なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
はてさて、あれこれ考察した結果、とりあえず列車に乗り続けるしかあるまい、と結論つけた私たち。
日付はその日より流れに流れ、今はバレンタイン前夜にまで迫っていた。いたのだが……。
「……本当になんにも起きないとは思わなんだ」
「あはは……そうだね……」
思わずぼやいてしまう私に、アスナさんが苦笑を返してくる。
そう、あれだけ警戒していたにも関わらず、なんとここまでなんにも起こらなかったのである。幽霊騒動も、他の『逆憑依』が見付かるなんてこともなく、全くの平和な時間が過ぎていったのだ。
これには一同困惑を通り越して宇宙行き、なんで?が脳裏を埋め尽くしたけど私は元気です(?)
……いやまぁ、なにも起きないんなら起きないんでいいんだけどね?でもこう、ここまでなにか起きるでしょって警戒させておいて、結局今日までなんにもない……というのは、拍子抜けしてしまってもおかしくないというか。
……もしくは、あくまでも重要なのはバレンタイン当日だけ、ということなのか。
ともかく、そんな感じで微妙にやきもきさせられながら、私たちは今日も今日とて列車に揺られていたのだった。
「んもー、そんなとこでなにをうじうじしてるのさー」
「おおっとさーちゃん。別にうじうじなんかしてないよー?寧ろ私としては、そこまで女子高生にノリノリなアンタの方がよくわからんわ」
「あっはっはっ。さーちゃん難しいことわかんなーい♡」
「うわぁ」
そうしてため息を吐く私たちに、声を掛けてくる一人の少女。……まぁ、なんの捻りもなくさーちゃん、もとい五条さんなのだが、なんというかこの人ノリノリ過ぎである。
いやまぁ、見た目的には問題ないのだ。髪色こそ変だが、その見た目はほぼほぼ千束ちゃんのそれ。なので、女子高生らしい動きをしていてもなんの問題もない。
……ないんだけど。私たちとしてはその中身が誰なのかを知っているため、どうにも違和感が拭えないというか。
いやね?この姿で普段の五条さんの動きをされても、それはそれで違和感を抱くだろうなぁ、というのはわかるのだ。彼がそれを
……わかるけど、両者の違和感のうちどっちがマシか、と言われると後者の方がマシでしょ、みたいな?
男が女の動きをするより、女が男の動きをする方が見た目的には普通、というか。*1……いや、世のそこら辺のあれこれを悩んでいる人のことを、揶揄するつもりは決してないんだけども。
「……それ、盛大なブーメランになってない?」
「私の実情・実態を知ってるのはマシュとかの一部だけだから問題ない……っていうか、私あんなにキャピキャピしてねぇ」
「う、うーん……?」
そんなことを呟いていれば、横のアスナさんから困惑したようなツッコミが。
……内容としては『いや、貴方も中身男性でしょう?』みたいなやつだったのだけれど、私が俺だったのはあくまでも『逆憑依』が起きる前、さらに言えばその時の俺の姿を知っているのなんてマシュやBBちゃんと言ったごく一部。
わりと親しい仲であるゆかりんや侑子も、俺の姿を直接見たことはないのだから、少なくとも『逆憑依』が終わるまで私が女性らしい行動をしていても(そういう意味では)問題ないのだ。
……というか、そもそも口調にしろ態度にしろ、露骨に女っぽくした覚えもないので、そこを突っ込まれる理由がないというか。
対し目の前の
……見た目がちゃんと女性なので許されているが、その実これはこの電脳世界でだけの見た目。
要するに、リアル的に考えると五条悟が女子高生みたいな動きをしてる、ということになってしまい、なんというかこう……こちらに与えてくるダメージがダンチ*3なのだ。
そりゃもう、こうして苦言を呈することもあろうと言うもの。
……まぁ、そこら辺を緩和する目的もあって、『さーちゃん』などという呼び方をしている面もあるのだが。
迂闊に名字呼びすると嫌でも思い出しちゃうから、というか。
「なるほど、そういう面もあったんですね」
「あーうんそうだねー。……
「そうですか?私はわりと気に入ってますけど、この姿」
「ダメだこの最強の二人、早くなんとかしないと……」
そうして文句を語り終えた私に、横合いから声を掛けてくる問題の種がもう一人。
こっちはたきなちゃんみたいな感じになっている夏油君なわけだが、元々の彼が敬語キャラ系なこともあって、そこまで深刻な違和感は発生していない。
……いないんだけども。こう、中身を知ってる時点でどうしても違和感は付き纏ってしまうもの、というか。
というかこのゲームでの彼女の職業が『シャーマン』、すなわち術師系なので、どうしても時々ちらついてしまうというか。
この『シャーマン』という職業、名前の元ネタとは違って霊に関わる世界各地の職業が混在したものとなっている。
なので、
微妙に和服……正確には巫女服っぽい意匠の散りばめられた制服を着た彼女がそれをすることで、似合ってるんだけどなにかがおかしい、みたいなことになったりとかするわけで。
夏油君本来の戦い方からすれば、こっちの方がやりやすいんだろうなーとは思うんだけどね?
