なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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魔法少女はどこまで少女?

「……パッチワーク?」

「成功した暁には『重ね着(オーバードレス)*1とか『憑衣(オーバーライト)*2とか、もうちょっといい感じの名前にするつもりだったのですが。ご覧の通り結果は大失敗だったので、甘んじて『継ぎ接ぎ(パッチワーク)』の名前を冠しているのですよ、よよよ……」

 

 

 こちらの疑問に、責任者さんがわざとらしく泣き真似をしてみせる。

 ……んん、やっぱり()ている限りは本体扱いなのは杖の方、なのだけれど。よーく目を凝らしてみると、なんとなく()()()()()()のが察せられる。

 私が思うに、これは──、

 

 

「生身の人間に憑依者を被せたら、どういうわけか普通のなりきり組と違ってちゃんと重なりきらなか(継ぎ接ぎにな)った、という感じかな?」

「……ライネス、人が言おうとしていたことを横から掻っ攫うの止めない?」

「おっと、ごめんごめん。ついつい、ね?」

 

 

 ……なんというか、(けん)についてはそれなりのモノを持っているということなのか、ライネスがぐいぐい発言を差し込んでくる。

 いつもより目立てているからだろうか?なんてちょっと失礼な感想が思い浮かんだが、流石にそれはないだろうと首を振って──、

 

 

(……あ、ルビーちゃんが魔法少女化とかしてこないのがわかったから、ちょっと調子に乗ってるんだ)

 

 

 ということに気付いてしまって、ちょっと微笑ましくなってしまった。

 まぁ、すぐさま自分を見る目が生温くなったことを察したライネスに、思いっきり不穏な笑みを向けられることになるわけだけど。……後が怖いなこれ。

 

 それは置いておいて。……継ぎ接ぎ、ときたか。

 なんか最初の方に私とゆかりんを見てればわかるー、みたいな事を言っていた辺り、どうにもヤバめな雰囲気しかしないけれど。

 話を聞かなければ対応もままならないので、責任者さんに続きを促す。

 

 

「はい♪じゃあまぁ、ルビーちゃんのままだと話辛いので、こちらで説明させて頂きますね。改めまして、責任者の『椎名(しいな) 琥珀(こはく)』です、どうぞお見知りおきを……って、なんで皆さん、凄く胡散臭いモノを見る目で私を見るのですか?」

「……いや、まさかその名前を名乗られるとは思わなかったというか」

「それ、本名なの?」

「あ、はい。別になりきり云々は全く関係なく、普通に普通の私の名前です。……別に、前の職業が使用人だったりはしませんよ?」*3

 

 

 そうして、改めて彼女から自己紹介をされたのだけれど。

 まさかの本名が琥珀であるという事実に、みんなが唖然としたのだった。

 

 ……いや、ねぇ?ルビーちゃんの人格の元になったのって、確か月姫の琥珀さんのはずだし。

 なるべくしてそうなった、みたいな名前はどうかと思うわけですよ。……そもそも使用人ではなくともマッドじゃんこの人、ホントになりきりじゃねぇのかよ、みたいな気分になるのも宜なるかな、というか。*4

 

 まぁ、本人もその辺りは気にしているらしいけれども。

 もっとも、その辺りの変な共通点に気付いたのは、彼女がこの道に入って暫く経ったある日、同僚から言われた『琥珀でマッドとか狙ってんのかよ』という言葉を受けてのこと……だったらしいが。

 ……その言葉が自分に後天的な付与(継ぎ接ぎ)を試すきっかけになったというのだから、その同僚さんには『余計なこと言いやがって』というような気持ちが、ちょびっと湧かなくもなくないのだけれども。

 

 で、継ぎ接ぎ(パッチワーク)

 『後から付け加える』という観点からすれば、逆憑依──オーバーソウルだのポゼッションだの、ちょっと危ない名前で研究者達が呼んでいるそれと、方向性に大きな違いはない……らしいのだが。*5

 

 

「いやー、もう難しいのなんの!なにかパラメーターの見逃しでもあるのか、霧散するわ霧消するわ普賢岳だわ、もはやてんてこ舞いですよね!」*6

「な、なるほど……」

 

 

 人の手で行われるそれは、とにかく失敗の連続。

 失敗作とされている彼女ですら、一応憑依的なことは起こせているから『失敗作の中では成功例』になる始末。

 

 他の失敗例はそもそも『憑依?そんなオカルトあるわけないない(なにもおきなかった)』だとか『今、啓示を受けました!(ちょっと光った)』だとか、とてもではないが研究どころの話ではなかったらしい。

 

 まぁ、それでもなんとなーく憑依っぽいもの(彼女/ルビーちゃん)が出来上がり、この方法での憑依のさせ方の道筋(性格の近似)も見えて来て──そこで行き詰まってしまったのだという。

