なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「はるかさんの?」
私の困惑の言葉に、ゆかりんはしぶーい顔で頷いて、スキマの縁に腰を掛けた。
「全国ネットに乗らなければ、彼女の目に触れることもなかったのでしょうけど。……こうして放送されている以上、嫌でも目に付くわよね?いえ、彼女本人が見てなかったとしても、彼女の報告を受けた上司がアレを目にすれば、そこから報告書の類似性が取り沙汰されて、結局彼女の耳に入っていたでしょうけど」
むぅ、と軽く頬を膨れさせる彼女は可愛らしいのだが、微妙に責められているような気もして気が気ではない。
……いやその、アレに関しては私悪くないというか、緊急だったので仕方なくというか……。
そんなこちらの言葉に彼女ははぁ、と一つため息。
「別に責めてるわけじゃないわよ。ただまぁ、遅かれ早かれバレてた、というのなら。……そうやって嫌がるの、完全に茶番よね、って思っただけだから」
「は?」
「いやだって、結局のところ
「……ぎゃふん」
……そりゃそうだ!
私が彼女の前で魔法少女ー、とかしなければそもそも良かったわけだし、更にはCP君を捕まえるとかしなければ、そもそも私が題材になる事もなかったわけだし!
巡りに巡って自分のせい、滑稽も滑稽ですね!ちくしょう!
「まぁ、
「……そういえば、あのノッブってなんだったんだろ」
「さぁねぇ。……その後の出雲の件も踏まえて、なーんかおかしな事になって来てる感じはあるけれど」
「ふーむ……」
カードが実体化して異世界の信長の姿になった、とか正直意味わからんし。
……なんか小説のタイトルみたいだね?『私のカードが天下布武~時代遅れのカードと馬鹿にされていた私のデッキが、不思議な力で実体化して日本統一始めちゃいました!?』的な?
……うーん、漂うB級映画臭……。
「……はっ!?説明系タイトルって、B級映画のそれと同じ呼び込み方なのでは……?!」
「戻ってきなさい、考えが完全に茹だってるわよ」
「へーい……」
現実逃避は許されない、と。
……逃げたーい。
「さっ、キーア!今すぐ変身だ!」
「……憂鬱でしかない……」
ゆかりんが出ていく気配がないので、仕方なく彼女の前で
……何がアレって、服装を用意するのがCP君な以上、彼女の望むように動かねばならんというのがね……。
「……えっ、もしかして変身バンク*1とかある感じ?じゃあ写真撮っとかないと。えっとカメラカメラ……」
「こらぁっ!!魔法少女を邪な目で見るな、この大きなお友達ぃっ!!」
「ほほう?……いやー、キーアが魔法少女としての自覚を持って来たようでなによりだなー」
「え?……あ、ちがっ、そもそもわざわざ変身中に謎発光と謎空間と謎裸入れないと嫌だ、とか言い出したのそっちじゃんっ!?」*2
さくらちゃん形式*3で良いのに、わざわざ服の再構成をする力の入れように、思わずなんでっ!?って叫んだのはいい思い出だ。……いい思い出か?
まぁ、魔法少女とか戦隊・ライダー系の作品における『変身時の裸・ないしそれに近しい軽装への一時移行』の必要性については、わからなくもないんだけども。*4
あれ、結局は作画コストないし撮影コストの削減の為、なんだよね。
着ている服が一切変わらないのなら、その服からの変身……って感じで、一々軽装にする必要もないのだろうけど。
変身者の服が常に一定、というのはよっぽど特殊な状況でもない限り、現代日本ではそう多くないものなわけで。
……制服は?みたいな声が聞こえて来そうだけど、休日含めてずっと制服、というのも変な話なので考慮外。
まぁ、現実で変身、なんて事になった時に裸にする必要性については、納得できないわけなのですが!
……いや、転送型だと本人の体と同化とかしかねないし、再構成にしても一度ひっぺがして上から被せる、って方が労力が少ない、のか?
