なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「は?いやちょっ、はっ!?」
「おやおやー?大混乱みたいですねー?ですがご安心を、言うほど深刻なものでもありませんので☆」
「いや嘘つけぇっ!?無茶苦茶ヤバい話じゃんかそれぇっ!?」
人工的ななりきり組ィッ?!
いやそれ、下手に魔法少女のマスコットが実在するよー、みたいな話よりもよっぽどヤバい案件やんけっ!?
……みたいな感じで、思わず大慌てする私とゆかりんなのだが。
他のメンバーは事の重大性がよくわかっていないのか、ちょっと小首を傾げたり隣の人と顔を見合わせていたりする。
うーむ、事の緊急性の伝達が、全然上手く行ってないというかなんというか……。
いやまぁ、彼女らはあくまで治験に来た大学生みたいなものなので、ある程度は仕方ないところもあるのだろうけど。*1
「はいせんせー!」
「はい元気ななのはちゃん、なんでしょうか!」
「ルビーさんが人工的ななりきり組だと、一体何が問題なんでしょうか?というか、そもそも人工物とか天然物とかの違いがわかりませーん」
「んー、いい質問だ。では始めに、
「え?えっと……」
そんな中、代表してなのはさんが声を上げてくれたので、それに乗っかる形で説明会を開始。
最初の設問は『何をもって天然物扱いとするのか?』ということについて。
自身の質問を質問で返されたなのはさんが困惑する中、さっきまで
「人工物と天然物、だなんて言い方をしているから混乱するのだろうけど……結局の所、
「うん、その通り。キャラクターの逆憑依に関して、それが
未だ全容の明かしきれていないこの異変。
なりきりをしていたという発生原因こそ明確ではあるものの、逆に言えば
故に、ここで言う天然物とは
……その反対になる人工的なモノが
「お次の問題は、天然物である私達はお国の上層部から
「……再現性と確実性、だったか?」
「あー、そういえば空想の技術を取り入れようとする時に、その空想が確たるモノであるかを気にしてる、みたいな事を聞いたような……?」
次の設問は、逆憑依というものについて、国が気にしていたのはどういうことか、というもの。
……翼さんとりんちゃんの言う通り、発生原因こそわかれども、
それ故に、彼らの望む検証やら研究やらも全て、望む能力を持った天然物が
砂漠の中に落ちた宝石を見つけ出すよりは、まだマシかも知れないけれど。
それでも結構な低確率になるだろうモノを、ひたすらに待ち続けなければならないというのは……まぁ、研究対象としては
結果として、発展性のありそうな術理の研究よりも、電気や物品の創造などのわかりやすく即物的なものの方が歓迎されていたわけである。
まぁ術理の方に関しても、再現度の壁にぶち当たることが目に見えている以上、求めたものが都合よく現れたとしても、望む場所まで発展させられるかは運……ということになるのでしょうけど。
そもそも私がここに居る理由自体が、その再現性と確実性の壁を越えた最高のモノが見付かったから、みたいなところがあるわけだし。
……星五二枚引きとかヒヒイロドロップとか、そんな感じのレア物を見付けないとそもそも進められない研究っていのは、なんというかお腹が痛くなる感覚があるんだけどね……。*2
「で、これらを踏まえて最後の質問。
「えっと……」
「──今までの話から考えるに、人工物とは意図して
「なるほど、つまりはこういうことね?今までは
「そしてそれ故に、今まで滞っていた術理の研究も、飛躍的に進む可能性がある。──ともすれば、人類が
「…………えっ、それって大問題なんじゃ?」
「うん、大問題」
そして、最後の設問により疑念は結実する。
……【複合憑依】なんて目じゃないようなヤバいものがそこに居た、という事実に。
そして、当のヤバい存在であるルビーちゃんはと言えば。
「んー、八点ですねー。事態が驚異驚愕驚天動地なのはわかりますが、それ故に皆さんお目々が曇っていらっしゃる様子。確かにルビーちゃんは高性能な頼れる魔法のステッキですが、何事にも限度というものがありますよー?」
殊更にのほほんとした感じで、こちらの警戒する姿を笑っていたのであった。
……なんか、思ってたのと話が違うような?というか八点って、何点満点中よそれ?