 

 

「いや、私みたいなの(継ぎ接ぎ)を作るのは、大体成功するようになったんですよ?けどそれでおしまい。……その先に行く方法が皆目見当もつかず、結果として()()()()()()()()()()()()()となって計画は白紙に。私も元の研究部門に逆戻り、というわけです」

「……いやちょっと待って?それ(継ぎ接ぎ)っていつから研究してたのよ?」

「え?えーとそうですね……【複合憑依】の話が上がってきてすぐ、でしたので──まだ三ヶ月も経ってない……ですかね?」

「スピード離婚!?」

「そこまで早くは無いんじゃないですかねぇ?」

 

 

 たはは、と笑う琥珀さんだが……。

 いやいや、曲がりなりにも憑依的なモノを起こせるようになったにも関わらず、そんなにあっさり切り捨てられるとか。……一体どうなってるんです?

 

 というかそもそも三ヶ月もしない内に、結構な位置まで研究進めてるみたいなのが怖いんだけど?なにこの人天才か何か?

 ……ルビーちゃんと同じく、どっちかと言うと魔法少女への興味の方が強くて良かった、というか。

 下手に研究一筋だったら、本当に逆憑依を自在に操れるようになってたんじゃなかろうか……?

 

 しかし……ふむ?

 結局のところ、私とゆかりんを見てればわかる──みたいな話はなんだったのだろうか?

 役を被ってるから、みたいな事を言っていたけど、そもそも私達普通になりきり組だしなぁ……?

 

 

「あ、そこからですか。……いえ、私も試した事はなかったので知らなかったのですが、お二人の状態をルビーちゃんアイで確かめた結果、継ぎ接ぎ(パッチワーク)とほぼ同じ状態になっていることが判明しましてですね?『ああこれ(継ぎ接ぎ)、既に逆憑依されている状態でも使えるんだな』みたいな事を思ったわけでして」

「……why(なんて)?」

 

 

 そんな風に首を捻っていたら、琥珀さんから驚愕の事実が告げられる。……え、私ら継ぎ接ぎ(パッチワーク)になってたんです?

 思わず間抜けな面を晒す私に、琥珀さんが容赦のない追撃を重ねてくる。

 

 

「ええ、そっちに関しても責任者でしたので、大筋は間違ってないかと。……いやー、まさかまさかですよ。なりきり組にも使えてしまうとか、もしかすると人工的に【複合憑依】も再現できちゃうのかもなー、なんちゃって。……あの、すみません。凄い怖い顔になってますよ?」

「……マシュ、扉の鍵の確認」

「え?あ、はい」

「え、その、え?……えーと、不味い雰囲気ですかねこれは?」

 

 

 重ねられた言葉に、なんというか表情が歪むのかわかるけど──いや、こいつは逃がしてはいけない。

 まさに分水嶺、私がここに来ることにもし必然性があったのだとしたら、まさにこの時の為である。

 ……そんな確信を持ちつつ、奇妙な緊張感の中対峙する私達。

 

 ………………。

 

 

「──る、ルビーちゃんテレポーt()

「させるかっ!!転移無効エリア!」

「はぁっ!?えっちょっ、そんなのありですかっ!?」

「ナイスキーアちゃん!流石うちの期待の星!」

「ぐ、ぐぬぬぬ!まさかキーアさんが変身せずとも能力が使えるとは……っ!確かに被ってると見た以上、下にあるものが……あるものが……?」

 

 

 一瞬の攻防。

 危険を感じた琥珀さんがルビーちゃんぱわーで逃げようとしたのを、ちょっとした次元連結システムの応用(BBちゃんお手製フィールド発生機)で止めた私。*7

 ……いや、正直効くかどうかちょっと半信半疑だったのだけれど、既にあるもの(SAOのクリスタル無効化エリア)を引っ張ってくる、という形なら割りとどうにかなるものらしい。*8

 

 まぁ、相手が転移なんて大技使おうとしてたから、効いたのかも知れないが。……クリスタル無効化エリアなのになんでクリスタル使ってない相手にも効いたのかだって?それこそBBちゃんぱわーの応用(転移結晶無効の拡大解釈)なので気にしてはいけない。*9

 

 なので、今回に関しては別に私が何かした、というわけではなく。

 そういう意味で、琥珀さんの警戒は見当違いにも程があるのだけれど……。

 あれ?なんか固まってないこの人?

 その不自然な硬直に、こちらもまた怪訝な表情を返さざるを得ないわけで。

 

 ……えっと。

 一体どうしたものか、なんて思っているうちに、目の前の琥珀さんがわなわなと震え始めた。

 そして同時に襲ってくるのは……寒気?え、なんで?

