なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「なるほど、キリトみたいなもんだったってことか……」
「……いや、最初からその説明で良かったのでは?」
「いや、キリトちゃんってさっきの定義からすると、微妙にずれるし……実はもっとぴったりな人が居るけど、今はそれを指摘できないし」
「なな、なにか言いましたかぁ~!?」
「いやー、別に?なにも??ドトウさんはいつも通り、その可愛さでみんなを癒しててね???」*1
「……は、はーいですぅ~……」
ようやっとあの二人がアバターを被っただけの別人だ、という気付きに至ったわけなのだけれど。……ううむ、説明が長いのは私の悪癖だからね、仕方ないね。
……いやまぁ、もっと簡潔に説明するための例、実は私の視界内に一人居るんだけどね?
でも彼女ってばその辺りのこと周囲にバレたくないらしいから、ここで一例としてあげるのはムリかなーというか。
……そう、そういう遠慮とか配慮とかを除けば、
しかし、そうなってくると次に気になるのが、あの二人の中身が誰なのか、という疑問。
彼女と同じということは、あれはあくまでもアバターである、ということになる。
……
いやまぁ、なりきりなんて性別詐称は当たり前の部類だと思うし、そういう演技をするのはお手の物……って気もするんだけども。実際、細かく見れば私もそれの区分に該当するわけだし。*2
「……なんだっけか、薔薇で作った百合の造花?」*3
「見た目が良ければなんでもイケる、というのは人間の業そのものだな……」
「……いや、中身が男だって決め付けて掛かるのやめないか……?」
ハセヲ君の言葉にうんうんと頷く私と、そんなこちらの様子にジトっとした眼差しを向けてくるキリトちゃんである。……平常運転?せやな。
まぁともかく、相手が『逆憑依』であることはほぼ確定、あとこちら側がするべきなのは、相手にごまかす手段を与えないことくらいだろう。
「よーし、じゃあ景気よく事情聴取、いっちゃおうか!」
そうして意を決した私たちは、変わらずデザートに舌鼓を打つ彼女達に近付いて行き──。
「──その結果、この二人の中身が五条さんと夏油君の二人だった、ってことを知ったってワケ」
「ええ……」
そうして語り終えた私に対し、話を聞いていた二人が見せたのは困惑の感情なのであった。
まぁ、ここまでの話だと意味も理由も必要性もわからないからね、仕方ないね。……え?困惑してたのはそこだけじゃない?
「そこに関してはまぁ、仕事の一環……みたいなものですよ。供養というか、鎮魂というか、はたまた反魂というか……まぁ、そんな感じです」
「……鎮魂?反魂?」
で、そんな二人の様子を見かねた、たきなっぽい人──中身としては夏油君なんだけど、今の姿のこの人を夏油君と言うのはなんか色々憚られるので、現状はすーちゃんと呼ばせて貰う──が、横合いからちょっとした説明を挟んでくれたのだった。
その内容というのが、『鎮魂』『反魂』などのワードをポイントとするもの。
……すなわち、今回の騒動の発端になるような出来事についての解説、ということになるわけで。
「ええ。この列車の元々の持ち主であるオーナーさんがいらっしゃるでしょう?あの人は今、このゲームの中に居る『次元の魔女』の元に幽閉……もとい保護されているわけですが」
「すーちゃんのとこに、『彼等の為に力添えをお願いしたい』みたいなメールが来たんだよねー」
で、その理由と言うのが、差出人不明の電子メールだったのだそうだ。
もっともこのメール、迷惑メールフィルターとか掻い潜って送られてきたらしく、真っ当なものかと言われると首を捻らざるを得ないものらしいのだが。*4
……ともかく、そのメールに記されていたのは、あのオーナーさんのために力を貸して欲しい、という文言。
あの時はまだ『転生した夏油傑』のような気持ちも持ち合わせていたため、気にも止めなかった彼だが……よくよく考えれば、少し引っ掛かりとか憐憫とかを覚えるのも確かな話。
