なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
まさかの都合二度目のゲーミング社長なわけだが、そもそも一度目の時点でわりと大概な状況のはずなんだけど?
……などと困惑する私を他所に、社長は普通に挨拶を進めている。
あれか?これはもしかして、私だけが変とか、そういうあれなのか?……と困惑するが、脳裏に「大丈夫ですせんぱい、せんぱいの反応が正常です」とマシュからの念話が飛んできて一安心したのであった。
「……とまれ、このレインボー我輩は消費電力が著しく高いのでな。一瞬のお披露目となったこと、
(──消費電力!?それアンタが変になったとかじゃなく、再現性のあるやつなの!?)
なお、そのあとの言葉でなんか変なことになったが、まぁ置いといて。
ともあれ、やっと出会うことのできた社長──ドクターウェストは特に異常な様子も(さっきのレインボー以外)見受けられず、少なくとも元気そうではあるのだった。
……ということは、あの時居なかったのは普通に用事があったというだけなのだろうか?
まぁ、その辺りはあとで直接聞けばわかる話でもあるので、今のところは彼の発表に耳を傾けることになるのだが。
「我が社のメインコンテンツ・『tri-qualia』は『創作の世界をもっと身近に』という理念により生み出された作品であーる。そも、我輩のこの姿もまた、その理念に端を発した伊達男!つまりは全世界待望、武道館も満員御礼・けどソーシャルディスタンスは的確に……」
「うふふ♡社長、横道に逸れる間があるなら、とっとと本題に入りやがりませ♡」
「ぬぉわ!?止めぬか秘書Ⅱ!?いや秘書Ⅳ?我輩そちらの方面には余り詳しくはな……あででででで!?アイアンクロー!?ヒートエンド!?そういうスプラッタは密に!密に!!」
「……わぁ(白目)」
……なお、西博士が真っ当に発表なぞできるわけもなく、こうして開始数分でぐだぐだになってしまったわけなのだが。
こういう時は彼を裏手に叩き込み、他の面子(主にカヤバーン)に交代してくるのが常のセオリーなのだが……。
「……む?!項羽様の気配!?どこっ、どこなのっ!?私の項羽様は一体どこにいらっしゃるの!?」
(ダメだこりゃ)
カヤバーンの声が項羽様と同じであるため、常日頃からパイセンにロックオンされている……という事実を元に考えると、会場内というごく近距離にパイセンがいる状況下において、迂闊なチェンジはまさにデスチェンジ*1と化す危険行為である。
そのため壇上のコヤンも、迂闊に西博士を裏手に叩き込めずにいるのであった。……うーん、ぐだぐだしてるぅ(白目)
というか、普段は郷の中で
……そこら辺の謎を思えば、やっぱりどうにかして郷に置いてくるしかなかったんじゃないのかなー、なんてことも考えてしまう私である。
まぁ、その状況に慣れきって、発表が必要な時には三分未満で全て解説し終える癖が付いたカヤバーンの存在も、大概謎なのだが。……なあなあに過ごしすぎて、本当に項羽様分混じってないです貴方?
まぁともかく。
今回に関しては、一種の交代禁止フィールドであることは間違いない。……破ると(パイセンの)臓物と血の雨が降り注ぐことになるので、流石に無視はできない。
……というわけで、敏腕秘書であるコヤンの仕事がまた一つ増えたのであった。……ええと、お疲れ様です……。
「それでは役立た
「……あ、あの、社長さんは大丈夫なので……?」
「ご心配には及びません。うちの社長は頑丈さが売りですので」
なお、当の社長がヒートエンドだのなんだの口走ったため、お望み通りに頭部を爆砕させられた社長が地面に転がっているが、当のコヤンは「ただのデモンストレーションです。こんなところでそんな危ないもの、使うはずがありませんでしょう?」などとしれっと嘯いていたのであった。
……闇の方のはずなのに、思いっきり人の世の武器使ってた気がするのはこれ如何に?*2
「先程我が社の社長も軽く触れていました通り、我が社のメインコンテンツ・『tri-qualia』は、創作世界の再現・及び交流を目指して開発された商品となっております。──夢を実現する、などと言い換えても構わないかもしれません」
ともあれ、死屍累々の社長は一先ず置いておき、話は軌道修正される。
かのゲーム・『tri-qualia』が目指したモノと題して語られ始めたそれは、人の創作行為とは夢を作るモノであり、ゆえにこそそこに秘められた様々な願望には、価千金の価値があるのだ、という風に変遷していく。
