なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

595 / 1297
いつの世もAIとは夢の形

『──あー、アウラさんですか?確かに、同僚みたいなものですね。細かく要素を見ていくと特に』

 

 

 まぁ、電子の世界に生まれた女神ですし?

 ……などと電話の向こうで宣っているのは、我らが後輩BBちゃん。

 

 思えば彼女との出会いは『tri-qualia』の中。……ゆえに、先程コヤンが語っていたプロジェクトとやらに心当たりがあるのではないか?……と思った私は、仕事の休憩時間を活用して連絡した次第というわけである。

 

 時刻は大体六時頃。

 先のコヤンの説明会より既に四時間近く経過しているが、人の波が途絶える気配はない。

 やはりフルダイブマシンには心を惹かれる人が多いということなのか、その体験待ちの列は途切れることがない。

 ……まぁ、一回の体験に大体三十分から一時間ほど使うというのも、人の波が減らない理由だとは思うのだが。

 

 今回の機械達には、体感時間の加速機能などは搭載されていない。……そもそも再現が難しいということもあるだろうが、純粋に技術に対しての実地データが少ない、というのも理由の一因だろう。

 人間に取って一番身近であろうタイサイキア現象*1にしたって、意図的に人を危険な目に遭わせる必要があるため、早々試せるモノでもないし。

 

 

『とはいえ、それがないと困るんですよね、実際』

「なんだよねー……」

 

 

 とはいえ、体感時間の加速機能は()()()()()フルダイブマシンに必要とされる技術であるため、その研究をしない……という選択肢はない。

 ゆえに、その内試さなければならなくなる、というのもまた確かな話なのであった。

 

 よく『ゲームは一時間』と注意されることがある。*2

 それ以上やり過ぎると体調への影響があったり、はたまた依存症になる可能性があるから、という論拠の元生まれた言葉だが……実のところ、この言葉に科学的な根拠はないのだとか。

 元々はとある有名人が『一時間集中してやろう』という意味で述べた、どちらかといえば()()()()()()()()()()()()()のような意味合いの言葉が変化したものらしい。

 

 まぁでも確かに、継続して一時間以上やる作業があるか?……と問われると、微妙な気分になるのも確かなのだが。

 仕事にしろ勉強にしろ、大体一時間もやれば、何分か休憩を挟むのが普通なわけなのだし。

 

 そこから考えるに、同じ姿勢で同じ行為を集中してやり続ける、というのは人が思うより遥かに重労働なのだろう。

 楽しいことをしている場合は、疲労感を無視できてしまうことが多いが……それは無視しているだけであって、その疲労がなかったことになっているわけではない。

 

 ゆえに、科学的な根拠はなくとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のが、『○○は一時間』という制限になるわけである。

 ……まぁ、他者に言われてやるようなものか?……と問われると微妙なので、基本的には心に留め置いておくくらいの制限だろうが。

 

 と、ここまで話しておいてなんだが、事が『フルダイブ』ゲームになると、事情が変わってくる。

 これらのゲームは基本的に()()()()()()()()()、ゲームに使われる信号を流して()()()()()という方式が一般的……というか、そうでもないとゲームの中の感覚をダイレクトにフィードバックするのは不可能だろう、とされている。*3

 

 無論、最近の技術の進化により、単にコントローラーを握っているだけなのに、そこにゲーム内で持っている武器を撃ち合った時の振動が感じられるようになったりもしているが*4……大前提として、それはあくまで感触を再現できているだけである。

 もっと言ってしまうと、武器を振る感覚みたいなものは、結局のところ()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 なにを当たり前のことを、と思われるかもしれないが、これが結構大きな問題で。

 

 

『現行人類の技術力ですとー、VR機器をリアルにしようとすればするだけ、必要な機械が大型化してしまうんですよねー』

「周囲に体をぶつけないように、ってすると安全を考慮してスペースを用意しなきゃいけなくなるからねー」

 

 

 そう、ゲーム内の動きを体感しようとすればするだけ、それを可能にする機械の大きさが肥大し続けるのである。

 

 現実に存在するとあるVRマシーンは、現実での歩行をゲームに反映するため、いわゆるルームランナーのような機構を併せ持つ形となっている。

 歩く、という行為は人間にとってとても原始的な行為であり、それを自由にこなせるというのは、ある種できて当たり前・最低限の権利である、という風にも言い換えられるかもしれない。

 ……これだと車椅子の人が例外になりそうなので言い換えれば、自由な移動ができてこそ、娯楽として楽しめるようになる……みたいな感じだろうか?

