なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「で、ででで出たーッ!?」
「うーんその叫び方、姿が小さくなっても凛さんは凛さんですねぇ。ある意味安心すると言うか?」
件の存在の発見に、真っ先に反応するのがりんちゃんな辺りがなんとも言えないけども。でもまぁ、相手の事を考えればさもありなん、というか。
……私達の目の前に現れたのは、愉快型魔術礼装・カレイドステッキに宿りし人工天然精霊、マジカルルビーだった。*1
気のせいじゃなければこの不良杖、向こうの責任者さんと連動してるんですがね。……いや、どうなってんのこれ?
「気のせいも何も、そのままで大正解ですよ、だ・い・せ・い・か・い☆そーですそこの白衣を着た野暮ったい感じの女性は、何を隠そうルビーちゃんが世を忍ぶ為の仮の姿なの
「……つまり本体は貴方の方、だと?」
「はぁ?!いやいやおかしいでしょ!?そっちの人、結構前から私達の専属研究員みたいな人だったんだけど!?」
りんちゃんがうがーっ!ってな感じに私と向こうに視線を交互させながら捲し立てるものの、実際に私が
つまり、あそこにいる責任者さんは実体のある分身、みたいもののようだ。
視線を自身の隣に移せば、驚愕からかはるかさんが真っ白になっている。
……つまりりんちゃんの発言の通り、あそこの彼女は
いや、ホントにどうなってんのこれ?
「……おやおやぁ~?とっくにお気付きになってるのかと思っていたのですが、その発言からするとまだお気付きではない様子。特に八雲さんにキリアさん、お二方は気付いて然るべきだと、ルビーちゃんは愚考する次第なのですがー?」
「キリアちゃんと──」
「八雲さんが?」
なんて事を考えていたら、ルビーちゃんが杖の方を『?』の形に曲げて、疑問を呈してくる。
私とゆかりんは気付かないとおかしい、というようなことを彼女は言っているわけなのだけれど……。ふむ、キリアとゆかりんの二者間にある共通点が鍵、ということなのだろうか?
とはいえ、今の私とゆかりんに共通点とか言われても──
なんだか知らないけど猛烈に嫌な予感がした為、この状況で
確かにルビーちゃんの本体は、杖の方になっているけれど。
この場で
「キリアさんを被っているキーアさんに、ババーンッな八雲さんを被っているロリロリな紫さん。ほら、こういう風に纏めるとわかりやすく──あの、お二人共?一体何をなさっているので?」
「お姉さま、アレを使うわ」*3
「えぇ、よくってよ」
「すすすストップですっ、ストップですお二人共っ!?このままでは地球がー!?地球そのものがーっ!!?」*4
「うわああぁぁぁぁっ!!」
「ひぇっ」
発言を止める術がないというのならば、最早爆発
相手に「は?」と言わせる間も与えず、一気に
ゆかりんと目配せをした私は、意外に高いその天井に、二人で飛び上がり──!
「スーパー!」
「限界美ぃぃっ!」
「キィィィィィック!!!」
「アバーッ!!?」
流星の如く加速した二人の飛び蹴りにより、アワレルビー=サンは爆発四散!!*6
見た目はどっちかと言うとイナズマキックってよりはエヴァの方だけど、まぁ細かい事は気にしない。
綺麗に爆発炎上しているけれど、ルビーちゃんならば次の瞬間に元通りに戻っていても何ら不思議ではないので、とりあえず放置。
それはそれとして、目下のところの問題は。
「……はっ!?え、その、あれっ!!?せんぱいが、せんぱいじゃないっ!!?」
「…………」(こくり)
「あー……」
完全に周囲にバレてしまったこの状況を、一体どうするべきか……ということだろうか。
……とりあえず腹を切って詫びればいいかな?
「はーい、ルビーちゃん反省してまーす。魔法少女モノにおける正体バレイベントを、こんなに雑に消化してしまうとかっ。ルビーちゃんらしからぬ失態です……」
「そうだぞそうだぞ、もうちょっと遊……げふんげふん。彼女たちにも葛藤やら何やらあるんだから、ちゃんと考えてあげなぷぎゅるっ」
「ねーぇ?こいつら纏めて、今のうちに処分しておいた方がいいんじゃないの?」
「ふーむ、直接被害を受けたわけではない私の一存では如何とも……」
「にゃはは……私も、最近の契約押し売りタイプなマスコットとは、あんまり関わったことないから……」
向こうの方では、三人娘達がルビーちゃんの処遇について、あれこれと議論を交わしているのだけど。
……元のキーアの姿に戻った私としては、それどころの話ではなく。
「………………」
「………………」
き、気まずい。
ゆかりんがスキマから用意した、応接セット一式のソファーに対面した状態で座るマシュは、俯いているためその表情は窺えず。
隣のはるかさんもさっきからずっと心ここにあらず、といった感じでゆかりんの言葉にも反応なし。
……いや、どうしろというのさこれ?やっぱりここは責任とって私が腹を切るしか……?
