なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
『現在のトップはさーちゃんすーちゃんペアです。ややこしい感じですがとても思い合ってますねー。皆さんも二人に負けないように、レッツラブラブー!』
「「…………」」
「いや、空気の殺し方が酷いなっ!?」
突然私たちの元に投げ込まれた爆弾……もとい車内放送は、それはもう凄まじい威力を持った、まさに焼夷弾*1級のものなのであった。
いやだって、ねぇ?あだ名がなんで向こうにも伝わってんの?……的な疑問を置いとくとしても、相手方が告げたのは今こうして普通に私たちの作戦会議に参加している二人──中身は五条さんと夏油君である──が一番ラブラブしてる()、という内容だったのだから。
こちとらあの車内の惨状を見たあとここに居るのだから、余計のこと「んなあほな」と「なるほど……」みたいな気持ちが胸中でごちゃごちゃするわけでね?
こうしてこちらを撹乱するのが目的だと言うのなら、敵ながら天晴れとしか言いようがないだろう。
なにせ原作の彼ら二人が、とてもややこしいことになっているのは確かな話。……それを友情ではなく愛情とするのは、一部の創作家達の勝手な妄想みたいなもんで、さっきの放送もその類いだと切って捨てるのは簡単だけど……ねぇ?*2
こうやってあれこれ考えてしまう時点で相手の術中だというのだから、これほど恐ろしい話もないだろう()
「解釈通りです、一冊ください」*3
「キーアさーんー?!」
「冗談だってば、冗談。……でもまぁ、一位であることは喜ばしいんじゃない?」
「本人達の気持ちは置いとくとして……まぁうん、黒幕に近付くには、確かにこれでいいのかも」
「アスナちゃんまで!?」
だがしかし、これが黒幕へたどり着く最短ルートだと仮定すると、話は違ってくる。
外の人達があんなん(とても失礼な表現)になっていたのは黒幕側の干渉の結果だろうが、それを以てしてなお、ここに居てなにもしてない二人の方がラブパワー()が高いと言うのなら、彼女達に勝てる者は誰もいないと言い換えても良いはずだからだ。
キャラとしての前提の時点で重いので、あんな即興的な愛()では敵わない、と言っているようなものなのだし。
なのでまぁ、一時はこのまま様子を見ようか、みたいな空気になったのだけれど……。
「……冷静に考えたら納得いかない。原作の時点での重さ云々なら、私とキリト君だって良いとこ行くと思わない?」
「お、おう?どしたのアスナさん、急に興奮し始めたけど……」
「そうだわかったわ!キリト君ってば、私の愛がちゃんと実感できてないのね!!?」
「えっ?いやそのアスナ、目が怖……」
「じゃあ知らしめるしかないわね!個室に行きましょうキリト君、朝まで寝かさないわよー!!」
「えっ、いやその待っ、……ちょっ、た、たすけっ」<ピシャッ
「「………………」」
突然興奮した患者……もといアスナさんにより、憐れな子羊もとい生け贄もといキリトちゃんは、私たちの視界の外へと連れ去られて行ってしまったのでありました。
……あーうん、多分だけどこの列車内での思考干渉、アレルギーとかと同じで蓄積型なのね。*4で、許容量を越えるとさっきのアスナさんみたいになる……と。
その事実を教えてくれた彼女に感謝しつつ、連れ去られたキリトちゃんについてはノーコメントを貫く残された組である。
やーうん、流石に頼光さん混じりの彼女に反抗する勇気はないというか。許せキリト、お前の犠牲は忘れない……!
まぁそんなこともあり、初報の時点で引きこもったさーちゃんすーちゃんやアンチノミーさん・ハセヲ君を含め、現在の脱落者は六人。
残ったのは私とミラちゃん、ハクさんにアグモン君と、それから
……え?クモコさん?今気配遮断してるみたいだから、多分周囲の空気に悶絶しつつ隠れてるんじゃないかな?