「まぁ、ある意味私の誘導にまんまとはまって頂けた、ということでもありますので。ここは素直な心で、皆さんにヒントをお教えして差し上げましょー☆」
「ヒントぉ?一体何を……」
「今のルビーちゃんには一つ、明らかにおかしい点がございます。はてさて、それは一体なんでしょーか?」
そんな風にこちらが困惑しているうちに、彼女からはヒントと称した設問が一方的に送られてきた。
……今のルビーちゃんの、おかしいところ?
横ではぁ?と声を上げるりんちゃんと、よくわからないとばかりに首を捻るなのはさんを筆頭に、みんなで考えてみること暫し。
何事かに気付いたらしいマシュが、小さく声を上げた。
「もしかして、なのですが。……お隣の責任者さんの
「つまり……どういうことだ?」
「──なるほど、そういうことか」
「ええっ、ライネスちゃんもわかったの?」
「……癪だけど、私もわかったかもしんない……」
それにつられるように、他の人物からもぽつぽつとわかったという声が上がっていく。
……主に型月組がその先陣を切っている辺り、少しでもルビーちゃんのことを知っていれば気付ける、ということなのだろう。
まぁ、型月とは何の関係もない私も、なんとなく答えにはたどり着いたのだけれど。
「それで?結局彼女のなにがおかしいの?」
「
「……えっと?」
「ルビーさんはその気になれば、自身を握った相手を洗脳することすら可能とする特級の礼装です。──ですが、あちらの責任者さんは少なくとも、魔法少女という存在ではない」
「
「いや、勝手に納得されても困るのだけど。私達にもわかるように説明してもらえないだろうか?」
……む、翼さんから抗議の声が返ってきてしまった。
ルビーちゃんについて曲がりなりにも知っている人なら、ここまでの説明である程度は察せられるはずなのだけれど、そこらへんは型月以外の人達にはわかり辛かったか。
むう、とはいえ説明、説明かぁ……私はあんまり説明とか得意ではないのだけれど、一体どうしたものか。
なんて風に唸っていたら、すっとライネスが前に出てきて、私達の言葉を引き継いだのだった。
「雑に言ってしまうと、彼女がその活動の上で人の姿を必要とするなら
「あ、なるほど。協力者がいない、っていうのが変なんだね」
「聖遺物が装者無しに動いているようなもの、とも言えるかな?無論、
「……ふむ。歌もなしにシンフォギアが稼働できるか、みたいなことか?」
うむ、ようやっと納得して貰えたようでなにより。
──ルビーちゃんは、雑に言ってしまえば魔法の杖である。
本来、自分を扱ってくれる
それが自分の存在と等価である分身を作り、それに様々な対応をさせているという今の状況は……まるで操り人形が自分を操っているかのような違和感を与える、相当に
だって、本来のルビーちゃんであれば、適当にそこらへんの人を捕まえてマスターにしてしまう方が、あらゆる面で楽なはずだからだ。
……いやまぁ、本人の趣味にあう少女が居なかった、みたいな可能性もなくはないけど。そこらへん結構うるさいキャラだし。
とはいえ、途中で何度かここにいる人間達に触られている以上、やろうと思えばどこかのタイミングで誰かを洗脳する、みたいなこともできたはず。実際、ライネスはそこを警戒して暫く
故に、ルビーちゃんが
ここまでくれば、後の話は簡単だ。
ここにいる彼女は、人工的ななりきり組。つまり──、
「はい、大正解です☆──私は逆憑依という現象を研究し、その応用を開発し、それを自身に試し──このように、中途半端な憑依を起こしてしまった哀れな
ね、警戒する必要なんてなかったでしょう?
なんて風に責任者さんの方が杖を手に取って笑ったのを見て、私達は思わずなんとも言えない静寂に包まれるのだった。