なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……んー、よぉし休憩終わり!じゃあBBちゃん、色々ありがとねー」
『いえいえ。貴方の頼れる後輩・BBちゃんはいつでもせんぱいの味方ですので!』
ぐだぐだとした会話も休憩時間と共に終わり、スマホの電源を落としてしまいこむ私である。
列の方は相変わらず盛況で、流石に開幕直後ほどの賑わいではないものの、ひっきりなしに体験者が筐体に乗り込んでいるのは変わらない。
……まぁ、本当の最初に乗り込んだ組は、わりとおっかなびっくりだったのだが。フルダイブ系の機械とか危険物の印象強いだろうしね、仕方ないね。
実のところ、ナーヴギアが人の脳を破壊する仕組みは、ヘッドギア内の電磁パルスを高出力にすることで行われるもの。
あくまで外部からの干渉で云々……という形式なので、私みたいに機械そのものを転移させられるようなタイプには、全然効かなかったりするのだが。
……まぁ、延髄部分での神経パルスのブロックがどう影響するのかわからない*1ので、あまりやりたくはない手段だったりもするけども。
なお、突然『私には効かん』宣言をしたのは、私本人について云々ではなく、目の前でそれをやられた場合に助ける手段があるよ、という事実確認の方が強いことを、合わせて付記しておく。
……あとは一応、電磁パルスが危険域になる前に無理矢理脱がせる、みたいな手段でも助けられなくはないかも?……みたいな話でもあるか。
まぁ、それをやろうとすると頭部に装着した機械を『頭部を破壊しないように』気を付けながら破壊する、なんて無茶も必要になるので、現実的には不可能なのだが。*2
……ともあれ、そういう対処手段が控えている、ということを知らなかった最初の体験組は、微妙に引き攣った表情をしていたことは確かである。
ともすれば脳がローストされるのでは?……という恐怖と、いやいやまさかそんなの現実的にありえないだろう、という逃避感の入り交じった味わい深いモノだったわけだが、その辺りの懸念は今のところ影も形もない。
ゆえに、中から出てきた一組目の興奮ぷりに押された二組目移行から、徐々に人の波が加速した……というわけなのであった。
「せんぱい、お疲れ様です」
「はいお疲れマシュ。なにか変わったこととかなかった?」
「特にはありませんかと。……一部の方の様子が少しおかしかった、というのはありますが」
「……んん?一部の様子が?」
そんな感じで好評な体験会を眺めていると、代わりに休憩に入りに来たマシュと鉢合わせることに。
私の居ない間に変ないざこざはなかったか?……と問い掛けると、いざこざ
……その言い種だと、いざこざ以外になにかあったということになるのだが、それに気付いたマシュは慌てたように手を振りながら、弁明の言葉を口に出すのであった。
「あ、いえ。おかしいと言ってもそう大袈裟なことではなく。……ええと、筐体から出た時に目が泳いでいらっしゃる方が少数紛れていた、というだけでですね?」
「ふむ、目が泳いでいたと。……理由とかは聞いた?」
「VR酔いに似た症状を起こしたとのことでした。実際、足元が覚束ない感じの方ばかりでしたので、休養所への案内をさせて頂きましたが……」
「ううむ、VR酔いかぁ。いや、この場合はフルダイブ酔い?」
そうして返ってきたマシュからの報告に、腕組みをしながら唸る私。
さっきから何度も言っているが、フルダイブ式の機械と言うのは本来発生している脳内信号を外部からジャックし、機械の方で用意した信号と交換する……という形式で成り立っているものである。
とはいえ、それは直接的に交換しているわけではなく、外部からの電磁パルスによって間接的に交換しているだけ。……脳や人体への悪影響は極力抑えているとはいえ、変な反応を起こしていてもそう不可思議ではない。
この場合は電磁パルス酔い、とでも言うべきか……まぁともかく、普段は起きないようなことを無理矢理起こしている仕様上、個人差による影響の差が出るのは仕方のない話である。
なのでまぁ、そこまで気にする必要はないとも思うのだが……。
「……悪いんだけどマシュ、休憩に行くのちょっと待って貰える?」
「え?あ、はい。休養所に行かれた方の様子を見てくる……ということで宜しかったでしょうか?」
「そんなとこ。ちょっと確認したらすぐ戻ってくるから」
「了解致しました。マシュ・キリエライト、全力でせんぱいの穴を埋める所存です!」
「……いや、すぐ戻ってくるからね?」
