なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「なん、だこれは!?」
思考が乱れる、千切れる、途切れて爆ぜる。
その声を聞く度、その姿を見る度、それ以外の何もかもが消え失せていく。
──先の少女の言を信じるのなら、これは魅了の一種なのだと思われる。……思われるが、このラインの魅了を使える者がどれほど存在するだろうか?
五感のなにもかも、それらに備えた耐性すら容易く越えていくこれは、恐らく以前戦ったビーストⅢi/Rのそれより、遥かにおぞましいものだと言えるだろう。
──そう、これは
そして彼──モモンガこと鈴木悟は、それと似たようなモノを知識として備えている。
「キーア!簡潔に聞くぞ!
「──っ、流石って返しておくけど、その通り!!
その類似例──積極的に矢面に立ち、どうにかこちらを逃がそうとする相手、キーアに声を掛ければ。彼女は然り、と苦い顔をしながらこちらに声を返してくる。
──そう、内から滲み出る、というその性質。それは、彼女が持つもの──【星の欠片】の説明に、とてもよく似ている。
だがしかし、解せないことがある。
それは確か、彼女・ないしその元となった人間が考えた、外に漏れていないはずのもの。
言うなれば黒歴史の一つであり、それがこうしてこちらに攻撃を加えて来ている、という状況そのものがおかしいのだが……その答えは、彼女の口からもたらされた。
「ええ、本来成立しえないもの、というのは確かでしょうね。なにせ私たちは
「──極小の一、なにもかもにも含まれるという特殊性……」
「おや、お母さまはそこまで明かしていらっしゃったので?……うふふ、そこまで深い仲だと、どうにも妬けてしまいますわね」
朗々と語る彼女──こちらを攻撃してくる彼女は、本来自分のような存在は、『逆憑依』として成立するモノではないと認める。『逆憑依』が成立するのは、広く人々に知られた作品がほとんど。
ゆえに、あまりにマイナーな作品は姿を表すことすら少なく、それがきちんと本人を再現しきれていることすら稀。
──そんな者達すら足りないほど・いや
そう、かつてキーアが語ったように、【星の欠片】はそもそも他の創作とは成立の原理が違う。
微細な細胞一つ再現できれば、それで全てが事足りるというそれが、どれほど恐ろしいものなのかというのは。……わかる人には痛い程にわかることだろう。
「ゆえに、私たちはそも
「──ああ、お前がそこまでの力を奮える理由はわかった。だが解せんのはそこではない。──お前は、
「──ふ、ふふふ。あはははははははっ!!」
ゆえに、彼女が成立していること事態に疑問はない。
あると言えばある、くらいの雑さでも成立する
だからモモンガは本当に疑問なこと──彼女が
それに彼女は堪えきれない、とばかりに哄笑をあげ、ゆっくりと一人の人間を指差す。それは──、
「
「…………は?」
「いや違うからね?!キャラ作る時に設定を考えてあげた、ってだけだからね!?」
とても狼狽えている、キーアなのであった。
いやホントに。意味がわからない。
彼女がここにいることも意味がわからないし、それがこうしてこちらに攻撃をしてきている現状も意味がわからない。
目の前の彼女──ユゥイは、かつて私が『キルフィッシュ・アーティレイヤー』としてなりきり板で活動していた時、ふらりと現れた同僚である。
なりきり初心者だという彼女・ないし彼にあれこれと説明をしてあげたり、はたまたキャラの作成を手伝ったりした私は、そのスレの中で彼女を養子として迎えたのだったか。
とはいえ、その時の彼女は今のようなキャラクターではなかったはずだし、使っている能力も別物なのだけれど。
──そう、別物。
彼女の名前は確かに私の(架空の)養子と同じだが、その容姿も能力も、当時のそれとは別のモノに変じてしまっている。
……というか、彼女はそもそも【星の欠片】ではない。
それは成立条件的に常人が覚えたりたどり着いたりするべきものではなく、ゆえにそれを設定に組み込むことを薦めたことなど一度もないのだ。
……だがしかし、ここには一つ思い当たる節があった。
まぁ、私とキリアの関係と比べると、ほぼ名前が同じくらいの類似点しかないのだけれど……もし仮に両者が混じっているのだとすれば、色々と説明ができてしまうのだ。
「──とにかく、私の予想が間違ってないなら、この場所で対峙するのは愚の骨頂過ぎる。せめてログアウトしたいんだけど……」
「ンソソソソ、それは拙僧の沽券に掛けて封じさせて頂きますれば。こう見えて拙僧、できる男ですので、はい」
「……ええい忌々しい……!!」
そして、その元ネタから考えるに、電脳空間で彼女と相対するのは正に自殺行為、早急にログアウトする必要があるのだが。
ここで邪魔をしてくるのが道満。彼はなにかしらの小細工を使い、ここら一帯をログアウト不可領域に変更しているらしい。
見る限り永続的に変更しているのではなく、術者をどうにかすれば解除できるタイプだとは思われるのだが……それの解除のために道満に集中するというのは、この場でもっとも危険な相手から目を逸らす、ということでもある。
今はまだ、絶えず相殺し続けているからマシだけれど、私がそれを止めた途端、他のメンバーはログアウト云々の前に帰ってこれなくなる可能性が非常に高い。
かといって、相殺している状況でなお酩酊中の他のメンバーに、道満をボコることが可能かと言われれば難しいだろう。
そも、道満自体も単に本人が突っ立ってるわけではなく、アインストの技能で雑魚敵量産中なわけだし。
「うわーキーアー!!こいつら怖いよー!!」
「ちぃっ、こうも頭が痛いと、思うように動けぬ……!」
「ぬぐぐぐ、精神統一しきれぬから仙術も思うように発動できぬ……!」
三人が呻くように、彼らはそれらの雑魚敵への対処で手一杯である。……これがせめて現実ならまだどうにかなったのだろうが、ここは電脳空間。
思考の乱れはダイレクトにステータスに反映されるため、本来よりも動きが精細を欠いてしまっているのだった。
特にアグモン君とミラちゃんは影響が酷く、二人は本来の実力の三割ほどすら発揮できずにいる。……この状況下で道満をどうにかする、というのは不可能に近いだろう。
じゃあモモンガさんやマッキーは?……となるわけだが、こっちはこっちでマッキーへの影響が酷く、モモンガさんは彼女を守るために意識を割いているため、余計動きに精細を欠いている。
「ンンンンンー?どうされましたかな魔導王殿?いつものように超位魔法とやらは使われぬので??」
「やかましい、貴様如きに使うまでもないというだけのことだ……!」
「ンンンンン、その威勢がいつまで続きますものやら」
一番道満に近い位置にいる彼だが、彼自身少なからず周囲の空気の影響を受けていること・その背にマッキーを庇っていることで、本来の実力はほとんど発揮できていない。
それでもなお、道満に食らい付く辺りは流石なのだが……余裕の姿を道満が見せている通り、トドメを刺せるような状況ではまったくない。
現状、手数の面からしても質の面からしても、手が足りていないとしか言えぬ状況。
なんとかして打開せねば、と焦るものの、時間が無情に過ぎていくばかり。
誰か、一瞬でいいから時間を稼いでくれないか。
そう願ってしまう私に──、
「……あーもう!やればいいんでしょ、やれば!!」
「クモコさん!」
救いの手は、ようやく差しのべられたのであった。