「その辺り、皆様方に馴染み深いのはやはり『ドラえもん』でしょうか?子供心に思う『あんなこといいな』『できたらいいな』。──創作の世界には、そんな夢が山のように詰まっているわけです」
「これらの機械は、そうした思考の果てにあるものだと?」
「ええ、その通りです。……残念ながら、今の人類の科学技術で、ドラえもんという存在を生み出すことはできません。そも、ドラえもんの前段階である『意思あるAI』の時点で、私達人類はまだ足下にも及んでいないと言えるでしょう」
周囲に並ぶ、フルダイブマシン達。
これらは皆、創作の中で登場したそれを元にして、作り上げられた試作品である。
……現実は創作のように自由自在ではなく、なにかを作るにはどうしても積み重ね、というものが必要になってくる。
そういう観点からすると、人類はまだ『望んだものを望んだように作り上げられる』ステージには達していない、ということになるだろう。
科学の聖杯、とも呼べるドラえもんの存在は、机上どころか頭の中の空論というわけである。
そも、ドラえもんというキャラクターを語る上でもっとも大切なこと──彼が人類ではなく、人類の良き隣人であるAIであること、という当然の基本概念にも、人はまだたどり着けていない。
ゆえに、こちらができることもまた、まだまだ限られているということになる。
「ですので、私共はまず
「それが、『tri-qualia』だと?」
「ええ、その通りです。──この商品は二人の稀代の天才が、その意思をぶつけ合い高め合いながら作り上げた至上の逸品。そしてそれゆえに、とあるプロジェクトの母体としても、高い適性を弾き出しました」
「……とあるプロジェクト?」
……なんか、話がキナ臭くなってきたような?
そんな思いで一般客の記者と、コヤンが話す姿を遠くから見ている私である。
そんなこっちの視線を知ってか知らずか、コヤンは蠱惑的な笑みを浮かべながら話を続けていく。
「皆様は、『.hack//』シリーズという作品をご存知でしょうか?──サイバーコネクトツー社が作り上げた、ネットゲームを題材としたゲーム作品。そして、そのゲーム内ゲームの名前が『The World』。『tri-qualia』のエッセンスの一つともなっている作品ですわね」
「あー、古いゲームですね。……それと、この話になんの関係が?」
「『The World』はオンラインゲームの一つですが──製作者達の一部は、このゲームに別の特別な意味を込めていました。──究極AI完成のための揺りかご。それこそが、あのゲームの
コヤンが話題に出したのは、『tri-qualia』内にも関連施設の存在するゲーム・『The World』。
そして、その作品に隠されていた真意──一つのAIを完成させるための舞台だった、ということを例にあげ、彼女はその意図をこっちに悟らせようとする。
……『The World』におけるそれは、ゲームに接続してくる雑多な人達の思考を学び、やがて彼らを導く女神の如きAIを生み出そうとするモノ。
それをこの場で話題に挙げるということは……?
「……つまり、『tri-qualia』にもそのような一面がある、と?」
「その通りです。……まぁ、元の作品とは違って
「意図もある?」
「ドラえもんを例に挙げたでしょう?──でしたら、必要なのは中身だけではなく、外見の方も……となるのは、とても自然なことではありませんこと?」
すなわち、『tri-qualia』においても、究極AI作成に近い目的で進められているプロジェクトがある、ということ。
……まぁ、あくまでもついで、みたいな言い方だったのだが。
なにせ、最初に例に挙げたのはドラえもんである。……究極的な目標が『人造でのドラえもん製作』にあるのなら、解決しないといけない問題は山ほどあるのだから。
「核分裂式ではなく、核融合式。もっといえば、その先にある動力炉であるとされるそれに、四次元空間の自在な利用などなど……ドラえもん、という夢を実現させるには、様々な技術が必要となります。──その前段階として、私共はこれらの
そも、本当にドラえもんを作るのであれば、『ひみつ道具』も必要ですからね──。
そんな風に言葉を締めるコヤンに、遅れて大きな拍手が飛び交っていく。
そうして騒がしくなる会場を見ながら、私は一つため息を付いた。
……恐らく、この発表は幾つか『嘘』がある、と。
今はなりきり郷でぶつくさ言っているはずの、後輩の一人──BBちゃんの姿を脳裏に描きながら、私はどうしたものかと内心首を捻るのであった。