状態は、
そも、なりきりが難しいのは先述した通り。
……一つのなりきりをしながら、また別のなりきりをするというのは、言うなれば二人羽織をしているようなもの。
無理が祟ってそもそも
それでもなお、そのキャラを真似していることを主張するのであれば。
それこそが、今回私が言いたかったこと。つまり──、
「あの二人は、別の誰かが似たような格好をして似たようなキャラを演じてるだけ!つまり、あれは単なる運営から配布されたアバターだったんだよ!」
「な、なんだってー!!?」
あの二人は、千束でもたきなでもない第三者だ、ということだ!……結論まで長かったなぁ、マジで。