……みたいな感じに理詰めで納得させられたわけなのですが。
ですがですが言い過ぎて、ですががゲシュタルト崩壊しそうなのですが。
「最近は作画とか撮影のコストも下がったから、どっちかと言うと玩具の宣伝の為らしいけどね、バンクシーン」
「へー……つまり私の場合は、あの杖とあの変身アイテムの為だと?」
「はははは」
「……この守銭奴ーっ!!」
使い回しの為の軽装化はまだ残っているものの、最近のバンクシーンは玩具の売り込みの為のものが大半、と。……玩具売ってないような作品の場合はどうなのやら。
まぁなんにせよ、私がやる必要性については疑念が残る、というのは変わらないわけで。
ああ、憂鬱である。
小さくため息を吐いて、足を肩幅に開いて、変身アイテムであるスティックを手に持って。
「我、契約に従い、世に安寧をもたらすモノなり!」
バババッ、って感じに腕を動かして宙に模様を描き、最後にスティックを持っている右手を天に突き出すように掲げて、
「天装、顕現!」
ってな感じに叫べば、後はCP君がバーッと光らせてバーッと服を分解してバーッと再構築してはいおしまいっ。
……ちょっとだけ高くなった視界にむぅ、と小さく唸った後、決められた変身後のポーズと口上を喋って変身完了、である。
「世に蔓延る哀しみと嘆き、全て私が祓って見せましょう!聖裁少女キリア、ここに罷り越してございます!」
バーン、って感じに見栄を切るわけなのだけど。
……うん、恥ずかしい。いい歳してなにやってんだ感が凄まじい。
でも魔法少女は堂々と、少女達に夢を与えるもの。俯くことも負けることも許されないのだっ。
「……うん、色々言いたいことはあるのだけど、とりあえず一つだけ。──貴方、結構楽しんでるわね?」
「うふふ、黙秘します♡」
「なんという
到底魔法少女とは呼べないような口上とか、その他諸々を捩じ込んだのは確かに私だけど。
……とは口に出さない私なのであった。
まぁ、
「結局、わりとノリノリっぽいのに、なんで嫌だ嫌だって言ってたの貴方?」
「八雲さまは、私の元の役職についてご存知ですよね?それが答えです」
「……はぁ?いや、というか八雲さま?……さまぁ?」
こっちの姿だと認識阻害が変な風に働いてるのか、喋り方がおかしくなるので本当は喋りたくないのだけれど。
……うん、キリアとしての
まぁ、
怪訝そうなゆかりんに、簡単に理由を説明する私……もといキリアちゃんである。
「元の私は魔王を標榜するモノ。今の私とは水と油、端的に言ってしまうと、この姿で居るだけで臓腑に割りと洒落にならないダメージがですね……?」
「い、意外と切実な理由ねそれは……」
元のキーアは混沌・悪。キリアちゃんは秩序・善。*6
……そりゃまぁ、属性が反対すぎて、頭とか胃とかにガンガンダメージが行くのも宜なるかな、ということでしてね?
いやまぁ、この姿で血反吐とか吐かないけども。
……終わった後に枕に顔を埋めて、足をバタバタするくらいは許して欲しいなー(白目)*7
なお、魔法少女などという圧倒的光のモノを推してきた当人であるCP君は、「相手をよく知らなかったがゆえの事故である、でも混沌・悪ぶってる時でも人の良さを隠しきれてない彼女にも、
「酷いよキリア、僕は一生懸命君の希望に沿えるように色々便宜を
「……口頭だから騙せると思っているのでしたら、大きな間違いですからね?ニュアンスとか雰囲気とか、そういうものからその『はかった』がどういう漢字を使っているのか、私にはお見通しですからね?」
「……やっぱりノリノリよね貴方?」
おおっと聞こえない聞こえない。
それ狂信者的なやつなのでは?みたいなゆかりんのツッコミもスルーして、いい加減話を本題に戻す。
「?さっきとはうってかわって、随分乗り気なのね?」
「私は正しき行いを是とする者ですので」
「……キャタピーちゃん、通訳お願いできる?」
「『この姿だととにかく人の為に動きたくなる』みたいな感じかな。この姿の事を
「……なにそれぇ」
CP君の説明を受け、信じられないモノを見るような視線をこちらに向けてくるゆかりん。
……いや、しゃーないんよ。
さっきも言ったけど変身なんてしたせいか、なーんか行動に矯正が入ってる感じマシマシなのよ今の私。
まぁ、やめれば元に戻るんだけども。……その辺も、この姿になりたくない理由である。
そんな理由を聞いて、ふーんとこちらを見詰めてくるゆかりん。
……なんや一体。そんなに見詰めてもなんもあらへんで?
「いいえ?まぁ、その分だと同行者とも喧嘩しそうにはないかな、って思っただけだから」
「──?同行者がいらっしゃるのですか?」
おや、初耳。
てっきり私一人で根掘り葉掘り聞かれるのかと思ったのだけれど、そうではないらしい。
……ふむ、同行者ねぇ?一体誰が同行者なのだろうか?
なんて事を思案する私に、ゆかりんはまたもや爆弾を落としやがるのでした。
「いえね?マシュちゃんの御披露目と、他の魔法少女との比較の為に何人か同行者が──どしたのキリアちゃん?」
「死地を見付けました、私はここまでのようです」
「すさまじく大袈裟っ!?」
ほ、他の魔法少女に飽き足らず、マシュも一緒なの?!
みたいな感じで、思わず倒れそうになるのを気合いで耐える私なのであった。