「落ち着きなさい」
「いやでもゆかりん、こうなったらもう自爆するしか」
「落ち着きなさいって言ってるでしょうが」
「…………はい」
ゆかりんから再三の制止を受け、大人しくソファーに座り直す私。
とはいえ、私が幾ら大人しくしようとも、現状の気まずい空気が変わるわけでもなく……。
「……せっ、」
「せ?」
そんな空気を打ち破るように、突然マシュが顔をガバッとあげて、上擦った声を出した。
明らかに平常時のものではない、あからさまに混乱している様子の彼女に思わず面食らっていると、彼女は傍から見てもわかりやすい程の、勢い任せな発言を始めるのであった。
「……え?え、その、はい。……はい?」
……えっと、なんて?
私にはその発言内容が全然聞き取れなかったのだけど、どうにも同じ事を二度言うつもりはないらしいマシュは、今は言い切った余韻そのままに、硬く目蓋を閉じ口をキュッと引き締め天を仰いでいる。
ここから聞き返す、なんて愚を侵すわけにもいかず。
仕方無しに了承の意を返す私なのであったが……はたしてこれで良かったのだろうか……?
いやでも、中身が私であることを隠していたという部分には怒ってなさそうだし、これ以上変に追求して藪から蛇を出す必要もない、のかな?
(なんなのかしらこれ。リア充乙ってのも違う気がするけど、じゃなきゃ私はどう反応を返せばいいのかしら……?)
「どうしたのゆかりん、なんか百面相してるけど」
「……まぁ、いいわ。とりあえず、問題ないなら向こうに合流しましょう。聞いておくべきことも、幾つかあるようだしね」
とりあえず仲直り……仲直りではないな、なんだろこれ?
……まぁいいや。マシュとも平常時の付き合いに戻ったところで、ふと隣のゆかりんに視線を向ければ。
なんか凄く険しい顔をした彼女の姿がそこにあったので、心配ついでに声を掛けたのだけれど、彼女はなんでもないと頭を振って、さっきから『質問は拷問に変わっていそう』な三人娘の方を指差した。*7
むぅ、さっきの様子でなにもない、ってのは嘘だと思うのだけど……確かに、りんちゃんがルビーちゃんとは直接関係ないはずなのに、虚憶*8に吊られて彼女を追放しちゃいそうな感じになっているのもまた事実。
いい加減に止めに入るべき、というのもまた正論なので、そのままソファーから立ち上がって彼女達の方へ。
……はるかさんは未だにショックから立ち上がれていない感じなので、とりあえずそのまま放置。
「りんちゃんりんちゃん、ちょっと一回落ち着こう。幾ら相手がルビーちゃんとは言え、捕虜には人道的な扱いをしないと」
「私、まさかの捕虜扱いだったんですかっ!!?」
「むぅ、それは確かに。例えこいつが今すぐぶっ飛ばしたほうがいいタイプのナマモノでも、聞けることはちゃんと聞かないと、よね?」
「うーんこちらはこちらでナチュラルボーン・マーダープリンセス。姿形が幾ら可愛くなろうとも、その魂の形は変わらない……ということなのでしょうか?ルビーちゃんは悲しいです……よよよ」*9
「な に か 、 言 っ た ?」
「言ってませーん、ルビーちゃんはいい子なので言ってま……あ、ちょ、羽はヤメてせめてボディにして下さいっボディにっ!!?」
三人に近寄って、まさに拷問染みたことを行っていたりんちゃんに声を掛けたのだけれど。
……うーん、ベースのりんちゃん以外の記憶が、彼女に警戒を緩ませないせいか、どうにも攻撃的というかなんというか……。
『新魔法少女りん』としては面識すらないだろうに、げに恐ろしきは平行世界でのルビーちゃんのやらかし……ということなのだろうか?
とはいえ、その怨念に理解を示せたとしても、それを発散し続けられると困るというのも確かな話。
どうどう、どうどう!……みたいな感じでマシュがりんちゃんを落ち着かせているのを横目に、改めてルビーちゃんと対面する私達。
「まおうの てから たすけてくれて ありがとう ! おれいに なんでもおしえて あげましょう」
「なんでRPG風……。いや、それはどうでもよくて」
「はいはい、それではこのか弱い魔法の杖に、一体どんなご用事があるのでしょうか?」
「かよ」
「わい?」
「話が進まないから一々反応しないのっ」
……流石はトンチキの申し子、まともに対応してると余裕が幾つあっても足りやしねぇ……。
つまり長期戦は不利!ここは短期決戦こそ最良の手と見た!!
「単刀直入に聞くけど、貴方は何者なの?」
「おやおや、余裕のない発言ですねー。だけどルビーちゃんは優しいので、そこは追求せずにさくっと教えて差し上げましょー☆」
「き、キーアさん抑えてっ」
「気持ちはわかるが折ろうとするのはダメだ、流石に不味い」
「ぐ、ぐぬぬぬぬ……」
冷静に、と心掛けるものの、ルビーちゃんのせいでさっき大迷惑を被ったのも確かなので、どうにも感情の制御にちょっと苦労する私。
……押さえてくれたなのはさん達に礼を言って、改めてルビーちゃんと対峙。
「私もなりきりですよー?……まぁ、
「────はっ?」
対峙してすぐに、余裕もなにも全部吹っ飛ばす爆弾発言を持ってくるルビーちゃんは、やっぱり性格が悪いと思う私なのでした。