ふんす、と鼻息荒く決意を新たにするマシュの姿に苦笑を浮かべつつ、断りを入れてから会場を後にする私。
目的の休養所は会場から少し離れた場所にあるようで、歩いて大体三分ほど掛かるとのこと。
会場の大きさに比例して、わりと立派な休養所となっているようで、それを設置するのに必要な空間を取ると、自然とこうなってしまったとかなんとか。
……みたいな豆知識を受け取りつつ、会場から出て小走りすること暫し。
到着した休養所の内部は明るく、薄ら暗い廊下とは対照的である。
内部からは人々の話し声が窺えるが、どうにも穏やかじゃない様子。……これは予想があたったかな、なんて確信めいた思考と共に、休養所の扉を開けて内部に進み入れば。
「だ・か・ら!俺は一般客であって、イベントの従業員じゃねえっての!!」
「いやでも、そうじゃないならコスプレ客ってことになるのでは……」
「いやだからー!これ知らんうちにこうなって……誰だ?」
恐らく休養所の担当らしき人物と、それに食って掛かる人物。
それから、その様子を遠巻きに見つめる複数の人物達の姿を認識することとなるのであった。
この人達の相手は荷が重いだろう、と担当の人を外へ逃がし、代わりに室内の人達と向かい合った私。
さっきまで騒がしくしていた彼はと言えば、こちらの姿を認めた瞬間こそ怪訝そうな顔をしていたものの、今はなにかを悟ったのか頻りに「まさか?」とかなんとか呟きながら、俯き加減に何事かを考え込んでいたのであった。
……こっちはまぁ置いとくとして、他の面々である。
先程まで彼を遠巻きに見つめていた彼らは、現在は普通にこちらの近くに移動してきている。……まぁ、やっぱりちょっと遠巻き気味なのだが。
とはいえそれも仕方のない話。彼ほどではないものの、彼らも似たようなことを考え、深い思考に潜っていることは間違いないだろうし。
そんな彼らの様子を認識しつつ、恐る恐る声を挙げる私である。
「……ええと、これから幾つか質問をしようと思うのですが、構いませんか?」
「あっ、はい」
こちらからの問い掛けに、思わずといったように居住まいを正す人々。……何人か「やっぱり」とか「本当に?」とか呟いているのが聞こえるが、こちらとしても似たような感想なので安心して欲しい、マジで。
そんな内心はおくびにも出さず、努めて柔らかい声を意識しながら、彼らに質問を繰り出していく私であった。
「まず始めに、貴方達は今日の発表会・及び体験会の参加者、ということで間違いありませんか?」
一つ目の質問には、全員がうんうんと頷きを返してくる。
……続く二つ目、彼らが運営側かどうかという質問についてはその逆、全員が首を横に振る形となり。
「では、この質問をした理由について、貴方達は認知していらっしゃいますか?」
その次の三問目に関しては、すぐに反応が返っては来なかった。
周囲の人を見回したり、隣の人と顔を見合わせたり。
返答以外の反応はちらほら見えるが、代わりに返答そのものが出揃うまでは時間が掛かったのであった。
で、その反応自体もしっかり頷く人も居れば、困惑したようにおずおずと頷く人、答えかねてか沈黙する人など様々な様子が見受けられたわけで。
……まぁ、そういう反応が出てくる時点で、こっちとしては答えが出ているようなものなのだが、一応話を進めていく次第である。
「では貴方達の困惑は、フルダイブの体験を終えて筐体から出て来て暫く経ってから生まれたモノ、ということで間違いありませんか?」
四問目、こっちはほぼ全員が即時の頷きを見せた。
……こっそりさっきの担当さんに聞いておいたところ、彼が来た時点でこの部屋は
要するに、
「現状の皆さんは、自身の身元を証明する手段を失っている……ということで間違いありませんか?なんなら、スマホの連絡先のような些細なモノまで消えている……とか?」
「なんでわかるんだよ?!」
「うへぁっ!?」
なので、それによって起きているであろう、更なる問題について尋ねると……反応は劇的。
先程担当さんに食って掛かっていた彼が真っ先にこちらに接近してきたことで、出鼻を挫かれた形になっているみたいだが……それがなければ私達も詰め寄っていました、みたいな表情をしている人が大半となっている。
……となればまぁ、描写をぼかす必要性もあるまい。
改めて、今の状況を端的に説明すると。
休養所の内部には、恐らくフルダイブを体験したことで『逆憑依』になったのだと思われる人々が、それなりの人数犇めきあっていたのであった。
……これ色々とヤバイのでは???