なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
はてさて、みんな大好き()健康診断のお時間である。
……政令指定都市越えの人数を一気に終わらせようという、その無謀っぷりに思うところがないでもないが、それでも一週間近く掛かる辺りに、なんというか無情さをも覚えないでもない。
ある程度一纏めに動いてくれるこのなりきり郷ですらそうなのだから、もしこれを普通の場所でやったらどうなるのか?……なんてことは想像したくもないというか。
「……まぁ、確実にあれこれと問題になるだろうな。ここの奴らの様に、行動をある程度縛る形になっても文句を言わない……なんて患者はそう多くはないだろうし」
「うーん世知辛い。……ところで、ロー君はなに担当なの?」
「一先ずは身長体重みたいな基礎部分だな。握力とか肺活量とかも一緒にやるぞ」
「へぇー……」
まぁ、その辺りの世知辛い事情については、一先ず脇に置いとくとして。
はてさて、一番最初の検査は『基本的な身体能力などの測定』である。
身長体重胸囲に座高などなど、単純な長さや重さなどの計測に始まり、ついでに基礎能力であるところの肺活量や握力なども合わせて計測するとのことだった。
……え?座高がなんなのかわからんって?
「あー、そういえば『測る意味がない』とかで、最近では廃止になってるんだっけ……?」
「それから『座高が高いと足が短い』なんていじめを受ける理由になる……なんて話も合わせて述べられていますね」
一応説明しておくと、座高というのは読んで字の如く『座った時の(背の)高さ』を意味する数値である。
古くは大日本帝国において『足が短いと重心が低い≒転び辛いので兵士に向いている』だとか、はたまた内臓の発達度合いの指標になるなどの理由から発案されたというモノなのだが。
医学の発達や子供達の成長の仕方の変化による『過去のデータ』との比較の無意味化によって、現在では『測る意味のないもの』として廃止されたのだそうな。
……まぁ一応、身長に差があるのに座高が同じ、なんて二人を比較した時に、身長の低い方が短足である……などの客観的事実を導きだすことはできるみたいだが。
とはいえそれはそれで喧嘩になるだけなので、測らないでよいのなら測らんでもいい、という感じになるのはわからんでもない。
あとは勘違いとしてよく語られるのが、『座高が高いと足が短い』だろうか?*1
座高はその計測の仕方ゆえ、『頭の先から股先まで』ではなく『頭の先から尻の接地面』までの長さを測るものとなっている。
……つまり、お尻が大きい人は必然座高が高くなりやすく、その場合単純に短足だとは言えなくなるのだとか。
……まぁ、こうしてちょっと語っただけであれこれ問題が出てくることからわかるように、仮に測ってもマイナス面しか出てこないような数値であるため廃止されたわけだが……なんで入ってるんだろうね、これ?
「ああ、そりゃ単に懐かしさから、だよ」
「懐かしさ?」*2
「なりきりをするやつってのは、そのほとんどがある程度年嵩の進んだ奴らだ。無論、どこぞの
「あー、昔の気分のまんまってこと?」
「それとまぁ、昔測ってた時に『短足』って言われてたようなのが、今の姿ならそんなこと言われずに済む……って感じのことを思い付いた結果、みたいなところもあるだろうな」
「ええ……(困惑)」
そこで、何故座高を測る為の装置があるのかをロー君に尋ねてみたところ、返ってきたのは企画した人達が測ってみたかったから、というなんとも言えない答えなのであった。
……まぁうん、昔座高を測った時には悔しい思いをしたけど、今の変わった姿でならそんな思いをしなくて済む……みたいな話はまぁ、気持ち的にわからんでもないけど……なんというかこう、悲しくなってこないかそれ……?なんて思ってしまうキーアさんなのであった。
というわけで、測りたい人だけ測れば宜しいとお達しを頂いた私たちは、当然のように座高はスルーして他のモノを測り始めたわけなのだけれど……。
「……おおっ、ちょっと伸びてる!?」
「一ミリでそこまで喜べる辺り、随分と愉快な頭してんのね、お前。……というか、変身すれば背丈なんぞいじり放題でしょうに」
「うるさいですパイセン、素の身長が伸びるのは嬉しいに決まってるんですよっ!」
そういえば、『逆憑依』って身体の変化は起きないのでは?……なんて疑問を思い出してしまった私に待っていたのは、変化しすぎない程度の変化は起こる、という結果なのであった。
まぁうん、病気の進行が止まったり戻ったりすることからわかっていたように、『逆憑依』の肉体というのは基本不変に近いモノだと思っていたけれど……より正確には『そのキャラであることを維持できる範囲で』変化する、ということになるようだ。
なので、例えば作中で成長した描写があるようなキャラであれば、最初の姿と成長後の姿の中で成長範囲が設けられる……と。
病気持ちの人の変化がおかしくなっているのは、そういう人の場合大抵『成長後の姿が描写されない・もしくは存在しない』ため、成長範囲の外になってしまうために成長や変化がキャンセルされるのだと思われる。
……まぁ、あくまで仮説なので大きく喧伝したりはしないが。
あと、それとは別に
……どうやら血糖値がエグいことになってるうえ、アルコールの方もヤバいことになっていたらしく、数値のほとんどが人に見せられないモノになっていたらしい。
まぁ、私は横合いからそろっと覗き見ただけなんだけども。……うん、『逆憑依』でよかったね、死んでないのが不思議な数値だよこれ?
