なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「三倍返しは悪」*1
「突然なにを言い出すのよ貴女は」
はてさて、とある日のこと。
あいも変わらずゆかりんルームでぐだぐだしていた私は、あることを思い出して思わず呻き声を挙げていたのだった。
そんな私の様子に、ゆかりんは呆れたような表情を向けてくるが……いや、仕方ないんだよキミィ。
「ほら、私って元々バレンタインがそこまで好き、ってタイプでもないでしょ?」
「えー?……あー、そういえば子供の頃は誕生日が近いからって、それらを一纏めにされてたことがあるーとかなんとか言ってたわね貴女……」
「本来無償で貰えるはずのプレゼントが、何故かお返しの対象となるこの理不尽!貴様にこの私の怒りが理解できようか!」
「……いや、したくないわよそんなの」
記念日と混ぜられる悲哀、ってのはわかるけど。
……とまぁ、かなり他人事な態度のゆかりんであるため、制裁としてほほを引っ張ってやったところ。
「……なるほど、ですから『三倍返しは悪』、なのですね」
「
「それは勿論、キーア様の怒りの度合い……とでも申しましょうか?」
「ううむ、流石に男性だとわかって貰えるか……でもなー、女性側に理解して貰わないとあれなんだよなー」
「???」
給湯室から出てきたジェレミアさんが、紅茶の追加を注ぎながらうんうん、と頷いていたのだった。
……うーん、男性側が納得してくれるのは嬉しいんだけどなー。でもなー。
などと、小さく唸る私だが、ゆかりんは相変わらずはてな顔。
……むぅ、結局言葉にして説明しないと伝わらない、ということなのだろうか。正直なところ、空気を察して向こうが気付いてくれる、というパターンがこの場合最良だと思うのだが。
とはいえ、どうにも必死さとかの部分の認識が共有できていないのも確かなので、渋々声を挙げる私なのであった。
「ほら、本来無償で貰えるはずの、って言ったでしょ?……
「……ええ?そんなバカな、だってプレゼントでしょう?」
「プレゼントの前にバレンタインなんですわ。うちの母親あんなんだけどその辺りは結構きっちりしてるんですわ」
なんだっけ、夫婦円満のコツは基本的に妻が夫を尻に敷くこと、だっけ?(適当)
……もしくは、相手が相手を尻に敷いているように
どちらにせよ、相手の横暴も許せるくらいが丁度良い*2、みたいな話だったと思うが……ともかく、こういう時に無茶苦茶言う相手というのはそれなりにいるので、今から慣れておきなさい……的な論調だったというのは確かである。
……これだけだとなんか、私が虐待でもされてたのか?……って誤解されそうなので補足しておくと。
そもそもバレンタインと混じっているため、貰えるモノはそこまで高価なものではなく、三倍しても精々千円そこらにしかならなかったし。
仮に高いものを貰って、お返しのためのお金が足りない……なんて場合には、家の手伝いとかで賄えた……みたいな部分もあったりはするのだった。……え?家族以外のチョコ?ははっ(乾いた笑い)
……そもそも大前提として、他の兄弟が生まれるまでの間は誕生日とか関係なしにあれもこれも買い与えられていたため、それによる価値観のズレを矯正する意味合いもあったのだろうとは思うのだが。
まぁともかく。
誕生日という名目で貰ったモノを、後日熨斗付けて返さなければならない、というのはそれなりに不満を抱かせるモノであった、というのは間違いあるまい。
特に!家族以外のチョコが!……義理と言いつつ無駄に高いものを寄越してくるんじゃないよマジで!
「あいつら絶対面白がってたよマジで……そりゃまぁ所詮は子供の買うようなもんだから、対して値は張らないものだったけど……渡せば必ず三倍になるってんでどいつもこいつもポイポイ渡してきやがって……どんだけ家の手伝いしたことか……」
(……んん?なんか変なこと言ってないこの子?)
(言ってますが……触れるのは止めておきましょう。逆ギレされても面倒ですので)
(よねぇ……)
まぁそんなわけで。
実は、ホワイトデーというものにあまり良いイメージのないキーアさんなのでしたとさ。
「その点、最近のバレンタインは最高だね!女子から贈るものって形式が崩れて、お互いに渡すって形になってきたから、わざわざホワイトデーまでお返しを待たなくていい!結局三倍の根拠って利子的なモノだから、その場で返す分にはなんの問題もないし!」
(……なんだか聞いてて悲しくなってきたんだけど、どうしましょ?)
(触れないでおきましょう。これはダメなやつです、確実に)
そういう意味で、近年のジェンダーフリーな考え方は万々歳である。なにせその場で渡し渡されしてるのだから、あとからお返しを……なんてことを考えなくて済む!
