なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……おおっと、会場に到着したよー、二人とも」
「「……はっ?!」」
あれから挙動不審になった二人を引き連れ、会場までの道程を歩ききった私。
会場に繋がる扉の前では、ジェレミアさんが来賓達の確認を取っている姿があったのだった。
「お疲れ様ですジェレミアさん」
「ええ、お疲れ様ですキーア殿。三名様、ということで宜しいですかな?」
「ええ、他にも来る可能性はありますが、とりあえずは三人で」
「……ちょっと待ってくださいせんぱい?」
「他にもってどういうことですか?!」
「えっ?……えーと、義理チョコ渡した人とか互助会の人とか、わりと知り合い全員に声を掛けた感じだから……」
なお、中に入る時に一悶着あったが、特に問題ではなかった。……なかったらなかったんだ、いいね?
まぁ、そもそもこのパーティの名目が『男達のホワイトデー』なので、チョコをあげた人貰った人、みんな纏めて呼び寄せたからこうなった……という意味合いが強いのだが。
「……おう、主役の登場ってわけだな」
「おっ、ソルさんにハジメ君。おっつー」
「相変わらず軽いなアンタ……」
そんなわけで、会場に入って真っ先に出会したのが、互助会からの来賓かつ『チョコを貰った側』の、ソルさんとハジメ君のコンビなのであった。
二人とも黒いスーツを着てバッチリキめているのだけれど……。
「……なんというかこう、似合わないね二人とも。きっちり着すぎて寧ろダサいというか?」
「……随分ハッキリモノを言うじゃねえか」<ズーン…
「え?……ってうわっ!?思ったより凹んでる!?というかハジメ君に至っては崩れ落ちてる!?」
「せんぱい……流石にその物言いは如何かと……」
「容赦無さすぎて惚れ惚れしちゃいますぅ~!せんぱいのど・え・すぅ~!!」
「ええっ!?」
なんというかこう……なまじきっちり着こなしているものだから、寧ろスーツに
……みたいな素直な感想を述べたところ、ソルさんは口調こそ『喧嘩なら買うぜ?』みたいなノリだが、その立ち姿に至っては完全に凹んでいる状態に陥ってしまったのだった。
その背後でさっきまで照れ臭そうにしていたハジメ君に至っては、完全にノックアウトされたのか膝を付いて呆然と天を仰いでいる始末。
……ええと、私の感想がそこまでダメージになったんです?と困惑していると。
「いやー、流石じゃのぅキーアは。言葉の切れ味が鋭すぎて誰も彼もノックアウト、じゃの!」
「……その声はミラちゃん、来てたんだね」
「まぁ、お呼ばれしたしのぅ」
こつこつ、と足音を鳴らしながら近付いてきたミラちゃんの言葉に、思わず苦笑を浮かべてしまう私であった。
……彼女は『渡した側』としての参加だが、基本的には私と同じように義理チョコをばら蒔いたタイプの人である。
「元が男じゃから、チョコを貰えぬ者の悲哀はよーくわかるしのぅ。だったらまぁ、わしくらいはくれてやらねば、などと思っていたのじゃが……」
「元がみんななりきりだから、その辺りの優しさは大体の女子が共有してた、というね」
「うむ。……ま、唯一の女神として崇められたい、というわけでもなかったから構わんがの」
お互いに悪い笑みを浮かべながら、和気藹々と話す私とミラちゃんである。
……属性的には結構似てるので、相手がやることはなんとなくわかる……みたいな悪友的関係なこともあり、ゆかりんとは別の意味で友達感のある女性だと言えるだろう。
「むぅ……」
「おおっと、マシュ?」
「む、しまった焼きもちを焼かせてしもうたかの?すまんすまん、お主のモノを盗る気はないでの、許しておくれ」
「いや、せんぱいは別にマシュさんのモノってわけでもありませんからね!?」
「……いや、人の手を両サイドから塞ぐの止めてくれない君達?」
「なっはっはっ!両手に華、じゃの!……ところで、いい加減こやつらのフォローをしておくとするかの」
「……あっ!ソルさんとハジメ君!?」
そんな感じで楽しくお話をしていたら、いつの間にか近付いて来ていたマシュが私の右側から腕に抱き付いて来る、という不可思議な状態に。
……困惑してたら左側をBBちゃんに占拠されたんですけど、なんでこんなことになってるんです……?
