なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「と、いうわけでー、ハッピーバレンタイーン!」
いえー!……とノリよく声をあげるみんなに頷きつつ、窓から外を見る私。
時刻は大体朝八時頃。今回の事件がいつ終わるかわかったものではない、ということで朝早くからマシュ達のチョコ爆撃を受けてきた私は、そこからの復帰に暫くの時間を要したが……まぁ、誤差みたいなもんである、誤差。
で、そのノリのままこっちにログインした時、他の面々にも先んじてチョコ(のアイテム)を渡したりしていたわけなのだけれど。
……うーむ、今のところなにかが起こる様子はなし。
ということは乗客側になにかがあるのではなく、あくまでこれから向かう先になにかがある……ということになるのだろうか?
まぁ、正直これからなにがあるにせよ、既に私は満身創痍なので対して対応は変わらんのだがね!()
「……いやまぁ、マシュちゃんも大概大胆というかなんというか……」
「どこぞの人類最後のマスターじゃないんだから、そこまで躍起にならなくてもいいんじゃないかって私おも……いや、みんなして私を『ダメだこいつ』みたいな顔で見るのやめない?」
「いやー、わしはわりと自業自得じゃと思うがのぅ」
「刺されたらちゃんと手当てをするようにな、キーア」
「遠回しに刺されるのは確定ってことにされてる!?」
いや、どこのプレイボーイやねん。私をかっ捌いても中には誰も居ないぞ?……いや、もしかしたら私を分割したことで中から私が出てくるかもしれないが。*1
親方、私の中から私が見つめてました!*2
「……いや、マトリョーシカかなんかかお前は」
「止めとけハセヲ、その辺り突っ込んでも多分『そうだよ?』ってヘーベルハウスみたいに挨拶されるだけだぞ」
「誰が頭空っぽじゃい!……ったく、私のことはいいんですよ私のことは!それより、君らは!?」
男子二人……もといおしまいなキリトちゃんとおしまいじゃないハセヲ君がうるさいが、そこら辺は友達感覚である。
なので、逆に二人は誰かからチョコを貰わなかったのか、と声を掛けたわけで。……キリトちゃん側はアスナさんとチョコの贈りあいをしているだろう、というのはすぐにわかったけど、ハセヲ君側はわりと交遊関係が謎なので、誰かから貰っててもおかしくはないと見込んでの質問だったわけだけど。
「……あー、その、リリィから……とか」
「────声が同じならなんでもいいのかおめぇ」
「ばっ!?ちちちちげぇよ単なる義理だっての!そもそも義理なら結構貰ったっての!!!!」
「おお、照れてる照れてる」
どうやら、彼的に記憶に残ったのはうちのアルトリアから贈られたもの、ということになるらしい。
……いつの間に仲良くなってんの?みたいなところもなくはないのだが、まぁ義理であることは間違いないらしい。
でもこう、この二人の組み合わせだとちょっと邪推してしまってもおかしくないというか、ね?……よくある組み合わせでもあったわけだが。
まぁともかく、なんやかんやと甘酸っぱい清純を過ごしているらしい面々に対して。
「……ふっ、ここで貰ったものだけだがなにか?」
「表でもその姿すれば貰えるんじゃない?……いや、逆に引かれるかも?」
「……そんなことは、ないはずだ……多分、きっと……」
「うわぁ」
なんともどんよりとした空気を漂わせているのは、ここに居る面々の中でも特に
……うん、キャラとしては人気のある方だと思うんだけどね?でもほら、作中でもそういう甘い感じとは無縁というか、あくまでマスコット枠と師匠枠と裏切り枠の折衷というか。*3
端的に言うと端からそういう気配がない、というべきか。……うん、人気はあるんだけどね、彼。でもそれがモテには繋がらないというか……。
「そもそも遊戯王って、どっちかというと男性同士のカップリングの方が多いイメージが……」*4
「止めるんだアスナさん、事実を口にするのはとても良くない」
「あっ、その、ごめんなさい……」
「止めてくれないかなぁ!?余計に惨めになるんだけど!?」
可愛いモンスターとか女の子とか、わりと登場している方の遊戯王シリーズだけど。……同人誌とかを探すと、大体男性同士のカップリングモノが多くなるのは……んー、ホビー系作品の常、ってやつなんだろうか?まぁ深掘りすると良くないことになる気がするので、ここらで止めておくが。
ともかく、ちょっと周囲に甘酸っぱい空気が漏れすぎていて、なんだかお労しくなってしまったアンチノミーさんをみんなで労りながら、私たちのバレンタインの一日は始まりを告げたのでしたとさ。
「ううむ、流石にエグいな人の波が……」
「まぁ、バレンタイン当日じゃしのぅ。そりゃ誰も彼も張り切る、というものじゃろうて」
一通り内輪で楽しんだあと、他の乗客達の様子を確かめるために偵察に出た私とミラちゃん。
向かったのは勿論食堂車だが、そこにいる人々の数は今までの昼飯時のそれを遥かに上回る量となっていたのだった。
……いや、それにしたって多いな!?
思わず驚く私に、ミラちゃんはわかってたぞとばかりに頷いている。……いやでも、満員電車級に人が溢れているのは流石に想像以上じゃね?