アーミヤさんとかに聞かせたらドン引きしていたので、あの人はもう少し生活習慣を見直すべきだと思います。
……ここからわかるのは、単に『太る』だけだと成長範囲云々の理屈でキャンセルしてくれるわけではない、ということ。
どうにも『女神の神核』のような肉体の絶対性を約束してくれるモノではない、ということだろうか。
その辺りを勘案すると、私の背が伸びているというのがどれほど凄いことなのか、みんなにもわかって貰えるかもしれない。
……え?今の内容だと全くわからん?ほら、以前『女神の神核』の話をした時に言ってたでしょ?
「……あー、太らないはずなんだっけ、お前」
「そう、私ってばなに食っても太らないはずなんですよ。それは裏を返すと
「ああもう、うっさい興奮すんなっ!!」
そう、単に私が【星の欠片】であるのならば、その性質に従って成長は起こらないはず。
にも関わらず、今の私は(一ミリとはいえ)身長が伸びたわけで。
それはつまり、私の中の要素というのは、【星の欠片】と『逆憑依』が拮抗しあった結果ちょっと『逆憑依』の方が強い、ということになっている可能性があるわけで。
そりゃもう、最近あれこれ空回りしてたのが帳消しになるような喜びである。
確かに『あの人』に席を用意されはしたものの、まだ私には帰る家があると言われているようなものなのだから!
なのでまぁ、ちょっと小躍りなぞしていた私だったのだけれど。
「……おいキーア屋。こっちに来い、測り直しだ」
「えっ」
「いいから、とっとと来い」
「お、鬼!悪魔!ちひろ!Dの血族!!」
「他のDまで巻き込んでんじゃねぇ!!」
計測結果を不審に思ったロー君により、無情な測り直しを命じられた私を待っていたのは、その一ミリは単なる読み間違いであるというあまりにもあんまりな結末なのであった。
……神は死んだ!!
「げ、元気だしてくださいキーアさん!」
「ふふふ……笑えよベジータ……憐れに舞い踊っていた私をよ……」
「これはひどい、ですね……」
ぬか喜びにも程がある計測結果に、椅子に座って項垂れていた私の元に集まってきたのは、今回の健康診断の発端となった五人のうちの女性組達。
彼女達も最初の計測を終え、部屋から出てきたようだが……ああうん、多分私と同じことをしたのだろう人が一人居たわけで。
「傷のなめ合いなんてお断りだわ!私は孤高に生きる虎なの!」
「なっ、なんの話ですか?私は単にキーアさんを心配して……」
「じゃあその顔をまず戻そう」
「うっ」
それが誰なのか、というのは顔を見ればすぐわかる。
……うん、そうだねるっリアになってるルリアちゃんだね。
さっき計測するモノの中に『胸囲』が混じっていたのを覚えているだろうか?
で、その割にここの担当がロー君という
組を男女にわけているのに、これでは意味がないのでは?……という疑問ももっともな話。
とはいえこれには理由がある。……互助会より遥かにマシとはいえ、医者の数が足りてないのである。
というかそもそもの話、女性の医者が少なすぎるのである。
それこそパッと思い付くの、精々がえーりんくらいだし、そのえーりんにしろ、私は姿を拝んだこともないし。
で、女性の検査となると胸囲よりも遥かにデリケートなものも存在しているため、彼女はそっちに回されている可能性が非常に高く。
結果、監督役として設置するに留め、センシティブかつ計測が簡単なモノに関しては
……ここまで語ればわかると思うが、さっきの『私の身長が伸びた』云々は、実際は
それと同じことを、現在るっリアとなっている彼女に当てはめると、次のようになる。
「……うん、きっとぬとか雪泉さんとかが胸囲を測ってるのを見て、つい魔が差したんだよね、わかるわかる」
「わーっ!!!?止めてください止めてくださいっ!!?」
「なんというか……アレね、ほんと」
提出した数字が嘘であると見抜かれたルリアちゃんは、ロー君に頼まれたぬと雪泉さんの手によって自身の胸囲を測られる、という公開処刑の憂き目にあった、というわけである。
……気持ちはわかるってばよ。でもその痛みはお前のものだ、自分で背負っていくんやで……。
まぁそういうわけで、たかが身体測定といえど、死の可能性はそこらに転がっているのですよというお話なのでしたとさ。