なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「おおおおおしまいです無理ですダメですどう考えてもバレます流石にマシュには隠し通せる自信がありませんっ!?」
「うわぁ、さっきまで滅茶苦茶落ち着いた聖女めいた感じだったのに、すっごい慌ててるー」
「茶化してる場合ですかっ!?ああ、神よ、このような試練は想定しておりません……っ」
「……笑っちゃいけないんでしょうけど、端から見てる分にはすっごい面白いわね」
「だよねー」
こっちの慌てふためく様子をみて二人が笑っているが、私からしてみればとてもじゃないが正気でいられる話ではない。
何せ、マシュは──今は確かにマシュだが、昔の
そんな彼から知識を受け継いでいる筈の今のマシュに、キリアの中身が私だと知られたら──?
「先輩最低です」*1
とか言われるに決まってんでしょうが!!
……バレるわけには、バレるわけにはいかないというのに……っ!
よりにもよってマシュだから、僅かな違和感から気付かれかねない……っ!!
「サマーキャンプの時みたいに?」*2
「ああああ聞こえません聞こえませんったら聞こえませんっ」
(……見損なうなら
CP君が痛い所を突いてくるものだから、思わず耳を両手で塞いで聞こえないふりをする私。
その途中でゆかりんが何やら難しげな表情で唸っているのが見えたけど、今の私は自分のことで手一杯なのでそれをスルー!……しようと思ったら、考えるのを一旦横に置いたらしい彼女から声が掛かったので、スルーできずに終わる。
「結局、マシュちゃんに気付かれなければいいのよね?」
「ええ、まぁ、はい。そういう事になりますが……」
こちらの返答に彼女は頷いたのち、一つの提案を返してくるのだった。
すなわち、「前回と同じ手でいいじゃない」と──。
「……そう簡単に上手く行くのでしょうか?」
「心配し過ぎなのよ貴方は。というか、前回大丈夫だったんだからなんとかなるなる!」
「ツァンさんという明確な例外がいらっしゃったのですが……」
「…………例外は例外よ、うん」
「そういうのはこっちに視線を向けて言って貰えますかっ!?」
うー、不安しかない……。
そんな思いで準備をする私達。まぁ、準備と言っても前回と同じ事をしたのち、マシュが来るのを待つだけなのだけれど。
この姿でそわそわするとイメージが崩れる……みたいな心理的強制があるのか否か、幸いにしてその辺りが態度や表情に出ていないのはいいことだ。
だがまぁ、こうしてソファーに座ってただ彼女を待つ……というこの時間の息苦しさは如何ともしがたく、こうしてジェレミアさんの淹れてくれた紅茶に、口を付けようとしてはやっぱりやめる、みたいな奇行を繰り返す私なのであった。
「
「ありがとう、ですが貴方も油断なきよう。あくまでもその姿は上に被せているだけのもの、言語補助などは一切掛かっていませんので、そのつもりでお願いします」
「
……本当にわかっているのなら、私の顔できゅいきゅい言うのは止めて欲しいのだけど。
思わず漏れそうになるため息を堪えながら見詰める先にあるのは、どういうことか
……いや、どういうことかも何も、前回と同じようにカブト君に『みがわり』をお願いしているだけ、なのだが。
ポケモンの『みがわり』に他の要素を詰め込んで、いわゆるドッペルゲンガー*3みたいな状態にしたものが、今のカブト君の状況である。まぁ、出会ったからと言って死んだりしないし、そもそもガワだけなので、他者への対応とか襤褸が出やすいのだけれど。
そこはまぁ、一般的な魔法少女のマスコットとして覚醒?した感じのCP君の腕の見せどころ、というやつである。
具体的には、キリアとキーアが揃っている限り、かなり強力な認識阻害が発生する、らしい。
……実際に使った最初の事例で、ツァンちゃんという例外が発生しているのがなんとも不吉だけれど、まぁこれ以外に対策もすぐには思いつかなかったし、というわけなのであった。
「……そういうんじゃないってわかってる筈なんだけど、なんというか無機質な感じになっててちょっとソソるわね、あの貴方」
「……魔の気配を感じたのですが、ぶっ飛ばしていいのですね?」
「わー!?冗談!冗談だから鉄拳聖裁はYA☆ME☆TE!」
突然変なことを言い始めるゆかりんに
……全く、こっちの緊張を解そうとしてくれてるんでしょうけど、冗談にしては質が悪いのよそれ……。
まぁでも、彼女の言い分もわからないでもない。
一応キーアの容姿は美少女に区分されるものである。
なので、いわゆる綾波系*4な雰囲気を纏うと、それはそれで別の層からの受けが良さそうな感じになるわけで。……実際に喋らせると『
このまま外に連れ出して、本当に大丈夫なのだろうか……?
みたいな不安を抱えつつ、マシュがやって来た事で
……危なっ!?マシュまで危うく変な扉開きそうになってたじゃん!?
不審な姉ならぬ不審な母とか求めてないぞ、正気に戻るんだマシュ!
