なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
入り口の前に整列し、今か今かと開演を待ち構える私たち。
用意された衣装に袖を通し、出来うる限りの営業スマイルを浮かべ、客の入場を待つこの一時。……なんというか、緊張感がとても酷い。
普段の騒動の時とは違い、今回は一般人を相手にする仕事であるということで、常のそれ以上に気を付けるべきことが多い……ということも、この緊張感の理由だと言えるのかもしれない。
とはいえ、人と手に書いて呑み込むのにも限度というものがある。*1
ゆえに、いい加減腹を決めて前を向いた私は。
「──ようこそおいでくださいました!」
ようやっと入ってきた来賓達に、極力丁寧に歓迎の挨拶を述べるのであった。
「──こちらはあの『ベイカー街の亡霊』において登場したコクーンをモチーフに、安全面の設計を密に行ったフルダイブマシンでございます」
「……それって本当に大丈夫なやつなんです……?」
「こちらメディキュボイドの試作型となります。将来的にはあらゆる医療現場において、画期的な治療をお約束できるようになることでしょう」
「なるほど、こちらは試しに使ったりは……?」
「暫く致しますと、社長からの挨拶がございます。それを終えたあと、皆様に一般開放させて頂くことになりますかと」
開演直後、展示されている機械達に興味津々で近付いて行く来賓達に、あれこれと解説をするコンパニオン達が幾人か。
……これってコンパニオンの仕事かなぁ、なんて内心首を捻りつつ、聞かれたことをなるべく子細に応えていく私たちである。
一応、事前に資料を貰って予習はしているし、わからない質問が飛んできた場合は念話でコヤンに確認も取れるため、そうおかしな対応をしているものは居ないはず。
なので、現状は普通の発表会、みたいな感じで周囲は和やかに進んでいるのであった。
……とはいえ、まだ安心はできない。
さっきお客さんも尋ねていたが、ここに並ぶ機械はいわゆる『フルダイブ』方式のゲームプレイを行えるようにするタイプのモノ。
言ってしまえば
ついでに言うのなら、これらの機械の製作を主導したのは、あの社長。……茅場晶彦と檀黎斗とという、ゲーム製作者系の中でも特級の厄介者が含まれる存在が作り上げたものである。
……脳をレンチンする*3機能が密かに含まれていてもおかしくないので、警戒を強めなければいけないのは社長の挨拶が終わったあと──体験会が始まってから、ということになるのであった。
いやまぁ、流石にこの状況でやらかすとは思えんけども、一応ね?
(──まぁ、あまり信用できるタイプのお方、というわけでもありませんからね、あの人)
(うーん、コヤンにまでこう言われる辺りが流石というか……)
脳内会話ですらディスられる社長に哀しき過去……*4があるかはわからんが、ともかくコヤンにまで呆れられるのは大概だよなぁ、と改めてあの社長の危険性に思いを馳せる私であった。
……なお、「『まで』とはなんですか、『まで』とは」という抗議の声がコヤンから返ってきたが、そっちに関してはスルーである。君はほら、頼りにもなるけど危険でもあるから、社長とどっこいなところあるし?
ともあれ、特に大きなヘマをすることもなく、真っ当に来賓の相手をしている私たちである。
……それもこれも、不埒な行為をしそうな相手が全てキアラさんの方に向かっているから、という至極当たり前の現実があったからでもあるのだが。*5
「(……お、可愛いねーちゃんだ。ちょっと困らしてやるか)……おーい、ちょっと」
「はい、なんで
「──お客様、あちらの子は新人で御座いますわ。宜しければ、私が解説を承りますが、どうでしょうか?」
「え、は、はい(なんだこのエロいねーちゃん!?)」
(……またキアラさんの毒牙に取っ捕まったおっちゃんが一人……)*6
今回の発表会は一般客も数多いため、時には今のおっさんみたいな人も発生する。……ああいうのはとにかく女の子に絡みたいだけで、説明しても聞く気がないなど正直害悪に近い。*7
とはいえ、そこを素直に主張するとクレーマーと化すので、それをどう賺すかが問題となるのだが……その辺、キアラさんなら
……これが原作のキアラさんなら、あのおっさんは破滅確定なのだが、ここのキアラさんは『原作の記憶があるけど綺麗なキアラさん』*9とかいう不可思議生物なので、あのおっさんに関しても破滅まではいかないだろう。多分、恐らくきっと。
…………まぁうん、最悪頭を丸めて出家するくらいで済むんじゃないかな、きっと!
(宗教の本来の使い方って、後がないと思っている人に後があると思わせることだからねー、そういう意味では真っ当に使ってる、ってことになるんじゃないかなー)*10
(マナちゃんは宗教有識者かなにかなの……?)
無敵の人、なんてのが居るけど、ああいうのは『今の自分はもうどうしようもない』って思っているからこそ発生するモノであり、そういう相手を現在の社会構造で真っ当な道に戻すのは不可能でしかない。
ゆえに、宗教というものが一番よく効くのだ……みたいなことをうんうんと語るマナちゃんになんとも言えない視線を向けつつ、まぁ一理はあるかと頷く私であった。
そも、宗教って本来は『生活する上で役に立つことを纏めたもの』的な側面が強かったりするわけだし。*11
そんな感じで、迷惑客はキアラさんの万色悠滞で一網打尽にしつつ、極めて健全に(?)仕事をこなしていた私たち。
「皆様、ご注目ください。これより、社長の挨拶を執り行わさせて頂きます」
「……ようやくお出ましか」
やがて現れた社長に、これからが本番だと気合いを入れようとしたのだが。
……いや、なんでゲーミングしてるのあの人?と、思わず困惑することになったのだった。
「これが我が社の新システム、レインボー我輩であーる!!」
「んなわけあるか!!」