「どこにこれだけの人数が……というか、客車を拡張できるんだからこの食堂車も拡張すれば良いのでは……?」
「そこまではリソースがないのではないか?別に電脳世界だからといって、リソースが無限というわけではないのだろうし」
「うーん……?」
いやまぁ、各客車が本来のそれより遥かに広くなるように拡張されている、というのは周知の事実なので、どこに隠れていたのかと問われれば『客車の中』と答えるのが正解だろうとは思うのだが。
……だったらその技術を使って、この押し寿司状態の食堂車も拡張して良かったのでは?……みたいな気分が浮かんでくるのは仕方のない話なわけで。
無論、ミラちゃんの言う通り、電脳空間上だからといって、リソースを無闇矢鱈に注ぎ込めるわけではない、というのはわかる。……わかるんだけども、正直この食堂車こそが今回の目玉みたいなものなのだから、優先して拡張なり補強なりしておくべきなのでは?……みたいな気持ちが湧いてくるのも仕方のない話というか。
まぁ、実際こうしてぎゅうぎゅうになってる辺り、なにか理由があったんだろうなー、とも思うわけなのだけれど。
そうして鮨詰め状態の客達を眺めながら、はてさてこれからどうしよう?とするべきことを考えていると。
『──本日はバレンタイン急行・エメに御乗車頂き、誠にありがとうございます』
「ぬ?車内放送?」
突然、車内に響き渡る声。
どうやらミラちゃんの言う通り、いわゆる車内放送のようだが、車掌も居ないのに誰がこの放送を?……と、思わず顔を見合わせる私たち。
……数瞬後、これがいわゆる黒幕側の放送なのでは?と気付いた私たちは、直ぐ様この音声の発生源を辿ろうとして。
『バレンタイン、お楽しみ頂けていらっしゃいますでしょうか?今回のプログラムには、お客様方が
「…………????」
「おいキーア、思考を止めるなフリーズするな、というかわしを一人にするな!この空気はちょっとわしには受け止め辛いぞ!?」
相手方から飛び出した言葉に、思わずフリーズすることに。
……いやだって、楽しめたかどうかを数値化?それってどう考えても、カップル間のラブラブ度合いが数値化される、みたいな奴でしょ?
いや、思わずなに言ってんだこいつ?……と首を傾げてもおかしくないと思わないだろうか?いやまぁ、世の中のバレンタインイベントと比べると、随分トンチキぶりは下がっている気がするけども。
だが、よーく思い返して頂きたい。
そもそもこの列車──エメは、あのオーナーさんの無念を引き継ぎ生まれたモノでもある。
つまり、相手方はその辺りのなにかを考えているはずで、でも実際にお出しされたのはわりとストレートなバレンタインイベントで。
……いや、なにを企んでるねんこいつ?ってなるやろ?私はなった。()
そのため、その意味不明さに一瞬脳が理解を拒み、その結果目の前の(ある意味)惨状が出来上がったのであった。
「ぐわーっ!!?目がーっ?!目がーっ!?」
「ぬわーっ!!!思いっきりいちゃついている奴しかおらぬ!!?」
そう、ラブラブパワー()を最大限発揮したモノにはプレゼント、という言葉がよほど琴線に響いたのか、今現在私たちの目の前で繰り広げられているのは、語るも憚られるような所業達。
……流石に
いや、いくら推奨されたからってみんなノリノリ過ぎやしない?!っていうか倫理規制はどうした!?
思わず目を隠しながら後退する私たち。
ダメだ、直接的に行為に及んでいないだけで、この食堂車はもはやラ○ホみたいなもんだ!(とてもさいていなひょうげん)
ゆえに逃げ帰ろうとした私たちは──そこで知る。この空気感は、なにも食堂車に限った話ではなかったのだと。
「……ひぃーっ!!?そこかしこからいやな気配がするーっ!!?」
「撤退、撤退ー!!!」
……詳しく明言するのは止めとくけど。
いや、公共の場だからね、ここ!?
「……なるほど、なんかさっきから体が熱いのはそういう……」
「誰かー!この人と相撲取ってきてー!」
自身の客室まで逃げ帰って来た私たちは、そこで発情()状態のアンチノミーさんに遭遇。
仕方ないのでハセヲ君に彼を任せ、残った面々で作戦会議である。……え、ハセヲ君がスッゴい恨みがましい顔で見てた?彼は犠牲になったんだよ、犠牲の犠牲にな……。
「まぁ、ハセヲ君のことは後で考えるとして……
「十中八九そうだけど……狙いがわからん。これでなんの得があるんだろう……?」
「んー、生気を集めてるとか?なんか生々しいけど」
「……いや、生々し過ぎるでしょう、それは」
で、比較的無事な面々での作戦会議は、この現象が黒幕側の干渉の結果だと断定。……したんだけど、それはそれでこれがなんのためのものなのか、というところで会議が難航。
いやまぁ、単純に考えるとみんなの愛の力()を集めてなにかをしようとしてる、みたいな感じになりそうなんだけど……その、なんというか『なんのために?』感が凄いのだ。
言ってはなんだけど、今私たちが居るのは電脳空間である。
リアルのそれとは全く違う世界で、『愛』なんてものがちゃんと集められるのか?……みたいな疑問がなくもないというか。
……いや、これをキリトちゃん達の前で言うのもどうかなー、と思うんだけどね?
「……こっちを見るのは止めないか?」
「おおっとごめんごめん。……まぁ、こういう空間で育まれるモノがある、ってのはわかるんだよ。わかるんだけど、それってここでやる必要があるかなー?……みたいな気分がね?」
「まぁ、気持ちはわかる。これは我の記憶ではないが、そういう酒池肉林?的なものは現実でやってこそ、みたいなところは確かにあるだろうな」
「……どっから引っ張ってきたのその記憶?」
妲己ちゃん?妲己ちゃんの記憶なのそれ?
……とハクさんを揺するが、彼女は曖昧に笑うばかり。……いや、そっち方向を出し過ぎるのは普通に良くないから、ちょっと自重しとこうねマジで。
ちょっと不安になりつつ、あれこれと話をする私たち。
そこに、
『──中間発表~』
再び、車内放送が私たちを襲うのであった。