 

 さっきまでの空気と真反対、何故かこっちが気圧される感じになりながら、目の前の彼女が何をするつもりなのか、とちょっとびくびくする私。

 

 

「付かぬことをお伺いしますが。……キーアさん、()()はなんですか?」

「え゛」

「キーアさん?」

「え、あ、その、……オリジナルです

 

 

 あまりの迫力に、思わず声が小さくなってしまったが。

 言葉を受け取った方の体の震えは、こちらとは反対に大きくなるばかり。

 空気ごと揺れてるんじゃ、みたいな錯覚をこちらが抱き始めた頃、琥珀さんはガバッと伏せていた顔を上げて、こちらに急速に詰め寄ってくるのだった!

 

 

「ふぅざけてますかふざけてますねぇ!?あれだ世が世なら人体実験ひゃっほー♪ですよわかってるんですか貴方ぁっ!!」

「ひえっ」

 

 

 怒ってるのかと思ったけど全然違う!?

 目が爛々と輝いて息を荒くして、こっちにごりごり迫ってくるその姿は、どこか扇情的ながらも恐ろしさを内包した、俗にいうヤバいものだった。

 端的に言うと、スッゴい怖い!

 

 

「ああもう惜しいなぁ、これが私が向こうに現役の頃だったら、あーんな事やこーんな事まで根掘り葉掘り首根っこ掴んで調べ尽くしたのになぁぁぁあぁぁあ」

「ひぃーっ!?たす、たすけてゆかりん!!怖い!凄く怖いっ!?」

「あっちょっ、こっちに火の粉を散ら……ひぃっ!?」

 

 

 思わず悲鳴を漏らしながらゆかりんに助けを求めたら、ゆかりんまでロックオンされてしまった。

 ……あ、そういえばゆかりんも継ぎ接ぎ(パッチワーク)なんだっけ。……てへ♪

 

 

「てへぺろなんかでごまかされなぴぃっ!?ここここっちに来ないでちょうだい!!?」

「ふへへへへよいではないかよいではないかー☆」*10

「なにもよくないわよーっ!?」

 

「……えっと、これはどうすればよいのでしょうか……?」

「関わりたくなーい」

「りんちゃん、気持ちはわかるけど止めないと……」

「……とりあえず、蹴ったら止まるだろうか?」

 

 

 外野の人達、止めるんなら早く止めてほしいなっ!?

 という感じに、何故か始まった追いかけっこは、琥珀さんが落ち着くまで続いたのでしたとさ。

 

 

*1
元は『オーバースカート』──スカートやドレスの上から重て着るスカートを指す言葉だったのが、ほぼ同じ原理で重て着るドレスを指す言葉に変わったもの。最近では『カードファイト!! ヴァンガード overDress』のタイトル、及びカード効果の一つとして聞いたことがある人がいるかも知れない

*2
上書き(overwrite)。その言葉の通り、既にあるものを別の何かで上書きすること

*3
『月姫』より、琥珀さん。ヒロインキャラの一人。色々な理由から、名字は持っていない。リメイクでどうなるやら、みたいな感じで注目もされている。マジカルルビーの性格の元ネタ。あくまで原作者が元にしているだけなので、実際に関わりがあるわけではない、はず

*4
本編終了後、派生作品に出ている時の琥珀さん。本編だとすさまじくシリアスだが、派生作品に出ている時は基本はっちゃけている。薬剤師の資格とか持っているらしく、わりとマッドの気も

*5
『オーバーソウル』は『シャーマンキング』より、霊体を何かしらの物品に憑依させる技法。自分自身に憑依させるよりも高度であり、これができればシャーマンとして一人前と見做される。『ポゼッション』の方はここでは『スーパーロボット大戦』シリーズより、『精霊憑依(ポゼッション)』のこと。こちらはロボットと精霊の融合、というような感じのもの

*6
雲散霧消と雲仙普賢岳の語呂合わせ

*7
『冥王計画ゼオライマー』より、次元連結システム。異次元から無限のエネルギーを取り出す。いつか無限を自由に扱えるとヤバいみたいな話をしたが、まさにその『ヤバい』機体の一つ。なお、『これも次元連結システムのちょっとした応用だ』とすると、創作によくあるご都合主義めいた説明台詞になる。……まぁ、わりとなんでもできるみたいなので然もありなん

*8
『ソードアート・オンライン』より、言葉通り結晶系アイテムの効果を無効にするエリア。魔法の存在しないSAO内で回復・転移・解毒などの魔法的要素を代替してくれるのが結晶(クリスタル)系のアイテムであるが、迷宮の中ではこれらの魔法的なアイテムを無効化するエリアが存在する

*9
「転移にも色々ありますが、大体空間ジャミングしておけばヨシ!……ですよね?」

*10
時代劇でのある種のお約束的展開。悪代官などの敵役が、話のヒロイン役などの女性に迫るシーン。大体危ないところに主役がやって来て、切った張ったの大立ち回りが始まる


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