 まぁ、これに関しては最悪ゲーム内では飛行している、みたいにすればある程度簡略化できるかもしれないが。

 

 ともかく、その場から一歩も動かないアクションゲーム、というのは──内容によっては成立するかもしれないが、あくまでも一部の話。

 普通は色んなところに行きたい……となるもの、ということになる。

 ゆえに、ゲームとして魅力的にしようとすると、移動行為はどうしても省くことのできない要素になってしまうわけなのだ。

 

 これをVRゲームとして考えると、現実の空間を読み込んで作品に反映する(ARへの移行)……くらいの荒業を使わない限り、筐体内で移動が完結するようにしなければならなくなる、ということになるわけで。

 ……うん、下を全方位ルームランナーにしたとしても、必要なスペースは結構なモノになってしまうだろう。

 そういう意味で、実は現在存在している巷のVR機器というのは、アクションの必要な作品との相性が悪いのである。

 なので、現状のアクション系作品は『移動は勝手にやってくれる』みたいな形になっていることが多い……という話に繋がるのであった。*5

 そうした問題を解決するのに役立つのが、皆さんご存知『フルダイブ』形式の機械、というわけで。

 

 

『脳の信号を誤認させることで、()()()()()()()()()()()()という感覚を与える……ゲーム体験をアップグレードする機能としては、これ以上のものはそうないでしょうねぇ』

 

 

 一応、AR──拡張現実という道もあるものの、これは現実に存在するものにゲーム内容を制限されてしまう、という風に解釈してしまうこともできるため、できる作品の幅はそこまで広がらないだろう。

 そういう意味で、ゲームの進化の先として期待されるのがVR、かつフルダイブ形式の作品であるというのは、ほぼ疑いようがあるまい。

 

 で、ここまで語ってから話を戻すと。

 フルダイブ方式は脳の信号をジャックするもの、ということになるわけだが。……これ、健康への被害は一切ないのだろうか?

 勿論、脳をレンチンする、みたいな明らかに論外の話は別として、だ。

 

 実際には薬効がないのに効いてしまうプラシーボ効果のように、実際に肉体を動かしていないのに筋肉が付く、みたいな現象があればいいが……基本的にはそんな都合の良いことはなく、フルダイブタイプのゲームの長期利用は、そのまま身体機能の低下を招く可能性がある、というのはなんとなく予測できる話である。

 

 いや、身体機能の低下で済めば、もしかしたらまだマシかもしれない。

 フルダイブタイプの作品は、ゲームの体験を飛躍的に高度なモノにしてくれる。

 ……それはつまり、本来()()()()()()()()()()()()()()()()()──例えば『死』というものを、身近なものに変えてしまう可能性すら持っているわけで。

 

 

『ショック死、なんて症状もあります。この場合は恐らく脳死になるのでしょうが──まぁ、体験を追い求めすぎるのも考えもの、ということですね』

「だからこそ、ゲームによっては『怪我などの強い衝撃を緩和する』機能が付いてたりするんだしねぇ」

 

 

 幻肢痛などの症状を見ればわかるが、脳というものは人が思うより遥かにファジーな部分がある。

 無いものが感じられたり、その反対にあるものが感じられなかったり……普通に暮らしていてもそうなのだから、今までとは全く違う領域にあるフルダイブという形式も、それが人にもたらす可能性というのは計り知れない。

 さっきは否定したが、肉体に対してのプラシーボ効果のようなものが実際には存在する……という可能性は、決して否定しきれないのだ。

 