……ん?列車に乗ってる限り戦闘は起きないんじゃないかって?
「簡易ホームポイント*5設定しておけば、ちょっと出歩いてくるくらいは問題ないんだよね……」
「流石に丸一日開けるようであれば、自動的に降車した扱いになるみたいじゃがのぅ」
てくてくとこっちに歩いてきたミラちゃんの言う通り、先にこの列車の客室を簡易ホームポイント設定しておけば、ある程度の時間(この場合は二十四時間)内であれば列車から離れていても問題がないのである。
列車内はプレイヤーがリアルで睡眠・食事を取る時にモニターの前を離れても問題がないように、非戦闘エリアとして設定されているので安心だが、それはそれとして長期間の列車旅、風景ばかり眺めていても退屈だろうということで設定されている機能なのだとか。
これが馬車旅とかだと、車内が安全でも車外が安全じゃないので街とかに着くまでモニターの前を離れられない、とかがあるのだが……そういう意味では結構親切というか、配慮が行き届いているというか。
まぁ、それを実現するために線路の上どころかイベントマップの全てが非戦闘エリアになっているので、戦闘は一切起こらないなんてことにもなってしまっているわけなのだが。
まぁともかく、そういう安全な旅を続けていると、どうにもウズウズしてきてしまうのもプレイヤーの性。
そこら辺を解消するために、イベントマップからの一時離脱機能が設定されているわけなのだった。
「普通の列車旅なら、時折停車する駅とかで色々できたりするけど……」
「イベントマップ全域非戦闘エリアだから、買い物はできても運動はできないんだよねー」
ははは、と苦笑を浮かべる私たち一行。
ともかく、
因みに、
「呪術師は体が資本……ってのは冗談として、本来の私の火力からすると、銃って物足りなさ過ぎるんだよねー。で、思わず殴っちゃう……みたいな?」
「ははは、最初の方は再現度足りなくて、その豆鉄砲より火力の出せてなかった人が言うようになったもんだ」
「あっはははー♡もしかしてキーアさん喧嘩売ってるー?あはは買う買う言い値で買うー♡表出ろやゴルァ♡」
「そうそう、それでこそ五条さん!まだキャピキャピしてるけど、そっちの方が似合うぜー!」
「んー嬉しくない誉め言葉ー!」
「……逃げたな」
「逃げましたね」
「逃げおったのぅ」
見た目的にはガンナーが似合うのは確かなのだが、中身からすると微妙に合ってないというのも確かな話。
……いやまぁ、一応五条さん自体も遠距離型っぽいところはあるけど、出せる火力的にはまさに鉄砲と大砲ほどの差があるので、フラストレーションが溜まるのもわからないでもない。
なのでまぁ、その当たりを初めて出会った時のことを交えながら、ちょっと揶揄してあげたわけなのだけれど。これが効果覿面、彼女はキャラが崩れたような受け答えをしながら、こちらの
……え?今変なルビが乗ってなかったかって?
いやいや、気のせい気のせい。私は純粋に彼女と喧嘩をしようとしているだけであって、間違ってもこの場から逃げるための口実として、彼女に喧嘩を売ったふりをした、なんてことは一切これっぽっちもないよマジで。
そうして(そそくさと)客室を後にした私たち。
外に出る準備を二人でガミガミ言い合いながら行っていた私は、ふと背後を振り返る。
そこで行われているのは──。
「……女の子が集まると、そういう話になるのは当たり前だけど……いやーキツいですねー」
「キーアさん、止まってたらバレますよ」
「おおっと。……んじゃまぁ討伐数バトルしようぜ討伐数バトル!」
「望むところだぞ☆」
バレンタインを間近に控えた女の子達が、一体なにを話すというのか。
……そりゃもう、わかりきった話でしょう?
だからといって、私と五条さんが逃げてきたってわけではないです、本当に。……本当だってば!