「……まぁ、奴はいざという時の対抗手段と留め置くとして。……実際これからどうする?蓄積型の毒だとすると、下手にこのまま静観するのはどうかと思うが」
「うーん、つっても発症したとして仲良くしたくなる(意味深)だけで、別に命の危険があるって訳でもないしなぁ……」
「?意味深ってなんだぁ?」
「お主は知らんでも良いからな、色んな意味で」
「????」*5
今のところ特に精神に異常をきたしてもいない私たちだが、これがいつまで持つのかは不明。
ゆえにハクさんはなにかしら手を打つべきでは?……と声をあげるが、正直私としてはその考えには反対である。
そもそも黒幕がどこにいるのか掴めていないうえ、今回の乗客達は以前のバレンタインと違い、ちゃんとした普通の人々。……要するに、荒事になった場合には避難をさせる必要のある人達、ということになる。
無論、ここは電脳世界なので『被害なぞ気にせず相手ごと吹っ飛ばす』みたいな手段も取れなくはないが……現状それをしようとすると、私がこの辺り一帯のデータ領域を書き換える必要がある。
……じゃあそれでいいじゃん、みたいな声が聞こえてきそうだが、これはそう何度も行えることではないのだ。
「と、言いますと?」
「結局のところ、これって【星の欠片】の性質を使用しての侵略行為だからね。防げるモノじゃないからこそ、多用すると運営からの心証が悪くなりすぎるというか……」
「あー、なるほど。システム的に防御できずとも、アカウント停止されれば関係ないというわけじゃな?」
「そういうこと」
私が現在、この『tri-qualia』の中でも現実での能力を奮えるのは、初期も初期の頃にBBちゃんがその辺りを弄ってくれたため。
それにより私はこの電脳空間でも【星の欠片】としての権能を使えるようになったわけだが……この技能は、基本的に対処ができる類いのモノではない。
誤解を恐れずに言うのであれば、分子や原子が直接意思を持って反乱するようなものである【星の欠片】は、それを対処する手段も【星の欠片】で作られている、という時点で対処のしようがないものでもある。
プログラムを作るための電気信号そのものが反乱しているようなものなので、少なくともプログラムを使ってそれに対処するのは不可能なわけだ。
ゆえに、使えば必ずこの場を掌握することはできるだろうが……同時に、掌握できるのはあくまでも
例えば黒幕がこの列車に乗っていない、もしくは紐付いていない場合、この場を掌握しただけでは事態解決のための糸口にはなれど、事態そのものを解決するには至らないだろう。
それだけならばいいが、もし仮に黒幕を追い詰める際、再度【星の欠片】を使う必要があった場合、どうなるだろうか?
何度も何度も勝手にプログラムを改竄・ないし破壊するプレイヤーに対し、運営はどういう心情を抱くだろうか?*6
……そう、ほぼ確実に、それをした相手を『運営の邪魔をする者』として認識するだろう。
そうなれば、今後私は『tri-qualia』絡みの事件には、なに一つ関われないなんてことも発生するかもしれない。運営側にも『逆憑依』は居る以上、生体BANができないとも思えないし。*7
無論、そんなことをされても、私のような【星の欠片】達ならば、そういう制限を抜けてログインすることも可能だろうが……それがバレた日には、最早単なるBANでは話は済まなくなるだろう。
その辺りも考慮するに至り、【星の欠片】の濫用は厳禁・かつ使う時には事態が確実に解決できると確信した時に限る、という制限が生まれてしまうのだった。
「ぬぅ、意外と融通が効かぬのだな」
「少なくとも、人の輪の中で暮らす気があるんなら最低限のルールは守らないとね。……だからまぁ、使うにしてもこのタイミングはないかなーってキーアん思うわけ」
「なるほどのぅ。……ってん?どうしたドトウよ、なんだか震えておるが」
そんな私の主張に、諦めたように肩を落とすハクさん。
わかって貰えたのはいいのだけれど、なんかこうトゲがないかい?気のせい?
……とまぁ、じゃれあう私たちの横で、また事態に進展が。
ミラちゃんが気にしていたのはドトウさん……もといマッキー。今の彼女はなんだか息が荒く、ついでにこう瞳孔がぐるぐるしているような……って、あ。
「……ととと、トレーナーさんの匂いがしますぅ~っ!!」<バキィッ!
「扉をぶち破って外に!?」
興奮してるじゃんこれ、と気付いた時にはもう遅く、暴走機関車と化した彼女は扉をぶち破り、そのまま廊下へ。
……遠くから聞こえてきた聞き覚えのある人物の声に、思わずアーメンと無事を祈ってしまう残された面々なのであった。
……こいつらうまぴょいしたんだ!*8