 また、そうでなくとも長期間脳からの電気信号をカットしておいて、いざ繋ぎ直した時にちゃんと体が動くのか?……という問題もある。

 長期療養後のリハビリ、みたいなことをゲーム終了の度に繰り返さなければならないのだとすれば、フルダイブ形式のゲームが流行する可能性を潰してしまうことにもなりかねない。

 

 そして、それらの危険性というのは、まだまだデータが足りない以上否定しきれないモノである。

 ゆえに、一先ず一時間を目安としてゲームの機能を停止させるようにセーフティを組んであるのが、ここにある機械達ということになるのであった。……なので、最長一時間というわけである。

 

 で、そうなると一時間でなにができるのか、というのも問題になってくる。

 その時間内に納めようとすると、ゲームの内容は薄っぺらなものになってしまうだろう。

 

 また、フルダイブ形式がゲームの発展の先にあるものである、というのが間違いないのであれば、それに触れたプレイヤーは『もっと遊びたい』という欲を抑えるのが苦しくなることだろう。

 それをそのまま放置すると、機械を改造して()()()()()()()()()、などという暴挙に走る者も現れるかもしれない。

 

 それらを踏まえ、解決するのに必要な技術が、先程から何度か挙げている『体感時間の加速』というわけである。

 

 

「一時間が実際は二十四時間に感じられる……とでもなれば、流石に満足するだろう……みたいな?」

『まぁ、満足しない人も居るかもですがぁー。……それはそれとして、技術として有用なのも事実。どうにかして実現したい、と考えるのはおかしくありませんねぇ』

 

 

 ううむ、と唸る私とBBちゃんである。

 いやまぁ、必要な技術なのだろうなぁ、というのはわかるのだ。

 これが実用化されれば、様々な業種にも革命をもたらすのは目に見えているので、技術者達が躍起になってそれを研究する……というのはある種の既定路線なわけだし。

 

 ただこう……フルダイブ以上に厄物の香りがするのがなぁ……。

 

 

「体感時間の加速って結局のところ、()()()()()()()と同じだからね。……いつぞやかにもちょろっと触れたけど、思考速度の加速とかヤベー技術以外の何物でもないからなぁ」

『ただ、それがないとフルダイブ技術は片手落ち、みたいなところがありますからね。無防備な肉体を長時間晒す形になるのもどうか?……って話ですし』

 

 

 そもそも脳の信号は電気の一種であり、その伝達速度は新幹線よりも速いとされる。

 それを加速するとなれば、必要なエネルギーも増加することなるだろう。……詳しい原理がわからないのでなんとも言えないが、下手すると脳が焼き切れる、なんて可能性もないとは言い切れない。

 

 必要ではあるが、それが実現できるかはわからない。

 それが現状の『フルダイブ』周りの状況、ということになるのだろうが……。

 

 

『それを解消するためのサンプルでもあったのが、私達『逆憑依』だったのかもしれませんねぇ』

「結局はオカルトに回帰かぁ」

 

 

 いやまぁ、答えを先に確認して、そこにたどり着くためのあれこれを探っていただけかもしれんけど。

 そんなことをぐだぐだと話しながら、私の休憩時間は過ぎていくのであった……。

 

 

*1
危機的状況に陥った時、周囲がスローモーションに見えるという現象。視覚の拡張に近いらしく、それがキチンと認識できているかはまた別問題、などという話もある

*2
高橋名人氏の名言『ゲームは1日1時間』から。正確には『ゲームが上手くなりたいのなら、一時間だけ集中してやろう。それ以外は外に出て遊ぼう』みたいな台詞だったそうな。当時はゲームといえばゲームセンターであり、かつゲームセンターは不良の溜まり場であるというイメージが強かった為、その辺りを払拭する為のものだったとか

*3
実際に脳信号を読み取って動く義手や義足が存在しているように、その辺りの技術の発展系とも言えるかもしれない

*4
NintendoSwitchの『HD振動』、PlayStation5の『ハプティックフィードバック』など

*5
もしくは普通のゲームと同じく、スティックでの移動など

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。