なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……来て早々帰りたくなる気分にさせるのは酷くないか?」
「まぁ、バレンタインなんてこんなもんでしょ?」
「達観の域に至っておる……」
なんというか、来るとは言ってたけど今来るんだ……的な感想が胸を満たす感じだけど、人手が増えること自体はありがたいというか。
……まぁそんな感じでやって来たモモンガさん(人型モード)に、いらっしゃいと声を掛ける私たち一同である。
なお、当の本人はそこら中にキスマークが付き、かつ服もよれよれ状態。
その背後ではぐるぐる巻きにされたうえ、
とはいえ、彼女がそうなったのも、元を正せばこの列車に攻撃を仕掛けてきた黒幕のせい。
ゆえに責任は全て相手にある、とモモンガさんを説き伏せて、改めていざ鎌倉!となる私たち一行である。
……え?なんか車内放送で『なんでもかんでもこちらのせいにするのはよくないと思われるかと~』とかなんとか言ってるって?そんなの無視だ無視。
(……相手側も意外とノリが良いのか……?)
「さてはて、こうしてとりあえずモモンガさんが合流してくれたわけなんだけど。こう、貴方ならこういう呪い系の相手に対して有効な手段とか、幾つか持ってるんじゃなーいー?」
「む?逆探知……ってことか?できなくはないけど……今この辺りに使われてるの、対象指定無し時間指定無しの無差別型だから、相手の所在を確かめるのは不可能だと思うけど?」
「……あら?」
で、人型状態なので喋り方がいつものモモンガさんのそれではなく、本来の鈴木さんのそれに近くなっている彼に対し、この状況を作り出している相手を探知する手段はないか?……と問い掛けてみた結果。
普通に無理、という答えが返ってきてしまった私は、思わず宛が外れたと天を仰ぐことになってしまったのだった。
いや、
……こうして宛が外れてしまうと、やっぱり待ち続けるしかないのかなー?……という気落ちしてしまうのも仕方ないというかですね?
うーむ、こうなると無事なメンバーを集めて、精神保護結界でも組んだ方が早かったりする?
でもそれだと、途中でさーちゃんすーちゃんペアがトップじゃなくなった場合に、必要な対処が遅れちゃうしなぁ。
「……なにか、問題があるのかい?」
「ああうん、これが範囲内無差別対象型のものってことは、それを防ぐには単なる結界じゃなくて遮断・断絶系の結界が必要になるってことになるんだよね」
「(遮断・断絶……?また物騒な)……言葉から察するに、結界の構築が難しいとか?」
「いんにゃ、正確には内外の出入りが難しい感じ」
「ふむ……?」
腕を組んで唸っていると、モモンガさんが不思議そうに首を捻りながら声を掛けてきたので、簡単に今から作ろうとしている結界の仕様について説明する私である。
結界というのは『界を結ぶ』と書く。……そこからわかるように、結界というものは実は
線や紐で一区画を区切れば、それだけで一種の結界……と見ることができるというか?
実際、神社の境内などは鳥居や注連縄などを境として、その内と外を分けているが……その実それらの境界を越える、という行為自体はそう難しくない。
これは、この場合の結界はあくまでも概念的に内と外を分けているだけであって、
「この方式だと、わりと簡単に抜けられちゃう……っていうのは、参拝客とかの存在からすぐに理解できるよね?」
「まぁ確かに。霊的な防御の類いってことになるから、そういうものに影響されない相手なら普通にすり抜けられる……ってことだろう?」
「そういうことー」
その辺りをもう少し踏み込んで説明すると。
この方式の結界の場合、内と外に分けられているのは
いわゆる神気を外に漏らさず、かつ邪気を内に入れない……みたいな役割が、このタイプの結界の基本なわけである。
なお、中になにかを封印しているような場合は、この神気と邪気の内外が入れ替わることもあるが……どちらにせよ本来物理的ななにかを押し止めるものではない、ということに間違いはあるまい。
なので、この形式の結界は
言い換えるとこのタイプの結界は、生者という鎧を纏えば神気も邪気も共にすり抜けられる可能性があるのだ。
よくアニメや漫画などで頻発する『封印が解けてしまう時の話』というやつだ。
こういう状況を避けるためには、物理的にも通れないようにする必要がある。
わかりやすいものの中で、この例に該当するのは工事現場の警備員……とかになるだろうか。
あれも、工事現場と普通の場所を分けていると考えれば、一種の結界だと言えなくもないだろう。
警備員に止められてなおその道を通ろうとする、という人はそう多くないはずだ。
……とはいえ、この方法にも穴はある。
霊的な境と比べると、物理的な境というのは越える手段が多いのだ。
「警備員なら、最悪それを倒すなり無理矢理押し通るなりすればいいし。深い谷間が広がっているのなら、その境を飛んでいけばいい。……物理的な到達手段を遮断するというのは、これが意外と難しいわけよ」
「ふむ……となると、
「そういうことー。この場合だと、もっと強固な扉を設置するとか、ね?」
なので、より確実に物理的な対処を行う場合には、人為的な手段ではどうしようもないような断絶、というものを挟む必要がある。
例えば、徒歩では絶対にたどり着けないような道を、対象までの間に用意するとか。はたまた、結界内の重要な場所の座標を、何物にも表示できなくするだとか。
そういった対処の最大級になるのが、いわゆる『次元遮断』である。
「時空間移動ができないと到達できないような場所に隔離する、みたいなやつだね。……で、今回作ろうとしてるのはその類いの結界ってことになるんだけど」
「……あー、この洗脳電波めいたものが、
「そうそう。モモンガさんにも効くタイプだったりすると、それくらいやんないといけないってことになるでしょ?」
「確かに……」*3
今でこそ人の姿をしているが、モモンガさんの種族は変化していない。
あくまで見た目が変わっているだけなので、本来彼が持ち合わせている『魅了無効』などの耐性はキチンと機能しているのだ。
……にも関わらず、彼がこの異常事態に流されてしまう……なんてことがもし発生したとしたら、それこそ収拾が付かなくなってしまうことだろう。
実際、イマジナリーとはいえビーストⅢの魅了は、微妙に彼に対して貫通していたわけなのだし。
あれ級の存在が何度も現れるとは思えないが、それでも対策しておくに越したことはあるまい。
そうした前提条件の上で考えると、現状この辺りに張り巡らされている魅了的ななにかには、
で、私がそれに対するモノを実現しようとすると、結果的に断絶系結界──物理的にも概念的にも霊的にも、内と外が完全に断たれたものになる、というわけなのだった。
「【
「……微妙にややこしそうな魔法だな」
で、ここで出てくるのが、私……というか
これは、得られる効果に比して魔力消費が劇的に少ない、というとても画期的な魔法なんだけども……その性質上、使いながら動くことができなかったり、境内みたいに軽く踏み越えて往来する、ということができなかったりするのだ。
いやまぁ、次元遮断級の効果を得るのなら、本来かなり高位の魔法が必要なところを、低級魔法レベルの魔力消費で賄える辺り、文句を言うのは筋違いだとは思うんだけどね?
でもこう、これって場所指定系に近いから、列車みたいな移動空間では座標の紐付けしないと車内から放り出されたりする、みたいな欠点もあるわけなんですよねー。
……まぁ、一番の問題は、これ使うと外との行き来が難しくなる、ってことなんだけどねー。
何物も通れない、という概念で編まれるモノなので、外に出たいなら結界まるごと解除しないといけないというか。
その辺りの融通の利かなさを聞いたモモンガさんは、微妙な表情でこちらを見つめてくるのだった。