まぁその辺りの指摘は、今の私にはできないわけなのですが。
「えっと、とりあえず他の同行者との顔合わせ、やっても大丈夫かしら?」
「あ、はい八雲さん、こちらは大丈夫ですっ。せんぱいも、大丈夫ですよね?」
「……」(こくり)
「こちらにも問題はありません。それで、同行者とはどのような──」
「すみませーん、遅れましたーっ!!」
「ぐふっ」
「?どうなさいましたかキリアさん?」
「何でもありません、ちょっと死地を見付けただけですので」
「それは一大事なのではっ!?」
聞こえてきた声にダメージを食らうのは、もはや通過儀礼か何かなんです?
いやまぁ、聖女フェイスを保つことによって致命的な事態にはならなかったけども、これキーアのまんまだったら恥ずかしさの余り、床を転げ回っていたんじゃないだろうか?……なんでって?そりゃ勿論──、
「お待たせしました、本日ご一緒させていただく高町なのはです!今日はよろしくお願いしますっ」*5
扉から中に入ってきたのが、台詞を借りた先輩だったからですよっ!!
「高町さんは──」
「にゃはは、なのはで構いませんよ?マシュお姉さんに畏まられると、ちょっと気が引けちゃいますので」
「なるほど、ではなのはさん。今日は貴方がご一緒に行動される魔法少女、ということでよろしいのでしょうか?」
「私以外にも居ますけどね。……うーん、みんなはまだ……かなぁ?」
マシュとなのはさんが会話しているのを反対側から見つつ、落ち着きなくカップに手をのばす私。
……近代魔法少女の大家も大家やんけ、このノリだと他の魔法少女はフェイトちゃんだったりはやてさんだったりするのか?
なんて風に思っていたのだけど、どうにも違いそう。いや、だってね?
「きゅー」
「ふふ、コジョピーもそう思う?」
「ほほう、オコジョですか。……あれ、もしかしてこの方も?」
「そうですよ、オコジョのコジョピーって言うんです」*6
彼女の肩の上できゅーきゅー鳴いてるのが、まさかのオコジョなんですもの。
……ユーノ君代わり?と言うことはカモミールの方かと思ったのだけど。*7
見ている限り一切言葉を喋らない上に、なのはさんの口から彼の名前が飛び出した為『あ、これポジション同じなだけの別物だ』と気付いたわけである。
「……きゅー」
「きゅ?きゅきゅー」
「きゅい、きゅきゅいっ」
「「きゅー♪」」
「……………はっ?!せ、せんぱいっ?!せんぱいが突然オコジョ語をっ?!」
「わぁ、コジョピーとあっという間に仲良くなっちゃった。キーアさんって凄いんですね」
「……死地が向こうから押し寄せてくるのですが、私に一体どうしろと……?」
「見ている分には微笑ましいのがなんとも言えないわね……」
まぁ、まさかのきゅいきゅい言い合って謎の通じ合いを見せたカブト君には、なんとも言えない気分にさせられたけど。……コジョピーのキャラ的に、子分にでもされた感じ、かな?
視線が思わず生温かいものになりそうなのを堪えつつ、彼……彼女?の頭に飛び乗ったオコジョを見る私達。
……めっちゃニコニコ顔なんですがそれは。そんな満面の笑みとか私しないんだけどぉ!?
「……す、すみません。カメラ、カメラはありませんか!病気の弟が待ってるんです!!」
「マシュさん弟さんがいたんですかっ?」
「なのはちゃん、ちょっと今のマシュちゃん不定の狂気中だから、あんまり真剣に取り合わないよーに」
「え?は、はい……」
鼻歌を口ずさみながら左右に揺れるカブト君と、その上で同じようにきゅいきゅい言ってるコジョピー。
……これが、これがカブト君の姿が私でさえなければっ!単に微笑ましいモノで済んだろうにっ!!なんでよりにもよって今、この時にこうなるのかっ!!神よ、喧嘩売ってるなら買うからなっ!!?
……まぁ、こちらが無理をさせている手前、注意したりとかはできないのだけれども。そもそもマシュの前で迂闊な行動はできないし。
つまりはアレだ、私の胃にダメージが蓄積されていく以外に、現状には何の問題もなし。OK?……なんもOKじゃないっ!!!
「ああ全く……あらっ?」
頭が痛くなって来たのでちょっと気分を変えようかと窓の外に視線を向けたのだが……壁?
なんか、いつの間にか郷の外に鏡面仕上げっぽい壁が生えてるような……?
「壁呼ばわりとは不躾な。……剣だッ!!」
「……!!?誰ッ!!?」
外から聞こえてくるその声に、窓を開けて空に視線を向けてみれば、逆光になってよくわからないが壁──巨大な剣の柄の部分に、腕を組んで立つ何者かの影。
「ぶつかり合う信念。流した汗と涙は絆となり、明日を繋ぐ力となる。人それを『魔法』という」*8
「……????え、何か違うよう
「敢えて名乗ろう、フェイト・テスタロッサであるとッ!!」*9
「確実に違うということだけはわかりますよっ!!?」
「ははは、失敬失敬。──とうッ!!」
こちらのペースをとことん乱し、柄から飛び降りてきたのは蒼き髪の女性。
彼女は上手いこと室内に飛び込むと、体の埃を一通り払ったのち、堂々とその名を告げるのであった。
「──風鳴翼、罷り越した。今日はよろしく頼むとしよう」*10