なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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そして状況はまた一つ進む

「……うーん、こんなものでいいかな?」

「随分長いことやってた感じだねー」

 

 

 はてさて、敵前逃亡……げふんげふん。

 長旅に際して体がバキバキになりそうだったので、ちょっと運動をしようと別のマップにやってきた私とさーちゃん。

 そこでどれだけ敵を倒せるかを競っていたわけなのだけれど、流石にここでは私の勝ちだった。

 まぁそれもそのはず、相手のさーちゃんがスペック的に本人(五条さん)より下がってしまっているにも関わらず、私の方はほぼ元の私にはそのまんまなのだから、寧ろ負けたら恥というか。

 ……いやまぁ、本来の力云々の話をするのなら、ここでも私が負けるのが筋……みたいなところはなくもないんだけども。

 

 まぁ、勝敗についてはともかく。

 ある程度時間も経過したのでそろそろ止めようかと声を掛けた私は、さーちゃんがふぅと息を吐くのを見ながら戦果を数えていたのだった。

 

 

「……んー、色々ドロップしてるけど、なんか要るもんある?」

「んー、別にいいかなー。私達今回はこうして楽しく遊んでるけど、多分次以降はないだろうからねー」

「あー、まぁ確かに。五条さんにゲームしてるイメージはないかなー」

「でしょー?」

 

 

 で、結構な数の敵を倒していたので、そこそこのアイテムがドロップしていたため、その所有権について問い掛けた私は、さーちゃんから返ってきた言葉に『それもそうか』と頷いたわけで。

 

 ……うん、今回はこうして一緒に遊んでいるわけだけど、そもそも五条さんってインドア派というよりはアウトドア派だろう。

 つまり、彼らがもう一度この『tri-qualia』の世界にやってくる確率は、こちらが思っている以上に低いのだ。

 なので、貴重なアイテムとかを持っていても宝の持ち腐れになる、と。

 

 それゆえ、今回ドロップしたモノに関しては、全部私にくれる……なんて、わりととんでもないことを彼女は言えてしまうわけなのだった。

 ほぼ今回限りの五条さん達と違い、私の場合はこっちに侑子がいることもあって、それなりの頻度で遊んでたりするからアイテムの使い道には困らないだろうし。

 最悪、私に必要がないものであっても、他のメンバーに渡せば誰かは使えるだろう……みたいな解決法も取れるし、みたいな感じである。

 

 ……まぁ、その辺りの話はそのくらいにして。

 ドロップ品の整理を終え、いい加減列車に戻るかーとさーちゃんの方を見ようとした私は。

 

 

「……鈴の音?」

「──こんなところで、悠長にしていていいのかしら?」

 

 

 ちりんと、軽やかな鈴の音を耳にした。

 そして、それに意識を向けた隙に、耳元で聞こえたのは聞き慣れぬ少女の声。

 思わずばっと振り向くも、そこに人の影はない。

 

 

「……?どしたのキーアさん?いきなり血相を変えて」

「────いや、多分気のせい。気にしないで」

「?????」

 

 

 そんな私の様子に、さーちゃんが不思議そうな顔をしているが……その表情が答えだと言っていいだろう。

 そう、さっきのは単なる幻聴か、白昼夢のようなもの。私の隠れた不安が、勝手に形を持ったものなのだろうと。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()から意図的に目を逸らしつつ、私は彼女を伴って列車へと戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

「──ああまったく、やっと見付けられたわ、■■■■」

 

 

 その少女は。

 なにもないところから、浮かび上がるように現れた。

 ジジジ、と時々姿がぶれているのは、彼女が正規の手段でそこに現れたのではないということを示すのか、はたまた。

 

 

「んー、でも今はまだお仕事中だから……迎えに行くにはちょっと無理がある、かしら?」

 

 

 ともあれ、少女は突然現れ、ここではないどこかに居る誰かを思うように──熱に浮かされたように──言葉を紡ぐ。

 見る人が見ればそれは、恋に焦がれる乙女の表情にも思えるだろうし。

 

 

「ああ、愛しの■■■■。そのまま健やかに、けれど警戒を。私は貴方を咎めも赦しもしないけど──」

 

 

 ……見る人が見れば。

 決して許せぬ敵を見る、憎悪の表情にも思えることだろう。

 そんな愛憎入り交じった表情を浮かべながら、恍惚のままに少女は謡う。

 

 

「投げられた賽の目は、最早変えられないのですから。……うふっ、ふふっ、ふふふっ、ふふふふふふっ………♪」

 

 

 そうして少女は、現れた時と同じように忽然と、その場から姿を消したのであった。

 

 

 

 

 

 

「……この感じ、シャアか!?」*1

「いや、突然なにを言っておるのじゃお主?」

 

 

 いや、なんかこう虫の知らせというか寒気というか、とにかくなんか嫌な予感がしたというかね?