なんか他二人からの視線が生暖かくなってる気がするけど、私は気にしない!我が世の春が
「──まぁ、そんな安心感もどっか行っちゃったんですけどね、初見さん」
「わぁ!?いきなり落ち着かないで頂戴な!?」
なお今の私の状況。
……本来なら女の子同士とか、普通にチョコの交換とかやりまくるモノのはずが。
うん、お察しの通りというか以前説明した通りというか、私が手作りチョコを作成するのは死人が出る……ということで、渡せるモノが既製品しかないのである。
それにしたって、あまり高いものを選んでしまうと、
「こここ、これはせんぱいからの本命チョコ!?」
「はぁー???マシュさんってば能天気ですねぇ、BBちゃんの貰ったやつの方が高いんですけど本命なんですけどー?」
「はぁー?????なにを言ってるんでしゅかねこのダメAIは。そんなの溶かして型に入れただけでしゅよ!」
「(そりゃ全員分そうでしょうよ……)……そう言えば、チョコをツマミにお酒を呑んだのって、この場合お酒分も貰った金額に含まれるのかしら?」
「「八雲さん!?」」
……とまぁ、今のはあくまでも想像()だが、そんな感じに不毛な争いを引き起こす可能性が十二分に存在するわけで。
結果、私から渡せるのは面白味の一つもない、そこらで売ってる板チョコとかと(値段的には)同じになってしまうのだった。
で、それに対して、こっちに渡してくるやつらのチョコの豪勢さよ。
……流石に家が立つようなモノを渡してくる人間は居なかったが、それでも手間隙掛けて作られたとすぐに理解できるようなものが大多数。
そうなるとどうなるのか、というと……。
「成立してないのよ、物々交換が!友チョコとしての体裁が!!これ私だけ貰い過ぎてるやつ!!!」
「あー……」
単純に考えて、こっちのあげたモノと相手がくれたもの価値が
その結果、差額分が残ったままホワイトデーを迎えてしまった、ということになるわけで……。
つまり、さっきの論理を元に考えると、その差額分の三倍返しを要求される可能性が大いにある、ということになるのだ!!
「だから言ったのよ、三倍返しは悪……って」
「……無意味に律儀ね、この子」
「紫さま、出てしまっていますよ、口から声が」
「おおっと」
「……ええぃ、イチャイチャするでないわそこの二人!!」
つまり、私はこれからチョコのお返しをするため、あちこち駆けずり回らなければいけないのだ!
……だというのにこの主従、人の目の前でこそこそとイチャイチャしおってからに!もげろ!どことは言わんがもげてしまえ!!
などと、思わず地団駄を踏んでしまう私なのでありましたとさ。うーん、そこはかとないぐだぐだ感。
「とはいえ、それを私達に言われても、ねぇ?」
「まぁ、本人が頑張らないことにはどうにもなりませんから、ねぇ」
「ぬぐぐぐ、正しく他人事だからってこの冷たい対応よ……というか、ジェレミアさんに関しては別に完全な他人事、ってことでもないでしょうよ!!」
「と、言いますと?」
思わず声を挙げる私に、ジェレミアさんは不思議そうな顔で首を傾げている。……ふん、そんな態度を取っていられるのも今の内だぜブラザー!!(謎のテンション)
「貴方だって、ゆかりんに凄いの貰ったんでしょう!酒の席ゆかりんがもじもじしながら嬉しそうに語ってたの聞いもがっ!!?」
「きゃーきゃーぎゃー!!?唐突になに言ってるのこの子は!?」
それというのも、ホワイトデーは基本的にお菓子会社の陰謀によって生み出されたものだが──それによれば、根本的にはバレンタインの対・女子からチョコを貰った男性が、お返しと称してなにかを渡す、というのが基本型である。
無論、昨今のバレンタインのジェンダーフリー化により、ホワイトデーの需要が落ち始めているのは確かだが……だからといってホワイトデーという文化が消滅するか?……と言われるとノーだと言わざるをえまい。
いやまぁ、海外には無い文化らしいので、外に行けば幾らでも消えるのは確かなのだが……そこは置いといて。
ともかく、バレンタインに女子が渡し、ホワイトデーに男子が返す、という形はそう崩れるモノでもないだろう。
ゆえに、その辺りの対象になりそうな人物──この場ではジェレミアさんが、話題の中心に挙がるのは最早既定路線だったのである。
聞いたところによれば、どうやらバレンタイン当日のゆかりんは大層張り切ったそうで。
……流石に「プレゼントはわ・た・し♡」みたいなベタなことはやってないだろうが、それに準ずるくらいの愛情をチョコに込めた、というのは酒の席での彼女の態度から容易に察せられる。
──つまり、それの三倍返しを要求される立場にあるジェレミアさんは、ポジション的には私とそう大差ないのだ!多分!!
「──ふむ。なるほど、ゆえに一緒に苦しんでほしい、ということですね?」
「苦しむだなんてそんな。私はただ、有能な方に私へのアドバイスもして欲しいなー、なんてことを思っているだけですよ?」
……とまぁ、そんなわけで。
ここに、ホワイトデーのお返し考え隊、という大層頭の悪いチームが結成される運びとなったのであった。
なおゆかりんはバレンタインにやったことを思い出したのか、顔を真っ赤にして轟沈しました。……女神いる?*3