いや、流石に友達と話してるのを嫉妬されると困るんだが?……などと思いながら二人を引き剥がし終えれば、そこで漸く放置される形となった二人のことを思い出すことになるのだった。
……あーうん、わたしがダサいって言ったから撃沈したんだよね、二人とも。
なので、しゃがみこんで二人に視線を合わせ、
「私が言いたかったのは似合ってないってことじゃなくて、もっと着崩した方がカッコいいんじゃないかなー、ってことでね?」
「……いや、ちゃんと着ないとダメじゃねぇか?」
「あーうん、確かにドレスコード的にはあれかもだけど……それで二人が窮屈そうならそっちの方があれでしょ?……幸いというか、そもそもここって知り合いしか居ないから形式に拘る必要性は薄いし」
私が言いたかったのは、二人がちゃんとしようとするあまり、ちょっと窮屈そうに見えた……ということ。
その姿勢を維持しようと無理する姿が、結果的にカッコ悪いように見えたというだけであるということを伝え、好きに着こなしていいんやでと伝えた形である。
……まぁうん、この二人の性格的にももっとラフに着てる方が似合うだろうなー、みたいな単純な考えだったのだが、その辺りが上手く伝わってなかったというか。
そういうわけで、改めてその辺りのことを説明し直せば、二人は納得したように頷いたあと、きっちり上まで留めていたボタンを外し、派手にスーツを着崩したのであった。
「……うん、そっちの方が似合う似合う」
「そーかい。まぁ、見れるようになったってんなら、及第点だろ」
「へっ、よく言うぜ。結構気にしてた癖に」
「……なんか言ったか坊主?」
「いだだだだっ!?やめ、つむじを押すんじゃねぇ!!?」
「……ええと、ソルさんとハジメさんは仲が宜しいのですね?」
「「どこがっ!?」」
「わぁ、息ピッタリ~(棒)」
結果、元気になった二人のやり取りを一通り眺めたあと、お返しだと言いながら渡された紙袋を受け取って別れた私たち。
こっちに合流しないのか?……と問い掛けたら「馬に蹴られるのはごめんじゃのぅ」と手をヒラヒラさせながら何処かへと歩き去っていったミラちゃんに薄情者、と恨みがましい視線を投げ掛けたあと、視線を前に戻すと。
「あ、キーア!」
「ん、アルトリアじゃん。ハセヲ君にはもう会った?」
「はい!チョコのお礼、ということでこんなものを貰いました!」
「……えーと、手作りのカップケーキ?」
「はい!『アレに見合うようなのは来年作るから』と申し訳無さそうにされていましたが、こうしてお返しを貰えただけでも嬉しいです!そういうの、あんまりしない人だと思っていましたので!」
「ハセヲ君ェ……」
そこに居たのは、料理の並ぶテーブルの前で、シャンパンの入ったグラスを持ったアルトリアであった。
彼女はこっちに気が付くと、ドレスに変な癖が付かないように気を付けながら、てててっと素早く近付いてくる。
今日は完全にリリィスタイルのため、後ろのポニーテールが尻尾のようにぶんぶん左右に揺れているが……よっぽど嬉しかったというのが伝わってくるようだった。
まぁ同時に、彼女のわりと辛辣なハセヲ君評が飛び出したりもしたのだが。……漫画版の(リアル)ハセヲ君、あんまり付き合いが良くなかったので、そっちのイメージで語っていたのかもしれない。*1
いやまぁ、わりと長い付き合いのはずなのに、なんでそんなイメージなんだろう?……みたいな気分も湧いてこないでもないのだが、多分あそこまで極端ではないにしろ、ぶっきらぼうな態度を見せていたんだろうなぁ、なんてことは容易に想像できるというか。
アルトリアはこう見えて(?)アルトリアなので、わりと視線が上の方というか、大人な方に分類されるので、そういうのが子供っぽく見えたのかもしれない。
……ともあれ、後でハセヲ君にはもう少し柔らかい態度を心掛けましょう、くらいのアドバイスをしておいた方がいいかなー、などと思いながら、さっきから見ないように意識していた彼女の背後に視線を移動する私である。
……さっき彼女が居たのは、
まぁ、彼女は二次創作のアルトリアと違い、原作の元々の彼女に近い存在であるため、大食いというよりは美食家めいたところがあり、
「……むぐむぐ、むっ?キーアか、元気か?」
「あーうん、オグリも元気そうだね……」
「うちもおるでー」
「あー、うん。タマモも息災なようで。……で、マッキー?なにか申し開きは?」
「ち、違うのです!これはその、ウマ娘は燃費が良くなくてですね……!?」
彼女の連れはどうか?……と言われると、それはノーと言わざるを得ず。
……まぁうん、ウマ娘三人組が料理の前に集まっている、という時点で結果は火を見るより明らか、というやつである。
特にオグリに関しては原作でも超の付く大食い、そりゃまぁこんなに料理が並んでいて、かつ食べ放題ならば色気より食い気が優先されるのは当たり前みたいなもので。
……そこら辺を上手いこと調整するのが保護者役のマッキーの役目のはずなのだが。……あの慌てようを見る限り、二人に上手いこと丸め込まれたのだろう。
恐らくはそう、今の彼女は食事制限中だが、二人に『食べた分走って燃やせばいい』とかなんとか言われた……みたいな?
まさに悪魔の囁き、手に入れたのは太り気味のスキル*2……というやつである。
違います違います、と顔を真っ赤にして抗議するマッキーを眺めつつ、合わせて彼女の背後に立つある人物を見つめる私。
当の人物──彼女のトレーナーでもあるモモンガさんは、髑髏の顔ながらどことなく悲しみを感じさせる眼差しを、こちらとマッキーに向けていたのだった。……マッキーが後ろに気付いて悲鳴をあげるまであと十秒、である。