 ……とまぁ、適当なことを言いつつミラちゃんに返事をする私である。

 

 結局、さっきの戦闘で発生した戦利品については他のみんなと話し合った結果、ミラちゃんにあげることにした。

 これは、彼女がこれからも『tri-qualia』で遊ぶつもりがあるということ、及びこのゲームにおいてはレベルが存在せず、武器や防具の性能が露骨に生存に関わってくるため、という二つの理由からのものである。

 

 

「まぁ雑にいうと、これでいい装備でも作りな、って意味だね」

「素材のランク的に、初心者相手にはちょっと豪華すぎるかなーってモノが作れそうだけど……まぁ、新しい仲間への御祝儀、みたいなものかな?」

「お、おお……持つべきモノは仲間、というやつじゃのぅ!」

「まぁ、貴女が将来もたらしてくれる利益への投資、みたいな面もなくはないけどね?」

「むぅ?」

 

 

 流石に最強武器みたいなものは作れないだろうが、初心者が持つにはちょっと過剰レベルの装備が作れる素材、というのは確実。

 スタートダッシュをするために用意されるモノとしては、上等に過ぎるモノだと言えるだろう。

 無論、仲間だから無償提供した、というわけでは(実は)ない。これは、ミラちゃんの『tri-qualia』での職業にその理由がある。

 そう、なんとこのミラちゃんの職業、実はレア職なのである。

 

 

「ふぅむ、ということはわし、こっちでも開祖みたいなもん?」

「だねぇ。サブの『モンク』は既にあるやつだけど、メインの『エレメンタラー』は完全にユニーク職だと思うよ?」

 

 

 この『tri-qualia』、キャラクリ時に職業を選択できるのだけれど、この職業というのがそこまで多くない。

 いわゆる二次職や三次職はジョブエクステンドの先にあるものなので、初期状態で選べる一次職はそこまで数がないのだ。

 

 ……というのは、表向きの話。

 実はこのゲーム、一次職扱いの職業がキャラクリ時には()()()()表示されない仕様になっている。

 なにか色々と条件が設定されているらしく、普通にキャラクリを行うと、選択できるのは大体五つくらいの職業から一つ、ということになるのだけど。

 一定の条件を満たすと、そこで選べる一次職が増えるのだ。

 具体的にはすーちゃんの『シャーマン』は隠し一次職で、キャラクリ前の相性診断の時に特定の設問に答えるとたどり着けるのだそうだ。……まぁその設問自体、それ以前の設問で判断された性格如何によって、出現するかしないかが決まるらしいのだけど。

 

 まぁともかく、このゲームには隠し職……要するにユニーク職が無数存在するわけ。

 ……なんだけども、その開放条件にはまだまだ謎なことが多い。

 同じ設問に同じように答えたのに同じ職が出なかったとか、はたまた別の条件から職業が開放されたりする、なんてこともあるのだそう。

 そこら辺を検証勢が必死に調べているけど、わかったことはごく一部。『ジョブエクステンドを行えるレベルまで育てた一次職は、他のプレイヤーが転職する際に教えることができる』である。*2

 

 いわば、実質的なユニーク職の継承。

 そのため、珍しい職を発現した人には、周囲のプレイヤーがこれでもかと投資をするのが一般的なのだ。

 もし相手が職を極めた時、その一次職に転職することができるようになるのだから。

 また、相手が生産職かつユニーク職の場合、その人物にしか作れないモノ、なんてものが現れる可能性があるため、その風潮は更に加速することになる。

 

 ……で、ミラちゃんのメイン職である『エレメンタラー』だけれど。

 これはエレメンタル──自然という言葉から想像できるように、属性を操る力を持つ職業である。

 言うなれば『精霊召喚師』。……つまりリアルのミラちゃんということだが、これには理由がある。『逆憑依』がこの『tri-qualia』を遊ぶ場合、高確率で元の自分に関連する職になる、というものだ。

 

 例えば私がわかりやすいが、今の私の職業は『デモンロード』。一次職の中でも()()()()()()()、すなわちエクステンド先がない特殊な職業であり、転職も不可能と特別尽くしの職であるが……この名前を簡単に翻訳すると『魔王』となる。

 つまり、私は外でもここでも魔王、というわけだ。

 ……なおこの職、転職不可だが初期職として選ぶことはできる。ただまぁ、条件が恐らく『実際に魔王である』ことだと思われるので、私以外には見たことがなかったりするのだが。

 

 ともかく。ミラちゃんはリアルで『召喚師』である。そのため、ここでの職業もそれに引っ張られた、というのが正解だと思われるのだった。

 ……まぁ、そうだとするとちょっと困ったことにもなるのだが、それはここでは割愛。

 

 話を戻して、『エレメンタラー』は生産職混じりの戦闘職である。

 具体的には彫金師が混ざっているようで、彼女はスキルとして宝石を加工したり作り出したりできるのだ。

 このゲームも他のゲームの例に漏れず、宝石類はアクセサリーとして加工ができ、かつそれを装備すれば、耐性などの防具では上げ辛いステータスを強化することができる。

 

 ……要するに、成長した彼女はあちこちで引っ張りだこになる素質がある、というわけだ。

 そうして評価を得ていけば、運営からの褒賞を貰う機会も増えるだろう。なにせこのゲーム、なにかしらの功績を納めればあれこれ融通してくれるので。

 

 

「……はっ!?つまりわしがカッチョいいじじいになるための最短ルート!?」

「そういうことになるねぇ。こっちとしても腕の良い生産職とは仲良くなっておきたいし。……投資する理由、わかってもらえた?」

「うむ!つまりこうじゃな!──最強のエレメンタラーに、わしはなる!」

「そうそう、その意気その意気!」

 

 

 皆から応援され、張り切るミラちゃん。

 そんな彼女を見ながら、私たちは穏やかに列車旅を楽しんでいたのでした。

 

 

*1
ニュータイプ特有のあれ。初代のアムロが一番おかしい、というのはよく言われていることだったりする(初期のノリがスーパーロボット側だったから、とも)

*2
正確には、元のプレイヤーが二次職になった時に全てのプレイヤーに対し『転職可能な一次職』として提示されるようになる、の意味

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