それで、彼はそのメールの内容を五条さん(こっちはさーちゃんと呼称する)に開示し。
「んで、そのメールに書いてあった集合場所に集まって。そこにあった端末でログインしたのち、このアバターを貰ったってわけ」
「……ということは、そのアバターは差出人からの?」
「まぁ、そうだと思います。……だとすると、相手は運営などの立場が上の人物、ということになるのですが……」
そこでちらり、と隣のさーちゃんに視線を向けるすーちゃん。……言いたいことは恐らく、わりと反骨の相*5を持っている節のある
言うなれば『は?協力して欲しいって言ってきてる癖に、自分は姿を見せないってわけ?……ったく、これだから無能な上役は。はーやだやだ』……みたいなことを言いそう・寧ろ本当に言ったことへの抗議、みたいなものだろう。
とはいえ、当のその視線を向けられた方の相手であるさーちゃんは、『それ今の私には関係ないしー』みたいな笑みを浮かべていたわけなのだが。……うーん、なんという棚上げ感……。
ともあれ、彼らが何者かに諭されてこのゲームへとやって来た、ということは事実。
問題は、それがいつ頃のことなのか、ということになるのだが……。
「……一月前ぇ!?」
「まぁ、そういうことになりますね。……私の飲み込んだ魔列車について知っていたのも驚きですが、それを利用すれば既に失われた車内の様子を再現することもできる……などと言われた時は、ちょっと色々疑う羽目になりましたし」
主にどこから情報が漏れたんだ、みたいな。
……そう語るさーちゃんは苦笑を浮かべているが、確かに『車内の再現をしたい』などと言いながら、確実に機密に当たる話を持ち出してくる相手に不信感を抱かずにいられるか、と言われれば否だと返す他ないだろう。
実際、彼があの事件で魔列車を取り込んだ、という事実は一部の存在しか知らないこと。一応、報告を受けているであろうモモンガさんは、知っていてもおかしくないだろうが……。
「当時の
「わしも別に口が軽い方ではないからのぅ」
互助会の元々の空気的に、それらの情報が漏れるとは思えない。そのため、最初彼は
それに関しては、「いやー、情報の管理ってゆかりちゃんの領分だよ?……あの人からそういうの、掠め取れると思う?」と
……あーうん、うちってばそういう報告書、基本的に紙面での提出になってるからねー。
別に提出前はワードとか使っててもいいけど、実際に相手の提出する時には印刷するように言われるというか。
実際、『逆憑依』がある種の『なんでもあり』である以上、ネットワーク上にそういった機密文書を残すのは危険に過ぎる。……今のところBBちゃんとかアグモン君くらいしかいないが、それ以外の危険なAIが発生すれば、データなんてものは容易く掠め取られてしまうだろう。*7
そう考えると、彼女にしか扱えないものである『スキマ』の中に書類を保存する、というのはセキュリティ的な観点からすると結構な堅固さを見出だせるはずだ。
以前話した『アナログ故のセキュリティ面』も考慮すれば、彼女に保管させる以上のモノはない、というのはある種当然のことと言える。
……まぁ、一応元々の書類をパソコンで作ってた場合、元データが残っているという可能性はあるのだが。
そういう点で見ても、その時の報告をしたのが私──すなわち普通に物理的に書いてたことを思えば、『ありえない』という結論しか出てこないだろう。
まぁ、そういうわけで。
これに関しては誰かが漏らしたのではなく、相手側がそういう秘された情報にアクセスできる
相手が誰なのかを探る意味も込めて、相手の手伝いをすることに決めたのだ、というのが彼らの説明なのであった。
「で、仕事が終わった私たちに与えられたのが、出来上がったこの列車の無料乗車権だったってわけ」
「……この姿だと、甘いものが本っ当においしいんですよね……」
「ええ……」
なお、彼らは仕事終わりのバカンス中だった。
……完全にオフかよ!騙された!